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王と王弟、そして影 1
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「兄さま!」
自分の胸に飛び込んでくる弟を、兄は愛しく思う。
「え……と、ね」
言い淀む弟が、言いたいことを言えるように、兄は声をかけた。
「ただいま」
「おかえり…なさ…い……兄さま」
ほんの少しだけ、泣き笑いのような表情を見せた弟が、そっと兄の頬に口づけた。
そして……弟は兄を見上げーー二人の視線が絡み合う。どちらからともなく唇が重なった。
ちゅ……、触れるだけの口づけの後、もう一度視線を合わせると、ゆっくりと何度も角度を変えながら口づけを交わしていった。
「ん……」
小首を傾げる弟の、その首筋に兄は唇で触れていく。それから仰のいていく喉を追い口づけた後、唇を離すと兄は弟を抱き上げた。
弟は、兄の首に腕を絡ませて、一瞬逡巡してから兄に囁いた。
「あのね……兄さま。……日陰と、影のことを……聞いてもいい?」
クスり、と兄は笑って言った。
「リシェ……、いつから日陰と呼んでいるか、覚えているか?」
「え……? い…つ……あ、あの…っ……き、気づいたら、兄さまと…同じにして……て?」
褥に弟を下ろすと、兄は無造作に服を脱ぎ捨て褥に上がった。
半眼で弟を睨め付け兄は面白そうに言う。
「ーー兄さまに何て言えばいい? リシェ」
「え……、あ……ご、ごめんなさい……兄さま。シェ……日陰を、日陰って……」
「…………」
「う……、ごめ……なさ……え、と……僕を、お、お仕置き、してください……」
「今度な」
声を立てて笑い、ヘッドボードに背を預けて、兄は弟を緩く抱き寄せた。
「日陰には、何を聞いた?」
「……影は、盟友ーー自由で……自ら選んでその責を負うって」
兄は頷き、そして言った。
「そう。盟友だ」
「兄さまは……影を信頼しているのですね」
「この砂漠のような王宮で影を信頼できなければ王は務まらないよ、リシェ。ましてや父王と後継の叔父上を失い王権は揺らぎ、弟を失いーー影がいなかったら、兄さまは生きて、今ここにはいない」
こくんと頷き、弟は聞いた。
「影って……盟友っていうの、は?」
「ハルキの始まりだな。兄が私達の始祖。弟が影の祖だ」
「え……?!」
「日陰、お前もここに」
「はい、主」
兄は、日陰を褥の端に腰かけさせた。
「口伝でしか残さない。その口伝でさえ意図的に情報を絞って伝えられているから、類推でしか測れない部分が多い。影の側ではもう少し分かるか?」
「多少ですが」
日陰が頷くのを確かめて、兄は話しを続けた。
「恐らくは、双子が禁忌とされた頃の話だ。兄が私達の始祖、と言ったが実際は分からない。兄か弟かが問題ではなかったろうから」
「片方が金で、もう片方が黒……。黒髪の多い隣国ーーお二人の母君のお国との混血は更に遥かから。にも拘わらず、王家の後継には金か銀を求めたのでしょう。影の祖は遺棄されたーーされかけたのを守ったのが、残された“兄”」
兄の言葉を、日陰が補完していく。
「だから、影も鷹の歌を歌う……私達にしか歌えない声で啼き、聞こえない筈の声を聴く。そして……長い間に私達は何度も血の交換をしているのだと思う。三代口を噤めば事実でさえ消える……証拠は何も無いがな」
「金と銀を王家へ……黒を影へ。恐らく間違っていないと思います。そして、リシェ様への答えですが……守ってくれた兄を愛したのです。弟……影の始祖は。そして、影から兄を支えたーーそれが影」
「でもっ……でも、それで良かったの? だって、とても……、とても長い時間でしょう?」
その問にも、日陰が答えた。
「影の自由は守られましたから。影であるか否かも本人の選択ですーーそう在りたくないのならば往く……そう淘汰されながら残る者が影です。王を愛する血を受け継ぐのだと……影は思っていますーーただ……王だから愛するのではなく、愛したいと思う王だからお仕えします。……日陰も」
