36 / 64
本編
No,34 【シルヴィオ陛下SIDE Ⅻ】
しおりを挟む
ハッと気が付くと、相変わらず宇宙空間のような場所に浮かんでいた。
(…今のは、一体…)
―――今のは、七都姫が母親の胎内にいた時の記憶。
…………………
―――七都姫は、異界へ渡ったフォルトゥニーノの子孫の巫女の娘。
…………………
―――七都姫の母親は、美しく何より強い女性だった。
―――渋る夫を説得して、異世界へ送る事を決意した。
―――『異界の河』に赤子を流し、異世界へ…地球と呼ばれる世界に送ったのだ。
―――我が子の幸せのみを念じて。
「…っ! クリュヴェイエ様…っ
…貴女様は、クリュヴェイエ様でいらっしゃいますよね…っ!!」
―――……いかにも。
「だったら教えて下さい…っ、…呪いを解呪する方法を…っ!!」
静かな沈黙が返ったが、構わず叫んだ。
「…ナツキの母君は、ナツキの幸せを未来視で視たのです…っ
…このままでは確実に、私はナツキを不幸にしてしまいます…っ!
…お願い致します…っ、
…何卒…っ、…何卒、呪いを解呪する方法をお教え下さいっ!!」
手に汗を握るような気持ちで叫んだ。
けれども、返ってきた返事は望むものではなかったが。
決して看過出来る返事ではなかった。
―――敵が潜んでおる。
―――七都姫が、危険だ。
「え…っ!?」
※ ※ ※
そうして。
次の瞬間には、見覚えのある場所に転移していた。
(…ここは…大神殿の横の広場ではないか…
…え…まさか、もう【創都祭】を開催っているのか…
…一体あれから、どの位の時間が経っていたのか…)
眼下に広がるのは、確かに馴染み深い広場で。
群衆が見守る中、私が特設祭壇で貴石に魔力を注いでいた。
(…いや…魔力量が違うし、私の意識はここなのだ…あれは、影武者か…)
フレドの姿があるし、何よりナツキの姿があった。
が、しかし。
(…上手く隠しているが…殺気だ…しかも、ナツキを狙っている…)
これがクリュヴェイエ様がおっしゃった事なのかと、ナツキを狙う殺気の気配を探る。魔法で上手く隠しているが、現在の私は意識体だ。普段よりも鋭敏で程なく正体が判明った。刺客は群衆に紛れて、ナツキ襲撃のチャンスを狙っている。ダリオはどうしているのかとイライラしながら探せば、刺客がいる事に気付いてはいるがそやつが潜んでいる場所まで掴み切れてはいなかった。アランとクリストフが少しも気付いていないのが情けない。
その内に影武者の失態に、刺客が叫んだ。
「その皇帝は偽物だ!」「皇帝の影武者だ!!」
と。
(マズイ!
奴は群衆を恐慌状態に陥れ、その隙をつく心算だ…っ!!)
叫んだ事でダリオが気付き、そいつに近付こうとするが。
獣人の身体能力をもってしても、この群衆の波の中では思うように動けない。
ダリオの焦りが手に取るように理解るが、私ももどかしくて仕方がない。
刺客が魔力を手に集中させるのが理解った。
刃のように冷たい、だが強い魔力だ。
(ダメだ…っ、…ダリオは、間に合わない…っ!!)
思わず絶叫して、意識体が動いていた。
「危ないっ!」
気が付けば。
全身でナツキを庇っていた。
柔らかく温かな体温を感じて、この上なく安堵していた。
背中に痛みを感じるが、ナツキを守れたと思えばそれに勝る事はない。
いや却って、勲章よりも価値ある傷だ。
ナツキの無事な姿が、何よりも嬉しかった。
(…上手く意識体と、肉体が融合出来たんだな…)
浮かんだのは、そんな吞気な感想だった。
……致命傷を負ったと云うのに。
―――そうか。
ナツキは無事で、この後、元の世界に戻って幸せになるのか―――
呪いを解呪する事が出来ずに、ナツキ以降に“降臨”する【神子】の魂を救う事は不可能だったが、私の命をかけて愛する女性を守る事は出来た。性交もしていないから呪いは発動しないし、不甲斐ない私の事など忘れて幸せを掴んで欲しい……
本望だ―――
肉体から魂が抜け出す瞬間を悟って、覚悟を決めていると。
―――……早まるな。
クリュヴェイエ様の“お声”が頭の中に響いた。
―――そなた、これを聴いてもそのように思えるか…?
そのお言葉が止んだ途端に流れ込んできたのは、ナツキの思考。
それは、ナツキの私に対する、深い深い愛情だった。
……ナツキ……そなたと云う女性は……あんなに粗略に扱ってしまっていたというのに……
それから、ベルナルディーノ様らしき女神とナツキの会話が聴こえてきて。
『…生きたい…っ、…やっぱり生きて、私がナツキを幸せにしたい…っ!!』
との、欲求が膨れ上がって。
私が待ちに待った、待望のお言葉が聴こえてきたのだった。
―――……妾がかけた呪いを解くためには、犠牲が必要だった……
―――……それは、生命を賭けた愛情だ……己の全てを投げ打つ覚悟だ……
―――……妾の負けだ……盟約通り、永遠に我が呪いを封印しよう……
(…今のは、一体…)
―――今のは、七都姫が母親の胎内にいた時の記憶。
…………………
―――七都姫は、異界へ渡ったフォルトゥニーノの子孫の巫女の娘。
…………………
―――七都姫の母親は、美しく何より強い女性だった。
―――渋る夫を説得して、異世界へ送る事を決意した。
―――『異界の河』に赤子を流し、異世界へ…地球と呼ばれる世界に送ったのだ。
―――我が子の幸せのみを念じて。
「…っ! クリュヴェイエ様…っ
…貴女様は、クリュヴェイエ様でいらっしゃいますよね…っ!!」
―――……いかにも。
「だったら教えて下さい…っ、…呪いを解呪する方法を…っ!!」
静かな沈黙が返ったが、構わず叫んだ。
「…ナツキの母君は、ナツキの幸せを未来視で視たのです…っ
…このままでは確実に、私はナツキを不幸にしてしまいます…っ!
