Where In The World

天野斜己

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Fooled by a Smile

No,2

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あたしは再び、八道家のお墓参りに来ていた。
今度は旦那さまヴィオも一緒に。



※ ※ ※



バルニエール国で行われた【豊漁祭】
海の女神フィオレンティーノに祈りを捧げる大事なお祭りだ。
今年の海の恵みに感謝をして、航海の安全と来年の豊漁を祈願するのだ。

女王陛下が統治するこの国バルニエールは穏やかな良い国だが。
ここでも“奇跡の神子”の評判は凄まじく、大歓迎を受けた。
しかも妊娠していると発表してから最初の外遊、外交である。
他の国の王族達からは寿ぎを受け、特に民衆からは熱狂的に歓迎された。
それ・・は女王の嫉妬を煽ってしまったようで、あたしをちょっぴり不安にさせた。
まあ、仮にも一国の主なので表情かおには出さないし、表面上は冷静だったが。
久し振りに人の悪意を感じて、あたしは“女”の恐ろしさを再認識したのだった。
ちょっとした嫌みはスルーしていたのだが、それで済まなかったのは精霊達だ。
あたしの代わりに意趣返ししてくれたみたいで、それからは女王に避けられた。
徹底的に。
怖くて、精霊達の仕返し方法は聞いてない。
うん、知らないままでいたい。

そんな訳で、無事に【豊漁祭】が済んだ後。
帰国後、唐突にヴィオに言われたのだ。
「七都姫、オボンだ。そなたの祖父君と祖母君にご挨拶させて欲しい。」
と。
言われた瞬間、頭の中で『オボン』が『お盆』に変換されるまで、少しの時間を要した事はご勘弁願いたい。それ程、ヴィオの口から出る言葉としては、違和感があったのだ。しばらくは理解できなかった。
けれども、理解した瞬間。
あたしは猛烈な嬉しさに襲われた。
だって、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに愛する男性ヴィオを紹介してあげられるのだ。
ヴィオが、それを望んでくれた事も、物凄く嬉しい。
思わずヴィオに抱きついて泣いてしまったのは恥ずかしい事でも何でもない。
そうしてあたしが“召喚”された年のお盆の中日にお墓参りをしてくれたのだ。
そうして冒頭の場面シーンへと戻るのである。



※ ※ ※



そうして八道家の墓所にて。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに祈りを捧げてくれたのだが、その時の二人に向けての実に丁重で丁寧な感謝の言葉をあたしは一生忘れられないだろう。その言葉にはお祖父ちゃんとお祖母ちゃんへの熱い親愛と深い感謝の気持ちと、あたしへの愛情に満ちていたから。そうしてヴィオは言ってくれた。子供が生まれたら、曾孫の顔を二人に見せに来ようと。あたしの涙腺が壊れてしまったのは言うまでもない。
それから一旦、あたしのアパートに帰宅して汗を流したのだが。
クーラーをきかせた部屋を、ヴィオは実に興味深く見回していた。
かれに言わせると、前回はあまりに意外であまりに嬉しくて、そんな心の余裕がなかったそうだ。あたしも正直言うと、狭い六畳間にいらっしゃる皇帝陛下ヴィオは物凄く違和感があったのだが、かれの誕生日をあたしの手料理で持て成しする事が出来て嬉しくてあまり気にならなかったのだ。でもやはり改めて見ると、いつも豪奢な王宮住まいの陛下ヴィオがこんな狭い部屋にいるのは酷く場違いだ。作り置きの麦茶(激安スーパーの特売品)をメッチャ喜んでいるのは超可愛いが(笑)。それから素麵を茹でて昼食にしたのだが、これにもとても喜んでくれた。海苔を散らして茗荷を薬味にした、ありふれたものなのだが、異世界こちらの、しかも“あたしの手料理”が物凄く嬉しいらしい(照)。思わず簡単浅漬けを追加してしまったのは、ささやかな女心であろうか(苦笑)。
ちなみに外出時のヴィオは“幻視”の魔法で、一般的な日本人モンゴロイドの容貌になっている。
元の人外の美貌のままだったら、お寺でも大注目を浴びていただろうから。

