悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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La Madrugada 29 ー制裁その後 1ー # R18

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 ーー仕置きされた日より数日後の深夜よる
 弟のもとをおとなった兄に、弟はねがった。

むちで叩いてください、ってお願いしたら駄目? 兄さま」

 遠い昔に『ご本を読んでください、駄目? 兄さま』と聞いてきた時と同じ口調、同じ表情かおで、同じ様に小首をかしげて兄にねだる弟に、兄は苦笑する。

「ーー欲しいのは、痛みか? それともしるしか?」

 核心を突いてくる兄の肩にひたいり付けて、弟は低く声を落として答えた。

「ーー両方」

 コツ……

 兄は、弟の頭に手を置くと、ひたいを合わせて言い聞かせる。
「リシェ……痛みを望むと際限さいげんがなくなる。たわむれで、尻を叩いてやるのは構わない。だが、兄さまはむちは使わないよ」

 しゅん……としてうつむく弟に、兄は優しく告げた。

「リシェ……二度と身体を損なうような痛みを望まないと、兄さまに約束できるなら、兄さまの名を……尻に焼き印を入れてあげよう」

 弟は、眼をパチパチと見開いて兄を見て、確かめるように聞く。

「本当? 約束したら、本当に焼き印を……兄さまのお名前をリシェのお尻に焼いてくれますか?」

 兄は、仕方がないな……と言って笑う。

「兄さまと約束しなさい、リシェ。繰り返せ。ーー“リシェは二度と身体を痛め付けることを望まないことを、兄さまに誓約やくそくします。だから、兄さまの所有物ものである印を尻に焼いてください”」

リシェは、二度と身体を痛め付けるようなことを望まないことを、兄さまに誓約おやくそくします。だから、兄さまの所有物ものである印をリシェのお尻に焼いてください……ありがとう、兄さま」

 嬉しそうに言って、兄の唇にちゅ……と口づけてくる弟に、兄は更に苦笑するしかなかったが、利き手と逆の小指から、シグネットリングを抜いて、日陰シェイドに渡す。

日陰シェイ、準備」
「承知」



 §



 弟は寝台の上で、兄と共に、日陰シェイドがする準備が整うのを待った。

 日陰シェイドは、陶器の容器に炭をこし、そして、兄に渡されたシグネットリングを焼きごて用の器具に装着する。

「火が十分にきたら、こてを温めます。リングに火が入るまで時間はかかりません。お支度したくを」

 そして、日陰シェイドが、織火おきびにこてを沈めると共に、兄は弟に命じる。

「リシェ、四つ這いアレン・フィーレ。ああ、頭は下げていい。尻を突き出しなさい」

 そして、日陰シェイドに手渡された手巾しゅきんを、弟にませる。

「兄さまがしてやりたいが、日陰シェイドの方が綺麗に焼いてくれる」
 そう言ってほほえられた兄の手に、弟はうなずきを返した。

「直ぐに済む」

 兄が日陰シェイド視線をやると、日陰シェイドうなずいて、熾火に沈めたリングの状態を確め、引き上げた。

「ーーーー~~~っっ!!」

 一時いっとき肉を|焦がす匂いが立ち込め、それをハーブの匂いがかき消していく。

 突っ伏した弟の尻に、冷たい軟膏ローションが落とされ、白のティゼの甘い香りが漂う。

「ティゼのを聞きなさい。痛みが和らぐ」

 そして兄は、ティゼ酒ティゼルで指をらし、手巾しゅきんを外した弟の唇をなぞった。

めなさい」

 ちゅ……ちゅぱ……

 何度かそれを繰り返し、ティゼ酒ティゼルを……兄の指をしゃぶっている内に、焼きあとに油紙と綿紗ガーゼが乗せられ、包帯が巻かれていった。

「落ち着いたか? リシェ、このまま眠ってしまえ」
「やだ……兄さまの精、飲むの……そうしたら、リシェ、寝る……」

 くすり、と日陰シェイドが笑い、兄は呆れたように言う。

リシェお前…………寝ろ」
「やだっ! 兄さまの精リシェに飲ませてっ!」

 兄は日陰シェイドへ振り向き、問う。
ティゼ酒ティゼルに何か入れたのか?」
「はい。ティゼ酒ティゼルにも、軟膏ローションにも少々調合しまぜました」

 兄はため息をいて、
「リシェに焼き印を入れて傷をつけておいて、たせられるか!」

 日陰シェイドは、くすくす笑ったまま、弟をうながした。

「リシェ様……お兄さまは、たせるのが難しいそうです。頑張ってご奉仕しなければいけませんよ」

「はい、日陰シェイド
日陰シェイっ! お前っ!!」

「どうぞ、あるじ。……あるじには気休めですが」
 日陰シェイドティゼ酒ティゼルの杯を兄に差し出し、兄はそれを受け取るとひと息に飲み干した。

「覚えていろよ……日陰シェイ
「ーーご命令ならば」

「承知」
 くすり、と再び笑んで日陰シェイドは応じた。
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