…お願い致します…っ、
…何卒…っ、…何卒、呪いを解呪する方法をお教え下さいっ!!」
手に汗を握るような気持ちで叫んだ。
けれども、返ってきた返事は望むものではなかったが。
決して看過出来る返事ではなかった。
―――敵が潜んでおる。
―――七都姫が、危険だ。
「え…っ!?」
※ ※ ※
そうして。
次の瞬間には、見覚えのある場所に転移していた。
(…ここは…大神殿の横の広場ではないか…
…え…まさか、もう【創都祭】を開催っているのか…
…一体あれから、どの位の時間が経っていたのか…)
眼下に広がるのは、確かに馴染み深い広場で。
群衆が見守る中、私が特設祭壇で貴石に魔力を注いでいた。
(…いや…魔力量が違うし、私の意識はここなのだ…あれは、影武者か…)
フレドの姿があるし、何よりナツキの姿があった。
が、しかし。
(…上手く隠しているが…殺気だ…しかも、ナツキを狙っている…)
これがクリュヴェイエ様がおっしゃった事なのかと、ナツキを狙う殺気の気配を探る。魔法で上手く隠しているが、現在の私は意識体だ。普段よりも鋭敏で程なく正体が判明った。刺客は群衆に紛れて、ナツキ襲撃のチャンスを狙っている。ダリオはどうしているのかとイライラしながら探せば、刺客がいる事に気付いてはいるがそやつが潜んでいる場所まで掴み切れてはいなかった。アランとクリストフが少しも気付いていないのが情けない。
その内に影武者の失態に、刺客が叫んだ。
「その皇帝は偽物だ!」「皇帝の影武者だ!!」
と。
(マズイ!
奴は群衆を恐慌状態に陥れ、その隙をつく心算だ…っ!!)
叫んだ事でダリオが気付き、そいつに近付こうとするが。
獣人の身体能力をもってしても、この群衆の波の中では思うように動けない。
ダリオの焦りが手に取るように理解るが、私ももどかしくて仕方がない。
刺客が魔力を手に集中させるのが理解った。
刃のように冷たい、だが強い魔力だ。
(ダメだ…っ、…ダリオは、間に合わない…っ!!)
思わず絶叫して、意識体が動いていた。
「危ないっ!」
気が付けば。
全身でナツキを庇っていた。
柔らかく温かな体温を感じて、この上なく安堵していた。
背中に痛みを感じるが、ナツキを守れたと思えばそれに勝る事はない。
いや却って、勲章よりも価値ある傷だ。
ナツキの無事な姿が、何よりも嬉しかった。
(…上手く意識体と、肉体が融合出来たんだな…)
浮かんだのは、そんな吞気な感想だった。
……致命傷を負ったと云うのに。
―――そうか。
ナツキは無事で、この後、元の世界に戻って幸せになるのか―――
呪いを解呪する事が出来ずに、ナツキ以降に“降臨”する【神子】の魂を救う事は不可能だったが、私の命をかけて愛する女性を守る事は出来た。性交もしていないから呪いは発動しないし、不甲斐ない私の事など忘れて幸せを掴んで欲しい……
本望だ―――
肉体から魂が抜け出す瞬間を悟って、覚悟を決めていると。
―――……早まるな。
クリュヴェイエ様の“お声”が頭の中に響いた。
―――そなた、これを聴いてもそのように思えるか…?
そのお言葉が止んだ途端に流れ込んできたのは、ナツキの思考。
それは、ナツキの私に対する、深い深い愛情だった。
……ナツキ……そなたと云う女性は……あんなに粗略に扱ってしまっていたというのに……
それから、ベルナルディーノ様らしき女神とナツキの会話が聴こえてきて。
『…生きたい…っ、…やっぱり生きて、私がナツキを幸せにしたい…っ!!』
との、欲求が膨れ上がって。
私が待ちに待った、待望のお言葉が聴こえてきたのだった。
―――……妾がかけた呪いを解くためには、犠牲が必要だった……
―――……それは、生命を賭けた愛情だ……己の全てを投げ打つ覚悟だ……
―――……妾の負けだ……盟約通り、永遠に我が呪いを封印しよう……
0
お気に入りに追加
487
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)
るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。
エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_
発情/甘々?/若干無理矢理/
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
坊っちゃまの計画的犯行
あさとよる
恋愛
お仕置きセックスで処女喪失からの溺愛?そして独占欲丸出しで奪い合いの逆ハーレム♡見目麗しい榑林家の一卵性双子から寵愛を受けるこのメイド…何者?
※性的な描写が含まれます。
前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる
KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。
城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる