Where In The World

天野斜己

文字の大きさ
上 下
8 / 64
本編

No,7

しおりを挟む
無言で、打ち上げられる『花火』を見つめる。
この花火は、国王の魔法によるものだ。

 王族には魔力があるが、魔力が高い人間ひとほど花火これが綺麗に創る・・事が出来るらしい。そして、この花火が美しければ美しい程、来年の実りが約束されると言う。国王であるフレド殿下の御父上は、今年も見事な花火を見せて下さっている。今頃、城下町では、人々が賑やかに楽しんでいるのだろう。

それに。
この花火には、一つのジンクスがある。



 『好きな人間ひとと見ると、幸せになれる』



 最早、都市伝説レベルのジンクスだ。
 毎年、あたしの横にいらっしゃるのは、この陛下なのだから。


……今頃、あの男性ひとは、この花火を見ているのだろうか……



『…明日の夜の花火を一緒に見て、なんて言わないから…っ、
  …来年も会うって約束してくれ…っ』



 何も答える事が出来ずに逃げ出したあたしの後ろから、叫ぶ声が聞こえた。



 『…来年も、あの場所で待ってる…っ、…待ってるから…っ!』



※ ※ ※



「…皇妃よ…花火は、楽しんでおるか…?」
 「…勿論ですわ…美しいですわね…来年も、豊かな実りが約束される事でしょう。
  …これで、この王国も安泰ですわ…フレド殿下も、お喜びでしょう…」
 「…フレドの奴には、この後の後夜祭の舞踏会パーティーの方が楽しみであろうよ…」
 「…フフ…それも、そうですわね…」
 「……良かった…元気になったようだな。」
 「……はい…?」
 「…そなたの事だ…昨夜は晩餐会でもあまり食べずに、調子が悪いと直ぐに床に入ってしまったようだから…」
 「……お気遣い頂きまして、ありがとうございます…もう、大丈夫ですわ…」
……心配して下さってるんですか、お珍しい……そう云えば、こんな場面で話し掛けられるのも、珍しい……一体、陛下に何事が、起こっているのでしょうか…?
……いやいや、ここは外国の王宮だからだ……他の国の人達に、噂の種を提供する事はない…勘違いしちゃいけない……
「…そろそろ参ろうか…舞踏会パーティーが始まる時刻だ…」
 「…はい、陛下…」
……了解わかりましたよ、陛下…完全に別れる事が出来るまでは、お行儀良くしております……

あたしは、陛下にエスコートされるままに、手を重ねて。
 虚しい想いを抱えながら、幻想的な花火に背を向けた。





あたしの目の前では、美人コンテストの優勝者が晴れやかに踊ってる。
 地球風に言えば、『ミス・セレスティーノ』と云うところか。
 地母神であり、ワインと花の女神されるセレスティーノの化身と云う訳なのだから、成程頷ける程の美人さんだ。パレードにも出た筈なのに、その疲れも見えない。王子様たちと次々に踊る彼女は、わが世の春を満喫しているかのようだ。まあ、秋なんだけどね(苦笑)。でも独身の彼女は、フレドと踊っている時が、一番輝いてる。ここでフレドに見初められでもしたら、一躍シンデレラストーリーの開幕だ。うまくいけば王太子妃、ゆくゆくは王妃だ。彼女の瞳は、完全に標的ターゲットをロックオンしてるだ(笑)。


 『…【レヴィの神子】の地位なら、いつでも譲ってあげるんだけどなァ…』


 公式なパーティーでは身分の高い人間ひとから踊る。
 先ずは、この国の国王夫妻の落ち着いてて、それでも充分華やかなワルツから。
そうして次は、“神子”であるあたしと陛下の儀礼的なワルツを。
 (え? ワルツが踊れるのかって? 馬鹿言っちゃいけませんゼ、旦那。異世界こっちに来てから、たっぷりと練習させられましたのさ★)
そうして身分順に言うと次は皇太子殿下なんだけど、フレド殿下がまだ妻帯なさってらっしゃらないから『ミス・セレスティーノ』と踊って。弟王子様と踊ると、後は無礼講のダンスパーティーだ。勿論、楽団の生演奏なんだから、豪華だよね。
見ているだけ・・、ならね。


 「……………」
 「……………」
 「……………」
 「……………」

 根負けしたのは、あたしの方だった。いつもなら、壁の花になってるあたしをさっさと放っておいて、他のご令嬢や貴婦人たちと踊ってらっしゃる陛下が、あたしの横から動かないんだよね。う~~、あたしを睨んでる女性ひとたちの視線が痛い★

「…陛下。」
「…なんだ。」

 『なんだ。』では、ござんせんでしょ。
 陛下と踊りたがってるご婦人たちが、こちらを睨んでるでしょ★ おまけに『寄るな、触るな光線』を発してらっしゃるから、お話したがってる貴族の皆さんも、こちらに来られないじゃないですか。陛下のご機嫌具合は、相変わらず良く理解らない。『ミス・セレスティーノ』に見惚れてる風でもないしなァ。


 「…きさきよ…」


……ビックリした。
この陛下ひとは、あたしを『皇妃』と儀礼的に呼ぶのが普通で。
“花嫁”の意味のある、『妃』とは一度も呼ばなかったから。
 返事も出来ない心地でいると。
 「…庭に出てみないか…」
 「…はぁ…」
 言われるままに、庭に出てみた。
 葡萄酒ワイン色のドレスを翻して。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

教師と生徒とアイツと俺と

本宮瑚子
恋愛
高校教師1年目、沢谷敬介。 教師という立場にありながら、一人の男としては屈折した感情を持て余す。 そんな敬介が、教師として男として、日に日に目で追ってしまうのは……、一人の女であり、生徒でもあった。 ★教師×生徒のストーリーながら、中身は大人風味の恋愛仕立て。 ★未成年による飲酒、喫煙の描写が含まれますが、あくまでストーリー上によるものであり、法令をお守り下さい。 ★こちらの作品は、他サイトでも掲載中のものに、加筆・修正を加えたものです。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...