59 / 66
粛正 1 ー誰が為に請うー # R18 (首を刎ねるシーン有り)
しおりを挟む
# R18 は保険です。首を刎ねるシーン有り、ご注意ください。
§
「陛下。ーー本日最後の謁見者ですが……大学の者にございます」
「大学の教授が、何の進言だ?」
「いえ……教授ではなく、学徒にございます。青年議会の議長であるとの触れ込みですが」
「……推薦人は誰ぞ」
ハルキの若き王は、民からの進言にも広く耳を傾けることで、よく知られている。とは言え、市井の民からの陳情を全てを聞いている暇はあるはずなく、そもそも王が聞くまでもない話に割く時間もない。ーーよって、上級貴族の推薦及び、侍従主管の精査をーー経ている筈であった。
王が推薦人を問うのはごく自然な流れ、でなんら可笑しなことではない。だが王の声音には、侍従書記官を震え上がらせる何かがあった。
「……ゼグリード侯、ウィルズ・ダンテス閣下でございます」
§
「カ……カジミール・ドローと申します。た……太陽たる…陛下に、卑賎なる身で、拝謁叶いましたこと、望外の喜びでございます」
その青年は、作法に則り、王座を見上げるその下で跪き、前に出した膝の上に両手を組んで置き、頭を下げたまま名乗った。
「良い。面を上げ、我が前にわざわざ赴いてきた理由を述べよ」
玉座で背に預け、王は、不遜に言った。
「英明なる陛下。どうか、リシェール・ルシア・ウル・ハルキティス王弟殿下の身分を今一度復権し、正式な裁判のご開廷ください。これは……青年議会の総意であります」
ーー掛かったーー
王は半眼で微笑して、ただひと言、言い放った。
「是非に及ばず」
「なっ……何故、論じるに値しないないのですか! 僭越ながら申し上げます。王弟殿下には正式な裁判を受ける権利がございます!」
カジミールと名乗った青年は、王のひと言で一気に激昂した。
「青年議会の何たるかは、この際置こう。ーーどうでも良いからな。王弟は既に獄死し、この世に居らぬ。誰が、そなたを唆したのか」
「すっ……ご推挙いただいた、閣下には、真実をご教示いただきました。王弟殿下には、奴隷に身を落とさせるような真似をせず、正式な裁判の後に、陛下から死を賜るべきです! それが、正しい在り方ではございませんか!!」
自分の言が正しいと信じる青年の目は、自分に酔い、爛爛と光っているようだった。
ーー掛かった……! ーー
「ほう……あの者は、ああ言っているが?」
王は、推薦人を睨め付《つ》けたが、侯爵は動じず、いっそ堂々と言い返した」
「陛下……その者の言う通りかと存じます。陛下が広く、下々の者までの言を入れようとするならば、と。臣は意を汲みこの者をお連れ申した。何ぞ間違っておりましょうや」
王は、冷たく笑い、玉座を立つ。
「その方」
「はっ」
「そなたの研究は何ぞ?」
「全ての者には、身分に寄らず裁判を受ける権利がある。また……身分に寄らず、受けねばならない裁判は受けなければならない……です」
王は、ゆっくりと段を降りて行く。
「なるほどな。これより未来のーー王国の課題ではあるーーだが、残念だがそれは時期尚早」
王は、この者が踊った理由を知った。
「それで? 何故王弟は我れから死を賜らねばならぬと?」
「王弟殿下は……逆賊ではありませぬか!」
この期に及び、漸くその青年は、王の凍るような微笑みの裏にある怒りを僅かなりとも感じる。
英明と名高く、内乱を内乱たらしめずに国を治め、市井の者へも国政への門戸を開こうと腐心する、若き王。
青年の意識はそこで途絶えたーー永遠に。
「我れは、攫われた弟を取り戻しただけだよ」
王の言葉を聞くことなく。
首が転がり、主を失った身体が倒れる。悲鳴は上がらなかった。
王は、血の滴る剣を振り血糊を飛ばし、返り血を浴びたままゼグリードへ振り返った。
「ゼグリード侯……秘匿裁判が、“王の刃”という異名があるわけが分かるか? 何故、“王の禁じ手なのかは? 陪席に沈黙を強要するわけが分かるか? 解らぬからこうなるのだーーウィルズ・ダンテスを捕らえよ」
「王っ! 陛下!! 何を」
「今この時より、大逆の責にて侯の身分を剥奪する。三世まで同罪、ゼグリードは取り潰す。縁あるものは奴隷に落とせ。例外は認めぬ。減刑を願う者は、自分も大逆の責をウィルズと共に負うと心得よ。
「へい…陛……下」
カラカラに乾いた喉で、侍従がやっとの思いで声を絞りだす。
「あの……あの、者は……」
首を切られた青年の処分を、侍従は王に求めた。
「首を繋いで、一旦家族の元へ戻し見舞金を渡せ。上級貴族に唆されて王に歯向い、死を賜ったと伝えよ。見舞は残された家族への王の慈悲である。だが、家族に別れの時を与えた後、死体はどこぞへ打ち捨てよ」
その場にいた者は、慈悲は……残された家族へのもので、青年は王の赦しを得られないのだと知る。
「陛下っ! これは何の真似でありますかっ!!」
「……煩い。口を塞げ」
猿轡を噛ませられ、引き摺られて行く咎人に、王は告げた。
「お前は知る必要の無いことを、知る必要が無い者に教え、王国の民を損なった。知らねば、あの者も生き永らえていたろう。ーー秘匿裁判で口をつぐめぬ者は、王に反逆する者。王が禁じ手とする“王の刃”を抜く時は、それ相応の覚悟を持って刃を抜いているーーせめて、良き贄になるがいい」
§
「陛下。ーー本日最後の謁見者ですが……大学の者にございます」
「大学の教授が、何の進言だ?」
