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本編
No,16
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『お前は余と一緒に【創都祭】に行くのだ。
そうして、我が国の“神子”となると宣言してもらおう。』
ビヤ樽王は、尊大に言い放った。
※ ※ ※
イーダ王女のお部屋で、彼女の経過を確認している時だった。
王の使いと云う男性の訪問を受けたのは。
ニヤついた不快な表情をした男だった。
王の命令を聞くのが、当然と思ってるような態度も。
王女が抱いていた【エンジョウジ】を引き取って。
しっかりと抱き直して、勇気をもらった。
そのまま抱いていたいところだけど、あたしは一人では歩けない。
けれども。
今日は侍女さん達ではなく、近衛兵(勝手に確定)達に連れられて歩かされた。
あの嫌な男の先導で。
そうして連れて行かされた部屋は、悪趣味な部屋だった。
まるでベルサイユ宮殿のようなキンキラキンの成金趣味丸出しの部屋だった。
(「ベルばら」ファンの皆さん、ごめんなさい/苦笑)
しかも、もっと悪趣味な事に。
奥の部屋は、スルタンのハレムのような有様だったのだ。
ビヤ樽は肌もあらわな美女達に囲まれてご満悦だ。
そのビヤ樽が手を一振りし、女性達を遠ざける仕草をする。
女性達に睨まれるが、『あんた達へのご寵愛を奪おうとは、微塵も思ってないから。』と内心で言い訳してた。だって冗談ではない。こんなビヤ樽親父には嫌悪感しか感じないのだから。
『余の寵姫達だ。美しいだろう。』
「……そーですね……」
思いっ切り棒読みだ。
そんな不遜な態度を鷹揚に許された理由を知る。
『そう、僻むな。』
「……………」 ……誰が僻むか。
『あの若造が手を出さない理由が良く理解る。』
「……………」 ……放っとけ。
『“神子”とは知恵や知識があっても、醜いものなのだな。』
「……………」 ……あんたの醜さには、負けるけどな!
『まあ、その頭脳を、あの国に独占させておくには惜しい。』
そうして次の瞬間、あの寝言を言い放ちやがったのだ。
酒のグラスを傾けながら。
約束が違うとは言わなかった。
言っても無駄だからだ。
けどただ黙って、言い成りになってたまるもんですか!
『…嫌だと申し上げたら、どうなさるのですか…?』
と、完璧なペッレグリーノ語で言ってみた。
すると。
ビヤ樽が何かの合図をして。
「ギャン…ッ!」
【エンジョウジ】の叫びが聞こえた。
その瞬間。
【エンジョウジ】の利用価値に気付いたのだった。
「卑怯者っ!!」
叫ばずにはいられなかった。
つい反射的に叫んでしまったから日本語だったけど、ビヤ樽達には意味は通じただろう。思いっ切り睨み付けてやったから。だが、本当に愕然としたのは、次の瞬間だった。
『あの者の言う通りだったな。咄嗟に猫を連れてきたのは良い判断だった。あやつには褒美をとらせよ。』
『仰せのままに。』
あのヤな男が慇懃無礼に礼をしたが。
あたしには、何にも聞こえなくなってしまった。
【エンジョウジ】を抱いていて、どこか痛めつけたのだろう兵から取り戻そうとしたのに。身体がフリーズしてしまったみたいに動かなくなってしまったのだった。
あたしを言い成りにさせる贄として、【エンジョウジ】を連れて来たのは。
ダリオの入れ知恵だったのだ―――
それから命令違反した人間の処分がどうのとか言ってた気もするけど、あたしは見ても聞いてもその情報は脳には伝達してなかったし。いつの間に【エンジョウジ】を無事に取り戻していたのか、いつ部屋に戻ったのか一切覚えていなかったのだ。
その日、初めて、あたしは夕飯を食べなかった。
心配気な侍女の表情も気にならない。
【エンジョウジ】を抱いて、部屋の暖炉の前でぼんやり座ってた。
愛猫を抱いてるのに、癒しも慰めも感じない。
まるで。
無感動になってしまったみたいだ。
何にも考えたくはない。
……知らなかった。
人間は本当に哀しいと、涙も出て来ないのだ。
あたしの様子がおかしいのが理解ってるのか、【エンジョウジ】がしきりに頬を舐めてくれるが、微笑み返す事など出来ない。
ただただ、ぼんやりと暖炉の炎を見つめていたが。
あたしの瞳には、何にも映ってはいなかったのだった―――
※ ※ ※
そうして、敵国での最後の日。
イーダ王女に謝罪され、そして懇願された。
父親のやり口と思惑を知らされて激しく憤り、同腹の兄である王太子に会って事態を打開するよう相談してみて欲しいと。聞けば、正妃である女性の子供は自分とその兄だけで、父親とは全く違う穏やかな性格らしい。皇国に攻め入る事にも、最後まで反対したそうだ。
「わたくしのおんじんであるナツキ様に、あんまりなしうちですわ!
