悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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密言 4 ー王弟と影 2ー ※ 「囁言」から「密言」へ改題

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「ーーえ……? ーーわぁ……っ!」

 敷布ごと、弟は床へ転がり落ちた。

 叫び声に、日陰シェイドが寝室へ飛び込んだ時には、弟はペタりと床に座り込み、呆然と……放心していた。

 日陰シェイドが、弟の肩に手を置くと、ゆっくりと日陰シェイドを振り仰ぎ、見開かれた眼からほろほろほろ……と、涙がこぼれ落ちた。

日陰シェイド……立てない……僕、腰から下、分からなくって、身体……痛い…………」

 言葉はつむがれるものの、半ば放心したままのようで、溢れる涙がぬぐわれることもなかった。

 日陰シェイドは、弟を横抱き抱き上げた。そのまま寝台に座り、弟を自分の中の膝に据わらせて抱き寄せ、その背をあやすように、ぽん、ぽんと手が置かれる。

「ぅ…………何……っで、今日は、……なぐさめて……もらえるの…………?」
 言いながらも、涙が止むことはなく。

「イヤだな……、小さな子みたいに……僕、本当に、小さい頃も、……こんな風に泣いたこと、ない…………なのに、ここでは何度……も」

 ーーこんな風に泣いてばかりで。

 そして弟は、泣き止み方が分らなかった。泣き止むことができないまま、涙がれるまで弟は、小さな子供のように日陰シェイドに抱かれ、あやされていた。

「ごめ……なさい、日陰シェイド。何度も……」
 目元も、鼻の頭も朱くして、弟は日陰シェイドあやまったが、日陰シェイドは首を振り、ぽんぽんと、背に手を置いてくれた。

「ありがとう、日陰シェイド……。ごめんなさい。辛いわけでも、哀しいわけでもないのに、本当に……何をしているんだろう……僕は」

 弟は、日陰シェイドを見ながら苦笑して言った。

「……泣いて、日陰シェイドにあやしてもらったなんて兄さまに知れたら、僕、お仕置きだよね……兄さまになら、何をされても構わないけれど……日陰シェイド、お願い。少しの間でいいです。内緒にしてください……」

 日陰シェイドが、首肯しゅこうし、弟はそっと安堵あんどの吐息をらした。

日陰シェイド……。でも、兄さま……やっぱり少し、意地悪だった…………よね……?」

 日陰シェイドは苦笑して頷き、弟の手の平を取り、指をすべらせる。

「ーーあるじ……? 兄さま? え…と、……兄さまに、直接聞きなさいってこと? ーーそう……なんだね。……でも、言えるかなぁ……」

 弟は、少しずつ頬に笑みを昇らせていく。

「僕……ここに、兄さまが来てくれるだけで嬉しくって……抱いてもらえるの嬉しくて……他のことはもう、どうでもよくなるから……」

 ーー幸せで……。そう言った刹那せつな、弟の表情かおに濃い影が過ぎ、そして消えた。

「え……と。日陰シェイド、もう大丈夫です。ハーブ水みずをもらえますか? それと……僕、動けないから、手間を掛けさせてしまうけれど……ルーティン支度―したく―をお願いしますね」
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