黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

黒い閃光

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「降りろっ」
「うわっ!?」
 壁まで戻ってきたクーニャは自衛隊の三人を放り出すとすぐに反転して加速した。
「もうちょっと丁寧に扱えよロリドラゴン!」
 瞬く間に巨人の直上に辿り着いたクーニャが急降下して相手を踏み付け引き倒した。
 続けざまに雷を纏った爪で引き裂こうと腕を振り下ろしたけど――。

「ま、マジかよあのバケモン……」
 クーニャの腕を受け止めた巨人は押し返してそのまま持ち上げた。
「クーニャが押し負けるのか!?」
 ナハトは驚愕に目を見開いて叫んだ。
 クーニャは巨人を掴んだまま飛ぼうとしたみたいだけど地面から生えた石の槍が背中にぶち当たり体勢を崩されて投げ飛ばされた。
「ま、マジかよ……こんなもん特撮映画の世界じゃねぇか」
 ティナまだなの? 早く、早く早く! 
「フィオー! ナハトー!」
 防壁の支柱の斜面をミシャが駆け上がってきた。
「ミシャ!? 体調はいいのか? 鍛冶疲れで爆睡してただろう?」
 ワタルの剣を作る為に無理をしたミシャは作戦開始時には深く眠ってたのに。
「こ、このような時に寝てなどおれんのじゃ! また知らぬ所で旦那様が傷付くなど我慢出来んのじゃ、妾も共に!」
 気持ちは分かるけど――。

「ふにゃ!? いきなりなんなのじゃ!?」
 ミシャの状態を確認する為に四肢を触っていく、あれ相手に何人も守る戦いなんか出来ない、万全の状態じゃなかったら連れてはいけない。
「ミシャ、時間が無い、体調が悪かったら諦めて」
「大丈夫なのじゃ」
「本当に? 自分のせいで誰かが怪我をしたら辛いよ?」
 筋肉に変な強張りは無い、あとは内側の問題だけど――。
「心配してくれてありがとうなのじゃ、でも大丈夫なのじゃ、よく寝て体調は良いし何より妾の能力ならあれを拘束して動きをいくらか阻害出来るはずなのじゃ」
 真剣な瞳――嘘は無い。

「……無理は、しないで」
「勿論なのじゃ――」
 ミシャが頷くのに合わせたように巨人の足元から空の彼方へ黒い光が昇っていく、合図!
「行く」
「ええ!」
「ああ!」
「なのじゃ!」
 陣へ飛び込んだ先ではワタルがレールガンで巨人の腕を吹き飛ばしていた。
 巨人を見上げてその巨大さを実感する。
 異常な数の頭、腕が蠢き、不気味な無数の瞳が増えた害敵をギョロリと捉えて苛立ちに動き回る。
 それを私とアリスは睨み返す、これを狩れば――。

「ワタル! 戦うなら戦うで何故前以て言っておかない、一人で危険な事をするなと目覚めた後に散々言っただろう!」
「いや、俺だって不測の事態だったんだって、そんなに怒るなよ――って、ミシャまで来たのか!? 鍛冶疲れで爆睡してたのに大丈夫か?」
 私たちに続いて出てきたナハトとミシャに睨まれてワタルはおろおろしてる。

「旦那様! なーぜ妾を置いて行くのじゃ! 妾とて戦えるのじゃぞ? 剣技ではフィオやナハトに劣るかもしれぬが素早さはフィオ達にだって引けを取らぬのじゃぞ、絶対に役に立てるのじゃ」
「分かった分かった、悪かったって――っ! 全員散れ! こいつは地面を操る、十分に気を付けろ!」
 ワタルの立っている地面が膨れ上がって巨人の目線の高さまで昇った所で巨腕が振り抜かれた。
 ワタルは腕へ跳び移ってそのまま駆け上がりながらレールガンの構えを見せた――。

『ッ! ソレハモウ受ケナイ!』
 ワタルの構えを見て巨人は瞬時に反応して腕を振るって角度をズラす事で回避し落下するワタルには地面から伸ばした鋭利な鎗で対応してる。
 そんなもの、がさせるわけがない、魔獣を踏み付け跳び上がり、途中に居た白いディアボロスの頭を勢いのままに斬り飛ばして動きの停止したそれを踏み台にワタルの元へ到達して引っ張り上げる。
 下では私の動きを理解したアリスが地の鎗を根元から刈って崩した。

