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番外編~フィオ・ソリチュード~
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「あうあうあう……」
テレビに出るのが明日に決まってからワタルはずっとこの調子……。
ベッドで私を抱いてごろごろしながらずっとあうあう言ってる。
「そんなに嫌なの?」
「そんなに嫌なんです……」
「どうして?」
「どうしてって……だって見ず知らずの大勢に晒し者になるんだぞ?」
「……協力を求めるんじゃないの?」
「それは……王様と天明で足りると思うし」
なんか小声でぶつぶつ言ってる。
「本当にワタルは目立つ事が嫌いなのね、勲章を貰う時だってそうだし」
「やめろ……あれはトラウマだ……」
ティナがからかうように頭を撫でるのから逃げるように私の髪に顔を埋めている。
ちょっと、くすぐったい。
「ワタル、フィオより私の方が抱き心地が良いはずだぞ」
「え~、フィオのこのすっぽり収まる感じが良いんだよ」
「くっ、自慢げな顔がムカつく、フィオ代われ」
「や」
ナハトが私を引き剥がそうとするけど丸くなってワタルに体を押し付ける。
今はここは私の場所。
「そうだワタル、頑張ったらご褒美あげるわよ?」
「ご褒美?」
「そうねぇ、私がなんでも言う事聞いてあげるっていうのはどう?」
「……ティナって基本的に俺の言う事聞いてくれるじゃん」
「くっ……普段の態度が裏目に……」
「ならワタル私が――」
「ナハトも同じじゃん」
「くっ……」
「ではワタル様私が――」
「いや、だからみんな俺の話聞いてくれるし」
「なら旦那様は何が欲しいのじゃ?」
みんなにじっと見られて私に回す腕に少しだけ力が込もった。
「……てる」
「主聞こえぬぞ」
「欲しいものはもうみんなからもらってるって言ってんの! ……俺の事受け入れてくれたし、昨日の事だけで十分幸せなの!」
「あらあらワタル様ったら、真っ赤ですよ」
え、え? 見たいんだけど――ワタルがぎゅってしがみついてきて後ろが見れない。
シロナが赤くなった顔でニヤニヤしながらこっちを見てくる。
見たい!
「うにゃぁ……」
ミシャも茹で上がってるし。
「もぅ、ワタルは可愛いわねぇ」
「ワタル、私も幸せだぞ!」
「私も、私もみんなに受け入れてもらえて幸せよ!」
「くく、たしかに、主の傍に居るだけで楽しい事が尽きぬしな」
「いつももらってばかりと思っていたのですが私たちもお返し出来ていたのですね」
「ワタル、そんな風に思ってくれるなら私たちの未来の為にテレビに出るの頑張れませんか?」
「うっ……頑張る……」
「結局リオなのね」
リオにあんな風に微笑まれたら誰も断れないと思う。
ここはテレビの施設、なんだか色んな機械があって変な感じ。
「それでは両陛下のお話が終わったあとに皆さんには移動してもらって能力の事などを紹介させていただきますのでよろしくお願いします」
異世界の国王と女王が訪れているからか、それとも日本政府が付けた護衛を見て萎縮してるのか、テレビの職員たちはみんな緊張してるように見える。
まぁ負けず劣らずワタルも緊張しきってるんだけど……。
「旦那様? 大丈夫なのか? どのような魔物にも臆する事なく立ち向かうというのに、今はなんとも心許ないといった具合なのじゃ」
本当に……命のやり取りがあるわけでもないのになんでそんなにガチガチになるんだろ?
「あぁミシャ~、もう俺帰りたいんだけどいいかな? いいよな!?」
錯乱したみたいにミシャの肩を掴んで揺すってる。
注目が集まってるけどそれはいいの?
