Where In The World

天野斜己

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【番外編】

Happy Happy Birthday!

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あたしは今ごく一般的な茶色の髪の毛の普通の女の子に扮してる。

いや、“扮している”と言うのは、語弊がある。
ヴィオに“幻視”の魔法を掛けてもらったのだ。
 茶色の髪に暗褐色の紺色の瞳の一般的な“女性”の姿に。

そうして、王都の街を闊歩しているのだ。
陛下ヴィオのバースデープレゼントを探しに。



※ ※ ※



約一ヶ月間、新婚旅行の旅に出してもらえて、あたしは“新婚気分”を満喫させてもらった。先ずはヴィオのご両親のところへお見舞いに行って、お義父さまのご無事な姿も拝見させて頂き、お義母さまとも久し振りにお会い出来て色々とお話しさせて頂いた。その際、『露天風呂H』が出来なかったヴィオはかなり残念無念だったみたいで、後日改めて違う宿に泊まり、しっかり『露天風呂H』のリベンジをさせられてしまったのだった(照)。それから違う離宮に泊まったのは良いけど、ベッドルームから出してもらえなかった(大照)。
 『今まで不義理をしてしまった、せめてもの詫びだ。』
と。

あたしは声を大にして言いたい。
 『もう、充分ですからっ!!』
と。

 確かに長い間愛されずにいて、陛下とは形式上の夫婦だと思っていた。
“レヴィの神子”との仕方なくの形式的な夫婦だと。
 陛下にとっては不本意な結婚だと。
それが覆されたのは、【創都祭】の儀式の後だった。

あれこそ正しく“天国と地獄”だった。

敵国ペッレグリーノに誘拐されて、脅されてペッレグリーノの神子となる決断を迫られて。
しかも信頼していた人に裏切られての、地獄にいるかのような日々だった。
おまけに意識不明の重体だった陛下が突然現れたと思ったら、あたしを庇って一度は確かに死んでしまわれたのだ。あの時の絶望感は筆舌に尽くし難い。
それが一転。
女神様ベルナルディーノの奇跡によって陛下が生き返ったと思ったら、突然の豹変。
そうして、まさかの告白。
何と陛下ヴィオがあたしに一目惚れしていて、しかも初恋だと言うのだ!!(激照)
敵国ペッレグリーノに骨を埋める覚悟をしていた筈なのに、そんなあたしの悲壮な覚悟をも吹き飛ばすかのような神々様方の複雑な裏側の事情と、あたしの真実の両親の話。ダリオとダミアーノの話やペッレグリーノの話なども聞いたのだが、異世界・・・のあたしの本当の肉親の話の前では、余談とは言わないが、大した話には感じなかった。『裏切られた』と云う思いは、肉親に『捨てられた・・・・・』と云う心理的外傷トラウマに敵わなかったのだ(苦笑)。

そうして陛下ヴィオはご自身の愛の告白を証明するかのように、あたしをあたしの世界の“ジューンブライド”にして下さったのだ。異世界風の結婚式までして下さって。その思いやりで充分なのに。あたしを抱き潰すのは止めて欲しい! 切実に!! 身体が持ちませんからっ!!
と本人に対して面と向かって言えないのは……実はあたしも本当は嬉しいから。
なんて事は、認めないゾ! 絶対に!!(激マジ照)

閑話休題。

あたしの中で秘かに眠っていた“乙女心”を見透かされているようで小っ恥ずかしいのだが、純白のウェディングドレスを着せてくれて“ジューンブライド”にしてくれて。おまけに新婚旅行ハネムーンにまで連れて行ってくれて。少しではあるけれど、あたしの希望も聞いて実現してくれた。“幻視”の魔法を使って全くの別人の外見に見せかけてくれて、“普通”のショッピングや食べ歩きなどもやらせてもらえたのだ。
 皇家特有の銀髪を隠す事は勿論だが、実は神子あたしの容姿も皇国中に知れ渡ってしまっている。この異世界では、と言うかこの皇国では写真も真っ青な細密画が発達しているのだ。特にあたしは、“ベルナルディーノの祝福を授けられた、特別な神子様”として超有名になってしまって慕われてるのだとか。実際に王都以外の田舎でも細密画屋さんは大繫盛で、あたしの細密画はジャ〇ーズのブロマイド並みに売れているのをこの眼で目撃してしまったし(照)。
だから、ヴィオの“幻視”の魔法は大活躍だったのだ。
“普通の一般人”になれて、二人での“デート”を実現してくれたのだから!!
デルヴァンクールの【収穫祭】でも似たような事はしていたけれど。
本当に愛する人ヴィオとの“デート”はやはり特別なものだ(照)。
 相思相愛の愛する旦那さまヴィオとの“普通のデート”を、あたしは思いっ切り堪能したのだった。その際、あたしが眼に止め手に取った物をあれもこれもと買おうとする旦那さまを必死で止めたのは、ご愛嬌だ(苦笑)。

そうしてあたしはお休みの期限のギリギリまでハネムーンを続けたいとおっしゃるヴィオを説得して、少し早く王宮に戻って来てしまったのだ。何故ならば七月十九日がヴィオの誕生日だから。普段ならば陛下の誕生日の祝賀舞踏会が開催されるのだが、今回ばかりは我儘を言って二人っきりでお祝いさせてもらう事にしたのだ。元の世界だったらサプライズで色々とやれる事があったのだろうが、こちらの世界でも出来る事と言えば精々バースデーケーキを焼いて特別な物をプレゼントするくらいだ。
そんな訳で現在いまあたしは、ヴィオへのバースデープレゼントを求めて王都の街を彷徨っているのだ(苦笑)。



※ ※ ※



「う~ん、迷うなァ~」
 目ぼしいお店は回ってみたのだが、どうも『コレ!』と言うピンとくる物がない。
 予算は潤沢なのでお高いアクセサリーも買えるのだが、どれもこれもイマイチだ。
 高価で豪華なだけの物ならば、陛下ヴィオは腐るほど持ってらっしゃる。
 途中でカフェなどで休憩を入れながら何軒も何軒も巡ってみたがダメだった。
お祖父ちゃんの形見の腕時計で正確な時間を確認したらタイムアウトだった。
 「え~い、もう仕方がない! もう自棄だ!!」
あたしはある店に飛び込んで、一目惚れしたけど我慢していた物を買ってしまったのだった。

そうしてお城に戻ったら、早速厨房に直行してエプロンを装着してケーキ作りだ。
 実はこれにもひと悶着あったのだ。
 『神聖なる神子様を、厨房になどお入れする事など出来ません!!』
と。
結局最後はヴィオを拝み倒して、陛下からの『勅令』と云う形にしてもらった。
 孤児院訪問の際のクッキー作りなどは気軽にやらせてもらえたんだけどね。
どうやら“皇帝から疎んじられている皇妃”から“皇帝の寵愛を受ける皇妃”と云う立場に格上げされたらしい。“ベルナルディーノから祝福を授けられた特別な神子”と立場も付加されてるみたいだけどね(苦笑)。
クッキー簡単レシピは頭の中に入っていたのだけど、ケーキはそうはいかない。
だからお友達・・・に頼りましたよ!
カフェを経営しているから美味しいケーキのレシピを伝授してもらったのだ。
 勿論無償タダじゃない。
そのが望んだのは、創都祭の打ち上げだった。
 王宮でやる案も出たのだが、あたしはヴィオを再び拝み倒した。
そののお店でやって、売上に貢献したかったから。
“幻視”の魔法をかけてもらって、街中で打ち上げをやらせて欲しいと。
そうしたらあたしに甘い旦那さまは快く許可して下さった。
その際、ついでに白状して下さった。
 『ケーキ作りも楽しみにしている。』
と。
 愛する男性かたから望まれれば張り切らずにはいられない。
あたしはレシピメモを片手に頑張った。
 日本の自動泡立て器を懐かしく思い出しながら頑張った!
 全ては愛しい旦那さまヴィオの為に!!
バースデーケーキには苺が定番だが、異世界ここに温室なんかない。
サクランボもどきで我慢してもらう事にした。
こうして二人っきりのバースデーパーティーの準備は整ったのだった。



※ ※ ※



あたしの作ったサクランボのホールケーキを前に、ヴィオはどこか感慨深げだ。
カットする前に拙いながらも、日本ではお馴染みのお誕生日をお祝いする歌を唄った。ホントはロウソクを立てたかったのだが、小さなロウソクがないのでここは勘弁してもらう。まあ、ヴィオの歳の数だけのロウソクを実際に立てたら大変だっただろうけどね(苦笑)。唄い終わるとヴィオが拍手して下さった。ヴィオは本当に日本通だ。いや、“地球通”なのか。

