悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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再開 ー10年の時を超えてー

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 人払いされた王宮の地下牢の中で二人は再開を果たした。


「この様ななりで、御前ごぜんに身をさらしお目を汚すことこと、心よりおび申し上げます……陛下」

 金糸の長い髪は黒の紐で簡素に括られていた。
 兄と同じ色の美しいアイスブルーの瞳は伏せられ、その美麗な顔も、感情も伺い知ることはできない。

 手足にかせを掛けられ、とがびとが着用する質素な上下をその身にまとい、リシェール・ルシア・ウル・ハルキティスは、兄、銀糸の長い髪が輝く美丈夫美しい青年、今は王となったアレクセイ・イリアス・ウル・ハルキティス・ハルカを前に、両膝をついて跪き、深くこうべを垂れた。


 長の別離わかれの前、兄は15歳で“早熟の天才”と表され、既に政務・軍務に際立つ才を見せていたが、未だ立太子前の長子であるというだけの王子だった。

 そしてリシェール7歳、いずれ王として立つ兄の隣に並ぶ王弟としての自覚を既に抱き、王国の、いては兄の剣となり盾となることを心に誓っていた。ただし学びは始められていたものの真っ直ぐに兄王子を慕う、やはり王子こどもに過ぎなかった。

 早くに父王を亡し、代わりに即位した叔父は時を置かず病に倒れた。

 家臣らがそれぞれの門閥もんばつの利権を懸けて争うまでに時間はかからず、その勢いは弱体化した王家を飲み込み、後ろ楯うしろだて薄い兄弟を容易く引き裂いた。

 王弟派の決定的な敗北までーーヴィンガット砦を巡る戦いで、その望みが打ち砕かれるまで。兄弟の別離より実に10年という年月が重ねられた。

 別の側面から窺いうかがい見れば、それは兄弟それぞれが自らの権をその手に奪い返し、曲がりなりにも家臣団を掌握しょうあくするまでに要した時間でもあった。

 兄弟の歳を思えばある意味、それは驚くほど短い時間と言えたが、一方の二人にとっては、出口が見えない永久とわに等しいやみの中だった。

 リシェールは王への反逆はんぎゃくとがを負い、兄の前で跪きひざまずき、沙汰さたを待つ身となったが、例え咎人としてであったとしても、焦がれ続けた強く美しい兄のところまで、やっとたどり着いたのだった。


「……リシェール」
「はい、陛下」
  弟の名を呼び沈黙した兄をリシェールは静かに待った。


「ーー長かった」
 衣擦きぬずれの音と共にその気配が近づき、瞬間リシェールはアレクセイに、かきいだかれていた。

「長かった……長かった! 長かった!! リシェール! リシェール! リシェール!!」
 強く抱き締めた弟の肩に顔を埋め、アレクセイは声を震わせて弟の名を呼び続けた。

「はい……。本当に、長かったです…………“兄上”」

 リシェールのまなじりをひと筋、涙が伝った。
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