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ラブラブ新婚編
No,167 ホワイトデー・クルージング No,6
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【高千穂の夜神楽】
宮崎県の高千穂に伝わる民俗芸能である。
毎年11月中旬から2月上旬にかけて、町内のおよそ20の集落でそれぞれ氏神を民家等に迎えて奉納される神楽の総称である。
幸多き秋の実りに感謝し、来年の豊穣を祈願するため神々に33番の神楽を奉納するのである。
その他、一般向けに天岩戸神社の「天岩戸夜神楽33番大公開まつり」(11月3日)や高千穂神社の「神話の高千穂夜神楽まつり」(11月22・23日)としても披露され、高千穂神社の神楽殿では年間を通じて毎夜観光客向けに代表的な4番を演じている。
真唯は、【舞踏】が大好きである。
舞踏とは、本来、神に捧げられるものであった。
特に日本の舞踏は、天照大御神さまが天岩戸に御隠れあそばした時に、天鈿女命さまが舞われた“御神楽”が起源とされている。
その「天岩戸伝説」そのものがモチーフとなっているのである。
一度で良いからみてみたい。
“舞台芸術”と云うものの原点でもある舞踏に、真唯は胸の高鳴りを抑える事が出来ずにいた。
混むだろうなァ~~と思いつつ、再び木内さんの案内で、高千穂神社境内の神楽殿に午後七時過ぎに入場する。入口の窓口で入場料を払い、説明書を頂いた。まだ少ししか人がいなくて、内心(ラッキー♪)と思いつつ、正面の天岩戸を模した舞台【神庭】に向かって合掌する。多分、天照大御神さまがお祀りされているのだろう。(今夜は、楽しませて頂きます。御縁をありがとうございます。)心の中で念じつつ、説明書を熟読する態勢に入る。そうすれば開演の八時なんて、アッと云う間だ。
最初は、宮司さんから演目の説明を受けて、演舞が……夜の宴が始まった。
「手力雄の舞」
天照大御神さまが天岩戸にお隠れあそばされてしまったので、力の強い手力雄命さまが天岩戸を探し出すために静かに音を聞いたり、考えたりしていらっしゃる。
力自慢の神様らしく、いかめしい白い神面を付けた方が、勇ましく舞われる。
(…天岩戸ってすぐに理解らない訳か…そうよね…この世が闇に閉ざされてしまったんだもんねェ~~…)
長野の善光寺で体感した、“真の暗闇”を思い出し。
その中で手探りで進む、手力雄命さまの御苦労を偲んだ。
「鈿女の舞」
天岩戸の所在がはっきりしたので、岩戸の前で神々が宴会を開かれ、天鈿女命さまが賑やかに面白おかしく舞い踊り、天照大御神さまを岩屋より誘い出そうとする。
(…やっぱり、半裸では舞えないわよねェ~…男の人なんだろうし…)
お多福ほどヒョウキンではなく、かと言って能面の女面のように端正でもなく、非常に微妙な神面を被られた天鈿女命に扮した方が、静かに舞われる。高天原きっての踊りの名手らしく、その舞いは気高く優雅である。
「戸取の舞」
天岩屋も天岩戸の戸も所在がはっきりしたので、手力雄命さまが文字通り、岩戸を取り除いて、天照大御神さまをお迎えする舞いである。
先ほどの手力雄命と同じ方だが、力を入れてリキんでいる様を表現するために、赤い神面に変わっている。手力雄命は、高天原で一番の怪力の神様。お名前は“天の手の力の強い男神”の意であり、腕力・筋力を象徴する神様であり、この舞いはその御力をいかんなく発揮する力強く勇壮な舞いだ。
外が賑やかな事を不思議がられた天照大御神さまが、岩を少し開いたところを手を掛け開き、エイヤッ!とばかりにご自慢の怪力で投げ飛ばす。
(…成る程…その戸が着地したのが、戸隠神社だった…と。)
天照大御神さまは、神棚と鏡で表現されていた。
まんまとおびき出された、天照大御神さま。ちなみに、八百万の神々にこの策略の知恵を授けたのが思金命さまと言われる知恵の神様である事は、思いっ切り余談である。……策士よなァ~と、諸葛孔明を思い出してしまった真唯なのであった。
「御神体の舞」
ラストを飾るのは、国産みの舞とも言われる。
伊邪那岐命さまと伊邪那美命さまが、お酒を作ってお互いに仲良く飲んで抱擁を交わし、夫婦円満を象徴する舞だ。
男神は裁着袴に神面をつけ餅を入れた藁苞を棒にさして担ぎ、右手の扇で棒をリズミカルに叩きながら御登場。男神が神庭を一回りしていると、さきほどの天鈿女命さまよりは器量の良い神面をつけた女神が桶とザルをかついで男神に続く。
二人そろって濁酒をこす作業を始めるが、浮気心を出した男神が何と舞台を降りてこっちへやって来るではないか! お神楽見物の若い女性のところへ飛び込んで行き、神聖な神々の舞いから一転、大爆笑の大騒ぎとなってしまう。
(…ド助平…っ! …古女房よりも、若い女の方が良いのね!?)
