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本編
No,31 【シルヴィオ陛下SIDE Ⅸ】
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こちらの世界では、年始年末には特別に何かの祭りや催しがある訳ではない。
強いて言えば、年明けの瞬間の大きな宮廷舞踏会が開催されるくらいだろうか。
だが、ナツキの世界では、年末近くにはキリスト教の降誕祭。そうして日本では、年始に特別な思い入れのある行事が続く事を知っている。
内心、ナツキには申し訳なく思っていたのだが、彼女はこちらの世界のクリスマスに向けて何やら企んでいるらしい。その内容を知った瞬間。温かな想いが去来するのが理解った。
―――ナツキが、私の神子で良かったと思うのは、こんな瞬間だ。
この皇国の孤児達に、こんなに深い想いを寄せてくれているとは―――
※ ※ ※
ナツキの深い想いに応える為にも、私の作業にもより一層の力が入った。
日々の激務をこなしつつ、ペッレグリーノに対する戦略を練り。
夜、私室の寝台に入れば幽体離脱をし、幽体を神界へと飛ばそうと何度も試みる。
簡単に上手くいくとは最初から思ってはいない。
何度失敗しても諦めずにチャレンジするだけだ。
おまけに目的が目的だ。
神々から『不遜だ』と怒りを買う危険も、無きにしも非ずだ。
だが、しかし。
決して諦める訳にはいかないのだ。
もう他に方法がないのだから。
なかなか神々の階層までには届かないままに新年が明けてしまったが、引き続きチャレンジを繰り返すのみだ。こう云う事はコツコツと根気良く努力を積み重ねてゆかねばならない。
それに反するようにペッレグリーノに関する事は着々と進んでゆく。
証拠も次々とあがってゆく。ありがたい限りだ。
問題点が上がれば、それは解決への突破口だ。
そう考えれば、何も苦にはならない。
“影”達にも予めそれなりの裁量権を与えている。
皆、優秀な人材達ばかりだ。
ペッレグリーノに関する対策と攻略法は着々と整えられてゆく。
まったく頼もしい限りだ。
そんな中でも、【神子】に関する情報は次々と集まってくる。
何でも巷では、【レヴィの神子の、クリスマスリース】の御利益が凄い事になっていて。
更に外国でも、【ホットワイン】が大流行していて。
中でも、厳寒の国では“妙薬”として、もてはやされているらしい。
……これは、危険な兆候だ。
エーロ王は以前から神子を目の敵にしているが、ホットワインと結びつけて考えれば安易な考えに走らないとも限らない。民の事を少しも考えずに、麻薬や人身売買に手を染めるような奴なのだ。その利益を己の懐に入れてしまうような奴なのだ。ダリオとダミアーノにも注意を喚起しなければならない。
が、しかし。
そんな時に限って、ありがたいようなありがたくないような情報が入ってくる。
闇のベールに包まれていた、ペッレグリーノ王室の内部事情の情報が。
エーロ王のやり方に反対する王太子の存在と、彼の背景のお家事情。
それだけなら、ブリュール皇国には願ってもない状況だ。
だが、瞬時にそれを利用出来る方法を考えついてしまう私は……本当に醜い。
神子の清廉さとは正反対だ。
『立ってる者は、親でも使え。』
と言うことわざが、ナツキの世界にはあるが。
儒教と云う教えに反する事でも、やらねばならない時があり。
この状況が正しく、その時だと思えてならない。
こんなチャンスを逃しては、却ってナツキの害悪となるかも知れないのだから。
だから私は、ダリオとダミアーノに密命を下した。
これが、ナツキのためになると信じて。
それもこれも、ダリオの力量を信じればこそ、だ。
最近、侍医の注意を受けたが、仕方がない。
睡眠はとっているが、その睡眠の中でとんでもない事を企てているのだから、休息の意味がないのだ。顔色が悪いと言われたが、やめる訳にはいかない事であるし、いざとなれば“幻視”の魔法を使えば良い。
但し、念の為。
口止めをした。
「皇妃には決して言うな。」
と。
老いた侍医を脅す勢いで。
ナツキは身を削って、この異世界の孤児達の為に尽くしてくれているのだ。
そんな清廉潔白なナツキに、万が一の心配も掛けたくはない。
……と思っていたら。
確かに皇妃には言わなかったが、側近や重臣達に注進しやがった。
まったく余計な世話だ。“幻視”の魔法を使うのも間に合わなかったではないか。
食べて眠るのが生活の基本だが、どちらも疎かにしている訳ではない。
ただ、睡眠の代わりのように、食事はしっかりしている。
だから、放っておいて欲しい。
ただ、側室達からの『なぜ、通って下さらないのですか!?』
との非難の盾になってくれた事にだけは、礼を言いたい気分だった。
※ ※ ※
【創都祭】の前の段階の【迎春祭】の期間。
私の食事にも馳走が並ぶようになって。
私は黙々とそれを平らげた。
こんな馳走を前にすると、ついつい考えてしまう。
(こんな食事をナツキと共に取る事が出来たら、どれほど美味く感じる事だろう)
と。
そんな生活を手に入れる為にも、私はより一層奮起しなければならないのだ。
そうして、本格的な春を前して。
朗報がもたらされた。
ナツキの為に造らせていたバラが、順調に蕾をつけたと庭師からの報告があったのだ。
バラは、ナツキの世界では、かなり特別な花とされている。
特に愛情を表現する為には欠かせない花とされているようだ。
私もそれに倣いたい。
ナツキは心底、花を嫌っている訳ではないのだ。
精神の奥底では両親を慕い、花を愛しているのだ。
そんな心優しいナツキの為に、花の女王を造って贈りたいと思ったのだ。
自己満足でしかないかも知れない。
けれども、愛する女性の為に、何かせずにはいられない。
この異世界に喚ばれて、こんな男の国に尽くしてくれるナツキの為に。
そんな事を考えつつ、そろそろ【創都祭】の準備の開始を懸念していたら。
ある日、執務中に倒れてしまった。
どうやら、自分の気力と体力を過信してしまっていたらしい。
……一生の不覚だ。
強いて言えば、年明けの瞬間の大きな宮廷舞踏会が開催されるくらいだろうか。
だが、ナツキの世界では、年末近くにはキリスト教の降誕祭。そうして日本では、年始に特別な思い入れのある行事が続く事を知っている。
内心、ナツキには申し訳なく思っていたのだが、彼女はこちらの世界のクリスマスに向けて何やら企んでいるらしい。その内容を知った瞬間。温かな想いが去来するのが理解った。
―――ナツキが、私の神子で良かったと思うのは、こんな瞬間だ。
この皇国の孤児達に、こんなに深い想いを寄せてくれているとは―――
※ ※ ※
ナツキの深い想いに応える為にも、私の作業にもより一層の力が入った。
日々の激務をこなしつつ、ペッレグリーノに対する戦略を練り。
夜、私室の寝台に入れば幽体離脱をし、幽体を神界へと飛ばそうと何度も試みる。
簡単に上手くいくとは最初から思ってはいない。
何度失敗しても諦めずにチャレンジするだけだ。
おまけに目的が目的だ。
神々から『不遜だ』と怒りを買う危険も、無きにしも非ずだ。
だが、しかし。
決して諦める訳にはいかないのだ。
もう他に方法がないのだから。
なかなか神々の階層までには届かないままに新年が明けてしまったが、引き続きチャレンジを繰り返すのみだ。こう云う事はコツコツと根気良く努力を積み重ねてゆかねばならない。
それに反するようにペッレグリーノに関する事は着々と進んでゆく。
証拠も次々とあがってゆく。ありがたい限りだ。
問題点が上がれば、それは解決への突破口だ。
そう考えれば、何も苦にはならない。
“影”達にも予めそれなりの裁量権を与えている。
皆、優秀な人材達ばかりだ。
ペッレグリーノに関する対策と攻略法は着々と整えられてゆく。
まったく頼もしい限りだ。
そんな中でも、【神子】に関する情報は次々と集まってくる。
何でも巷では、【レヴィの神子の、クリスマスリース】の御利益が凄い事になっていて。
更に外国でも、【ホットワイン】が大流行していて。
中でも、厳寒の国では“妙薬”として、もてはやされているらしい。
……これは、危険な兆候だ。
エーロ王は以前から神子を目の敵にしているが、ホットワインと結びつけて考えれば安易な考えに走らないとも限らない。民の事を少しも考えずに、麻薬や人身売買に手を染めるような奴なのだ。その利益を己の懐に入れてしまうような奴なのだ。ダリオとダミアーノにも注意を喚起しなければならない。
が、しかし。
そんな時に限って、ありがたいようなありがたくないような情報が入ってくる。
闇のベールに包まれていた、ペッレグリーノ王室の内部事情の情報が。
エーロ王のやり方に反対する王太子の存在と、彼の背景のお家事情。
それだけなら、ブリュール皇国には願ってもない状況だ。
だが、瞬時にそれを利用出来る方法を考えついてしまう私は……本当に醜い。
神子の清廉さとは正反対だ。
『立ってる者は、親でも使え。』
と言うことわざが、ナツキの世界にはあるが。
儒教と云う教えに反する事でも、やらねばならない時があり。
この状況が正しく、その時だと思えてならない。
こんなチャンスを逃しては、却ってナツキの害悪となるかも知れないのだから。
だから私は、ダリオとダミアーノに密命を下した。
これが、ナツキのためになると信じて。
それもこれも、ダリオの力量を信じればこそ、だ。
最近、侍医の注意を受けたが、仕方がない。
睡眠はとっているが、その睡眠の中でとんでもない事を企てているのだから、休息の意味がないのだ。顔色が悪いと言われたが、やめる訳にはいかない事であるし、いざとなれば“幻視”の魔法を使えば良い。
但し、念の為。
口止めをした。
「皇妃には決して言うな。」
と。
老いた侍医を脅す勢いで。
ナツキは身を削って、この異世界の孤児達の為に尽くしてくれているのだ。
そんな清廉潔白なナツキに、万が一の心配も掛けたくはない。
……と思っていたら。
確かに皇妃には言わなかったが、側近や重臣達に注進しやがった。
まったく余計な世話だ。“幻視”の魔法を使うのも間に合わなかったではないか。
食べて眠るのが生活の基本だが、どちらも疎かにしている訳ではない。
ただ、睡眠の代わりのように、食事はしっかりしている。
だから、放っておいて欲しい。
ただ、側室達からの『なぜ、通って下さらないのですか!?』
との非難の盾になってくれた事にだけは、礼を言いたい気分だった。
※ ※ ※
【創都祭】の前の段階の【迎春祭】の期間。
私の食事にも馳走が並ぶようになって。
私は黙々とそれを平らげた。
こんな馳走を前にすると、ついつい考えてしまう。
(こんな食事をナツキと共に取る事が出来たら、どれほど美味く感じる事だろう)
と。
そんな生活を手に入れる為にも、私はより一層奮起しなければならないのだ。
そうして、本格的な春を前して。
朗報がもたらされた。
ナツキの為に造らせていたバラが、順調に蕾をつけたと庭師からの報告があったのだ。
バラは、ナツキの世界では、かなり特別な花とされている。
特に愛情を表現する為には欠かせない花とされているようだ。
私もそれに倣いたい。
ナツキは心底、花を嫌っている訳ではないのだ。
精神の奥底では両親を慕い、花を愛しているのだ。
そんな心優しいナツキの為に、花の女王を造って贈りたいと思ったのだ。
自己満足でしかないかも知れない。
けれども、愛する女性の為に、何かせずにはいられない。
この異世界に喚ばれて、こんな男の国に尽くしてくれるナツキの為に。
そんな事を考えつつ、そろそろ【創都祭】の準備の開始を懸念していたら。
ある日、執務中に倒れてしまった。
どうやら、自分の気力と体力を過信してしまっていたらしい。
……一生の不覚だ。
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