Where In The World

天野斜己

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本編

No,4

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こちらの世界の国の成り立ちは少し変わっている。

 先ず、“都ありき”なのだ。



あたしが日本の一般常識としている知識としては。
 縄文時代、弥生時代に始まる文明は先ず人々が集団で暮らすようになっていって、自然発生的にムラが出来て、やがて国が建国され、王朝が成立していって。そして都が置かれるものだと思うのだが。

この世界の。
と云うか、この大陸は違う。



遥かな昔。
このセルヴァン大陸に、創造神・キュヴィリエが人間が暮らせる七つの都を置かれて。人々は自分が好きな処に住む事を許された。そして人々がそれぞれの都に定住を始めると、その中からリーダーとなる王を決めさせた。その王の名字が国の名前となり、王朝を作り。その統治を長男であるレヴィ神に任せる事にしたのだ。
永い間、人間たちは、宇宙を治め、天地を創り、自分たち人間を創って下さった創造神に下賜された都を勿体なく思い、キュヴィリエが呼ばれた【ヴィーユ】と云う名称を使っていた。しかし時代が下り、人口が増えるにつれてさすがに不便になり、レヴィにその名称をつけて頂けるようお願いしたのだ。願いを聞き届けたレヴィは、どうせなら素晴らしい名前をつけようと永い間、考えに考えたがなかなか良い名前がつけられなかった。やがて、六人の妹神と一人の異世界人を娶る事となったレヴィは、妹の女神たちと異世界人を改めて祝福し、人間を祝福してそれぞれの女神たちと異世界人の名前を都に与えたのである。



 ―――以上が、創世神話の一節なのだが。
 真偽はどうあれ、現在、七つの国の七つの都はそれぞれの女神と一人の異世界人の名前で呼ばれているのである。ちなみにこの最初の異世界人の名前はあたしには意味不明で、完全なるパラレルワールドのお方らしい。ついでながら二年前、侵略戦争を仕掛けて来た国はペッレグリーノといい、【戦女神ジェミニアーノ】の名前を持つ首都を頂いている。極北の土地で、この大陸の中では一番貧しい国らしい。だからと言って侵略戦争はアカンよね。

 更についでとばかりに説明させて頂くと、一日は二十四時間で一年は三百六十日である。地球とあまり変わらないので助かってる。時計の針は一本しかなくて、最初はかなり戸惑った。中世ヨーロッパでは普通に使われていたと聞いた事があるし、慣れれば何とかなってしまう。それにあたしにはとっておきの秘密兵器がある。祖父の形見のネジまき式の腕時計だ。あの時たまたま、腕時計を外さずに寝たあたしってば超エライ!!

この世界で唯一のセルヴァン大陸には重要な祭りが幾つかあるが、最も神聖視されているのは創造神・キュヴィリエが人間に都を与えたとされる日である。これが六月なのだが、あたしはこのお祭りは夏至祭なのではないかと秘かに思ってる。

それに次ぐのが【収穫祭】と【豊漁祭】である。
 (レヴィの神子の【生誕祭】も重要視されるが全力で割愛/恥)。

この【収穫祭】が執り行われるのが、隣国のデルヴァンクール王国の首都・セレスティーノなのである。レヴィの二番目の妻であり、【地母神セレスティーノ】の名を持つ都で毎年秋に行われる祭りはそれは盛大なのである。そしてこの国の王太子・フレデリック殿下が、皇帝陛下の親友なのだ。


※ ※ ※


「やあ、良く来てくれたね!」
 爽やかな笑顔のフレデリック王子が、実は結構な腹黒である事をあたしは知っている。彼は皇帝陛下を“親友”と呼ぶが、陛下は“悪友”呼ばわりして憚らない。つまりは仲良しさんなのだ。ちなみに。彼が使っているのは大陸共通言語らしいが、あたしは自動翻訳してくれる便利な機能チート持ちだ。一般教養として、家庭教師の先生には習ってるんだけどね。内心では『ロッテンマイヤーさん』と呼んで、秘かに楽しんでたりするのだ(笑)。

 「お久し振りでございます。フレデリック殿下におかれましては、ご機嫌麗しく、」
 「ああ、やめてくれよ! 親友の奥方なんだ、固苦しいのはなしなし!!」
 「…相変わらずですね…では、遠慮なく…フレド、今年もよろしくね。」
 「歓迎するよ、ナツキ。今年こそパレードに、是非とも参加してくれよ!」
 「…ありがとうございます…それは、陛下にお聞き下さい…」
 「ああ、ダメダメ! あいつに言ったら、絶対邪魔されるよ!! だから…ね。」
 「……聞こえているぞ……」
 「ああ、いたんだ。生憎、可愛いしか眼に入らないものでね。」
 「……相変わらずだな…デルヴァンクール王家の行く末が思いやられる……」
 「君も相変わらずお茶目な奴だね。僕が即位すれば、この国は安泰だよ!!」
 「……………」
 「ナツキ、また後でね!」


フレドは、本当に相変わらずだ。
 王太子妃の候補も自薦他薦を問わず縁談は沢山あるらしいけど、『僕が結婚しちゃったら、世界の損失でしょ♪』と言い放っている。 ……親友同士、プレイボーイなのは変わらないらしい……まあ、悪い男性ひとじゃないんだけどね。あたしの世代の“夢見る王子様”を体現する、金髪碧眼のキラキラ王子様なのだ。あたしは秘かに『アンソニー』と呼んでいる(勿論、心の中だけで/笑)。