「いえ……教授ではなく、学徒にございます。青年議会の議長であるとの触れ込みですが」
「……推薦人は誰ぞ」
ハルキの若き王は、民からの進言にも広く耳を傾けることで、よく知られている。とは言え、市井の民からの陳情を全てを聞いている暇はあるはずなく、そもそも王が聞くまでもない話に割く時間もない。ーーよって、上級貴族の推薦及び、侍従主管の精査をーー経ている筈であった。
王が推薦人を問うのはごく自然な流れ、でなんら可笑しなことではない。だが王の声音には、侍従書記官を震え上がらせる何かがあった。
「……ゼグリード侯、ウィルズ・ダンテス閣下でございます」
§
「カ……カジミール・ドローと申します。た……太陽たる…陛下に、卑賎なる身で、拝謁叶いましたこと、望外の喜びでございます」
その青年は、作法に則り、王座を見上げるその下で跪き、前に出した膝の上に両手を組んで置き、頭を下げたまま名乗った。
「良い。面を上げ、我が前にわざわざ赴いてきた理由を述べよ」
玉座で背に預け、王は、不遜に言った。
「英明なる陛下。どうか、リシェール・ルシア・ウル・ハルキティス王弟殿下の身分を今一度復権し、正式な裁判のご開廷ください。これは……青年議会の総意であります」
ーー掛かったーー
王は半眼で微笑して、ただひと言、言い放った。
「是非に及ばず」
「なっ……何故、論じるに値しないないのですか! 僭越ながら申し上げます。王弟殿下には正式な裁判を受ける権利がございます!」
カジミールと名乗った青年は、王のひと言で一気に激昂した。
「青年議会の何たるかは、この際置こう。ーーどうでも良いからな。王弟は既に獄死し、この世に居らぬ。誰が、そなたを唆したのか」
「すっ……ご推挙いただいた、閣下には、真実をご教示いただきました。王弟殿下には、奴隷に身を落とさせるような真似をせず、正式な裁判の後に、陛下から死を賜るべきです! それが、正しい在り方ではございませんか!!」
自分の言が正しいと信じる青年の目は、自分に酔い、爛爛と光っているようだった。
ーー掛かった……! ーー
「ほう……あの者は、ああ言っているが?」
王は、推薦人を睨め付《つ》けたが、侯爵は動じず、いっそ堂々と言い返した」
「陛下……その者の言う通りかと存じます。陛下が広く、下々の者までの言を入れようとするならば、と。臣は意を汲みこの者をお連れ申した。何ぞ間違っておりましょうや」
王は、冷たく笑い、玉座を立つ。
「その方」
「はっ」
「そなたの研究は何ぞ?」
「全ての者には、身分に寄らず裁判を受ける権利がある。また……身分に寄らず、受けねばならない裁判は受けなければならない……です」
王は、ゆっくりと段を降りて行く。
「なるほどな。これより未来のーー王国の課題ではあるーーだが、残念だがそれは時期尚早」
王は、この者が踊った理由を知った。
「それで? 何故王弟は我れから死を賜らねばならぬと?」
「王弟殿下は……逆賊ではありませぬか!」
この期に及び、漸くその青年は、王の凍るような微笑みの裏にある怒りを僅かなりとも感じる。
英明と名高く、内乱を内乱たらしめずに国を治め、市井の者へも国政への門戸を開こうと腐心する、若き王。
青年の意識はそこで途絶えたーー永遠に。
「我れは、攫われた弟を取り戻しただけだよ」
王の言葉を聞くことなく。
首が転がり、主を失った身体が倒れる。悲鳴は上がらなかった。
王は、血の滴る剣を振り血糊を飛ばし、返り血を浴びたままゼグリードへ振り返った。
「ゼグリード侯……秘匿裁判が、“王の刃”という異名があるわけが分かるか? 何故、“王の禁じ手なのかは? 陪席に沈黙を強要するわけが分かるか? 解らぬからこうなるのだーーウィルズ・ダンテスを捕らえよ」
「王っ! 陛下!! 何を」
「今この時より、大逆の責にて侯の身分を剥奪する。三世まで同罪、ゼグリードは取り潰す。縁あるものは奴隷に落とせ。例外は認めぬ。減刑を願う者は、自分も大逆の責をウィルズと共に負うと心得よ。
「へい…陛……下」
カラカラに乾いた喉で、侍従がやっとの思いで声を絞りだす。
「あの……あの、者は……」
首を切られた青年の処分を、侍従は王に求めた。
「首を繋いで、一旦家族の元へ戻し見舞金を渡せ。上級貴族に唆されて王に歯向い、死を賜ったと伝えよ。見舞は残された家族への王の慈悲である。だが、家族に別れの時を与えた後、死体はどこぞへ打ち捨てよ」
その場にいた者は、慈悲は……残された家族へのもので、青年は王の赦しを得られないのだと知る。
「陛下っ! これは何の真似でありますかっ!!」
「……煩い。口を塞げ」
猿轡を噛ませられ、引き摺られて行く咎人に、王は告げた。
「お前は知る必要の無いことを、知る必要が無い者に教え、王国の民を損なった。知らねば、あの者も生き永らえていたろう。ーー秘匿裁判で口をつぐめぬ者は、王に反逆する者。王が禁じ手とする“王の刃”を抜く時は、それ相応の覚悟を持って刃を抜いているーーせめて、良き贄になるがいい」
12
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

神官、触手育成の神託を受ける
彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。
(誤字脱字報告不要)

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる