パパパパラノーマル

駆動綾介

文字の大きさ
上 下
1 / 2
一幕 犬も歩けば

一 棒を穿つ

しおりを挟む
  夕闇に沈む閑静な住宅地とは程遠い、騒音こだまするZ県麻人市にある曰く付きも曰く付きの工業団地。

 この工場で働く労働弱者は皆、俗世間では働けなくなった世棄て人、内乱罪、殺人罪、現住建造物等放火罪、激発物破裂罪などなど。

 簡単に言えばお国に武力を持って対抗した勇ましい非国民を合法的にこと切れるまで働かせ続けられる場所、巷では【労死刑】なんて言われ嗜まれている。

 皮肉にも自由と尊厳を護ろうと奮い立った猛者達もとい反政府組織は弾圧され踏みじられ豚箱行き、そしてお国のために労で労うねぎらう羽目になり、工場内では庶民をハッピーにさせるお薬を永遠と作らされているとかなんとか‥哀れなり非国民。まぁ普通の快楽殺人鬼もいるみたいだけどね。

 面白い事にこの工場、重犯罪者を働かせているにしては警備体制はガバガバ、出入り口も警備員が立っているわけでもなくアッパラパー状態、建物の周囲を囲むのは安っぽい金網だけ、せめて有刺鉄線くらいあってもいいだろうに‥‥‥。

 工場を眺めていると金網越しに受刑者と目が合う、受刑者は帽子を取りニッコリ口角を上げ会釈してきた、僕は引き攣った笑顔で会釈を返す、ここの受刑者は気持ちが悪い、眼がね死んでるんだよ魚の死んだ目の方がまだ可愛げがある。

 眼は人間のまなこなりとはよく言ったものだがその通りだろう、彼らの眼は充血し慢性的な眼精疲労のようにも見えるが瞳孔は常に開きっぱなしで発汗機能がバグってるのか常に汗だくだ、端的に言えば受刑者は皆、薬でガンギマリってこと!笑ーー

 20年前全てはここから始まり後に【濫觴らんしょうの歪み】と言われ地獄の釜が開いた日、それは空前絶後のウィルスパンデミックこれにより人口の4分の1を失った母国、しかしこれは国と国とが密約し企てた人工パンデミック何せウィルスと呼ぶには余りにも計画的で規則性があり、その日上空に何十機も飛行機が飛んでいたとかなんとか。

 それでも疑う人間の方が少ない、当然だろうな人口削減の手綱は既に握られていた何十年何百年と政治屋に掌握され洗脳された庶民は扱いやすい何せこの国は少数の聖人が大衆に食い潰される家畜国、まさに衆愚政治しゅうぐせいじの極み、頼みの反政府組織はこの有様、そしてあれよあれよと人口削減は成功し世界的枯渇も遅らせることができ、人間の家畜化も順調! そしてこんな道徳観念をガン無視した桃源郷を作り出せるなんて大日本帝国万万歳だ。

 反政府組織も思想は嫌いではなかったけど解せないのは敗戦後の集団自殺、人口削減を良しとしなかった組織が自ら命の数を減らすとは、なんとも皮肉が効いてて面白くない、その後魔鏡となった麻人市に住み着く僕は頭がどうかしているのかもしれない、だけどね仕方ないんだよ! ここに住めなどと言う輩がいるのだから!

 と、愚痴縋りすがりながら歩き回っていたのだがいかんせん今日はついているみたいだ‥‥‥。

 日が沈み黄色がかった橙色をした夕陽が工業団地を彩るなかに、それは居た。

 道路を照らすため鎮座している道路照明灯、チカチカとついたり消えたり既に事切れそうな照明灯に留めでも刺す勢いで、何度も何度も頭を打ち付ける犬。

 異様、一度打ち付けては一歩二歩下がり照明灯に突っ込む、頭部の毛は血に染まり何色だったのかもよくわからない、血の付いていない胴体は茶、黒、白色が混ざりきっていない毛色で長毛種である事が見て取れる。

 異様さも相まってその犬の姿に驚愕する大人の人間の腰くらいある体高、そしてその見た目は狼そのもの‥‥‥えっ? 狼って絶滅してなかったか!?

 夜の帳が下り、辺りは闇に満ちるその犬?狼? は照明灯の明かりに照らされ独り舞台の悲劇を見せられているようだ、そうだなタイトルは『犬も歩けば棒に当たる』いや当たりに逝くが正しいのかな。

 我ながらつまらん事を考えてしまったアイツに話したら「ひねりがない、つまらんから死ね」か「証憑的でいいですね」だろう。
だがな次会ったらお前に文句を言う事に今しがた決まったからな。

 気付けばその獣は(犬か狼かわからんから今は獣とする)夜の帳が下りると同時に自傷行為をやめていた、不穏だ気配が違う、獣はこちらに気づき照明灯に向けていた体をこちらに向ける地面には血液が飛び散っているため、おどろおどろしい足音がズチャリズチャリと鳴り響く。
 
 獣の顔が照明に照らされて顔貌がはっきりわかる獣に相応しい形相、眉間に数え切れない程の皺をよせ顕になる剥き出しの本能、血で彩られた鋭利な牙、動物園なんかではお目にかかれない獰猛性。
しかし気になる事が1つこの獣、左目がないのだ、頭突きによる裂傷というよりはもっとこう刃物で抉り取られたような•••。

 「う」なのか「ヴ」なのかわからない低く重圧を感じる唸り声とカッカッと歯を鳴らしながらこちらに距離を詰めてくる。
「いやいやメチャクチャ怖い! 工場にいるガンギマリ達の方が可愛いって! 」
えーとっ熊にあった時の対処法は確か目を見てゆっくり後ずさりながらっ!!??

 そんな悠長なこと考えている場合ではなかった、獣は凄まじい速さで距離を詰めてくる!
「くっ!そっ!」
灰色オオカミと言う種は時速70kmで走れるとかなんとか。

 獣の巨体が弾丸の様に飛びかかる咄嗟に右腕を前に防御耐性をとったが重さに耐えきれず狼狽え後ろに転倒、何とか急所である首は守れたが、利き腕である右腕の前腕は獣の凄まじい咬合力で奥歯でガッポリいかれてる『痛い痛い痛いっ!!』ゴリッゴキャ前腕の骨が擦り砕ける音が体の内部から響き渡るのがわかる。

 「あ゛ぁ゛っ!!」言葉にならない声を上げ睨みつけ痛みに耐えながら獣の上顎を左手
で掴み引き剥がそうと奮闘する。

 しかし僕の左腕は何者かに強力な握力で掴まれ獣の上顎から引き離されてしまった。
誰か助けに来たのかと期待したがそれも一瞬のぬか喜び、僕の左手はコンクリートの道路に叩きつけられ「っ!」何者かに押さえつけらてしまった左腕はピクリとも動かせない。

 いったい誰が!? 「やめろ! 離してくれ!」僕の願いなど叶うはずもないだって僕の腕を押さえている白くて痩せ細っている女性の様な腕の持ち主はこの獣自身のものだからだ。

 「はぁ? 冗談だろ!?」

 獣の右側の肩甲骨辺りから人の腕が生えている、そして左側の肩甲骨からはまるで植物の成長動画を倍速で見ているかの様にバキバキと音を立てながら瞬く間にもう一本の人間の腕が生えてきた。
その腕は一瞬で僕の首元まで手を伸ばし締め上げる「カヒュッあ゛ぁ゛ッコォっ」声が出ない苦しいやばいやばいやばいやばいヤヴァイ!!死ぬ死ぬしぬしぬしぬシヌし‥‥‥意識が遠のく視界が隅から白濁としていく。
締められるアヒルの気持ちがわかった気がするって何言ってんだぼくは————。

この町に悲劇あるならそれは奇劇ありきだと言うことを僕は忘れていたようだ。
            ◇◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

感染した世界で~Second of Life's~

霧雨羽加賀
ホラー
世界は半ば終わりをつげ、希望という言葉がこの世からなくなりつつある世界で、いまだ希望を持ち続け戦っている人間たちがいた。 物資は底をつき、感染者のはびこる世の中、しかし抵抗はやめない。 それの彼、彼女らによる、感染した世界で~終わりの始まり~から一年がたった物語......

探しているの

雪苺
ホラー
僕は毎日夢を見る。 探してとお願いしている少女を・・・。 エブリスタ、カクヨムにも掲載しています。

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

ヒナタとツクル~大杉の呪い事件簿~

夜光虫
ホラー
仲の良い双子姉弟、陽向(ヒナタ)と月琉(ツクル)は高校一年生。 陽向は、ちょっぴりおバカで怖がりだけど元気いっぱいで愛嬌のある女の子。自覚がないだけで実は霊感も秘めている。 月琉は、成績優秀スポーツ万能、冷静沈着な眼鏡男子。眼鏡を外すととんでもないイケメンであるのだが、実は重度オタクな残念系イケメン男子。 そんな二人は夏休みを利用して、田舎にある祖母(ばっちゃ)の家に四年ぶりに遊びに行くことになった。 ばっちゃの住む――大杉集落。そこには、地元民が大杉様と呼んで親しむ千年杉を祭る風習がある。長閑で素晴らしい鄙村である。 今回も楽しい旅行になるだろうと楽しみにしていた二人だが、道中、バスの運転手から大杉集落にまつわる不穏な噂を耳にすることになる。 曰く、近年の大杉集落では大杉様の呪いとも解される怪事件が多発しているのだとか。そして去年には女の子も亡くなってしまったのだという。 バスの運転手の冗談めかした言葉に一度はただの怪談話だと済ませた二人だが、滞在中、怪事件は嘘ではないのだと気づくことになる。 そして二人は事件の真相に迫っていくことになる。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範
ホラー
 オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。  読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。  (*^^*)  タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。

シゴ語り

泡沫の
ホラー
治安も土地も悪い地域に建つ 「先端技術高校」 そこに通っている主人公 獅子目 麗と神陵 恵玲斗。 お互い、関わることがないと思っていたが、些細なことがきっかけで この地域に伝わる都市伝説 「シシ語り」を調べることになる…。

シカガネ神社

家紋武範
ホラー
F大生の過去に起こったホラースポットでの行方不明事件。 それのたった一人の生き残りがその惨劇を百物語の百話目に語りだす。 その一夜の出来事。 恐怖の一夜の話を……。 ※表紙の画像は 菁 犬兎さまに頂戴しました!

処理中です...