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粛正 5 ー贖罪ー
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「ウィルズ・ダンテスが長子、アリアーナ・ダンテスにございます」
歳の頃は16を数える彼女は、飾り気の一切無い簡素な白のドレスを身につけ、非の打ち所の無い美しいカーツィ《お辞儀》をして見せた。
「最期の願いを無下にはするまい。三世に科した刑は覆せぬが、言い残しておきたいことがあるならば、聞こう」
王は、彼女と彼女に連なる者の嘆願を聞き入れ、目通りを許した。
「咎人に態々お時間を頂戴し、お目通り叶いましたこと、お礼申し上げます」
「礼は不要。我れは、そなたには酷いことを科したからな」
「いいえ! そのお言葉こそ不要なもの。……ダンテスへの断罪は、当然且つ必要なものです。全て、父を始め臣らの不明によるもの。私はこれでも、ダンテスの嗣子でございました。止められなかった私にも責がございます」
例え、何の力も持たずとも。
だから、彼女が心から望んだのは王と……今は亡き王弟への贖罪。
少女は両膝をつき、深く深く頭を下げた。
「今更、取るに足りない私ごときの謝罪など詮無きこと。それでも……。 臣らは己が利のためだけに、主君の子らを引き離し、あまつさえリシェール様を断罪にするに追い込みながら、今また引き裂こうなどと……何て……何て非情な、愚かなことを……。
黄泉に参ります前に、どうしても……、どうしても。……赦されなくて良いのです。ただ、お詫びしたく……。
臣らが至らぬため、陛下とリシェール様には耐え難き別離の道をーー苦艱を歩ませ、申し開きもございません。本当に……本当に……申し訳、ございません……」
涙に濡れた声だったが、少女は最後まで言い切った。
王の表情が、ほんの僅か緩む。
「未だ少女の、そなただけが」
そこで王は、長く沈黙した。
「礼を言う」
「え…………?」
王は微笑した。柔らかな表情だった。
「この王宮で、我れと弟が割かれたことに泣いてくれたのは……愚かだと言ってくれたのは、そなただけだ」
王は静かに言った。しかし、“だが、”と、続ける。
「ーーにも関わらず、我れはそなたの首を切る。更に蝋漬けにして、そなたの父を狂わせる足しにもするだろう。恨んでくれて構わない」
少女はにっこりと微笑んだ。
「怖くないとは申せません。ですが……私の首で僅かなれどもお役に立つなら、嬉しゅうございます……あの父を私の首ごときで狂わせられるかは分かりませぬが。……それでも、逆徒を追い込む、些かの足しにはなりましょう。私のこの首で良ければ、何なりと使ってくださいませ」
少女は終ぞ躊躇いを見せなかった。
「すまない。できる限り美しく蝋漬けするよう計らう」
「はい、そうして頂けましたら。よろしくお願いいたします」
本気で言っている王が可笑しく、ふふっと笑いながら少女は応えた。
「ご厚情賜り、ありがとう存じます、陛下。思い残すことなく、黄泉へ行けそうです」
「ーーそうか」
「間違ってもお二方が迷って来られないよう、臣は門にて番をいたしますわ。陛下の末永い御世をお祈り申し上げます……」
歳の頃は16を数える彼女は、飾り気の一切無い簡素な白のドレスを身につけ、非の打ち所の無い美しいカーツィ《お辞儀》をして見せた。
「最期の願いを無下にはするまい。三世に科した刑は覆せぬが、言い残しておきたいことがあるならば、聞こう」
王は、彼女と彼女に連なる者の嘆願を聞き入れ、目通りを許した。
「咎人に態々お時間を頂戴し、お目通り叶いましたこと、お礼申し上げます」
「礼は不要。我れは、そなたには酷いことを科したからな」
「いいえ! そのお言葉こそ不要なもの。……ダンテスへの断罪は、当然且つ必要なものです。全て、父を始め臣らの不明によるもの。私はこれでも、ダンテスの嗣子でございました。止められなかった私にも責がございます」
例え、何の力も持たずとも。
だから、彼女が心から望んだのは王と……今は亡き王弟への贖罪。
少女は両膝をつき、深く深く頭を下げた。
「今更、取るに足りない私ごときの謝罪など詮無きこと。それでも……。 臣らは己が利のためだけに、主君の子らを引き離し、あまつさえリシェール様を断罪にするに追い込みながら、今また引き裂こうなどと……何て……何て非情な、愚かなことを……。
黄泉に参ります前に、どうしても……、どうしても。……赦されなくて良いのです。ただ、お詫びしたく……。
臣らが至らぬため、陛下とリシェール様には耐え難き別離の道をーー苦艱を歩ませ、申し開きもございません。本当に……本当に……申し訳、ございません……」
涙に濡れた声だったが、少女は最後まで言い切った。
王の表情が、ほんの僅か緩む。
「未だ少女の、そなただけが」
そこで王は、長く沈黙した。
「礼を言う」
「え…………?」
王は微笑した。柔らかな表情だった。
「この王宮で、我れと弟が割かれたことに泣いてくれたのは……愚かだと言ってくれたのは、そなただけだ」
王は静かに言った。しかし、“だが、”と、続ける。
「ーーにも関わらず、我れはそなたの首を切る。更に蝋漬けにして、そなたの父を狂わせる足しにもするだろう。恨んでくれて構わない」
少女はにっこりと微笑んだ。
「怖くないとは申せません。ですが……私の首で僅かなれどもお役に立つなら、嬉しゅうございます……あの父を私の首ごときで狂わせられるかは分かりませぬが。……それでも、逆徒を追い込む、些かの足しにはなりましょう。私のこの首で良ければ、何なりと使ってくださいませ」
少女は終ぞ躊躇いを見せなかった。
「すまない。できる限り美しく蝋漬けするよう計らう」
「はい、そうして頂けましたら。よろしくお願いいたします」
本気で言っている王が可笑しく、ふふっと笑いながら少女は応えた。
「ご厚情賜り、ありがとう存じます、陛下。思い残すことなく、黄泉へ行けそうです」
「ーーそうか」
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