二人っきりの陛下ヴィオの私室。
テーブルにはケーキが鎮座していて、料理長達の心尽くしのご馳走が並んでる。
 魔法はとっくに解いてもらってるし、少し綺麗目のワンピースにも着替えた。
 勿論、水色のワンピースだし、ヴィオも黒の準礼服だ(照)。
 国産ワインで乾杯して、ささやかな晩餐会バースデーパーティーが始まったのだった。

ヴィオはケーキをとても喜んでくれた。
 少しばかり不格好なのはご愛嬌だ(苦笑)。
 美味しければ、それで良いのだ!
 ヴィオも「美味い」を連呼してくれたし♡
そうしてほろ酔いになって、贈り物をプレゼントする瞬間!
メッチャ緊張!!


 「…ヴィオ…これ…バースデープレゼントなんですけど…」
 綺麗にラッピングされている箱をヴィオに見せると、彼は破顔した。
 照れくさそうに。
うっ! 眩しい!!
そんなに大したモンじゃないんですっ!!
やましさについつい言い訳がましい言葉を並べ立ててしまうが……
 ……え~い! 女は愛嬌より度胸だ!!


 「…お誕生日、おめでとうございます…
 …ヴィオが産まれてきてくれた事に感謝して…」


 「…ありがとう…開けても良いか…?」
コクンと頷くと、ヴィオは丁寧に丁寧に包みを開けてくれたのだが。
それは黒い渋い焼き物の大きなカップだった。
 日本で言えば、マグカップだ。
 何の変哲もないそれ・・をヴィオは矯めつ眇めつ眺めてくれる。
 嬉しそうに愛おしそうに。
あたしが選んだ・・・・・・・と云う事に意義を見出してくれてるヴィオに種明かしをする事にした。テーブルの上に置いておいた簡素な包みを開けてみせて中の物を取り出した。それを見ると、ヴィオは大きく眼を見開いた。


 「…ご存知みたいですね…
 …向こうの世界ではペアのマグカップなんかを恋人同士や夫婦が使うんです…
 …これでお茶の時間に、ヴィオと紅茶やコーヒーなんかを飲みたいと思って…」


……そうなのだ。
あたしが取り出したのは、ヴィオと色違いの全く同じカップだったのだ。
 勿論、アクアマリン色だ(照)。
この皇国くにではペアのアクセサリーはあるが、ペアの食器を使う・・・・・・・・と云う概念がない。
だからペアのマグカップもどきや夫婦茶碗と云う物がないのだ。
 最初はお酒好きの陛下ヴィオの為にワイングラスを探していたのだが、あるお店でこのシックな黒のカップとアクアマリンを連想させる色のカップに一目惚れしてしまったのだ。猫ちゃん柄のカップも捨て難かったのだが、同じ物が二つ無かったので仕方なく諦めた。



ヴィオの顔を見ていられなくて俯いてしまったが。
 気付けば正面にいた筈のヴィオに抱きしめられてしまってた。

……ヴィオ……もしかして、震えてる…?


 「…ナツキ…七都姫…ありがとう…
 …こんなに真心のこもった誕生日は初めてだ…
 …ペアのカップも有難く使わせてもらう…本当にありがとう…」


 座ったままのあたしの肩に顔を伏せてるヴィオの大きな背中を抱き返しながら。
あたしは我儘を通した甲斐があったと安堵していたのだった。
その時、陛下ヴィオが泣いていると思ったのは、きっとあたしの気のせいだろう。



※ ※ ※



その後。
お茶の時間になるとあたしとヴィオは必ずこのカップを使うようになったのだが。
ヴィオが皇室御用達のお店の窯元にペアのマグカップやティーカップ、夫婦茶碗などを造らせて納入させたのには参った。そうしてこのお店が発信地となって、ペアの食器を使う事が神聖ブリュール皇国の恋人達や夫婦の間で大流行していったのだった。

ヴィオのお誕生日の夜。
 大感激した彼があたしを執務が始まる朝まで離さなかった事なんて、ほんの余談でしかないっ!!(激照)






 FIN
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