「良いわけないだろ、航はクロイツの騎士の代表みたいなものだぞ? 陛下がいらっしゃるのにそんなの許されるわけないだろ。それに自分で決めたんじゃないか、往生際が悪いぞ」
「ふざっけんなよ、お前は慣れてるかもしれないけどこっちは人目に晒されるだけで精神ガリガリ削れてんだよ。クロイツの騎士なら紅炎の騎士様が居るだろうが! ものっそい余裕そうだし紅月に任せても大丈夫なはずだ」
「そろそろ本番入りまーす!」
「っ!? か、帰る――」
「観念なさいな、貴方とて騎士でタカアキの友人でしょう? 少しは泰然として構えているタカアキを見習いなさいな」
指定された席に座って寛いでいるソフィアにそんな事を言われてワタルは顔を顰めた。
そこまで嫌なんだ……今のワタルを見たらディアボロスや巨人を倒した英雄って信じてもらえなさそう。
「大丈夫よワタル、私が隣に居てあげる」
「もちろん私も居るぞ」
ティナとナハトが両脇に付いたのに合わせて私もワタルの膝に――なんで押し返すの?
昨日は私を抱いて落ち着いてたくせに……指定された席に着けって視線を送ってくる……ぶぅ。
必死だから聞いてあげよう。
「はい、今日も始まりましたザ・情報ワイドショー。今日は特別なゲストの方にお越しいただいておりますのでいつもと違う特別な構成でお送りします」
なんで始まったばかりでそんな絶望顔なの……。
「こちらはクロイツ国王、アルバ・クロイツ陛下、そしてこちらがドラウト国女王ソフィア・リズ・ドラウト陛下です。今回特別にお時間をいただき出演していただく事になりました。そして陛下の隣にいらっしゃるのがクロイツで騎士をされている紅月麗奈さん、如月航さん、ソフィア陛下の隣に居る玖島天明さんはドラウトの騎士団団長だそうです。それからクオリア国王女のティナ殿下、ダークエルフ族長の御息女ナハト様です」
私たちの紹介はないんだ。
まぁあとでなにかやるみたいだしその時なのかな。
「よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願い致します」
談笑から始まり、王様とソフィアがヴァーンシアの様子を話しつつ向こうでの映像も見せながら自分の国と異界者との関わりなんかを語っている。
進行役以外も二人の話に聞き入ってる。
テレビで何度もヴァーンシアの映像が流れたりしてたけど、やっぱり実際に見た事ない人間からしたら珍しいのかもしれない。
「我々日本人はクロイツの壮麗な王宮と超巨大な大樹という光景にも驚いたものですが、この水晶宮もまた雄大で素晴らしいものですね。全てが水晶で出来ているのでしょうか?」
「外側は水晶で出来ていますが内装には金剛石も使われていて共に我が国の特産品で自慢の一つですわ」
「これだけの規模の城が出来てしまうというのは産出量がとても多いのでしょうか……想像もつきませんね」
救援要請とは関係がない話が続きつつも次第に話題は魔物の事に変わっていった。
そして魔物の映像が流れ、クロイツ王が二度も自国を襲った魔物について話していく、地を埋め尽くす異常な数の敵、破壊された人の領域、民の苦悩と不安、それと私たちの報告と記憶の閲覧で知った怪物との激闘、そのいずれでもワタルが――異界者の協力が必要不可欠だった事を必死に話してくれた。
その度に注目が集まるからワタルは居心地が悪そうだけど、周りの目が明らかに変わっていってるから私は気分良い。
そしてソフィアも自国の被害とヴァーンシアでのタカアキ達異界者の存在の大きさを語った。
「今語ったように我が国は敵を退ける事も、その後の復興も多くの異界者に助けられておる。その事に対して感謝もしておるし死の危険を経験している者たちにはすまなくも思う、このような頼みは厚顔無恥と言われる類いのものだろう。だが、それを承知の上でこの世界の住人達に頼みたい。どうか我が世界を蝕む禍乱を払う為の力を貸して欲しい、余は民が穏やかに暮らしていた静謐なる世を取り戻したい。その為にどうか……本来であれば我らの世界の問題は我ら自身が解決すべきものだろう、だが此度の敵は異世界に通ずる術を持つもの、放置すれば他世界にも害意を振り撒き兼ねん。だからどうか……切に頼む」
王様が頭を下げたのに倣いソフィアも続いた事でテレビの職員たちに動揺が走った。
国に君臨する者は頭なんか下げない、ましてやこの様子はテレビで大勢が見ている、それでも下げた。
この意味をテレビを見てる人たちは分かるのかな。
「りょ、両陛下お顔をお上げください。私どもでは判断できるものではありませんが、確実に両陛下のお気持ちは伝わりましたので、ですからどうか…………」
「ん、困らせたようですまぬな。ここでの様子は世界に広く伝わると聞いたのでな、何事かを頼むのであれば頭を下げるのが普通であろう? 余は立場上そのような事は殆ど経験した覚えがないが、礼儀としてこれが正しかろう。驚かせてすまなかった」
「い、いえ! とんでもございません! で、では! 異世界の為に戦っておられるお三方にお聞きしたいのですが、何故命を懸けてまで戦えるのでしょうか? お三方の経歴を拝見したんですが特に武術をやっていたという訳でもありませんよね、恐怖はないんでしょうか? 特に如月さんは陛下のお話にあったようにとても危険な経験をされてますよね? それなのに何故戦えるのですか?」
話題を変えたかったみたいで進行役は少し困り顔でワタルに話を向けた。
ワタルは若干嫌そうな顔して視線を彷徨わせ――。
「俺は――そうですね…………俺には何もなかった。夢も、生きる希望も、目的も、引きこもってたから学もない、友達も恋人もいない。家族は失った。空っぽで無気力、母さんの命の代わりにおりた金を浪費する生きた屍、毎日死んだように生きていた。そんな時向こうの世界に飛ばされて殺されかけて、罰なのかなって思いました。そんな状態でふらふらと彷徨った果てにこんな俺を助けてくれる人に出会いました」
あれだけ嫌そうにしてたのに私とリオに視線を向けると一瞬凄く柔らかく笑った。
「その後もそういう人達と出会って、今ここに俺は居ます。だからその人達出会えたあの世界を、その人達の為にも魔物の脅威から守りたい、その為に出来る事は何でもする……もう、後悔するような選択は二度としたくない。それだけです」
テレビで自分の事をあんなに話すとは思わなかった。
タカアキはワタルの今までの暮らしを聞いてなかったみたいで本当に驚いている。
王様も紅月でさえもそれは同じみたいで言葉を失っていた。
「その……言いにくいですが、如月さんが今まで置かれていた引きこもりの状況を考えますと陛下のお話にありました腕の切断や一月以上の昏睡状態などを経験を経て尚立ち向かえるというのは不思議なのですが」
ワタルの性格を知らないとそんな風に映るんだ……ワタルは誰かの為に無茶をする、出来てしまう、そういうところがかっこよくもあり、怖くもある。
選択を迫られたらたぶん迷わないから――。
「失いたくないからです。誰だって好きな女の為ならなんだって出来るもんでしょう? だから俺は戦います」
もぅ……そういう顔するのはズルい。
少し緊張しながらも私たちを見て言い切るワタルを見てみんなどこか困り顔してる。
「なるほど、今傍に居る女性たちの存在が如月さんを奮い立たせているんですね。玖島さんや紅月さんは如何でしょう?」
「あたしは……成り行きって部分が多いけど、まぁそうね、あっちに妹も友達も居るし、あたしにも何か出来るだけの力があると思うから――ま、馬鹿が友達を泣かせないように手伝ってやろうってところかしら?」
いたずらっぽく笑った紅月がリオに目配せしてる。
「俺も航と似たようなものです。大切な人を永久に守ると誓いましたから、それに五年以上ヴァーンシアで暮らしたのであの世界への愛着もありますし平和であってほしいんです。それから、アルバ陛下も仰いましたが敵は異世界と通じる力があります。俺たち日本人が向こうへ飛ばされた原因も魔物ですし、魔物を放置すればこの先どんな被害がこの世界にも降りかかるかも分かりません。その危険を排する為にも魔物は討つべきなんです」
「魔物の力が異世界に飛ばされる原因だとは聞き及んでいます。帰還者もかなりの数に上りましたし、もしかすると魔物が自らの意思でこの世界に来る事が出来るという事も考えますと、確かにヴァーンシアの方々に協力して魔物を排する必要があるように思えますね。そろそろお時間となりました。両陛下、今日は貴重なお話をありがとうございました」
「うむ、有意義な時間であった。こちらこそ礼を言おう」
「この後は場所を変えて如月さん達の能力の紹介などがあります。視聴者の皆さんが気になっているドラゴンについても紹介させていただきますので引き続きご覧下さい」
ワタルが驚愕してる……ここに来た時に最初に説明してたけど聞いてなかったの?
