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番外編~フィオ・ソリチュード~
天地を揺るがす
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提案後すぐに実行に移した強襲作戦、私、ワタル、アリスが地上から炙り出しを、ナハト、クーニャ、紅月が空からこっちの範囲外をカバーする事になる。
「本当によいのか? 魔物と魔獣の群れの中心だぞ?」
「ああ、俺たちを下ろした後はそっちも頼むぞ」
一度瞳を閉じて深呼吸する。
失敗は許されない――違う、許さない。
失敗はワタルの危険を意味する、そんなの絶対に許さない。
「ワタルは剣もないし強化の加減も出来ないから絶対に直接戦闘はしないで、近付いて来たのは私とアリスで処理する」
「腕が鳴るわね、新しく作ってもらった武器の具合をようやく試せる」
ワタルが眠ってる間にミシャに頼み込んでたみたいで新装備に手をかけた。
片刃の双剣と私と同じ籠手、そして大鎌――どれも紋様まで施してある一級品、私も今は警戒の必要はないって判断はしてるけど、まだ完全に安全ってわけでもないのに与え過ぎな気もする。
今は必要だから言ってても仕方ないけど……。
「遊びじゃない」
「分かってるわよ。毎日死闘みたいな訓練をしてたんだから今度はちゃんと守るわよ」
その言葉は……私が言うべきもの、あの時のアリスは最大限の働きをしてくれた。
私の失敗を何度も他人に引き受けさせるわけにはいかない――何が来ても全て排除するッ!
「降ろすぞ!」
咆哮して着地点へ電撃を落として一通りの敵を払って私達を降ろすと餌を求める魔物が周囲に群がり始めた。
「チッ、失せよ下等なものどもよっ!」
「いい、行けクーニャ」
「死ぬ事は許さぬぞ!」
再び吼えて落雷を波紋のように広げ群がる敵を薙ぎ払いながらクーニャは飛び立った。
随分倒された。
それでも勢いは衰える事なく敵意を剥き出しに魔物が集まってくる。
ここからは私が守る番――。
「よし、敵をあぶり出すぞ」
「ワタル……締まらない」
電撃を撃つ為に伸ばしたであろう右手から発した黒雷は暴れながらワタルの体へ絡み付き、そして背中から全く意図してないであろう方向へ飛び私に向かってきた。
操れないのは分かってるから驚く事もなく殴りつけて魔物の方へ軌道修正しておく。
「しょ、しょうがないだろっ! 制御は手に集める以外はからきしなんだから」
「いいからさっさと撃ち続けなさいよ。全域に撃ち込まないとあぶり出しなんて出来ないでしょ、こっちは気にしなくていいから放射状に撃つとかしないと」
ワタルの危険を減らす為にも作戦を早急に終わらせるのが先決でそれを理解しているアリスが失敗に動揺しているワタルに言い放った。
ワタルの放つ黒雷はまるで生きているかのように暴れ回ってディアボロス戦以前には出来ていた広範囲の制圧とはまるで掛け離れた動きを見せていた。
それは暴竜のようでその不規則な動きに対応出来ずに魔物の焼け焦げた死体が増えていく。
それにしても……ここまで疎らな倒し方になるなんて……それを補うようにしてクーニャが雷を落としてるからいいんだけど、未だにワタルが予想したような防御能力を備えた敵は見当たらない。
「上は順調みたいだな」
白いディアボロスが群がってるけど弱体化を受けてるナハト達の爆炎でも十分に処理出来てるからクーニャの邪魔にはなってない。
そして――これだけ派手に動けばあの巨人が動かないはずもなく、投石を開始した。
無数の腕で地上と空両方へ同時に味方への被害なんか考えなく無茶苦茶な攻撃をしてくる。
