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本編
No,38 【シルヴィオ陛下SIDE ⅩⅥ】
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大神殿の絨毯の上を神官に手を引かれて静々と歩いてくるナツキは、輝くばかりに美しい。
少し俯いているが、顔が上気しているのが理解る。
この状況を喜んでくれているのだろう。
一世一代の晴れ姿。
私とナツキの、結婚式なのだから。
※ ※ ※
荘厳なパイプオルガンが鳴り響く中。
とはいかないところは、勘弁してもらいたいと思う。
まだこの世界では、楽器がナツキ様の世界まで発達していないのだから。
この世界に聖書などない。
教典のような書物は存在するが、ナツキの世界の宗教のような教典ではない。
だから大神官には、説教のような事は依頼しなかった。
ただ、御神体の貴石への誓いの言葉を交わすのを、見守ってもらったに過ぎない。
指環の交換は、大事な儀式だ。
ナツキの侍女であるアデライデとクラリッサが作ったリングピローに乗せられた結婚指環が眩い輝きを放っている。……理解っている。ナツキが精神の奥底では婚約指環や結婚指環に憧れていた事を。
その証拠に、ナツキの瞳が潤んでいるのだから。
誓いの接吻は照れ屋のナツキの為に、額にした。
潤んだ眼差しで見上げてくるナツキは、凶悪的に可愛いらしい。
大神殿は一般人は立ち入り禁止だが、今日ばかりは解禁にした。
ナツキの親しい人々によるフラワーシャワーを実現させてやりたかったからだ。
頭の固い頑固な神官達は、『神子の御為』と言う大神官の鶴の一声で黙らせた。
大神殿の建物を出た途端に降り注ぐ花々。口々に祝いを叫びながら花を撒くのは、孤児院の子供達や教師、【サシェ】を作るのに協力した侍女達と【ポプリ】を作るのに協力した城下の商家の娘達だ。皆、ナツキを信じて、心配していた者達だ。
泣いている者もいるが、無理もない。
気付けば、ナツキも泣いてしまっている。
嬉し涙である事が、私を浮かれさせる。
有頂天になった衝動のままに、唇に接吻しない私を褒めて欲しいくらいだ。そんなフラワーシャワーの中を進んで、広場を望む中庭のようなバルコニーに出れば。
「…陛下…これは…」
「…『陛下』ではないだろう…?」
「…あ…すみません…ヴィ…ヴィオ…」
「…私達の婚姻を、心から祝福してくれている民衆だ…」
「…………………」
「…本当は、パレードでもやりたかったのだがな…」
「絶対に嫌です!!」
「そなたがそう言うと思って、この広場での披露目に留めたのだ。」
「……ありがとうございま…す…?」
「…ほら、手を振ってやれ…皆、女神の祝福を授けられ、この皇国に恩寵をもたらしてくれた神子と私を祝う為に集まってくれたのだから…」
地鳴りのように鳴り響く歓喜と祝福の群衆の歓声は、その後、いつまでも木霊していたのだった。
※ ※ ※
【創都祭】の最終日の晩餐会。
だが、その代わりに、私達の結婚記念舞踏会を開催した。
出席者は結婚式に参列してくれた各国の王族達と、この皇国の高位貴族達だ。
本来ならば参列している筈の私の両親は、父上の具合があまりよろしくないようで残念ながら欠席だ。新婚旅行先は決まったな。本音を言えば二人っきりになりたいが、ナツキは私の両親に会いたいだろうから。
私の瞳の色のドレスを纏った花嫁は、輝くばかりに美しい。漆黒の宮廷服に着替えた私とナツキが一緒に踊れば、感嘆のため息が漏れて広がる。
無理もない。
花嫁は、愛されている喜びに満ちていて。
私も愛しい眼差しを隠さないのだから。