私たちは嫌がるワタルを引き摺って外に出る事になった。
テレビに出るのが明日に決まってからワタルはずっとこの調子……。
ベッドで私を抱いてごろごろしながらずっとあうあう言ってる。
「そんなに嫌なの?」
「そんなに嫌なんです……」
「どうして?」
「どうしてって……だって見ず知らずの大勢に晒し者になるんだぞ?」
「……協力を求めるんじゃないの?」
「それは……王様と天明で足りると思うし」
なんか小声でぶつぶつ言ってる。
「本当にワタルは目立つ事が嫌いなのね、勲章を貰う時だってそうだし」
「やめろ……あれはトラウマだ……」
ティナがからかうように頭を撫でるのから逃げるように私の髪に顔を埋めている。
ちょっと、くすぐったい。
「ワタル、フィオより私の方が抱き心地が良いはずだぞ」
「え~、フィオのこのすっぽり収まる感じが良いんだよ」
「くっ、自慢げな顔がムカつく、フィオ代われ」
「や」
ナハトが私を引き剥がそうとするけど丸くなってワタルに体を押し付ける。
今はここは私の場所。
「そうだワタル、頑張ったらご褒美あげるわよ?」
「ご褒美?」
「そうねぇ、私がなんでも言う事聞いてあげるっていうのはどう?」
「……ティナって基本的に俺の言う事聞いてくれるじゃん」
「くっ……普段の態度が裏目に……」
「ならワタル私が――」
「ナハトも同じじゃん」
「くっ……」
「ではワタル様私が――」
「いや、だからみんな俺の話聞いてくれるし」
「なら旦那様は何が欲しいのじゃ?」
みんなにじっと見られて私に回す腕に少しだけ力が込もった。
「……てる」
「主聞こえぬぞ」
「欲しいものはもうみんなからもらってるって言ってんの! ……俺の事受け入れてくれたし、昨日の事だけで十分幸せなの!」
「あらあらワタル様ったら、真っ赤ですよ」
え、え? 見たいんだけど――ワタルがぎゅってしがみついてきて後ろが見れない。
シロナが赤くなった顔でニヤニヤしながらこっちを見てくる。
見たい!
「うにゃぁ……」
ミシャも茹で上がってるし。
「もぅ、ワタルは可愛いわねぇ」
「ワタル、私も幸せだぞ!」
「私も、私もみんなに受け入れてもらえて幸せよ!」
「くく、たしかに、主の傍に居るだけで楽しい事が尽きぬしな」
「いつももらってばかりと思っていたのですが私たちもお返し出来ていたのですね」
「ワタル、そんな風に思ってくれるなら私たちの未来の為にテレビに出るの頑張れませんか?」
「うっ……頑張る……」
「結局リオなのね」
リオにあんな風に微笑まれたら誰も断れないと思う。
ここはテレビの施設、なんだか色んな機械があって変な感じ。
「それでは両陛下のお話が終わったあとに皆さんには移動してもらって能力の事などを紹介させていただきますのでよろしくお願いします」
異世界の国王と女王が訪れているからか、それとも日本政府が付けた護衛を見て萎縮してるのか、テレビの職員たちはみんな緊張してるように見える。
まぁ負けず劣らずワタルも緊張しきってるんだけど……。
「旦那様? 大丈夫なのか? どのような魔物にも臆する事なく立ち向かうというのに、今はなんとも心許ないといった具合なのじゃ」
本当に……命のやり取りがあるわけでもないのになんでそんなにガチガチになるんだろ?
「あぁミシャ~、もう俺帰りたいんだけどいいかな? いいよな!?」
錯乱したみたいにミシャの肩を掴んで揺すってる。
注目が集まってるけどそれはいいの?