空の方はクーニャが電撃で砕いてるから心配の必要はない、問題は――。
手がいっぱいあるからなのか大雑把な軌道で投げ放たれる大岩は周囲の魔物を押し潰していく、そしてその中の一つがワタルに直撃する軌道に乗った。
それを悟ってワタルの動きが一瞬硬直する。
「ワタルは気にせずワタルの仕事をしてて」
私より先に飛び出したアリスにちょっともやもやした気持ちを感じつつ、アリスが大鎌で割いた破片をワタルの前から排除していく。
大きいだけの投石なんて今の私とアリスには脅威にならない、片付けを終えてワタルの方を振り返ると安心したのか緊張を解いて攻撃を再開した。
「ああ分かったよ。全部消し飛ばすつもりで放出を続けるから気を付けろよ」
魔物が溢れる世界を天地すら揺るがす雷鳴が轟く、黒白の光は圧倒的な力で敵を焼き尽くす。
あまりの勢いに魔物が怯み始めた時、のたうつ黒雷が巨人の方へ伸びた瞬間跳ね返り一直線にワタルへ向かってきたのをアリスと同時に殴って散らした。
見つけた。
今の現象、別の離れた場所に落ちたクーニャの雷も同じように跳ね返されてた。
守らないといけない、壊されたくない物があそこにある、全部で――六匹、他の魔物と違って額に変な物が付いてる。
「あそこか、結界の要の防御機構か別の魔物の能力か」
「要で合ってると思う。他の地点に落ちたクーニャの電撃もいくつか弾かれた、ハイオークが個々に持ってる能力なら同じ能力で統一なんて出来ないはず。統一されてるなら――」
「作って与えられた奴って事ね」
他の魔物に紛れようとしてる目標をアリスも目で追ってる……クーニャの動き――向こうも気付いたみたい。
「能力の反射か……この距離ならどうにか突っ切れるか? 目標は追えてるか?」
「大丈夫、全部で六匹。額に濁った水晶みたいなのが付いてる」
「なるほどな、剣もない今の俺じゃ討ち取れない。俺が道を開くから処理は任せていいか?」
道を開く? 制御の効かない黒雷でどうやって……?
「道を開くって、能力制御出来ないのにどうするのよ?」
「こうするんだよ」
自信有りげに笑ったワタルは両手に黒雷でクーニャみたいな爪を形成した。
もしかしてこれで近接戦をする気?
強化はまだ使えないはずだし、何も無しで私の動きを追えるからっていくらなんでもそれはさせない。
「面白いだろ? 手に集めるのだけは出来たから遊んでるうちに出来るようになったんだ。雷爪ってところだな」
「そんなの習得する暇があるなら電撃の制御を練習すればいいのに」
リハビリの後に一人で何かしてると思ったら……。
「そうね」
「えー、もっと驚いてくれてもいいだろ。というか電撃の方も練習してたけど上手くいかなかったんだ! もういいだろ、見失ったらマズいしさっさと行くぞ」
不満そうに走り出して大きな爪で魔物を斬り裂いて焼いてるけど……剣とは違うから流石に動きが拙い、目標を潰す為にクーニャ達も巨人の後方に回り込んでるしさっさと終わらせてしまおう――。
「ヘカトンケイルの左右に二体ずつ、後方に二体居る」
「私は左に行く、フィオは右よ」
「ん。ワタルは私と一緒に来て」
大鎌を振り回し進路を切り開いたアリスに頷いてワタルの手を引っ掴んで速度を上げて目標へ直進する。
要の魔物を隠そうと蠢く有象無象の動きが一瞬ズレて目標への軌道が開いた刹那に捨てナイフを投げつけた。
狙い通り目標の額に突き刺さり動きを止めたそれに一気に距離を詰めてアル・マヒクで叩き割る。
巨人の後方でクーニャも目標の一つを握り潰してる、アリスは――狩ってる、よし、残り三匹――私は巨人を見上げてほくそ笑む。
壊しちゃいけない物にこれだけ接近されたらその巨体じゃ為す術がないでしょう?
