悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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密言 9 ー王弟と影 5ー

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「……寝ちゃった? 兄さま」
 困ったように、弟は日陰シェイドを伺い、日陰シェイドは苦笑しつつうないた。

「……気を失った、と言う方が正しいかと。ーー大事ございません。精も根も尽き果てた……と、いうところでしょう。お疲れでしたから。リシェ様、動けますか?」

「ん……今日はね、大丈夫」
 恥じ入るように、弟は応えた。初めて、兄の上で乱れることを教えられ恥ずかしくはあったが、兄が一度で果てたため、今日の負担は少なかった。

「では、お兄さまをお風呂にお入れするのを、お手伝いいただけますか?」
日陰シェイ……でも、あのね。日陰シェイは、いいの……?」
 弟が、どうしよう……という体で日陰シェイドたずねたが、日陰シェイドは応えず、人差し指を立て唇の前にかざした。

「……ごめんなさい」
 兄の許しがなければ、何もできない弟が聞いていいことではなかった。
「よろしいのですよ。日陰を気にしていただいてありがとうございます。さ、お兄さまをお運びします。リシェ様もご一緒に」

 日陰シェイドが兄を抱き上げ、弟は日陰シェイドの後をついて浴場へと歩いた。

 湯殿で、弟が日陰シェイドに渡された兄を支える。

「は……」

 わずかに、吐息といきらした兄に、弟が耳元でささやく。
「寝てて、兄さま……大丈夫だから」

 日陰シェイドがふっと笑んで言った。
「いつもと逆ですね。微笑ほほえましい」

「恥ずかしい……。リシェ、いつもこうしてお世話してもらっているんだね……」

 日陰シェイドは、声を立てて笑って言った。
「お兄さまは、しくじったとは思われるでしょうが恥じ入ることはないでしょう。リシェ様もお気になさらずに」

 兄の髪を洗い、身体を洗い……合間に、弟も洗ってもらう。
 それから、弟が先に湯に入り、先程と同じように後ろから兄を支えーー抱きしめて、兄の肩先に顔をうずめた。

「ご兄弟は……湯を使う時も、同じことをする」
「え……?」
「お兄さまも、そうしてリシェ様を確かめていらした……リシェ様は、お泣きになりますか?」
 穏やかに、日陰シェイドが問う。

「兄さま……泣いてらした?」
「ええ。ーー内緒ですよ」
「ーー……リシェも、そう、みたい……。リシェは、涙腺るいせん、壊れちゃったから…だから……」
 だから、涙は頬を伝うままにする。

日陰シェイ……? 嬉しそう」
 兄を見る、愛しむような穏やかな笑み。

「嬉しいですよ。ーーこんな姿を見せたことは一度もない。張り詰めた気を抜くことはありませんでした。あるじが……お兄さまが、リシェ様とーー日陰になら大丈夫だと……思うより先に身体が反応した」
「そうなのかな……」
「ーーそうですよ」

 くす……、と日陰シェイドは、笑う。ーーでも、と。

「日陰は内緒にしますよ。リシェ様が悪戯いたずらしても」
「……兄さまが、リシェに意地悪するのはーー兄さまが意地悪なのは、日陰シェイが教えたせい?」
 くすくすと笑うだけで日陰シェイドは応えず、ーー弟は、兄の胸と男根ペニスにそっと手を伸ばす。

「……ふ……リー…ェ……」
「兄さま……寝てて……」

 愛撫あいぶでもなく、児戯じぎでもなく、触れて、確かめるだけ。
 ――本当に……似ていらっしゃる。日陰シェイドひとちる。

リシェ……、僕自身を否定しようとしてーー兄さまを傷つけたから。余計、疲れちゃったよね……」
 沈む表情かおで、弟は言う。

「ーー秘匿裁判ミスティシリヤを使い無理を通されたこと然り、リシェ様が真に堕ちるまで……気を張り続け、リシェ様が気づかれたように、王宮カッコウが騒がしく鳴き……お疲れでない筈がない。ですがリシェ様は、もういけません。その必要はない」

「はい……リシェが知らないでいいこと、なんでしょう?」
「そうですーーそれでも、全てはリシェ様のため……そして、それはじきに終わる」

「でも……。自惚れるな、って……」
 弟は、下を向いてか細い声でつぶやくように言った。

 くすりと、日陰シェイドは笑う。
「自惚れていて宜しいかと。そう、日景は思いますよ」
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