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本編
No,7
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無言で、打ち上げられる『花火』を見つめる。
この花火は、国王の魔法によるものだ。
王族には魔力があるが、魔力が高い人間ほど花火が綺麗に創る事が出来るらしい。そして、この花火が美しければ美しい程、来年の実りが約束されると言う。国王であるフレド殿下の御父上は、今年も見事な花火を見せて下さっている。今頃、城下町では、人々が賑やかに楽しんでいるのだろう。
それに。
この花火には、一つのジンクスがある。
『好きな人間と見ると、幸せになれる』
最早、都市伝説レベルのジンクスだ。
毎年、あたしの横にいらっしゃるのは、この陛下なのだから。
……今頃、あの男性は、この花火を見ているのだろうか……
『…明日の夜の花火を一緒に見て、なんて言わないから…っ、
…来年も会うって約束してくれ…っ』
何も答える事が出来ずに逃げ出したあたしの後ろから、叫ぶ声が聞こえた。
『…来年も、あの場所で待ってる…っ、…待ってるから…っ!』
※ ※ ※
「…皇妃よ…花火は、楽しんでおるか…?」
「…勿論ですわ…美しいですわね…来年も、豊かな実りが約束される事でしょう。
…これで、この王国も安泰ですわ…フレド殿下も、お喜びでしょう…」
「…フレドの奴には、この後の後夜祭の舞踏会の方が楽しみであろうよ…」
「…フフ…それも、そうですわね…」
「……良かった…元気になったようだな。」
「……はい…?」
「…そなたの事だ…昨夜は晩餐会でもあまり食べずに、調子が悪いと直ぐに床に入ってしまったようだから…」
「……お気遣い頂きまして、ありがとうございます…もう、大丈夫ですわ…」
……心配して下さってるんですか、お珍しい……そう云えば、こんな場面で話し掛けられるのも、珍しい……一体、陛下に何事が、起こっているのでしょうか…?
……いやいや、ここは外国の王宮だからだ……他の国の人達に、噂の種を提供する事はない…勘違いしちゃいけない……
「…そろそろ参ろうか…舞踏会が始まる時刻だ…」
「…はい、陛下…」
……了解りましたよ、陛下…完全に別れる事が出来るまでは、お行儀良くしております……
あたしは、陛下にエスコートされるままに、手を重ねて。
虚しい想いを抱えながら、幻想的な花火に背を向けた。
あたしの目の前では、美人コンテストの優勝者が晴れやかに踊ってる。
地球風に言えば、『ミス・セレスティーノ』と云うところか。
地母神であり、ワインと花の女神されるセレスティーノの化身と云う訳なのだから、成程頷ける程の美人さんだ。パレードにも出た筈なのに、その疲れも見えない。王子様たちと次々に踊る彼女は、わが世の春を満喫しているかのようだ。まあ、秋なんだけどね(苦笑)。でも独身の彼女は、フレドと踊っている時が、一番輝いてる。ここでフレドに見初められでもしたら、一躍シンデレラストーリーの開幕だ。うまくいけば王太子妃、ゆくゆくは王妃だ。彼女の瞳は、完全に標的をロックオンしてる瞳だ(笑)。
『…【レヴィの神子】の地位なら、いつでも譲ってあげるんだけどなァ…』
公式なパーティーでは身分の高い人間から踊る。
先ずは、この国の国王夫妻の落ち着いてて、それでも充分華やかなワルツから。
そうして次は、“神子”であるあたしと陛下の儀礼的なワルツを。
(え? ワルツが踊れるのかって? 馬鹿言っちゃいけませんゼ、旦那。異世界に来てから、たっぷりと練習させられましたのさ★)
そうして身分順に言うと次は皇太子殿下なんだけど、フレド殿下がまだ妻帯なさってらっしゃらないから『ミス・セレスティーノ』と踊って。弟王子様と踊ると、後は無礼講のダンスパーティーだ。勿論、楽団の生演奏なんだから、豪華だよね。
見ているだけ、ならね。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
根負けしたのは、あたしの方だった。いつもなら、壁の花になってるあたしをさっさと放っておいて、他のご令嬢や貴婦人たちと踊ってらっしゃる陛下が、あたしの横から動かないんだよね。う~~、あたしを睨んでる女性たちの視線が痛い★
「…陛下。」
「…なんだ。」
『なんだ。』では、ござんせんでしょ。
陛下と踊りたがってるご婦人たちが、こちらを睨んでるでしょ★ おまけに『寄るな、触るな光線』を発してらっしゃるから、お話したがってる貴族の皆さんも、こちらに来られないじゃないですか。陛下のご機嫌具合は、相変わらず良く理解らない。『ミス・セレスティーノ』に見惚れてる風でもないしなァ。
「…妃よ…」
……ビックリした。
この陛下は、あたしを『皇妃』と儀礼的に呼ぶのが普通で。
“花嫁”の意味のある、『妃』とは一度も呼ばなかったから。
返事も出来ない心地でいると。
「…庭に出てみないか…」