真唯は思いながらも、その場の明るい雰囲気に引き摺られ、ついつい笑いが漏れてしまう。
まあ結局は、女神に連れ戻されて、再び酒をこす作業が始まるのだが。太鼓の調子に合わせて濁酒をしぼり、出来た酒を飲み合ううちに酔った二人は抱き合って、目出度く夫婦となるのである。
約一時間に及ぶ、神話の世界はこうして繰り広げられたのだった。
……決して、高度な技が披露された訳ではない。
しかし、だからこそ、地元のごく普通の人々が連綿と受け継いでゆく、“里神楽”の素朴さを魅せて頂けたように思えたのだった。
外に出て振り返って見れば、篝火が焚かれ、ライトアップされた神楽殿が闇夜に浮かび上がっている。
……“非日常”の神話世界が確かに存在した場を、なお去り難く…何度も振り返ってしまった真唯なのであった。
帰りの車の中で木内さんから、あの「御神体の舞」は、本来は新嘗祭を祝うための神道祭祀であり、“神人一体”化する儀式であった事などの蘊蓄を有り難く拝聴して。
高千穂の夜は、更けていった。
そして。
とある旅館の離れの一室。
「…ね…いいでしょう…?」
「…男って、人も神様も助平なんですね…」
「…………………………」
「…浮気が男の甲斐性だなんて、絶対に許さないんだから…っ!」
「勿論ですともっ!!」
この夫妻が、神話の里の夜をどう過ごされたかは……天に輝く、月読尊さまだけが御存じなのであった。
翌朝。
宿自慢の美味しい朝食を頂いた。
特に真唯は、焼き立ての出汁巻き卵が大層気に入って。
食後の珈琲のサーヴィスも有り難く受けて。
作務衣をお召しの従業員さんに温かく見送られて、ご機嫌麗しく、高千穂の地を離れたのだった。
短い間だったけれど、お世話になった木内さんに、最敬礼でお礼を申し上げて。山本船長たちににこやかに出迎えられて、真唯は再びクルージングに戻った。今度向かうは、最終目的地・沖縄。
ここ数年は【インティ・ライミ】の日に訪れていた土地ではあるが、那覇空港しか知らないし、空から見るだけの土地であった。
首里城にも美ら海水族館にも、国際通りにもまったく興味は無い。
……だが、しかし。
「…真唯さん…折角ここまで来たのですから…あそこへ行きたいのではないですか…?」
「…でも…ダイビングするには、まだ時期が早いでしょう?」
「大丈夫…お任せ下さい。」
「…でも…無理はして欲しくありません…」
「無理なんかしていませんよ。
…それに、正直言えば…私だって、見てみたいと思ってたんですから…」
「………………………」
ここまで言われてしまえば、真唯とて否やはない。
かくして。
【神話の里 高千穂】観光の後は、与那国島の海底遺跡へと赴く事になったのであった。
※ ※ ※
―――与那国島の海底遺跡―――
いや、厳密に言えば、未だ“遺跡”としては認められていない。
“常識”を掲げる人々によって、自然地形説であるとの認識がまかり通っているからだ。
……だからこそ……一度、この瞳で、見てみたかった……
……今、その念願が、叶えられようとしている……
“美ら海”と言われる、どこまでも蒼い海。
【CLUB NPOE】が所有すると云う島の港に接岸し。
そこから、用意されていた小型艇に乗り換えた。
“半潜水艇”と呼ばれるタイプだそうで、なるほど海中が良く見えた。
ダイビングスーツを着て、インストラクターに訓練を受ける間でもなく、こうして見る事が出来るなんて……真唯はテレビや画像としてしか見た事の無かった、美しい沖縄の海にただただ感動していた。
そして、海中散歩(?)を楽しむ事、数十分。
ポイントに到着したとの知らせに浮足立つ。
……そこに、【海底遺跡】は、存在した。
階段としか思えないような建造物群。
通称“テラス”と呼ばれる場所。
それは真唯に、容易くインカの石組を連想させた。
……声も出ない想いで、それらの光景に魅入られた……
……誰よりも、真唯を愛してくれる…愛しい旦那さまと共に……
その日。
日本最西端の雄大な夕陽を拝し。
真唯は、愛する男性の胸に寄り掛かった。
……湘南沖のクルージングを楽しんで、素敵な富士山と江ノ島の風景を拝する事が出来た。
……“束縛”を意味するネックレスと、貴志さんお手製のマカロンをプレゼントされてしまった。
