悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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粛正 6 ー断罪ー # R18

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 # R18 は保険です。処刑に関して、エグいと言えばエグい……でしょうか。ご注意ください。



 §



「それで? 言った通り水だけ与え、1週間絶食させたか」

 鼻先でせせら笑いながら、アレクセイは問いただした。

「は……、お命じの通りに」
 震える侍従書記がこたえた。

「陛下……よろしいか」
 供回ともまわりの侍従武官が重々しく、アレクセイに発言の許可を求める。

「何だ?」
 アレクセイは、なかば、侍従武官からの問の内容を予想しつつ、進言を許した。

「そこまで……なさる必要があったのですか。娘御むすめごの首まで候の目の前に据え置くなど。本人の首を切り、城外にさらすだけでは足りませなんだか」

 アレクセイは、予想通りの問い掛けに声を立てて笑った。

「足りぬ」

「陛下! 恐怖でしんを縛り、如何いかとするおつもりか!」

「どうもせぬよ」
 それで終わり、とばかりに、アレクセイはにべもなくこたえた。

「陛下!!」

 ーーどうもならぬ。そう、アレクセイ冷笑する。

すでに我れは、ヴァールら叛徒はんとの首を切り、城外にさらしたな。そして、首はどこぞへ打ち捨てた」

 そこで一旦口をつぐむと、アレクセイは、“だが”、とおもむろに続けた。

「一滴のみにさえ、ならなかったろう? そなたらには」

 面白そうに笑うアレクセイには、武官を震え上がらせるすごみがあった。

「そ……っ、そん、な…………」

 くすくす笑ってアレクセイは更に続ける。
「足りぬのさ、そなたらには」

 アレクセイは侍従書記を振り返り、新たに命令を下した。

「絶食させたのがまことならば良い。後は、直腸を洗浄させ……」

 アレクセイの眼があやしく光る。

「ーーやり殺せ」

 侍従書記にも、武官にも、アレクセイの言ったことが理解できなかった。

「…………は?」

「最重労の苦役くえきが科されている者共の牢へぶち込め」

「…………」

「あやつった者は、苦役は3日免除。口腔こうこうへのしゃも同日免除。ああ、もうあやつに水も与えずとも良い。飲みたければ、誰ぞに飲ませてもらえば良いからな」

「陛……下……」

「洗浄だけは徹底しておけ。疫病えきびょうでも流行はやらされては困る」

「は……仰せ……の通り、に……」

 それから、と、アレクセイは、武官を振り返った。

秘匿裁判ミスティシリヤ陪審ばいしんに課された沈黙を守るならば、以後は不問に付す。……それ相応の覚悟を持って周知せよ」

「……陛下の、おおせの通りにいたしましょう」

 それきり口をつぐんだ武官に、アレクセイは告げる。

「我れをじょう無きものとそしりたくば、そうしろ。裏で何を言おうとそこまではとがめぬ。沈黙を約すならば、き王として振る舞いもしようよーーただ」

 無駄と知りつつ、言葉を重ねる。

「我れを怪物とするのは、いつなりと我れからじょうを取り上げた、その方らと知れ」

 その時、武官は良くも悪くも口をつぐみ、自身の命をながらえた。

 ーー“逆賊ぎゃくぞく”を退しりぞけることの、何が不当なのかーー

 アレクセイは、武官の内心を読むーー読むまでもない、知れているからだ。
 “逆賊”とそしられるリシェールうばわれたのは、彼は7歳……10歳にも届かない時。
 誰も彼もが、その事実には斟酌しんしゃくせず、そして

 私室に戻り、かたわらひかえているであろうシャドウを除き、一人となった時、アレクセイひとちる。

「人のじょううばっておきながら、王として善たるを望み、じょうを与えよとは、いささか強欲が過ぎないか……? 怪物たる身には解らぬな、人のことは」

 アレクセイの王たる善が決壊けっかいすることなど、考えたこともないだろう。
 いまだ、根拠なく盲信もうしんするしんらに、いつかアレクセイ復讐ふくしゅうするだろう。ーー他人事ひとごとのように、アレクセイは未来を思う。
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