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編入生がやって来た
温厚な寮長
しおりを挟む「編入生、か…。」
レトロな雰囲気の舎監室の中に寮長、伊部銀次郎の声が落ちる。
「ああ、理事長はその編入生の世話をお前に任せたいらしい。」
僕と会話している男の名前は高良伊武作、生徒会執行部で会長を務めている男で、校内の人気を二分するイケメンの一人だ。
「わかったけど、僕もそれなりに忙しいから付きっきりにはなれないかもしれないよ。」
「まあ、流石に厳しいか…。」
高良は眉根を寄せて考え込んでしまう。まあ、理事長も理事長で中途半端な時期に編入生を組み込もうとしたものだから、生徒会の業務の方にも若干の支障が出ているのだろう。
この学校の生徒にとって外部からの新入生や編入生はたった一雫の甘露にも等しい刺激になる。
それもあって大方、生徒会の方の役員も上の空な連中が多いんだろうな…。
よし、少しはこの苦労性の生徒会長様に救いの手でも出してやるか。
「確か、1‐Sの学級委員長が人数余りで一人部屋だったはずだから、世話係も兼ねて彼の部屋に入れておくよ。」
「本当か?!?!────…っと、すまない。取り乱してしまった。」
「いいよいいよ。僕も出来る限りのサポートは熟せるだけの技量はあるからね。」
自慢できるほどでは無いけれど、この星貴男校で上位の成績は出している。技量不足とまでは行かないはずだ。
「とりあえず、高良は今日はしっかり休みなよ。はいこれ、ラベンダースティック。」
原産地北海道から配送されたラベンダーで編み込んだスティックだ。最近、忙しいのか目の下の隈をコンシーラーで隠しているくらいだからな。少しはリラックスできるだろ。
「わざわざありがとうな。じゃあ、また用があったら来る。」
そう言ってあいつは帰ってしまった。
高良の出ていった舎監室のドアを眺める。
「編入生かぁ~、まぁた問題が起きなければいいんだけどなぁ。」
昨年は酷かった。外部生に好意を抱いた内部生がノンケである外部生に腹を立て、強姦未遂を起こしたこととか、
ある親衛隊が外部生をいじめたりとか。
このとき、僕は思いもしなかった。
───────その編入生こそがこの学園を狂わせるきっかけとなることなど。
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