悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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密言 2 ー王弟と影1ー ※「囁言」 から「密言」へ改題

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日陰シェイドはーーシャドウなの?」
 ある日、唐突とうとつに弟は日陰シェイドにそう聞いた。

「…………」
 日陰シェイドいらえはない。

「ーーそうだよね。ごめんなさい。聞いてはいけないことを、聞いた」
 弟は、それでも声をつむぐ。

日陰シェイドは見ていた? パティオに出してもらった時、僕ね……こうして……聞きたくないない、って耳をふさいでうずくまっている姿を、兄さまに見られてしまってーー“鷹の歌ファルカ・ララ”が怖いって、言ってしまったんだ」

 ーー独り言として、言う

「でも、違う……違うんだ…………鷹の歌ファルカ・ララは、僕を生かしてくれたのだから」
 つーー…涙が頬を伝う。

「僕を呼び、僕を探す鷹の歌ファルカ・ララ。それが聞こえたときようやく僕は正気を取り戻した」

 ーー伝わるように

「……じい達には、声を出さないだけで、正気じゃなかったとは、知られていなかったと思うよ。普通に……人形のように? 生活は出来ていたらしいから。でも僕には……さらわれてからーー結構……長い間の記憶がない」

 後から後から流れる涙をそのままに、言葉を探す少しの沈黙の後、そっとつぶやく。

「僕を呼ぶ鷹の歌ファルカ・ララ……ーーああ、兄さまは僕を探している。僕は生きて……生きて、兄さまに殺されなきゃ、って」

 ーーだからね、鷹の歌ファルカ・ララを歌ってくれたシャドウに、ずっとお礼が言いたかったんだーー 
 そう消えるように囁き、弟は声を出さずに泣いた。

「リシェ様」

 聞こえてきた低い声に、弟は驚いて顔を上げた。

日陰シェイドあるじより、調教と日々の営《いとな》み以外で貴方に触れることを許されていない。ーーだからおなぐさめすることが難しい」

 弟は、目を見張って日陰シェイドを見る。

シャドウには伝わることでしょう」

「良い声……ごめんなさい、日陰シェイド。兄さまのめいそむかせた」

「構いません。ですが、あるじには隠し通してください。仕置しおかれますーー貴方が」

 それに対してはあっさり「それは、構わないけれど」と、弟は返したが、

「ーー僕のせいで日陰シェイドが罰を与えられては困るので。今を最後に……忘れます。日陰シェイド、目の朱みが引くようにしてくれますか」

 日陰シェイドは、冷たいハーブ水を絞った更紗さらさを弟に渡した。

 弟は、更紗さらさで顔をおおったまま言った。
  
日陰シェイド……、兄さま、僕の鷹の歌ファルカ・ララが届いた、って言っていた……でも、……、よね?」

 震える声で、弟は言った。
「僕…………僕ね、初めて鷹の歌ファルカ・ララが聞こえた時、多分、狂ったようにいた……。……兄さま、聞いて……ない、よね?」

 日陰シェイドは、静かに頷いた。

「ーーリシェ様の鷹の歌ファルカ・ララは……指向性なく、混乱したものでした……聞くことができたのは、近距離で探りを入れていたシャドウだけです。あるじはご存じありません……シャドウはお教えしていないーーできなかったのです。有りのまま伝えることを躊躇ためらい、結局、リシェール様の居場所をとらえたと報告するに留めました。それほど悲痛な慟哭どうこくだったのです。ーーそう、あるじが知って、正気でいられるとは思えなかった」

「そ……う。良かっ……た…………」
 日陰シェイドの言葉に、ひくっ……えっ…………と、今度こそ弟は、嗚咽おえつらした。

「僕が……こうして、聞いてしまうから……日陰シェイドは、僕に声……、……禁………………」

 ひっく、……ひっく…………ひっ……く…………

「リシェ様」

「…………な…に?」

「違います。
 ーーリシェに聞かせるのは、自分の声だけでいいーーと、あるじがそのように。
 自分以外の者の声を聞かせるのは、あるじの狭い心が、許せないそうです」

「ぅえ……っ…く、……え? ・・・・・・ えぇ?」

 目を丸くし、ーー弟は、聞かされた話し理由衝撃意外さに涙が止まった。
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