悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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制裁 1 # R15

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 ーー風がざわめきを僕に届ける。僕は……風に乗ってくる音を、風が運んでくれる音を……聞き分けるから。

 ここに居る僕は幸せで……後、もう少しだけ……、って随分ずいぶん引き伸ばしてきたと思う。でも、そろそろ終わりにしないといけない。兄さまの……足手まといにはなりたくない……それに、何より僕は沢山、ーーしてきたから。つぐないは、しなければならないーー
           


 §



 中庭パティオで、いつものように長い鎖につながれて、弟は、ゼルソファファラに膝を抱いて座っていた。       
 それから、すっ……と、何かを聞くように弟は、手の平を耳に当てる。そして、意思を持って虚空こくうを見上げ……そして、思う。

 ーー恐らく、これで報告が行く。速ければ、今日。遅くとも数日内に、と。

 そして弟の思惑おもわく通り、数刻の後には、衣擦きぬずれが聞こえ、弟の名が呼ばれた。

「ーーリシェ、何をしている」
 兄の声は、硬い。

「ーー王宮がさわがしい     ……ずっと。兄さま」

 兄の目が険しくなり、空気が一瞬で緊張きんちょうはらんだ。

「どうして、それを?」

 平坦に聞いてくる兄の声を、弟は恐ろしいと思う。ーーそれでも、答えた。

「風が運んでくれる。王宮の喧騒けんそうも……そして、疑懼ぎぐも、何もかも。この程度の距離なら……僕は、

 兄の目が細められ、怒気がかれた。

「ーーリシェお前に、それを聞く許しを与えた覚えはない」
「申し訳ありません……でも!」

 パシンッ! 乾いた音がひびいた。

「自分の身のほどが分かっていないのか?」

 兄に、容赦ようしゃなく張られた頬がジンジンと弟に痛みを伝えた。でも、本当に痛むのは頬ではない。

「でも、兄さまはいつも疲れている。……僕のせいで」

「ーー自惚れるな!」

 バシッ! 今度は手の甲で反対側の頬を張られた。それでも構わずに、弟は言い続けた。

「僕に! できることがあるなら、させてください!! 僕を! 差し出して済むならそうしてーー僕は……それだけのことをした!!」

秘匿裁判ミスティシリヤは結審させたーー兄の、いや王の意思に逆らうというのか」
「申し……訳、」

 バシンッ!! 三度みたび頬を強く張られ、弟はけずにそれを受け、兄も知って理解しているだろう自分の罪を語る。

「沢山、殺した……自分の手でも、人をあやつってでもーー簡単だったよ!! 必要だったのは時間だけ……。沢山、殺してきたーー自分の望みのためだけに。シャドウにも……沢山、お願いしたーー邪魔じゃまな存在を消すために……疑われないように、少しずつ、少しずつ……時間をかけて。僕の鷹の歌ファルカ・ララが届いたのかは、最後まで分からなかった……けれど、僕がお願いした通りに、欠けていったから……恐らく、聞いてくれていた」

 兄が初めて見る、妖美ようび表情かおで、弟は歌うように繰り返して言うーー本当に簡単だった……簡単に殺してきた。自分の望みを叶えるためだけに、無辜むこの人々まで沢山ーー、と。

「兄上にお会いしたかった……もう一度だけ。その為にだったら、何でもしてきた。そして僕の願いは叶えられた……いいえ、それ以上の幸せを頂いてしまった。でも僕は、あなたの弟です……王弟として、まだ僕にできることがあるならば、しなければならない。僕を差し出して済むことならば、そうしなければ。ーーだから、もう……終わりにするべきです」
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