42 / 66
制裁 1 # R15
しおりを挟む
ーー風がざわめきを僕に届ける。僕は……風に乗ってくる音を、風が運んでくれる音を……聞き分けるから。
ここに居る僕は幸せで……後、もう少しだけ……、って随分引き伸ばしてきたと思う。でも、そろそろ終わりにしないといけない。兄さまの……足手纏いにはなりたくない……それに、何より僕は沢山、ーーしてきたから。償いは、しなければならないーー
§
中庭で、いつものように長い鎖に繋がれて、弟は、籐のソファに膝を抱いて座っていた。
それから、すっ……と、何かを聞くように弟は、手の平を耳に当てる。そして、意思を持って虚空を見上げ……そして、思う。
ーー恐らく、これで報告が行く。速ければ、今日。遅くとも数日内に、と。
そして弟の思惑通り、数刻の後には、衣擦れが聞こえ、弟の名が呼ばれた。
「ーーリシェ、何をしている」
兄の声は、硬い。
「ーー王宮が騒がしい ……ずっと。兄さま」
兄の目が険しくなり、空気が一瞬で緊張を孕んだ。
「どうして、それを?」
平坦に聞いてくる兄の声を、弟は恐ろしいと思う。ーーそれでも、答えた。
「風が運んでくれる。王宮の喧騒も……そして、疑懼も、何もかも。この程度の距離なら……僕は、聞ける」
兄の目が細められ、怒気が刷かれた。
「ーーリシェに、それを聞く許しを与えた覚えはない」
「申し訳ありません……でも!」
パシンッ! 乾いた音が響いた。
「自分の身の程が分かっていないのか?」
兄に、容赦なく張られた頬がジンジンと弟に痛みを伝えた。でも、本当に痛むのは頬ではない。
「でも、兄さまはいつも疲れている。……僕のせいで」
「ーー自惚れるな!」
バシッ! 今度は手の甲で反対側の頬を張られた。それでも構わずに、弟は言い続けた。
「僕に! できることがあるなら、させてください!! 僕を! 差し出して済むならそうしてーー僕は……それだけのことをした!!」
「秘匿裁判は結審させたーー兄の、いや王の意思に逆らうというのか」
「申し……訳、」
バシンッ!! 三度頬を強く張られ、弟は避けずにそれを受け、兄も知っているだろう自分の罪を語る。
「沢山、殺した……自分の手でも、人を操ってでもーー簡単だったよ!! 必要だったのは時間だけ……。沢山、殺してきたーー自分の望みのためだけに。影にも……沢山、お願いしたーー邪魔な存在を消すために……疑われないように、少しずつ、少しずつ……時間をかけて。僕の鷹の歌が届いたのかは、最後まで分からなかった……けれど、僕がお願いした通りに、欠けていったから……恐らく、聞いてくれていた」
兄が初めて見る、妖美な表情で、弟は歌うように繰り返して言うーー本当に簡単だった……簡単に殺してきた。自分の望みを叶えるためだけに、無辜の人々まで沢山ーー、と。
「兄上にお会いしたかった……もう一度だけ。その為にだったら、何でもしてきた。そして僕の願いは叶えられた……いいえ、それ以上の幸せを頂いてしまった。でも僕は、王の弟です……王弟として、まだ僕にできることがあるならば、しなければならない。僕を差し出して済むことならば、そうしなければ。ーーだから、もう……終わりにするべきです」
ここに居る僕は幸せで……後、もう少しだけ……、って随分引き伸ばしてきたと思う。でも、そろそろ終わりにしないといけない。兄さまの……足手纏いにはなりたくない……それに、何より僕は沢山、ーーしてきたから。償いは、しなければならないーー
§
中庭で、いつものように長い鎖に繋がれて、弟は、籐のソファに膝を抱いて座っていた。
それから、すっ……と、何かを聞くように弟は、手の平を耳に当てる。そして、意思を持って虚空を見上げ……そして、思う。
ーー恐らく、これで報告が行く。速ければ、今日。遅くとも数日内に、と。
そして弟の思惑通り、数刻の後には、衣擦れが聞こえ、弟の名が呼ばれた。
「ーーリシェ、何をしている」
兄の声は、硬い。
「ーー王宮が騒がしい ……ずっと。兄さま」
兄の目が険しくなり、空気が一瞬で緊張を孕んだ。
「どうして、それを?」
平坦に聞いてくる兄の声を、弟は恐ろしいと思う。ーーそれでも、答えた。
「風が運んでくれる。王宮の喧騒も……そして、疑懼も、何もかも。この程度の距離なら……僕は、聞ける」
兄の目が細められ、怒気が刷かれた。
「ーーリシェに、それを聞く許しを与えた覚えはない」
「申し訳ありません……でも!」
パシンッ! 乾いた音が響いた。
「自分の身の程が分かっていないのか?」
兄に、容赦なく張られた頬がジンジンと弟に痛みを伝えた。でも、本当に痛むのは頬ではない。
「でも、兄さまはいつも疲れている。……僕のせいで」
「ーー自惚れるな!」
バシッ! 今度は手の甲で反対側の頬を張られた。それでも構わずに、弟は言い続けた。
「僕に! できることがあるなら、させてください!! 僕を! 差し出して済むならそうしてーー僕は……それだけのことをした!!」
「秘匿裁判は結審させたーー兄の、いや王の意思に逆らうというのか」
「申し……訳、」
バシンッ!! 三度頬を強く張られ、弟は避けずにそれを受け、兄も知っているだろう自分の罪を語る。
「沢山、殺した……自分の手でも、人を操ってでもーー簡単だったよ!! 必要だったのは時間だけ……。沢山、殺してきたーー自分の望みのためだけに。影にも……沢山、お願いしたーー邪魔な存在を消すために……疑われないように、少しずつ、少しずつ……時間をかけて。僕の鷹の歌が届いたのかは、最後まで分からなかった……けれど、僕がお願いした通りに、欠けていったから……恐らく、聞いてくれていた」
兄が初めて見る、妖美な表情で、弟は歌うように繰り返して言うーー本当に簡単だった……簡単に殺してきた。自分の望みを叶えるためだけに、無辜の人々まで沢山ーー、と。
「兄上にお会いしたかった……もう一度だけ。その為にだったら、何でもしてきた。そして僕の願いは叶えられた……いいえ、それ以上の幸せを頂いてしまった。でも僕は、王の弟です……王弟として、まだ僕にできることがあるならば、しなければならない。僕を差し出して済むことならば、そうしなければ。ーーだから、もう……終わりにするべきです」
12
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


神官、触手育成の神託を受ける
彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。
(誤字脱字報告不要)
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

薬屋の受難【完】
おはぎ
BL
薬屋を営むノルン。いつもいつも、責めるように言い募ってくる魔術師団長のルーベルトに泣かされてばかり。そんな中、騎士団長のグランに身体を受け止められたところを見られて…。
魔術師団長ルーベルト×薬屋ノルン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる