悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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粛正 5 ー贖罪ー

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「ウィルズ・ダンテスが長子、アリアーナ・ダンテスにございます」

 歳の頃は16を数える彼女は、飾り気の一切無い簡素な白のドレスを身につけ、非の打ち所の無い美しいカーツィ《お辞儀》をして見せた。

最期さいごの願いを無下むげにはするまい。三世さんぜに科した刑はくつがえせぬが、言い残しておきたいことがあるならば、聞こう」

 アレクセイは、彼女と彼女に連なる者の嘆願たんがんを聞き入れ、目通りを許した。

咎人とがびと態々わざわざお時間を頂戴ちょうだいし、お目通り叶いましたこと、お礼申し上げます」

「礼は不要。我れは、そなたにはむごいことを科したからな」

「いいえ! そのお言葉こそ不要なもの。……ダンテスへの断罪は、当然且つ必要なものです。全て、父を始めしんらの不明によるもの。わたくしはこれでも、ダンテスの嗣子ししでございました。止められなかったわたくしにも責がございます」

 例え、何の力も持たずとも。

 だから、彼女が心から望んだのはアレクセイと……今は王弟への贖罪。

 少女は両膝をつき、深く深く頭を下げた。

「今更、取るに足りないわたくしごときの謝罪など詮無せんなきこと。それでも……。 しんらはおのが利のためだけに、主君の子らを引き離し、あまつさえリシェール様を断罪にするに追い込みながら、今また引き裂こうなどと……何て……何て非情な、愚かなことを……。
 黄泉よみに参ります前に、どうしても……、どうしても。……赦されなくて良いのです。ただ、お詫びしたく……。
 しんらが至らぬため、陛下とリシェール様には耐えがた別離べつりの道をーー苦艱くげんを歩ませ、申し開きもございません。本当に……本当に……申し訳、ございません……」

 涙にれた声だったが、少女は最後まで言い切った。

 アレクセイ表情かおが、ほんのわずか緩む。

だ少女の、そなただけが」

 そこでアレクセイは、長く沈黙した。

「礼を言う」
「え…………?」

 アレクセイは微笑した。柔らかな表情かおだった。

「この王宮で、我れとリシェールかれたことに泣いてくれたのは……おろかだと言ってくれたのは、そなただけだ」
 アレクセイは静かに言った。しかし、“だが、”と、続ける。

「ーーにも関わらず、我れはそなたの首を切る。更に蝋漬ろうづけにして、そなたの父を狂わせる足しにもするだろう。恨んでくれて構わない」

 少女はにっこりと微笑ほほえんだ。
「怖くないとは申せません。ですが……わたくしの首でわずかなれどもお役に立つなら、嬉しゅうございます……あの父をわたくしの首ごときで狂わせられるかは分かりませぬが。……それでも、逆徒ぎゃくとを追い込む、いささかの足しにはなりましょう。わたくしのこの首で良ければ、何なりと使ってくださいませ」
 少女はつい躊躇ためらいを見せなかった。

「すまない。できる限り美しく蝋漬ろうづけするよう計らう」

「はい、そうして頂けましたら。よろしくお願いいたします」
 本気で言っているアレクセイ可笑おかしく、ふふっと笑いながら少女はこたえた。

「ご厚情たまわり、ありがとう存じます、陛下。思い残すことなく、黄泉よみへ行けそうです」
「ーーそうか」

「間違ってもお二方が迷って来られないよう、わたくしは門にて番をいたしますわ。陛下の末永い御世みよをお祈り申し上げます……」
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