私達が踊り終われば、人々は踊り始めるが。
祝福と挨拶に訪れる貴族達は後を絶たない。
皆が笑顔だ。
しかし、どこにも場の空気を読まない者はいるもので。
アッパ・コルナーリャ公爵とその令嬢は、その筆頭だ。
特に公爵令嬢は私の愛妾を気取っていたから、腹の虫がおさまらないのだろう。
親子で私の機嫌を取ろうと必死だ。
皇妃を無視して。
その態度が私を怒らせているなどと気付きもしないで。
ここまでくればいっそ哀れだが。
丁度良い。
引導を渡してくれる。
「マルチェリーノも、今までご苦労だったな。」
思い切りイイ笑顔で言ってやる。
不思議そうな表情をする側室に満面の笑みを向ける。
「女神の祝福を授けられし皇妃と正式な婚姻の誓いを結んだからには、私は誠実な夫とならねばならん。今後、後宮は廃止する事を決定した。」
顔色を変える大貴族達と、その令嬢達に言い放つ。
「それに三年半もの間、子供一人授からなかったのだ。
離縁を申し渡されても文句は言えなかろう?」
この言葉に反論出来る者は、誰一人存在しなかった。
子種をどこの誰にもやってはいないのだから、子供など出来る筈もないのだが。
それを知る者は、誰もいない。
『様を見よ。』
私が言えた義理ではないのは百も承知だが。
ナツキが味わった悲しみと屈辱の万分の一でも味わうが良い。
―――ナツキ。
私が味わわせてしまった苦しみは、これから誠意を持って愛し抜くと誓うから。
どうか卑劣で卑怯な私を許して欲しい。
私を助けてくれたのは、またしてもフレドだった。
フレドが拍手をもって私達を祝福すれば。
いち早く場の空気を読む事に長けた者達が追随するように拍手をしていって。
やがてその場は拍手の渦になって。
「皇帝陛下、万歳!」
「皇妃様、万歳!!」
「神聖ブリュール皇国に、栄あれ!!」
と、私達と皇国を讃える声になって行ったのだった。
そんな中では、ペッレグリーノ国王の交代劇など、取るに足らない余談でしかなかった。
少し俯いているが、顔が上気しているのが理解る。
この状況を喜んでくれているのだろう。
一世一代の晴れ姿。
私とナツキの、結婚式なのだから。
※ ※ ※
荘厳なパイプオルガンが鳴り響く中。
とはいかないところは、勘弁してもらいたいと思う。
まだこの世界では、楽器がナツキ様の世界まで発達していないのだから。
この世界に聖書などない。
教典のような書物は存在するが、ナツキの世界の宗教のような教典ではない。
だから大神官には、説教のような事は依頼しなかった。
ただ、御神体の貴石への誓いの言葉を交わすのを、見守ってもらったに過ぎない。
指環の交換は、大事な儀式だ。
ナツキの侍女であるアデライデとクラリッサが作ったリングピローに乗せられた結婚指環が眩い輝きを放っている。……理解っている。ナツキが精神の奥底では婚約指環や結婚指環に憧れていた事を。
その証拠に、ナツキの瞳が潤んでいるのだから。
誓いの接吻は照れ屋のナツキの為に、額にした。
潤んだ眼差しで見上げてくるナツキは、凶悪的に可愛いらしい。
大神殿は一般人は立ち入り禁止だが、今日ばかりは解禁にした。
ナツキの親しい人々によるフラワーシャワーを実現させてやりたかったからだ。
頭の固い頑固な神官達は、『神子の御為』と言う大神官の鶴の一声で黙らせた。
大神殿の建物を出た途端に降り注ぐ花々。口々に祝いを叫びながら花を撒くのは、孤児院の子供達や教師、【サシェ】を作るのに協力した侍女達と【ポプリ】を作るのに協力した城下の商家の娘達だ。皆、ナツキを信じて、心配していた者達だ。
泣いている者もいるが、無理もない。
気付けば、ナツキも泣いてしまっている。