要を壊され動揺して次の動きを取れずに戸惑ってる間に残りの目標――多頭の大蛇をズタボロに刻んだ。
その瞬間周囲を爆炎が包んで直後にクーニャに掴まれた。
仕事は無事終わった。
巨人が混乱して立ち尽くしている間にアリスも回収して一気に上昇して壁の方へ向かう。
これで本当に――。
「爆炎はヘカトンケイルへの目眩しか」
「ワタルー! 作戦は成功だ。炎の威力が元に戻っている、花粉の効果も徐々に現れるはずだ」
「よっしゃー! あとは魔獣母体を破壊すれば希望が見えてくる!」
無事に終ってよかった。
城に戻るまでの間起こった事を理解した巨人の絶叫がこだまし続けていた。
「旦那様ぁ~、無事でよかったのじゃ~」
ワタルの自室に戻るとミシャが駆け寄ってきて抱き着いた。
珍しい…………。
「急に戦いに出たって聞いてみんな心配してたんですよ」
「あ~……えっと、ごめん?」
「ワタル様、本当にご無事でよかったです。私心配で心配で……」
みんなの中であのひと月は消えない傷になってる、話さずに戦場に出たのは悪かったかも……。
「クロごめんて……でもおかげで進展があったんだ。まだかかると思うけどこんな不安な生活も終わりに向かうと思うから」
「だとしてもワタル様、皆さんやクロエ様に黙って行くのはやめてください、こちらは本当に不安でしょうがないんですよ! ティナ様なんてずっと部屋中を歩き回ってらして――」
「ちょ、シロナ言わないでよ!?」
ワタルを囲んで騒いでるみんなから離れてリオが私の隣に立った。
怒ってる……?
「フィオちゃん」
「なに……?」
「ワタルの事守ってくれたんですよね? ありがとうございます……」
「ん、当然――」
「でも、黙って行くのもフィオちゃん達が危険なのも嫌なんです。私にとってはワタルが危険なのもフィオちゃんが危険なのも同じ事なんです……だから……」
リオは屈んで私に目線を合わせると私の手を取った。
「あ――違う、これは魔物の血、私は怪我してない」
腕に付いてた血を拭って腕を見せるけどリオの不安そうな表情は変わらない。
「……我儘だって分かってます。フィオちゃん達が戦ってくれるから私たちは――この国の人達は今も生きていられる、それでも……」
「……ワタルも、自分も、みんなも守るから、リオがそんな顔しなくてもいいようにするから、あの……」
「困らせてごめんなさい、やっぱりまだ気持ちが不安定みたいです」
そう言うとリオは私をそっと抱き締めた。
私も抱き締め返してリオの背中を撫でる。
守りたい、みんなで笑ってられる時間を――。
奪われたくない、みんなと居られる居場所を――。
その為に、あの壁の向こう側全てを殺し尽くす。
「本当によいのか? 魔物と魔獣の群れの中心だぞ?」
「ああ、俺たちを下ろした後はそっちも頼むぞ」
一度瞳を閉じて深呼吸する。
失敗は許されない――違う、許さない。
失敗はワタルの危険を意味する、そんなの絶対に許さない。
「ワタルは剣もないし強化の加減も出来ないから絶対に直接戦闘はしないで、近付いて来たのは私とアリスで処理する」
「腕が鳴るわね、新しく作ってもらった武器の具合をようやく試せる」
ワタルが眠ってる間にミシャに頼み込んでたみたいで新装備に手をかけた。
片刃の双剣と私と同じ籠手、そして大鎌――どれも紋様まで施してある一級品、私も今は警戒の必要はないって判断はしてるけど、まだ完全に安全ってわけでもないのに与え過ぎな気もする。
今は必要だから言ってても仕方ないけど……。
「遊びじゃない」
「分かってるわよ。毎日死闘みたいな訓練をしてたんだから今度はちゃんと守るわよ」
その言葉は……私が言うべきもの、あの時のアリスは最大限の働きをしてくれた。
私の失敗を何度も他人に引き受けさせるわけにはいかない――何が来ても全て排除するッ!
