幻葬奇譚-mein unsterblich Alchimist-

ドブロクスキー

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またもリッチな夜でした

その11

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「只今ー」
 家の玄関をくぐってすぐ、宮沢亮一は下駄箱の横に置かれた段ボール箱に気が付いた。
 それを待っていたかのように、台所へと繋がる廊下の奥から母の声が投げ掛けられる。
「お帰りなさい。少し前に何か届いたわよ」
「はーい」
 母の言葉に亮一は何処か浮かない面持ちで、一〇〇サイズの段ボール箱を見つめた。
 それから程無くして、亮一は自室に戻った。
 六畳程の室内は小ざっぱりとしていて、部屋の隅に置かれた勉強机の横には海外のロックバンドのポスターが貼られていた。窓の横手に置かれた本棚には音楽や服飾の雑誌を始めとする様々な書物が整然と収められ、文庫本の並べられた棚の手前には拳大程の小さな水晶玉が飾られていた。
 段ボール箱を両手に抱えて部屋に入った亮一は制服から着替えるのもそこそこに、床に下ろした宅配便を見つめた。
 何処か虚ろな眼差しであった。
 カーテンの下ろされた部屋の真ん中で、亮一は届けられた箱を開き始めた。
 宵闇に覆われ始めた外からは最早誰の声も伝わっては来ない。
 室内はひたぶるに静かであった。
「……わたくしと言う現象は、仮定された有機交流電灯の、一つの青い照明です……」
 箱に巻き付けられたテープをカッターで切り裂きながら、少年は一人独白した。
「……風景や皆と一緒に、せわしく忙しく明滅しながら、如何にも確かに灯り続ける因果交流電灯の、一つの青い照明です……」
 そして間も無く、封のされた箱は開かれた。
 その中に収められていたのは、沈殿する闇であった。
 箱の内側の半ば以上を真っ黒な闇が覆っている。
 頭上の照明にかすかな光沢を返すそれは、実際には黒い布地であった。
 カーテンの生地であろうか。厚みのある大きな布が丁寧に折られて箱の中に収納されていたのであった。
 ビニールに包まれた布地を取り出した後、亮一は箱の隅に押されて布に隠されていたもう一つの品物にも手を伸ばす。
 それは一個の仮面であった。
 遠くイタリアはヴェネツィア・カーニバルで用いられる、仮装用の仮面である。きらびやかな縁取りが施された仮面は紫と白で豪華に染め上げられ、額から上にはピエロ帽を模した布の装飾が取り付けられている。
 道化師の仮面を手に取って、亮一はそれをじっと見つめた。
 仮面の穴の穿うがたれた両目の部分からは、ただ己の部屋の景色が見えるばかりであり、笑みをたたえた如何にも饒舌そうな表情をのぞかせる仮面は、しかし現実に何も語り出しはしない。
 堆積たいせきして行く静けさのみが少年の周囲を満たしていた。
「……あらゆる透明な幽霊の複合体……」
 眼前の仮面とは正反対の冷たい表情を浮かべて、亮一は小さく呟いた。
 宵の冷め行く空気と共に、部屋を覆う静寂もその度合いを濃くして行った。
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