「良いわけないだろ、航はクロイツの騎士の代表みたいなものだぞ? 陛下がいらっしゃるのにそんなの許されるわけないだろ。それに自分で決めたんじゃないか、往生際が悪いぞ」
「ふざっけんなよ、お前は慣れてるかもしれないけどこっちは人目に晒されるだけで精神ガリガリ削れてんだよ。クロイツの騎士なら紅炎の騎士様が居るだろうが! ものっそい余裕そうだし紅月に任せても大丈夫なはずだ」
「そろそろ本番入りまーす!」
「っ!? か、帰る――」
「観念なさいな、貴方とて騎士でタカアキの友人でしょう? 少しは泰然として構えているタカアキを見習いなさいな」
指定された席に座って寛いでいるソフィアにそんな事を言われてワタルは顔を顰めた。
そこまで嫌なんだ……今のワタルを見たらディアボロスや巨人を倒した英雄って信じてもらえなさそう。
「大丈夫よワタル、私が隣に居てあげる」
「もちろん私も居るぞ」
ティナとナハトが両脇に付いたのに合わせて私もワタルの膝に――なんで押し返すの?
昨日は私を抱いて落ち着いてたくせに……指定された席に着けって視線を送ってくる……ぶぅ。
必死だから聞いてあげよう。
「はい、今日も始まりましたザ・情報ワイドショー。今日は特別なゲストの方にお越しいただいておりますのでいつもと違う特別な構成でお送りします」
なんで始まったばかりでそんな絶望顔なの……。
「こちらはクロイツ国王、アルバ・クロイツ陛下、そしてこちらがドラウト国女王ソフィア・リズ・ドラウト陛下です。今回特別にお時間をいただき出演していただく事になりました。そして陛下の隣にいらっしゃるのがクロイツで騎士をされている紅月麗奈さん、如月航さん、ソフィア陛下の隣に居る玖島天明さんはドラウトの騎士団団長だそうです。それからクオリア国王女のティナ殿下、ダークエルフ族長の御息女ナハト様です」
私たちの紹介はないんだ。
まぁあとでなにかやるみたいだしその時なのかな。
「よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願い致します」
談笑から始まり、王様とソフィアがヴァーンシアの様子を話しつつ向こうでの映像も見せながら自分の国と異界者との関わりなんかを語っている。
進行役以外も二人の話に聞き入ってる。
テレビで何度もヴァーンシアの映像が流れたりしてたけど、やっぱり実際に見た事ない人間からしたら珍しいのかもしれない。
「我々日本人はクロイツの壮麗な王宮と超巨大な大樹という光景にも驚いたものですが、この水晶宮もまた雄大で素晴らしいものですね。全てが水晶で出来ているのでしょうか?」
「外側は水晶で出来ていますが内装には金剛石も使われていて共に我が国の特産品で自慢の一つですわ」
「これだけの規模の城が出来てしまうというのは産出量がとても多いのでしょうか……想像もつきませんね」
救援要請とは関係がない話が続きつつも次第に話題は魔物の事に変わっていった。
そして魔物の映像が流れ、クロイツ王が二度も自国を襲った魔物について話していく、地を埋め尽くす異常な数の敵、破壊された人の領域、民の苦悩と不安、それと私たちの報告と記憶の閲覧で知った怪物との激闘、そのいずれでもワタルが――異界者の協力が必要不可欠だった事を必死に話してくれた。
その度に注目が集まるからワタルは居心地が悪そうだけど、周りの目が明らかに変わっていってるから私は気分良い。
そしてソフィアも自国の被害とヴァーンシアでのタカアキ達異界者の存在の大きさを語った。
「今語ったように我が国は敵を退ける事も、その後の復興も多くの異界者に助けられておる。その事に対して感謝もしておるし死の危険を経験している者たちにはすまなくも思う、このような頼みは厚顔無恥と言われる類いのものだろう。だが、それを承知の上でこの世界の住人達に頼みたい。どうか我が世界を蝕む禍乱を払う為の力を貸して欲しい、余は民が穏やかに暮らしていた静謐なる世を取り戻したい。その為にどうか……本来であれば我らの世界の問題は我ら自身が解決すべきものだろう、だが此度の敵は異世界に通ずる術を持つもの、放置すれば他世界にも害意を振り撒き兼ねん。だからどうか……切に頼む」
王様が頭を下げたのに倣いソフィアも続いた事でテレビの職員たちに動揺が走った。
国に君臨する者は頭なんか下げない、ましてやこの様子はテレビで大勢が見ている、それでも下げた。
この意味をテレビを見てる人たちは分かるのかな。
「りょ、両陛下お顔をお上げください。私どもでは判断できるものではありませんが、確実に両陛下のお気持ちは伝わりましたので、ですからどうか…………」
「ん、困らせたようですまぬな。ここでの様子は世界に広く伝わると聞いたのでな、何事かを頼むのであれば頭を下げるのが普通であろう? 余は立場上そのような事は殆ど経験した覚えがないが、礼儀としてこれが正しかろう。驚かせてすまなかった」
「い、いえ! とんでもございません! で、では! 異世界の為に戦っておられるお三方にお聞きしたいのですが、何故命を懸けてまで戦えるのでしょうか? お三方の経歴を拝見したんですが特に武術をやっていたという訳でもありませんよね、恐怖はないんでしょうか? 特に如月さんは陛下のお話にあったようにとても危険な経験をされてますよね? それなのに何故戦えるのですか?」
話題を変えたかったみたいで進行役は少し困り顔でワタルに話を向けた。
ワタルは若干嫌そうな顔して視線を彷徨わせ――。
「俺は――そうですね…………俺には何もなかった。夢も、生きる希望も、目的も、引きこもってたから学もない、友達も恋人もいない。家族は失った。空っぽで無気力、母さんの命の代わりにおりた金を浪費する生きた屍、毎日死んだように生きていた。そんな時向こうの世界に飛ばされて殺されかけて、罰なのかなって思いました。そんな状態でふらふらと彷徨った果てにこんな俺を助けてくれる人に出会いました」
あれだけ嫌そうにしてたのに私とリオに視線を向けると一瞬凄く柔らかく笑った。
「その後もそういう人達と出会って、今ここに俺は居ます。だからその人達出会えたあの世界を、その人達の為にも魔物の脅威から守りたい、その為に出来る事は何でもする……もう、後悔するような選択は二度としたくない。それだけです」
テレビで自分の事をあんなに話すとは思わなかった。
タカアキはワタルの今までの暮らしを聞いてなかったみたいで本当に驚いている。
王様も紅月でさえもそれは同じみたいで言葉を失っていた。
「その……言いにくいですが、如月さんが今まで置かれていた引きこもりの状況を考えますと陛下のお話にありました腕の切断や一月以上の昏睡状態などを経験を経て尚立ち向かえるというのは不思議なのですが」
ワタルの性格を知らないとそんな風に映るんだ……ワタルは誰かの為に無茶をする、出来てしまう、そういうところがかっこよくもあり、怖くもある。
選択を迫られたらたぶん迷わないから――。
「失いたくないからです。誰だって好きな女の為ならなんだって出来るもんでしょう? だから俺は戦います」
もぅ……そういう顔するのはズルい。
少し緊張しながらも私たちを見て言い切るワタルを見てみんなどこか困り顔してる。
「なるほど、今傍に居る女性たちの存在が如月さんを奮い立たせているんですね。玖島さんや紅月さんは如何でしょう?」
「あたしは……成り行きって部分が多いけど、まぁそうね、あっちに妹も友達も居るし、あたしにも何か出来るだけの力があると思うから――ま、馬鹿が友達を泣かせないように手伝ってやろうってところかしら?」
いたずらっぽく笑った紅月がリオに目配せしてる。
「俺も航と似たようなものです。大切な人を永久に守ると誓いましたから、それに五年以上ヴァーンシアで暮らしたのであの世界への愛着もありますし平和であってほしいんです。それから、アルバ陛下も仰いましたが敵は異世界と通じる力があります。俺たち日本人が向こうへ飛ばされた原因も魔物ですし、魔物を放置すればこの先どんな被害がこの世界にも降りかかるかも分かりません。その危険を排する為にも魔物は討つべきなんです」
「魔物の力が異世界に飛ばされる原因だとは聞き及んでいます。帰還者もかなりの数に上りましたし、もしかすると魔物が自らの意思でこの世界に来る事が出来るという事も考えますと、確かにヴァーンシアの方々に協力して魔物を排する必要があるように思えますね。そろそろお時間となりました。両陛下、今日は貴重なお話をありがとうございました」
「うむ、有意義な時間であった。こちらこそ礼を言おう」
「この後は場所を変えて如月さん達の能力の紹介などがあります。視聴者の皆さんが気になっているドラゴンについても紹介させていただきますので引き続きご覧下さい」
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