「…はぁ…」
言われるままに、庭に出てみた。
葡萄酒色のドレスを翻して。
この花火は、国王の魔法によるものだ。
王族には魔力があるが、魔力が高い人間ほど花火が綺麗に創る事が出来るらしい。そして、この花火が美しければ美しい程、来年の実りが約束されると言う。国王であるフレド殿下の御父上は、今年も見事な花火を見せて下さっている。今頃、城下町では、人々が賑やかに楽しんでいるのだろう。
それに。
この花火には、一つのジンクスがある。
『好きな人間と見ると、幸せになれる』
最早、都市伝説レベルのジンクスだ。
毎年、あたしの横にいらっしゃるのは、この陛下なのだから。
……今頃、あの男性は、この花火を見ているのだろうか……
『…明日の夜の花火を一緒に見て、なんて言わないから…っ、
…来年も会うって約束してくれ…っ』
何も答える事が出来ずに逃げ出したあたしの後ろから、叫ぶ声が聞こえた。
『…来年も、あの場所で待ってる…っ、…待ってるから…っ!』
※ ※ ※
「…皇妃よ…花火は、楽しんでおるか…?」
「…勿論ですわ…美しいですわね…来年も、豊かな実りが約束される事でしょう。
…これで、この王国も安泰ですわ…フレド殿下も、お喜びでしょう…」
「…フレドの奴には、この後の後夜祭の舞踏会の方が楽しみであろうよ…」
「…フフ…それも、そうですわね…」
「……良かった…元気になったようだな。」
「……はい…?」
「…そなたの事だ…昨夜は晩餐会でもあまり食べずに、調子が悪いと直ぐに床に入ってしまったようだから…」
「……お気遣い頂きまして、ありがとうございます…もう、大丈夫ですわ…」
……心配して下さってるんですか、お珍しい……そう云えば、こんな場面で話し掛けられるのも、珍しい……一体、陛下に何事が、起こっているのでしょうか…?
……いやいや、ここは外国の王宮だからだ……他の国の人達に、噂の種を提供する事はない…勘違いしちゃいけない……
「…そろそろ参ろうか…舞踏会が始まる時刻だ…」
「…はい、陛下…」
……了解りましたよ、陛下…完全に別れる事が出来るまでは、お行儀良くしております……
あたしは、陛下にエスコートされるままに、手を重ねて。
虚しい想いを抱えながら、幻想的な花火に背を向けた。
あたしの目の前では、美人コンテストの優勝者が晴れやかに踊ってる。
地球風に言えば、『ミス・セレスティーノ』と云うところか。
地母神であり、ワインと花の女神されるセレスティーノの化身と云う訳なのだから、成程頷ける程の美人さんだ。パレードにも出た筈なのに、その疲れも見えない。王子様たちと次々に踊る彼女は、わが世の春を満喫しているかのようだ。まあ、秋なんだけどね(苦笑)。でも独身の彼女は、フレドと踊っている時が、一番輝いてる。ここでフレドに見初められでもしたら、一躍シンデレラストーリーの開幕だ。うまくいけば王太子妃、ゆくゆくは王妃だ。彼女の瞳は、完全に標的をロックオンしてる瞳だ(笑)。
『…【レヴィの神子】の地位なら、いつでも譲ってあげるんだけどなァ…』
公式なパーティーでは身分の高い人間から踊る。
先ずは、この国の国王夫妻の落ち着いてて、それでも充分華やかなワルツから。
そうして次は、“神子”であるあたしと陛下の儀礼的なワルツを。
(え? ワルツが踊れるのかって? 馬鹿言っちゃいけませんゼ、旦那。異世界に来てから、たっぷりと練習させられましたのさ★)
そうして身分順に言うと次は皇太子殿下なんだけど、フレド殿下がまだ妻帯なさってらっしゃらないから『ミス・セレスティーノ』と踊って。弟王子様と踊ると、後は無礼講のダンスパーティーだ。勿論、楽団の生演奏なんだから、豪華だよね。
見ているだけ、ならね。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
根負けしたのは、あたしの方だった。いつもなら、壁の花になってるあたしをさっさと放っておいて、他のご令嬢や貴婦人たちと踊ってらっしゃる陛下が、あたしの横から動かないんだよね。う~~、あたしを睨んでる女性たちの視線が痛い★
「…陛下。」
「…なんだ。」
『なんだ。』では、ござんせんでしょ。
陛下と踊りたがってるご婦人たちが、こちらを睨んでるでしょ★ おまけに『寄るな、触るな光線』を発してらっしゃるから、お話したがってる貴族の皆さんも、こちらに来られないじゃないですか。陛下のご機嫌具合は、相変わらず良く理解らない。『ミス・セレスティーノ』に見惚れてる風でもないしなァ。
「…妃よ…」
……ビックリした。
この陛下は、あたしを『皇妃』と儀礼的に呼ぶのが普通で。
“花嫁”の意味のある、『妃』とは一度も呼ばなかったから。
返事も出来ない心地でいると。
「…庭に出てみないか…」
「…はぁ…」
言われるままに、庭に出てみた。
葡萄酒色のドレスを翻して。
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