「降ろすぞ!」
咆哮して着地点へ電撃を落として一通りの敵を払って私達を降ろすと餌を求める魔物が周囲に群がり始めた。
「チッ、失せよ下等なものどもよっ!」
「いい、行けクーニャ」
「死ぬ事は許さぬぞ!」
再び吼えて落雷を波紋のように広げ群がる敵を薙ぎ払いながらクーニャは飛び立った。
随分倒された。
それでも勢いは衰える事なく敵意を剥き出しに魔物が集まってくる。
ここからは私が守る番――。
「よし、敵をあぶり出すぞ」
「ワタル……締まらない」
電撃を撃つ為に伸ばしたであろう右手から発した黒雷は暴れながらワタルの体へ絡み付き、そして背中から全く意図してないであろう方向へ飛び私に向かってきた。
操れないのは分かってるから驚く事もなく殴りつけて魔物の方へ軌道修正しておく。
「しょ、しょうがないだろっ! 制御は手に集める以外はからきしなんだから」
「いいからさっさと撃ち続けなさいよ。全域に撃ち込まないとあぶり出しなんて出来ないでしょ、こっちは気にしなくていいから放射状に撃つとかしないと」
ワタルの危険を減らす為にも作戦を早急に終わらせるのが先決でそれを理解しているアリスが失敗に動揺しているワタルに言い放った。
ワタルの放つ黒雷はまるで生きているかのように暴れ回ってディアボロス戦以前には出来ていた広範囲の制圧とはまるで掛け離れた動きを見せていた。
それは暴竜のようでその不規則な動きに対応出来ずに魔物の焼け焦げた死体が増えていく。
それにしても……ここまで疎らな倒し方になるなんて……それを補うようにしてクーニャが雷を落としてるからいいんだけど、未だにワタルが予想したような防御能力を備えた敵は見当たらない。
「上は順調みたいだな」
白いディアボロスが群がってるけど弱体化を受けてるナハト達の爆炎でも十分に処理出来てるからクーニャの邪魔にはなってない。
そして――これだけ派手に動けばあの巨人が動かないはずもなく、投石を開始した。
無数の腕で地上と空両方へ同時に味方への被害なんか考えなく無茶苦茶な攻撃をしてくる。
空の方はクーニャが電撃で砕いてるから心配の必要はない、問題は――。
手がいっぱいあるからなのか大雑把な軌道で投げ放たれる大岩は周囲の魔物を押し潰していく、そしてその中の一つがワタルに直撃する軌道に乗った。
それを悟ってワタルの動きが一瞬硬直する。
「ワタルは気にせずワタルの仕事をしてて」
私より先に飛び出したアリスにちょっともやもやした気持ちを感じつつ、アリスが大鎌で割いた破片をワタルの前から排除していく。
大きいだけの投石なんて今の私とアリスには脅威にならない、片付けを終えてワタルの方を振り返ると安心したのか緊張を解いて攻撃を再開した。
「ああ分かったよ。全部消し飛ばすつもりで放出を続けるから気を付けろよ」
魔物が溢れる世界を天地すら揺るがす雷鳴が轟く、黒白の光は圧倒的な力で敵を焼き尽くす。
あまりの勢いに魔物が怯み始めた時、のたうつ黒雷が巨人の方へ伸びた瞬間跳ね返り一直線にワタルへ向かってきたのをアリスと同時に殴って散らした。
見つけた。
今の現象、別の離れた場所に落ちたクーニャの雷も同じように跳ね返されてた。
守らないといけない、壊されたくない物があそこにある、全部で――六匹、他の魔物と違って額に変な物が付いてる。
「あそこか、結界の要の防御機構か別の魔物の能力か」
「要で合ってると思う。他の地点に落ちたクーニャの電撃もいくつか弾かれた、ハイオークが個々に持ってる能力なら同じ能力で統一なんて出来ないはず。統一されてるなら――」
「作って与えられた奴って事ね」
他の魔物に紛れようとしてる目標をアリスも目で追ってる……クーニャの動き――向こうも気付いたみたい。
「能力の反射か……この距離ならどうにか突っ切れるか? 目標は追えてるか?」
「大丈夫、全部で六匹。額に濁った水晶みたいなのが付いてる」
「なるほどな、剣もない今の俺じゃ討ち取れない。俺が道を開くから処理は任せていいか?」
道を開く? 制御の効かない黒雷でどうやって……?
