温厚寮長をやっていますがこの度プッチンします。

編入生がやって来た

温厚な寮長

「なあ！なんで寮長なんてやってるんだ？！？！」


「勉強するなんて銀ちゃんって生真面目なんだな！！！」


「そんなことしてるなら俺と遊ぼうぜ！！！」



　静まり返るテラス席。

　その中央の席で大声で騒ぐモジャモジャ頭。



　その言葉すべてが僕に向いていると考えると僕は非常に悲しい。



　さっきなんてテラス席に出てこようとしたカップル(ゲイカップル)がガラスドアの前で気まずそうにこちらを見てから去っていった。



「なあー！！何して遊ぶか？！？！」



　うーん、遊ぶのは確定しちゃってるのかぁ…。



　正直なところ、2年生である僕としては来年の受験のために勉強のスケジュールはなるべく崩したくは無い。



　けれど、ひとりで佐々木くんを騒がせるのも周りに迷惑だし、彼自身も哀れだ。






　​─────ガラガラ…。



「っと、孝太くん。どこに行ってたの？僕が注文してくるから席を取ってくれるって言ってたじゃない。」



　現れたのは姫のような可憐さを惜しげも無く辺りに振りまき続ける長髪の人物だった。



　その足が一歩二歩と近づくにつれて佐々木くんしか見えていなかった瞳に僕も写ったらしい。



「寮長じゃないですか。どうして孝太くんと一緒に…？」



　訝しげに細められる眼。



　その目が語っているのは、



　(なんで、貴方なんかが孝太くんと一緒にいるんだ。もしかして僕と同じように孝太くんの健気さに落とされた…？)



　うん。やっぱり不本意なことを考えていたようだ。

　その証拠に佐々木くんに対しての声色とは打って変わって僕に対する言葉は冷たい。



　そして誤解しないでほしいな。

　僕は彼のこと、魅力的だとは思わないし。



「肇はじめじゃねーか！！今な、銀ちゃんと遊んでたんだぞ！！！肇も一緒に遊ぶか？」



　いつの間にか呑気にひとり神経衰弱をやっていた佐々木くんが遊びに誘う。

　さすがはマイペース。



「それじゃあ、僕も孝太くんと遊ぼうかなっ！​───そういえば名乗るのが遅れてしまいすみません。僕は大塚肇おおつかはじめと言います。寮長の噂はかねがね伺っています。」



「大塚くんね。噂ってどんなのかな？色々ありすぎて覚えてなくてねぇ…。」



　まあ、このリアクションから考えると舎監室でヤリ捨てているって噂の方だろうね。



　まあ、基本1年生とは関わらないから放置してるけど。



　噂はさておき、お迎えも来たことだし僕は舎監室にろうかな。



　耳元で騒がれるのも、敵視されるのも音が滅入るしさ。



「僕はそろそろ寮に帰るから、二人でゆっくりしてから帰ってきてくださいねぇ。あ、それと佐々木くんがオムライス注文したからあと少しで届くと思うよ。」



　早急に荷物をリュックに詰め込む。この際順番は無視だ無視。



　僕の行動にポカーンとする大塚くん。



　対して佐々木くんは…。



「銀ちゃん帰っちまうのか？！一緒に遊んでから帰ろうぜ！！」



　我関せずと普通に遊びに誘ってくる。



「ごめんねぇ～。その分帰りに舎監室に寄ってきてもらえるかな。何かお菓子用意しておくよ。」



「ならしょうがねえなぁっ！！ポッ〇ー入れといてくれよ！！！」



　僕は握りこぶしを密かにしながら舎監室への帰路に着いた。