嬉し涙である事が、私を浮かれさせる。
有頂天になった衝動のままに、唇に接吻しない私を褒めて欲しいくらいだ。そんなフラワーシャワーの中を進んで、広場を望む中庭のようなバルコニーに出れば。
「…陛下…これは…」
「…『陛下』ではないだろう…?」
「…あ…すみません…ヴィ…ヴィオ…」
「…私達の婚姻を、心から祝福してくれている民衆だ…」
「…………………」
「…本当は、パレードでもやりたかったのだがな…」
「絶対に嫌です!!」
「そなたがそう言うと思って、この広場での披露目に留めたのだ。」
「……ありがとうございま…す…?」
「…ほら、手を振ってやれ…皆、女神の祝福を授けられ、この皇国に恩寵をもたらしてくれた神子と私を祝う為に集まってくれたのだから…」
地鳴りのように鳴り響く歓喜と祝福の群衆の歓声は、その後、いつまでも木霊していたのだった。
※ ※ ※
【創都祭】の最終日の晩餐会。
だが、その代わりに、私達の結婚記念舞踏会を開催した。
出席者は結婚式に参列してくれた各国の王族達と、この皇国の高位貴族達だ。
本来ならば参列している筈の私の両親は、父上の具合があまりよろしくないようで残念ながら欠席だ。新婚旅行先は決まったな。本音を言えば二人っきりになりたいが、ナツキは私の両親に会いたいだろうから。
私の瞳の色のドレスを纏った花嫁は、輝くばかりに美しい。漆黒の宮廷服に着替えた私とナツキが一緒に踊れば、感嘆のため息が漏れて広がる。
無理もない。
花嫁は、愛されている喜びに満ちていて。
私も愛しい眼差しを隠さないのだから。
私達が踊り終われば、人々は踊り始めるが。
祝福と挨拶に訪れる貴族達は後を絶たない。
皆が笑顔だ。
しかし、どこにも場の空気を読まない者はいるもので。
アッパ・コルナーリャ公爵とその令嬢は、その筆頭だ。
特に公爵令嬢は私の愛妾を気取っていたから、腹の虫がおさまらないのだろう。
親子で私の機嫌を取ろうと必死だ。
皇妃を無視して。
その態度が私を怒らせているなどと気付きもしないで。
ここまでくればいっそ哀れだが。
丁度良い。
引導を渡してくれる。
「マルチェリーノも、今までご苦労だったな。」
思い切りイイ笑顔で言ってやる。
不思議そうな表情をする側室に満面の笑みを向ける。
「女神の祝福を授けられし皇妃と正式な婚姻の誓いを結んだからには、私は誠実な夫とならねばならん。今後、後宮は廃止する事を決定した。」
顔色を変える大貴族達と、その令嬢達に言い放つ。
「それに三年半もの間、子供一人授からなかったのだ。
離縁を申し渡されても文句は言えなかろう?」
この言葉に反論出来る者は、誰一人存在しなかった。
子種をどこの誰にもやってはいないのだから、子供など出来る筈もないのだが。
それを知る者は、誰もいない。
『様を見よ。』
私が言えた義理ではないのは百も承知だが。
ナツキが味わった悲しみと屈辱の万分の一でも味わうが良い。
―――ナツキ。
私が味わわせてしまった苦しみは、これから誠意を持って愛し抜くと誓うから。
どうか卑劣で卑怯な私を許して欲しい。
私を助けてくれたのは、またしてもフレドだった。
フレドが拍手をもって私達を祝福すれば。
いち早く場の空気を読む事に長けた者達が追随するように拍手をしていって。
やがてその場は拍手の渦になって。
「皇帝陛下、万歳!」
「皇妃様、万歳!!」
「神聖ブリュール皇国に、栄あれ!!」
と、私達と皇国を讃える声になって行ったのだった。
そんな中では、ペッレグリーノ国王の交代劇など、取るに足らない余談でしかなかった。
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