食後のコーヒー(勿論、インスタント)を飲んだ後、ヴィオは私のアルバムと過去のイラストを見たがったけど。生憎、既にむこう・・・に“転移”させた後だったので、乞われるままに、“取り寄せアポート”した。ヴィオが真っ先に見たのは、昔のアルバムだ。そこにはまだ若いお祖父ちゃんとお祖母ちゃんと共に小さなあたしの姿もあって、ヴィオは飽きる事なくアルバムをめくり一心に写真を見つめていた。二人は『なるべくあたしに思い出を。』と思ったらしく、何かの行事があると必ず写真を撮ってくれたから。優しい微笑みを浮かべながら写真それらを見ているヴィオの表情はあたしの心を温かくしてくれたが、同時に小っ恥ずかしい思いを搔き立てられてしまった。アルバムの中の写真あたしに嫉妬してしまいそうだ(照)。
異世界むこうには電力がないからデジカメは“転移”させなかったが、代わりに携帯ガラケーを持って行った。ハンドルの手動式の充電器を使えるから。“念動力サイコキネシス”が使えるから超楽チンである♪ 子供が生まれたら写真を撮りまくって、画像を保存しようと思う。『アルバム』という形にする事は出来ないが、残す・・事は出来るのだ。今までの事を考えれば雲泥の差である。子供の写真を待ち受けにして、ニヤニヤしている自分が目に浮かぶようだ(笑)。
時間をかけてゆっくりとアルバムを見終わったヴィオは、次にあたしの今までのイラストを見た。かれはアルバムを見た時と同等の興奮を持って、イラストそれらを見てくれた。そして称賛の声を惜しまなかった。紙の質と絵の具の発色が異世界むこうとは全く違うのだ。ある意味、当然かも知れない。調子ブッこいて商業誌になった文庫本を見せると、一層驚嘆してくれた。オタクはバカにされる事が多いが、旦那さまにこんなに誉めて頂ければ本望以上の喜びだ(大照)。
そうして文庫本はアルバムとイラストのファイルと共にむこう・・・に“転移”させる事を約束させられました(激照)。

夕飯は近所のスーパーに二人でチャーミーグリーンしてしまいました(爆照)。
カートを使う程買わないので籠を持つと、すかさずヴィオが持ってくれて。
『良い旦那さまだなァ』なんて思ってしまうのは、惚気ですね。ハイ(赤面)。
珍しそうにスーパーの中を見回しているヴィオを連れて手早く買い物を済ませて。
帰るとエプロンを付けて、早速調理を始めた。その間、ヴィオにはテレビを見て待っててもらってた。……と言いたいところなのだが。ヴィオはあたしの調理の様子が物珍しいようで、狭いキッチンを母鳥の後を追うヒナのように付いて回るのにはホントに参った。まあ、調理と言っても、豚肉を茹でて野菜を切って、お味噌汁を作っただけなんだけどね(笑)。今夜のメニューのメインはこの季節にぴったりの冷しゃぶにしたのだ。簡単で栄養も摂れる、便利なヘルシーメニューだ。副菜は冷やっこと谷中生姜とお漬物、そしてシンプルにワカメと油揚げのお味噌汁だ。旦那さまヴィオの食器は女物の可愛らしい物になってしまったが、そこは勘弁願いたい。男の人なんてこの部屋に入れた事などないのだから。
そんな事は気にせずに、ヴィオは実に美味しそうに食べてくれた。
谷中生姜は冒険だと思ったのだが、直ぐにお豆腐で口直し出来る。
意外にもヴィオのお口に合ったようで、珍味を食するように楽しそうに食べてた。スプーンとフォークで(笑)。お箸を使うあたしはかなり器用に見えたみたいで、再び称賛されたのは恥ずい余談だ。でも、本当に久し振りのお味噌汁は五臓六腑に染み渡るし、スーパーで購入したとは言え胡瓜と茄子と大根のぬか漬けはこれだけでもご飯を三杯はいけそうだ。ああ! 白米を食べられる事は、こんなにも贅沢な事だったのだ!! 本当の本音を言えば、納豆ご飯や卵かけご飯も食べたかったのだが、ヴィオが一緒なので涙を飲んで諦めた。いつか一人っきりの時に絶対に食っちゃる!!!


そんな野望を秘かにいだいたあたしは、この後驚愕の出来事に遭遇する事になるのであった。
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