「フィオか、別に助けてくれなくても今のは対処出来たぞ?」
「ワタルの仕事は仕留める事、そっちに集中して、その他は私たちがやる。ティナしっかり運んで!」
 アル・マヒクにワタルを乗せて振り抜く事で巨人の上空に退避してたティナの元へ送った。
 ワタルが一人で動くよりも移動に特化した能力のティナと居る方が安全、あとは二人が狙える隙を私たちが全力で作る。

「ミシャ!」
「分かってるのじゃ! 来たからには役に立ってみせるのじゃ!」
 ミシャの植物の縛めがクーニャを持ち上げる巨体にどの程度効果があるか。
 巨人は下に居る私たちなんか気にした風もなく上空を睨みながら地面から自分が使う鎗と盾を生成して、続けて周囲に大きさの違う岩を無数に生み出した。
 その意味を理解して私とアリスは加速する。
 またをやる気だ。
 周囲を薙ぎ払う礫の掃射、ティナなら回避出来るだろうけどあの殲滅力は脅威――。

「ミシャ急いでッ!」
「や、やってるのじゃ!」
 巨人の足元から伸びた植物が足に取り付いて徐々に下半身を覆っていくけど、間に合わない。
 巨人が構えを取る少し前にティナが跳び、礫は何も無い空へと投げ放たれた。
「ッ! 魔獣が邪魔――ナハト!」
「分かっているッ! お前たちは巨人に集中しろ!」
 群がる魔獣を遠ざけるように炎が波打ち広がった。
 数匹抜けてくるけど大挙して押し寄せてくるよりはマシ。

『ドコ、行ッタ! 殺ス、殺スッ!』
 ワタルを見失った事で狂乱した巨人は空へ投擲を続けながら下の私たちには鎗を振り下ろしてくる。
 こんな土塊の鎗ッ!
 振り下ろされた鎗を躱して切っ先を切り落とす。
 それでも巨人は再度生成して暴れ回る。
 その暴れっぷりに植物の縛めも引き千切られる。
 もっと重ねないと効果が無い、それをするだけの時間を稼がないと――。

「鬱陶しい奴めッ!」
 ナハトが抜刀した黒刀から炎が走り一つの頭の目を焼いた。
 それでもうめき声一つ上げずに巨人はワタルを探している。
 痛覚が無いの……?
 なら――。
 右手でアル・マヒクを構えて左手でタナトスを抜いた。
 鎗は大剣で薙ぐ、本体は高速で撹乱しながらタナトスで斬る、弱体化すればミシャの縛めも活きてくるはず。
「これ以上貴様の好きにはさせぬッ!」
 クーニャは礫を受けながら投石を行っていた左側に組み付いて押さえ込もうとしているけどそれでも押し切れない。
「斬る」
 振り下ろした鎗を駆け上がって腕に到達すると無数の傷を付けていく、目を焼かれても反応をしなかったのにタナトスでの攻撃には反応を見せて私を振り落とした。

『見ツケタ、オ前タチ! コイツラノ相手ヲシロ、オレノ邪魔ヲサセルナ!』
 戻ってきたワタルを見つけて巨人は魔獣たちに怒鳴りつけた。
 その声に反応して体が焼ける事も気にせず魔獣が流れ込み始めた。
「火力を上げる! 少し熱いが我慢しろよ」
 これ以上雪崩込まれてこっちの動きが阻害されるよりいい、クーニャが押さえ込もうとしてる今の内に植物で拘束出来れば――。

「アリス!」
 掛け声と目線だけで理解してくれる、こんなにやりやすい仲間になってくれるとは思わなかった。
 私が剣身を見せたのに合わせてアリスが突っ込んでくる、そしてアリスがアル・マヒクに飛び乗った瞬間打ち上げる。
 アリスは上昇した先で集まり始めてた白いディアボロスを一掃した。
 極力ミシャを狙いそうな敵は排除しておかないと――。

 クーニャが押さえている反対側からミシャが再度拘束を試みる中で巨人は暴れ続けて上空のワタル達に鎗を振るう。
 動きが鈍くなったところへワタルが何度かレールガンを撃ち込んでるけど……。
 その尽くは生成した盾で防がれてる。
 何本もあるせいで自由になってるあの腕が邪魔――。
 