おにいさまとでしたら、おはなしもあうはずですし…ぜひとも!!」
折角のお言葉だが、あたしは苦笑いするだけで無視した。
王太子があたしを“妹の恩人”だと思っているなら、自分から挨拶に来る筈だ。
何の接触もないと云う事は、神子に無関心なのか。
もしくは戦争は反対しても、“神子”を迎える事には賛成しているのかも知れない。
―――もう。
誰にも、期待なんかしない―――
そうして、我が国の“神子”となると宣言してもらおう。』
ビヤ樽王は、尊大に言い放った。
※ ※ ※
イーダ王女のお部屋で、彼女の経過を確認している時だった。
王の使いと云う男性の訪問を受けたのは。
ニヤついた不快な表情をした男だった。
王の命令を聞くのが、当然と思ってるような態度も。
王女が抱いていた【エンジョウジ】を引き取って。
しっかりと抱き直して、勇気をもらった。
そのまま抱いていたいところだけど、あたしは一人では歩けない。
けれども。
今日は侍女さん達ではなく、近衛兵(勝手に確定)達に連れられて歩かされた。
あの嫌な男の先導で。
そうして連れて行かされた部屋は、悪趣味な部屋だった。
まるでベルサイユ宮殿のようなキンキラキンの成金趣味丸出しの部屋だった。
(「ベルばら」ファンの皆さん、ごめんなさい/苦笑)
しかも、もっと悪趣味な事に。
奥の部屋は、スルタンのハレムのような有様だったのだ。
ビヤ樽は肌もあらわな美女達に囲まれてご満悦だ。
そのビヤ樽が手を一振りし、女性達を遠ざける仕草をする。
女性達に睨まれるが、『あんた達へのご寵愛を奪おうとは、微塵も思ってないから。』と内心で言い訳してた。だって冗談ではない。こんなビヤ樽親父には嫌悪感しか感じないのだから。
『余の寵姫達だ。美しいだろう。』
「……そーですね……」
思いっ切り棒読みだ。
そんな不遜な態度を鷹揚に許された理由を知る。
『そう、僻むな。』
「……………」 ……誰が僻むか。
『あの若造が手を出さない理由が良く理解る。』
「……………」 ……放っとけ。
『“神子”とは知恵や知識があっても、醜いものなのだな。』
「……………」 ……あんたの醜さには、負けるけどな!
『まあ、その頭脳を、あの国に独占させておくには惜しい。』
そうして次の瞬間、あの寝言を言い放ちやがったのだ。
酒のグラスを傾けながら。
約束が違うとは言わなかった。
言っても無駄だからだ。
けどただ黙って、言い成りになってたまるもんですか!
『…嫌だと申し上げたら、どうなさるのですか…?』
と、完璧なペッレグリーノ語で言ってみた。
すると。
ビヤ樽が何かの合図をして。
「ギャン…ッ!」
【エンジョウジ】の叫びが聞こえた。
その瞬間。
【エンジョウジ】の利用価値に気付いたのだった。
「卑怯者っ!!」
叫ばずにはいられなかった。
つい反射的に叫んでしまったから日本語だったけど、ビヤ樽達には意味は通じただろう。思いっ切り睨み付けてやったから。だが、本当に愕然としたのは、次の瞬間だった。
『あの者の言う通りだったな。咄嗟に猫を連れてきたのは良い判断だった。あやつには褒美をとらせよ。』
『仰せのままに。』
あのヤな男が慇懃無礼に礼をしたが。
あたしには、何にも聞こえなくなってしまった。
【エンジョウジ】を抱いていて、どこか痛めつけたのだろう兵から取り戻そうとしたのに。身体がフリーズしてしまったみたいに動かなくなってしまったのだった。
あたしを言い成りにさせる贄として、【エンジョウジ】を連れて来たのは。
ダリオの入れ知恵だったのだ―――
それから命令違反した人間の処分がどうのとか言ってた気もするけど、あたしは見ても聞いてもその情報は脳には伝達してなかったし。いつの間に【エンジョウジ】を無事に取り戻していたのか、いつ部屋に戻ったのか一切覚えていなかったのだ。
その日、初めて、あたしは夕飯を食べなかった。
心配気な侍女の表情も気にならない。
【エンジョウジ】を抱いて、部屋の暖炉の前でぼんやり座ってた。
愛猫を抱いてるのに、癒しも慰めも感じない。
まるで。
無感動になってしまったみたいだ。
何にも考えたくはない。
……知らなかった。
人間は本当に哀しいと、涙も出て来ないのだ。
あたしの様子がおかしいのが理解ってるのか、【エンジョウジ】がしきりに頬を舐めてくれるが、微笑み返す事など出来ない。
ただただ、ぼんやりと暖炉の炎を見つめていたが。
あたしの瞳には、何にも映ってはいなかったのだった―――
※ ※ ※
そうして、敵国での最後の日。
イーダ王女に謝罪され、そして懇願された。
父親のやり口と思惑を知らされて激しく憤り、同腹の兄である王太子に会って事態を打開するよう相談してみて欲しいと。聞けば、正妃である女性の子供は自分とその兄だけで、父親とは全く違う穏やかな性格らしい。皇国に攻め入る事にも、最後まで反対したそうだ。
「わたくしのおんじんであるナツキ様に、あんまりなしうちですわ!
おにいさまとでしたら、おはなしもあうはずですし…ぜひとも!!」
折角のお言葉だが、あたしは苦笑いするだけで無視した。
王太子があたしを“妹の恩人”だと思っているなら、自分から挨拶に来る筈だ。
何の接触もないと云う事は、神子に無関心なのか。
もしくは戦争は反対しても、“神子”を迎える事には賛成しているのかも知れない。
―――もう。
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