「リシェ」
「ーーはい」
兄は不思議な色を浮かべた眼で、弟に言った。
「影を信頼しているかーーそう聞いたな? リシェ……兄さまの身体は男を知っている。ーー相手は、影」
自分の胸に飛び込んでくる弟を、兄は愛しく思う。
「え……と、ね」
言い淀む弟が、言いたいことを言えるように、兄は声をかけた。
「ただいま」
「おかえり…なさ…い……兄さま」
ほんの少しだけ、泣き笑いのような表情を見せた弟が、そっと兄の頬に口づけた。
そして……弟は兄を見上げーー二人の視線が絡み合う。どちらからともなく唇が重なった。
ちゅ……、触れるだけの口づけの後、もう一度視線を合わせると、ゆっくりと何度も角度を変えながら口づけを交わしていった。
「ん……」
小首を傾げる弟の、その首筋に兄は唇で触れていく。それから仰のいていく喉を追い口づけた後、唇を離すと兄は弟を抱き上げた。
弟は、兄の首に腕を絡ませて、一瞬逡巡してから兄に囁いた。
「あのね……兄さま。……日陰と、影のことを……聞いてもいい?」
クスり、と兄は笑って言った。
「リシェ……、いつから日陰と呼んでいるか、覚えているか?」
「え……? い…つ……あ、あの…っ……き、気づいたら、兄さまと…同じにして……て?」
褥に弟を下ろすと、兄は無造作に服を脱ぎ捨て褥に上がった。
半眼で弟を睨め付け兄は面白そうに言う。
「ーー兄さまに何て言えばいい? リシェ」
「え……、あ……ご、ごめんなさい……兄さま。シェ……日陰を、日陰って……」
「…………」
「う……、ごめ……なさ……え、と……僕を、お、お仕置き、してください……」
「今度な」
声を立てて笑い、ヘッドボードに背を預けて、兄は弟を緩く抱き寄せた。
「日陰には、何を聞いた?」
「……影は、盟友ーー自由で……自ら選んでその責を負うって」
兄は頷き、そして言った。
「そう。盟友だ」
「兄さまは……影を信頼しているのですね」
「この砂漠のような王宮で影を信頼できなければ王は務まらないよ、リシェ。ましてや父王と後継の叔父上を失い王権は揺らぎ、弟を失いーー影がいなかったら、兄さまは生きて、今ここにはいない」
こくんと頷き、弟は聞いた。
「影って……盟友っていうの、は?」
「ハルキの始まりだな。兄が私達の始祖。弟が影の祖だ」
「え……?!」
「日陰、お前もここに」
「はい、主」
兄は、日陰を褥の端に腰かけさせた。
「口伝でしか残さない。その口伝でさえ意図的に情報を絞って伝えられているから、類推でしか測れない部分が多い。影の側ではもう少し分かるか?」
「多少ですが」
日陰が頷くのを確かめて、兄は話しを続けた。
「恐らくは、双子が禁忌とされた頃の話だ。兄が私達の始祖、と言ったが実際は分からない。兄か弟かが問題ではなかったろうから」
「片方が金で、もう片方が黒……。黒髪の多い隣国ーーお二人の母君のお国との混血は更に遥かから。にも拘わらず、王家の後継には金か銀を求めたのでしょう。影の祖は遺棄されたーーされかけたのを守ったのが、残された“兄”」
兄の言葉を、日陰が補完していく。
「だから、影も鷹の歌を歌う……私達にしか歌えない声で啼き、聞こえない筈の声を聴く。そして……長い間に私達は何度も血の交換をしているのだと思う。三代口を噤めば事実でさえ消える……証拠は何も無いがな」
「金と銀を王家へ……黒を影へ。恐らく間違っていないと思います。そして、リシェ様への答えですが……守ってくれた兄を愛したのです。弟……影の始祖は。そして、影から兄を支えたーーそれが影」
「でもっ……でも、それで良かったの? だって、とても……、とても長い時間でしょう?」
その問にも、日陰が答えた。
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「リシェ」
「ーーはい」
兄は不思議な色を浮かべた眼で、弟に言った。
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