「きゃぁあああああっ!?」
 ワタルと何か話していたティナが振り返った一瞬の隙をアリスから逃れた白いディアボロスの衝撃波が撃ち抜いた。
 ティナの馬鹿! 吹き飛ばされた拍子にティナが剣を落とした。
 あれじゃ移動が――。
 それを見ていた私とアリスが走り出してるけど――間に合わない。
 二人はまるで吸い込まれるみたいに巨人に近付いていく、いくつもある目がそれを見逃すはずもない。
 振り下ろされる鎗に最悪の状況を察したワタルが叫んだ。

「フィオー!」
 私の位置を確認したワタルがティナを思い切り放り投げた。
 叫ぶ前にはもう行動に移していた。
 バカ!
 ティナを逃がした事で一瞬安堵の表情を見せたワタルは振り返り剣を構えようとしたところで叩き落された。
 地に落ち何度か跳ねて巨人が暴れて出来た窪地へ――。
「っ!? ワタル!」
「ティナ邪魔、アリスーッ!」
 剣の代わりにアゾットを握らせて放り出す。
 死んではない、でもすぐには動けない、助けに行かないと――。
 虫のように這いずるワタルを見つけて巨人が手を伸ばす、アリスが腕を刈り取ろうとするのを鎗で遠ざけこっちには礫を――。
「フィオ!」
「チッ」
 ティナに回収されて礫の射程外に出た時には巨人が窪地の穴をぼじくっていた。
 そして――。

『ハ、ハハハハハ! 潰シタ、磨リ潰シタ! オ父様ノ仇殺シタ!』
 穴から指を抜いた巨人が握り拳を蠢かせて何かをすり潰す動作をすると血が吹き出た。
『ああああああああああああああああああッ!?』
 私たち全員の絶叫が木霊する。
 巨人は動きの鈍くなったクーニャを押さえ込んで持ち上げ窪地へと叩き付けた。
「ワタルが、死んだ……?」
 こんなにあっさり終わってしまうものなの?
 みんなが叫びながら巨人へと向かっている中で私は立ち尽くしていた。

 クーニャも立ち上がり再び巨人に組み付こうとしてるけど……。
 終わり、ワタルが居ないなら全て終わり…………終わり?
 何か……何か違和感が、この感覚は何?
 この戦場の違和感……響くみんなの叫び――
 クーニャだけは叫んでない。
 クーニャにとってワタルはその程度のものだった?
 違う。
 ならなんで?
 飛び散って出来た血溜まりに目が行く、これは本当にワタル……?
 匂いが……違う。
 そしてクーニャの動き――確認しないと。

 クーニャとミシャに押さえ込まれてる巨人の胴体を駆け上がりクーニャを押し戻そうとしていた腕を斬り飛ばす。
 その時クーニャと視線が交わった。
 みんなとは違う、絶望の色なんて一切ない瞳、敵を倒せると確信してる。
「ふふ」
 自然と笑みが溢れた。
 クーニャがやろうとしてる事は理解した。
 まさか私たちまで騙すなんて、でもその事は後でいい、今は巨人を屠る!

「ミシャ! アリス!」
 指先だけの大まかな指示、今巨人に気取られるわけにはいかない。
 ナハトはティナが無茶をしないように付いてるからあっちの判断に任せる。

「旦那様の仇ッ!」
 今までとは比べ物にならないくらいの速度で植物が巨人を覆い動きを封じ込めていく。
 植物を取り払おうと伸ばされた腕は私とアリスが刈る。
「よくも――よくもワタルをッ!」
 アリスは振るわれる鎗の尽くを切り裂き伸び切った腕は二つに裂く。
 うめき敵を睨む目には炎が走る。
 必然的に巨人の動きは鈍くなり一瞬動きを止めた。
 そしてその隙にクーニャが組み付き巨人の胸元で口を開いた、その瞬間――。

 轟音が轟き黒い閃光が巨人の胸を貫き彼方へと消えた。
『ナニ……コレ、アイヅ、イギデルッ! 殺ス! 仇、殺、ス…………』
 ワタルの生存に気付いて暴れ出そうとしたのも一瞬の事で心臓を失った巨人は膝をつき上半身はだらりと項垂れた。
「え、え? あれってワタルの攻撃よね?」
「旦那様、旦那様が生きてたのじゃ!」
 アリスとミシャは抱き合いながら涙を流してる。
「はぁ……」
 危なっかしいけどどうにか終わった。
 帰ったらたっぷりお仕置きしよう。
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