悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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粛正 1 ー誰が為に請うー # R18 (首を刎ねるシーン有り)

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 # R18 は保険です。首を刎ねるシーン有り、ご注意ください。


 §



「陛下。ーー本日最後の謁見者ですが……大学の者にございます」
「大学の教授レギアスが、何の進言しんげんだ?」
「いえ……教授レギアスではなく、学徒レジーナにございます。青年議会の議長であるとの触れ込みですが」

「……推薦人は誰ぞ」

 ハルキの若き王は、民からの進言しんげんにも広く耳をかたむけることで、よく知られている。とは言え、市井しせいの民からの陳情ちんじょうを全てを聞いているひまはあるはずなく、そもそも王が聞くまでもない話にく時間もない。ーーよって、上級貴族の推薦及び、侍従主管の精査をーーているはずであった。

 王が推薦人を問うのはごく自然な流れ、でなんら可笑おかしなことではない。だが王の声音こわねには、侍従書記官を震え上がらせるがあった。

「……ゼグリード侯、ウィルズ・ダンテス閣下でございます」



 §



「カ……カジミール・ドローと申します。た……太陽たる…陛下に、卑賎ひせんなる身で、拝謁はいえつ叶いましたこと、望外の喜びでございます」
 その青年は、作法にのっとり、王座を見上げるその下でひざまづき、前に出した膝の上に両手を組んで置き、頭を下げたまま名乗った。

「良い。面を上げ、我が前にわざわざおもむいてきた理由わけべよ」
 玉座で背に預け、アレクセイは、不遜に言った。

「英明なる陛下。どうか、リシェール・ルシア・ウル・ハルキティス王弟殿下の身分を今一度復権し、正式な裁判のご開廷ください。これは……青年議会の総意であります」

 ーー掛かったーー

 アレクセイは半眼で微笑微笑して、ただひと言、言い放った。

「是非に及ばず」

「なっ……何故、論じるにあたいしないないのですか! 僭越せんえつながら申し上げます。王弟殿下には正式な裁判を受ける権利がございます!」
 カジミールと名乗った青年は、アレクセイのひと言で一気に激昂げきこうした。

「青年議会の何たるかは、この際置こう。ーーどうでも良いからな。王弟は既に獄死ごくしし、この世に居らぬ。誰が、そなたをそそのかしたのか」

「すっ……ご推挙いただいた、閣下には、真実をご教示いただきました。王弟殿下には、奴隷に身を落とさせるような真似をせず、正式な裁判の後に、陛下から死を賜るべきです! それが、正しい在り方ではございませんか!!」
 自分の言が正しいと信じる青年の目は、自分にい、爛爛らんらんと光っているようだった。

 ーー掛かった……! ーー

「ほう……あの者は、ああ言っているが?」
 アレクセイは、推薦人をめ付《つ》けたが、侯爵は動じず、いっそ堂々と言い返した」

「陛下……その者の言う通りかと存じます。陛下が広く、下々の者までの言を入れようとするならば、と。臣は意を汲みこの者をお連れ申した。何ぞ間違っておりましょうや」

 アレクセイは、冷たく笑い、玉座を立つ。
「そのほう
「はっ」
「そなたの研究は何ぞ?」
「全ての者には、身分に寄らず裁判を受ける権利がある。また……身分に寄らず、受けねばならない裁判は受けなければならない……です」
 アレクセイは、ゆっくりと段を降りて行く。

「なるほどな。これよりのーー王国の課題ではあるーーだが、残念だがそれは時期尚早」
 アレクセイは、この者道化者が踊った理由わけを知った。

「それで? 何故王弟はれから死を賜らねばならぬと?」
「王弟殿下は……逆賊ぎゃくぞくではありませぬか!」
 この期に及び、ようやくその青年は、アレクセイの凍るような微笑みの裏にある怒りをわずかなりとも感じる。
 英明と名高く、内乱を内乱たらしめずに国を治め、市井しせいの者へも国政への門戸を開こうと腐心する、若き王。
 青年の意識はそこで途絶えたーー永遠に。

「我れは、さらわれた弟を取り戻しただけだよ」
 
 アレクセイの言葉を聞くことなく。

 首が転がり、ぬしを失った身体が倒れる。悲鳴は上がらなかった。
 アレクセイは、血の滴る剣を振り血糊ちのりを飛ばし、返り血を浴びたままゼグリードへ振り返った。

「ゼグリード侯……秘匿裁判ミスティシリヤが、“王の刃”という異名があるわけが分かるか? 何故、“王の禁じ手なのかは? 陪席に沈黙を強要するわけが分かるか? 解らぬからこうなるのだーーウィルズ・ダンテスを捕らえよ」

「王っ! 陛下!! 何を」

「今この時より、大逆たいぎゃくの責にて侯の身分を剥奪はくだつする。三世さんぜまで同罪、ゼグリードは取りつぶす。えにしあるものは奴隷に落とせ。例外は認めぬ。減刑を願う者は、自分も大逆の責をウィルズと共に負うと心得よ。

「へい…陛……下」
 カラカラに乾いた喉で、侍従がやっとの思いで声を絞りだす。

「あの……あの、者は……」
 首を切られた青年の処分を、侍従はアレクセイに求めた。

「首をつないで、一旦家族の元へ戻し見舞金を渡せ。上級貴族にそそのかされて王に歯向はむかい、死を賜ったと伝えよ。見舞は残された家族への王の慈悲である。だが、家族に別れの時を与えた後、死体はどこぞへ打ち捨てよ」

 その場にいた者は、慈悲は……残された家族へのもので、青年は王の赦しを得られないのだと知る。

「陛下っ! これは何の真似でありますかっ!!」

「……うるさい。口をふさげ」
 猿轡さるぐつわませられ、引きられて行くに、アレクセイは告げた。

「お前は知る必要の無いことを、知る必要が無い者に教え、王国の民を損なった。知らねば、あの者も生き永らえていたろう。ーー秘匿裁判ミスティシリヤで口をつぐめぬ者は、王に反逆する者。王が禁じ手とする“王の刃”を抜く時は、それ相応の覚悟を持って刃を抜いているーーせめて、良きにえになるがいい」
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