Where In The World

天野斜己

文字の大きさ
上 下
40 / 64
本編

No,38 【シルヴィオ陛下SIDE ⅩⅥ】

しおりを挟む
大神殿の絨毯の上を神官に手を引かれて静々と歩いてくるナツキは、輝くばかりに美しい。
 少し俯いているが、顔が上気しているのが理解る。
この状況を喜んでくれているのだろう。

 一世一代の晴れ姿。


 私とナツキの、結婚式なのだから。



※ ※ ※



荘厳なパイプオルガンが鳴り響く中。
とはいかないところは、勘弁してもらいたいと思う。
まだこの世界では、楽器がナツキ様の世界あそこまで発達していないのだから。

この世界に聖書などない。
 教典のような書物は存在するが、ナツキの世界の宗教のような教典ものではない。
だから大神官には、説教のような事は依頼しなかった。
ただ、御神体の貴石への誓いの言葉を交わすのを、見守ってもらったに過ぎない。

指環の交換は、大事な儀式だ。
ナツキの侍女であるアデライデとクラリッサが作ったリングピローに乗せられた結婚指環が眩い輝きを放っている。……理解っている。ナツキが精神こころの奥底では婚約指環や結婚指環に憧れていた事を。
その証拠に、ナツキの瞳が潤んでいるのだから。

 誓いの接吻キスは照れ屋のナツキの為に、額にした。
 潤んだ眼差しで見上げてくるナツキは、凶悪的に可愛いらしい。



 大神殿は一般人は立ち入り禁止だが、今日ばかりは解禁にした。
ナツキの親しい人々によるフラワーシャワーを実現させてやりたかったからだ。
 頭の固い頑固な神官達は、『神子の御為』と言う大神官の鶴の一声で黙らせた。
 大神殿の建物を出た途端に降り注ぐ花々。口々に祝いを叫びながら花を撒くのは、孤児院の子供達や教師、【サシェ】を作るのに協力した侍女達と【ポプリ】を作るのに協力した城下の商家の娘達だ。皆、ナツキを信じて、心配していた者達だ。
 泣いている者もいるが、無理もない。
 気付けば、ナツキも泣いてしまっている。
 嬉し涙である事が、私を浮かれさせる。
 有頂天になった衝動のままに、唇に接吻キスしない私を褒めて欲しいくらいだ。そんなフラワーシャワーの中を進んで、広場を望む中庭のようなバルコニーに出れば。




 「…陛下…これは…」
 「…『陛下』ではないだろう…?」
 「…あ…すみません…ヴィ…ヴィオ…」
 「…私達の婚姻を、心から祝福してくれている民衆だ…」
 「…………………」
 「…本当は、パレードでもやりたかったのだがな…」
 「絶対に嫌です!!」
 「そなたがそう言うと思って、この広場での披露目に留めたのだ。」
 「……ありがとうございま…す…?」
 「…ほら、手を振ってやれ…皆、女神ベルナルディーノの祝福を授けられ、この皇国くにに恩寵をもたらしてくれた神子と私を祝う為に集まってくれたのだから…」

 地鳴りのように鳴り響く歓喜と祝福の群衆の歓声は、その後、いつまでも木霊していたのだった。



※ ※ ※



【創都祭】の最終日の晩餐会。
だが、その代わりに、私達の結婚記念舞踏会を開催した。

 出席者は結婚式に参列してくれた各国の王族達と、この皇国くにの高位貴族達だ。
 本来ならば参列している筈の私の両親は、父上の具合があまりよろしくないようで残念ながら欠席だ。新婚旅行先は決まったな。本音を言えば二人っきりになりたいが、ナツキは私の両親に会いたいだろうから。


私の瞳の色のドレスを纏った花嫁ナツキは、輝くばかりに美しい。漆黒の宮廷服に着替えた私とナツキが一緒に踊れば、感嘆のため息が漏れて広がる。
無理もない。
花嫁ナツキは、愛されている喜びに満ちていて。
私も愛しい眼差しを隠さないのだから。


 私達が踊り終われば、人々は踊り始めるが。
 祝福と挨拶に訪れる貴族達は後を絶たない。
 皆が笑顔だ。
しかし、どこにも場の空気を読まない者はいるもので。
アッパ・コルナーリャ公爵とその令嬢は、その筆頭だ。
 特に公爵令嬢マルチェリーノは私の愛妾を気取っていたから、腹の虫がおさまらないのだろう。
 親子で私の機嫌を取ろうと必死だ。
 皇妃ナツキを無視して。
その態度が私を怒らせているなどと気付きもしないで。
ここまでくればいっそ哀れだが。
 丁度良い。
 引導を渡してくれる。

 「マルチェリーノも、今までご苦労だったな。」
 思い切りイイ笑顔で言ってやる。
 不思議そうな表情かおをする側室マルチェリーノに満面の笑みを向ける。
 「女神ベルナルディーノの祝福を授けられし皇妃と正式な婚姻の誓いを結んだからには、私は誠実な夫とならねばならん。今後、後宮は廃止する事を決定した。」
 顔色を変える大貴族達と、その令嬢達に言い放つ。
 「それに三年半もの間、子供一人授からなかったのだ。
  離縁を申し渡されても文句は言えなかろう?」
この言葉これに反論出来る者は、誰一人存在しなかった。
 子種をどこの誰にもやってはいないのだから、子供など出来る筈もないのだが。
それを知る者は、誰もいない。
 『様を見よ。』
 私が言えた義理ではないのは百も承知だが。
ナツキが味わった悲しみと屈辱の万分の一でも味わうが良い。




―――ナツキ。


 私が味わわせてしまった苦しみは、これから誠意を持って愛し抜くと誓うから。
どうか卑劣で卑怯な私を許して欲しい。




 私を助けてくれたのは、またしてもフレドだった。
フレドが拍手をもって私達を祝福すれば。
いち早く場の空気を読む事に長けた者達が追随するように拍手をしていって。
やがてその場は拍手の渦になって。
 「皇帝陛下、万歳!」
 「皇妃様、万歳!!」
 「神聖ブリュール皇国に、栄あれ!!」
と、私達と皇国くにを讃える声になって行ったのだった。






そんな中では、ペッレグリーノ国王の交代劇など、取るに足らない余談でしかなかった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

坊っちゃまの計画的犯行

あさとよる
恋愛
お仕置きセックスで処女喪失からの溺愛?そして独占欲丸出しで奪い合いの逆ハーレム♡見目麗しい榑林家の一卵性双子から寵愛を受けるこのメイド…何者? ※性的な描写が含まれます。

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

処理中です...