 嵐が去った後あたしたちは、侍従に宮殿内の豪奢ないつものお部屋に案内された。

……沈黙が痛いんですケド★

お気に入りの側室でも連れて来れば良いのにと毎回思うのだが、国家同士の正式な外交だから仕方ないやね。


 離縁を願い出てる身としては、かなり居心地が悪いのだが。幸いと云うか、空気になるのは昔から得意中の得意だ。『必殺★ガン無視作戦』を決行していたら、何故か視線を感じる。この部屋の中には、あたしの他には一人しかいない。 ……陛下である。皇帝陛下しかいらっしゃらない。チラリと横目で見ると、サッと視線を逸らされる。
 (ド〇フのコントかいっ!)
 内心突っ込むが、そんな心の声が聴こえよう筈もない。あたしは澄ました表情かおで、大人しくコーヒーを飲む。この国に来て何が嬉しいかって、コーヒーが飲める事である!! いえ、皇国にもある事はあるんですよ。でも何たって、お高い!! このデルヴァンクール王国からの輸入品だから。根が貧乏性なので、余程の事がない限り我慢してるのだ。何たって、あたしが使わせて頂いてるのは、皇国の皆さまの血税なのだから。だが、この国では、飲み放題だ!! 元の世界では、目の色変えて食べ放題や飲み放題に行った事を思い出す。『元を取らねばっ!!』と意気込んで友達とお店に繰り出したのは、今では懐かしい思い出だ。

なんて。

 『あの、元気かなァ』などと芳しいコーヒーを頂きつつ、ファミレスのチープなドリンクバーや友人たちとの事を思い出していたから、咄嗟の反応が出来なかった。何を血迷ったのか、皇帝陛下があたしを庭園のお散歩に誘って下さったのだ。





 「……………」
 「…バラが綺麗だな…」
 「…そうですね…美しいですわね…」
 「……………」
 「……………」
 「……………」
 「……………」

 『おい、何か喋れよっ!』との脳内突っ込みは勘弁して欲しいと思う。散歩に誘ったくらいだから、何か特別な話でもあるのではないかと思ったのだが。皇帝陛下は無言で歩いてらっしゃるだけだ。エスコートされてるのが酷く惨めに感じて、さり気なく陛下の手を離し、ちょっと距離のあるピンクのバラに駆け寄った。そして香りを嗅ぐ風を装う。ちなみに、あたしのパンプスのヒールはかなり短くしてもらってる。ハイヒールなんぞ履けるもんですか★ あんなの誰かに寄り掛かってないと歩けないし、もしも万が一の場合に機敏に動く事が出来ない。
 (…どこの世界でも、バラは良い香りやね…)
 春のバラは勿論ステキだが、秋バラも風情だ。かつてのアパートでは、花を飾る金銭的・精神的余裕もなかった。 ……いや、そうじゃない。 ……ホントは、理解ってる……



「…陛下…何をしてらっしゃるんですか…?」
 「…いや…ただ、何となく…」

……『何となく』で、女を抱きしめるのか、おんどりゃァ……

などと思いながらも。
 心地良い抱擁を解く事も出来ないあたしは、ホントの馬鹿だ。


※ ※ ※


【収穫祭】の前夜祭は、華やかな社交の場だ。
 王宮で開催されるパーティーでは、あたしは賓客だ。
 何しろ異世界から召喚された、特別な“神子かみこ”なのだから。

だからと言って、上座でふんぞり返っていれば良いと云う訳では決してない。
 日本の皇室外交並みの高等技術が要求されるのだ。

 初めて出席した年は、滅茶苦茶緊張した。
 『女優だ! 女優になりきるのだ!!』
と、自分に自己暗示を掛けて、北〇マヤ並みに頑張った。
 芸術大賞や最優秀演技賞も余裕でれると思う(笑)。



 「レヴィの神子」ではなく、「紅天女」とお呼び!!



……などと脳内でおちゃらけてみたところで、目の前の男性は消えてはくれない。
 豚のように肥え太ったこの男こそ、ペッレグリーノの国王である。この男性ひとを見てると、某国の独裁国家元首を思い出してならない。『あんたが食べる分を国民にまわせ!!』と怒鳴りつけてやりたい気持ちをいつも堪える羽目に陥るのだ。きっと腹の底では、侵略を阻止した形になったあたしを恨んでいるに違いない。満面の笑顔の眼鏡の奥の冷んやりとした細いを見れば、嫌でも理解る。煽てて落として、さり気なくディスってくれるからね。こんな時は、腕を組んでくれてる皇帝陛下が心底頼もしい。まあ、そう云う陛下も、が笑ってないけどネ(苦笑)。
このラスボスのような男性かたに比べれば、頻りに睨んで来る皇帝陛下目当てのご令嬢たちなどカワユイものだ。利息を付けてお返ししたいくらいである(いや、あの女性ひとたちの物じゃないけどさ)。



こうして狐と狸の化かしあいの夜は更けていったのである。



※ ※ ※



だが、その深夜。
 皇帝陛下とフレデリック殿下が、深刻な密談を交わしていた事など。
あたしは、知る由もなかったのである。







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