Where In The World

天野斜己

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本編

No,34 【シルヴィオ陛下SIDE Ⅻ】

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ハッと気が付くと、相変わらず宇宙空間のような場所に浮かんでいた。

 (…今のは、一体…)





―――今のは、七都姫が母親の胎内にいた時の記憶。



…………………



―――七都姫は、異界へ渡ったフォルトゥニーノの子孫の巫女の娘。



…………………



―――七都姫の母親は、美しく何より強い女性だった。
―――渋る夫を説得して、異世界へ送る事を決意した。

―――『異界の河』に赤子を流し、異世界へ…地球と呼ばれる世界に送った・・・のだ。
―――我が子の幸せのみを念じて。



 「…っ! クリュヴェイエ様…っ
 …貴女様は、クリュヴェイエ様でいらっしゃいますよね…っ!!」



―――……いかにも。



 「だったら教えて下さい…っ、…呪いを解呪する方法を…っ!!」



 静かな沈黙が返ったが、構わず叫んだ。



「…ナツキの母君は、ナツキの幸せを未来視で視たのです…っ
 …このままでは確実に、私はナツキを不幸にしてしまいます…っ!
  …お願い致します…っ、
  …何卒…っ、…何卒、呪いを解呪する方法をお教え下さいっ!!」



手に汗を握るような気持ちで叫んだ。
けれども、返ってきた返事は望むものではなかったが。
決して看過出来る返事ものではなかった。



―――敵が潜んでおる。
―――七都姫が、危険だ。



 「え…っ!?」



※ ※ ※



そうして。
 次の瞬間には、見覚えのある場所に転移していた。

(…ここは…大神殿の横の広場ではないか…
 …え…まさか、もう【創都祭】を開催っているのか…
 …一体あれから、どの位の時間ときが経っていたのか…)




眼下に広がるのは、確かに馴染み深い広場で。
群衆が見守る中、が特設祭壇で貴石に魔力を注いでいた。


 (…いや…魔力量が違うし、私の意識はここ・・なのだ…あれは、影武者か…)


フレドの姿があるし、何よりナツキの姿があった。
が、しかし。


 (…上手く隠しているが…殺気だ…しかも、ナツキを狙っている…)


これがクリュヴェイエ様がおっしゃった事なのかと、ナツキを狙う殺気の気配を探る。魔法で上手く隠しているが、現在いまの私は意識体だ。普段よりも鋭敏で程なく正体が判明わかった。刺客は群衆に紛れて、ナツキ襲撃のチャンスを狙っている。ダリオはどうしているのかとイライラしながら探せば、刺客がいる事に気付いてはいるがそやつが潜んでいる場所まで掴み切れてはいなかった。アランとクリストフナツキの護衛たちが少しも気付いていないのが情けない。
その内に影武者の失態に、刺客そいつが叫んだ。
 「その皇帝は偽物だ!」「皇帝の影武者だ!!」
と。


 (マズイ!
  奴は群衆を恐慌状態に陥れ、その隙をつく心算だ…っ!!)


叫んだ事でダリオが気付き、そいつに近付こうとするが。
獣人の身体能力をもってしても、この群衆の波の中では思うように動けない。
ダリオの焦りが手に取るように理解るが、私ももどかしくて仕方がない。
刺客そいつが魔力を手に集中させるのが理解った。
刃のように冷たい、だが強い魔力だ。
 (ダメだ…っ、…ダリオは、間に合わない…っ!!)
思わず絶叫して、意識体からだが動いていた。


 「危ないっ!」






 気が付けば。
 全身でナツキを庇っていた。
 柔らかく温かな体温を感じて、この上なく安堵していた。
 背中に痛みを感じるが、ナツキを守れたと思えばそれに勝る事はない。
いや却って、勲章よりも価値あるものだ。
ナツキの無事な姿が、何よりも嬉しかった。

 (…上手く意識体と、肉体が融合出来たんだな…)

 浮かんだのは、そんな吞気な感想だった。
……致命傷を負ったと云うのに。




―――そうか。


ナツキは無事で、この後、元の世界に戻って幸せになるのか―――





呪いを解呪する事が出来ずに、ナツキ以降に“降臨”する【神子】の魂を救う事は不可能だったが、私のこの命をかけて愛する女性ナツキを守る事は出来た。性交もしていないから呪いは発動しないし、不甲斐ない私の事など忘れて幸せを掴んで欲しい……


本望だ―――




肉体から魂が抜け出す瞬間を悟って、覚悟を決めていると。



―――……早まるな。



クリュヴェイエ様の“お声”が頭の中に響いた。



―――そなた、これ・・を聴いてもそのように思えるか…?




そのお言葉が止んだ途端に流れ込んできた・・・・・・・のは、ナツキの思考。
それ・・は、ナツキの私に対する、深い深い愛情だった。




……ナツキ……そなたと云う女性ひとは……あんなに粗略に扱ってしまっていたというのに……





それから、ベルナルディーノ様らしき女神かたとナツキの会話が聴こえてきて。
 『…生きたい…っ、…やっぱり生きて、私がナツキを幸せにしたい…っ!!』
との、欲求が膨れ上がって。

 私が待ちに待った、待望のお言葉が聴こえてきたのだった。








―――……わらわがかけた呪いを解くためには、犠牲・・が必要だった……

―――……それは、生命いのちを賭けた愛情だ……己の全てを投げ打つ覚悟だ……

―――……妾の負けだ……盟約通り、永遠に我が呪いを封印しよう……







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