……大阪では、念願のミュシャを見る事が出来た。
……高千穂では神社巡りと、念願の【夜神楽】を見る事が出来た。
……そして。
……今また、念願の【海底遺跡】を見る事が出来た。
……“念願”を三つも叶えてもらえて……こんな素敵なホワイトデーのお返しなんて、他にない……
……みんな、みんな…この愛する旦那さまのお陰だ……
「…こんな素敵な旅をプレゼントして頂けるなんて…
…本当に、ありがとうございました……」
真唯は万感の想いを込めて、背後から抱き締めてくれている貴志さんにお礼を言った。
「…喜んで頂けて、何よりです。
…怒られたままだったら、どうしようかと思いましたよ…」
「…嘘吐き…自信満々だったくせに…」
「…まあ…これでも、愛する妻の嗜好は、誰よりも理解している心算ですから…」
「…ホントに…ここの海底遺跡には、感激しました…」
「…では…真唯さんのご意見は…?」
天照大御神さまが、西の海に姿を隠された夜。
洋上で交わされた真唯と貴志さんとの会話は、“ム○民”同士の白熱トークへと展開して行き……内容は真唯のトップシークレットであり、『ばらさー』には決して言えない、夫との秘密なのである。
かくして沖縄の夜は更けてゆき……翌朝、一路、東京湾を目指して出航、帰港する事になり。
五泊六日の旦那さまからのプレゼント、ホワイトデー・クルージングは、こうしてその幕を下ろしたのであった。
※ ※ ※
ちなみに。
後日、人気のブログ【強引g 真唯道】では最新の記事がアップされた。東京湾・横浜・湘南クルージングの様子と、宮崎県高千穂に旅行したと云う筆者の“神話の里”の神社巡りと【夜神楽】の様子が生々しく躍動的に、同時に神秘的に表現されて。改めて、読者の心を掴んだのは言うまでもない。
同時に。クルージングの船長をして下さった山本さんと、高千穂のガイドをして下さった木内氏に絶大なる感謝を捧げて、文は結ばれていた。
宮崎県の高千穂に伝わる民俗芸能である。
毎年11月中旬から2月上旬にかけて、町内のおよそ20の集落でそれぞれ氏神を民家等に迎えて奉納される神楽の総称である。
幸多き秋の実りに感謝し、来年の豊穣を祈願するため神々に33番の神楽を奉納するのである。
その他、一般向けに天岩戸神社の「天岩戸夜神楽33番大公開まつり」(11月3日)や高千穂神社の「神話の高千穂夜神楽まつり」(11月22・23日)としても披露され、高千穂神社の神楽殿では年間を通じて毎夜観光客向けに代表的な4番を演じている。
真唯は、【舞踏】が大好きである。
舞踏とは、本来、神に捧げられるものであった。
特に日本の舞踏は、天照大御神さまが天岩戸に御隠れあそばした時に、天鈿女命さまが舞われた“御神楽”が起源とされている。
その「天岩戸伝説」そのものがモチーフとなっているのである。
一度で良いからみてみたい。
“舞台芸術”と云うものの原点でもある舞踏に、真唯は胸の高鳴りを抑える事が出来ずにいた。
混むだろうなァ~~と思いつつ、再び木内さんの案内で、高千穂神社境内の神楽殿に午後七時過ぎに入場する。入口の窓口で入場料を払い、説明書を頂いた。まだ少ししか人がいなくて、内心(ラッキー♪)と思いつつ、正面の天岩戸を模した舞台【神庭】に向かって合掌する。多分、天照大御神さまがお祀りされているのだろう。(今夜は、楽しませて頂きます。御縁をありがとうございます。)心の中で念じつつ、説明書を熟読する態勢に入る。そうすれば開演の八時なんて、アッと云う間だ。
最初は、宮司さんから演目の説明を受けて、演舞が……夜の宴が始まった。
「手力雄の舞」
天照大御神さまが天岩戸にお隠れあそばされてしまったので、力の強い手力雄命さまが天岩戸を探し出すために静かに音を聞いたり、考えたりしていらっしゃる。
力自慢の神様らしく、いかめしい白い神面を付けた方が、勇ましく舞われる。
(…天岩戸ってすぐに理解らない訳か…そうよね…この世が闇に閉ざされてしまったんだもんねェ~~…)
長野の善光寺で体感した、“真の暗闇”を思い出し。
その中で手探りで進む、手力雄命さまの御苦労を偲んだ。
「鈿女の舞」
天岩戸の所在がはっきりしたので、岩戸の前で神々が宴会を開かれ、天鈿女命さまが賑やかに面白おかしく舞い踊り、天照大御神さまを岩屋より誘い出そうとする。
(…やっぱり、半裸では舞えないわよねェ~…男の人なんだろうし…)
お多福ほどヒョウキンではなく、かと言って能面の女面のように端正でもなく、非常に微妙な神面を被られた天鈿女命に扮した方が、静かに舞われる。高天原きっての踊りの名手らしく、その舞いは気高く優雅である。
「戸取の舞」
天岩屋も天岩戸の戸も所在がはっきりしたので、手力雄命さまが文字通り、岩戸を取り除いて、天照大御神さまをお迎えする舞いである。
先ほどの手力雄命と同じ方だが、力を入れてリキんでいる様を表現するために、赤い神面に変わっている。手力雄命は、高天原で一番の怪力の神様。お名前は“天の手の力の強い男神”の意であり、腕力・筋力を象徴する神様であり、この舞いはその御力をいかんなく発揮する力強く勇壮な舞いだ。
外が賑やかな事を不思議がられた天照大御神さまが、岩を少し開いたところを手を掛け開き、エイヤッ!とばかりにご自慢の怪力で投げ飛ばす。
(…成る程…その戸が着地したのが、戸隠神社だった…と。)
天照大御神さまは、神棚と鏡で表現されていた。
まんまとおびき出された、天照大御神さま。ちなみに、八百万の神々にこの策略の知恵を授けたのが思金命さまと言われる知恵の神様である事は、思いっ切り余談である。……策士よなァ~と、諸葛孔明を思い出してしまった真唯なのであった。
「御神体の舞」
ラストを飾るのは、国産みの舞とも言われる。
伊邪那岐命さまと伊邪那美命さまが、お酒を作ってお互いに仲良く飲んで抱擁を交わし、夫婦円満を象徴する舞だ。
男神は裁着袴に神面をつけ餅を入れた藁苞を棒にさして担ぎ、右手の扇で棒をリズミカルに叩きながら御登場。男神が神庭を一回りしていると、さきほどの天鈿女命さまよりは器量の良い神面をつけた女神が桶とザルをかついで男神に続く。
二人そろって濁酒をこす作業を始めるが、浮気心を出した男神が何と舞台を降りてこっちへやって来るではないか! お神楽見物の若い女性のところへ飛び込んで行き、神聖な神々の舞いから一転、大爆笑の大騒ぎとなってしまう。
(…ド助平…っ! …古女房よりも、若い女の方が良いのね!?)
真唯は思いながらも、その場の明るい雰囲気に引き摺られ、ついつい笑いが漏れてしまう。
まあ結局は、女神に連れ戻されて、再び酒をこす作業が始まるのだが。太鼓の調子に合わせて濁酒をしぼり、出来た酒を飲み合ううちに酔った二人は抱き合って、目出度く夫婦となるのである。
約一時間に及ぶ、神話の世界はこうして繰り広げられたのだった。
……決して、高度な技が披露された訳ではない。
しかし、だからこそ、地元のごく普通の人々が連綿と受け継いでゆく、“里神楽”の素朴さを魅せて頂けたように思えたのだった。
外に出て振り返って見れば、篝火が焚かれ、ライトアップされた神楽殿が闇夜に浮かび上がっている。
……“非日常”の神話世界が確かに存在した場を、なお去り難く…何度も振り返ってしまった真唯なのであった。
帰りの車の中で木内さんから、あの「御神体の舞」は、本来は新嘗祭を祝うための神道祭祀であり、“神人一体”化する儀式であった事などの蘊蓄を有り難く拝聴して。
高千穂の夜は、更けていった。
そして。
とある旅館の離れの一室。
「…ね…いいでしょう…?」
「…男って、人も神様も助平なんですね…」
「…………………………」
「…浮気が男の甲斐性だなんて、絶対に許さないんだから…っ!」
「勿論ですともっ!!」
この夫妻が、神話の里の夜をどう過ごされたかは……天に輝く、月読尊さまだけが御存じなのであった。
翌朝。
宿自慢の美味しい朝食を頂いた。
特に真唯は、焼き立ての出汁巻き卵が大層気に入って。
食後の珈琲のサーヴィスも有り難く受けて。
作務衣をお召しの従業員さんに温かく見送られて、ご機嫌麗しく、高千穂の地を離れたのだった。
短い間だったけれど、お世話になった木内さんに、最敬礼でお礼を申し上げて。山本船長たちににこやかに出迎えられて、真唯は再びクルージングに戻った。今度向かうは、最終目的地・沖縄。
ここ数年は【インティ・ライミ】の日に訪れていた土地ではあるが、那覇空港しか知らないし、空から見るだけの土地であった。
首里城にも美ら海水族館にも、国際通りにもまったく興味は無い。
……だが、しかし。
「…真唯さん…折角ここまで来たのですから…あそこへ行きたいのではないですか…?」
「…でも…ダイビングするには、まだ時期が早いでしょう?」
「大丈夫…お任せ下さい。」
「…でも…無理はして欲しくありません…」
「無理なんかしていませんよ。
…それに、正直言えば…私だって、見てみたいと思ってたんですから…」
「………………………」
ここまで言われてしまえば、真唯とて否やはない。
かくして。
【神話の里 高千穂】観光の後は、与那国島の海底遺跡へと赴く事になったのであった。
※ ※ ※
―――与那国島の海底遺跡―――
いや、厳密に言えば、未だ“遺跡”としては認められていない。
“常識”を掲げる人々によって、自然地形説であるとの認識がまかり通っているからだ。
……だからこそ……一度、この瞳で、見てみたかった……
……今、その念願が、叶えられようとしている……
“美ら海”と言われる、どこまでも蒼い海。
【CLUB NPOE】が所有すると云う島の港に接岸し。
そこから、用意されていた小型艇に乗り換えた。
“半潜水艇”と呼ばれるタイプだそうで、なるほど海中が良く見えた。
ダイビングスーツを着て、インストラクターに訓練を受ける間でもなく、こうして見る事が出来るなんて……真唯はテレビや画像としてしか見た事の無かった、美しい沖縄の海にただただ感動していた。
そして、海中散歩(?)を楽しむ事、数十分。
ポイントに到着したとの知らせに浮足立つ。
……そこに、【海底遺跡】は、存在した。
階段としか思えないような建造物群。
通称“テラス”と呼ばれる場所。
それは真唯に、容易くインカの石組を連想させた。
……声も出ない想いで、それらの光景に魅入られた……
……誰よりも、真唯を愛してくれる…愛しい旦那さまと共に……
その日。
日本最西端の雄大な夕陽を拝し。
真唯は、愛する男性の胸に寄り掛かった。
……湘南沖のクルージングを楽しんで、素敵な富士山と江ノ島の風景を拝する事が出来た。
……“束縛”を意味するネックレスと、貴志さんお手製のマカロンをプレゼントされてしまった。
……大阪では、念願のミュシャを見る事が出来た。
……高千穂では神社巡りと、念願の【夜神楽】を見る事が出来た。
……そして。
……今また、念願の【海底遺跡】を見る事が出来た。
……“念願”を三つも叶えてもらえて……こんな素敵なホワイトデーのお返しなんて、他にない……
……みんな、みんな…この愛する旦那さまのお陰だ……
「…こんな素敵な旅をプレゼントして頂けるなんて…
…本当に、ありがとうございました……」
真唯は万感の想いを込めて、背後から抱き締めてくれている貴志さんにお礼を言った。
「…喜んで頂けて、何よりです。
…怒られたままだったら、どうしようかと思いましたよ…」
「…嘘吐き…自信満々だったくせに…」
「…まあ…これでも、愛する妻の嗜好は、誰よりも理解している心算ですから…」
「…ホントに…ここの海底遺跡には、感激しました…」
「…では…真唯さんのご意見は…?」
天照大御神さまが、西の海に姿を隠された夜。
洋上で交わされた真唯と貴志さんとの会話は、“ム○民”同士の白熱トークへと展開して行き……内容は真唯のトップシークレットであり、『ばらさー』には決して言えない、夫との秘密なのである。
かくして沖縄の夜は更けてゆき……翌朝、一路、東京湾を目指して出航、帰港する事になり。
五泊六日の旦那さまからのプレゼント、ホワイトデー・クルージングは、こうしてその幕を下ろしたのであった。
※ ※ ※
ちなみに。
後日、人気のブログ【強引g 真唯道】では最新の記事がアップされた。東京湾・横浜・湘南クルージングの様子と、宮崎県高千穂に旅行したと云う筆者の“神話の里”の神社巡りと【夜神楽】の様子が生々しく躍動的に、同時に神秘的に表現されて。改めて、読者の心を掴んだのは言うまでもない。
同時に。クルージングの船長をして下さった山本さんと、高千穂のガイドをして下さった木内氏に絶大なる感謝を捧げて、文は結ばれていた。
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