「道を開くって、能力制御出来ないのにどうするのよ?」
「こうするんだよ」
自信有りげに笑ったワタルは両手に黒雷でクーニャみたいな爪を形成した。
もしかしてこれで近接戦をする気?
強化はまだ使えないはずだし、何も無しで私の動きを追えるからっていくらなんでもそれはさせない。
「面白いだろ? 手に集めるのだけは出来たから遊んでるうちに出来るようになったんだ。雷爪ってところだな」
「そんなの習得する暇があるなら電撃の制御を練習すればいいのに」
リハビリの後に一人で何かしてると思ったら……。
「そうね」
「えー、もっと驚いてくれてもいいだろ。というか電撃の方も練習してたけど上手くいかなかったんだ! もういいだろ、見失ったらマズいしさっさと行くぞ」
不満そうに走り出して大きな爪で魔物を斬り裂いて焼いてるけど……剣とは違うから流石に動きが拙い、目標を潰す為にクーニャ達も巨人の後方に回り込んでるしさっさと終わらせてしまおう――。
「ヘカトンケイルの左右に二体ずつ、後方に二体居る」
「私は左に行く、フィオは右よ」
「ん。ワタルは私と一緒に来て」
大鎌を振り回し進路を切り開いたアリスに頷いてワタルの手を引っ掴んで速度を上げて目標へ直進する。
要の魔物を隠そうと蠢く有象無象の動きが一瞬ズレて目標への軌道が開いた刹那に捨てナイフを投げつけた。
狙い通り目標の額に突き刺さり動きを止めたそれに一気に距離を詰めてアル・マヒクで叩き割る。
巨人の後方でクーニャも目標の一つを握り潰してる、アリスは――狩ってる、よし、残り三匹――私は巨人を見上げてほくそ笑む。
壊しちゃいけない物にこれだけ接近されたらその巨体じゃ為す術がないでしょう?
要を壊され動揺して次の動きを取れずに戸惑ってる間に残りの目標――多頭の大蛇をズタボロに刻んだ。
その瞬間周囲を爆炎が包んで直後にクーニャに掴まれた。
仕事は無事終わった。
巨人が混乱して立ち尽くしている間にアリスも回収して一気に上昇して壁の方へ向かう。
これで本当に――。
「爆炎はヘカトンケイルへの目眩しか」
「ワタルー! 作戦は成功だ。炎の威力が元に戻っている、花粉の効果も徐々に現れるはずだ」
「よっしゃー! あとは魔獣母体を破壊すれば希望が見えてくる!」
無事に終ってよかった。
城に戻るまでの間起こった事を理解した巨人の絶叫がこだまし続けていた。
「旦那様ぁ~、無事でよかったのじゃ~」
ワタルの自室に戻るとミシャが駆け寄ってきて抱き着いた。
珍しい…………。
「急に戦いに出たって聞いてみんな心配してたんですよ」
「あ~……えっと、ごめん?」
「ワタル様、本当にご無事でよかったです。私心配で心配で……」
みんなの中であのひと月は消えない傷になってる、話さずに戦場に出たのは悪かったかも……。
「クロごめんて……でもおかげで進展があったんだ。まだかかると思うけどこんな不安な生活も終わりに向かうと思うから」
「だとしてもワタル様、皆さんやクロエ様に黙って行くのはやめてください、こちらは本当に不安でしょうがないんですよ! ティナ様なんてずっと部屋中を歩き回ってらして――」
「ちょ、シロナ言わないでよ!?」
ワタルを囲んで騒いでるみんなから離れてリオが私の隣に立った。
怒ってる……?
「フィオちゃん」
「なに……?」
「ワタルの事守ってくれたんですよね? ありがとうございます……」
「ん、当然――」
「でも、黙って行くのもフィオちゃん達が危険なのも嫌なんです。私にとってはワタルが危険なのもフィオちゃんが危険なのも同じ事なんです……だから……」
リオは屈んで私に目線を合わせると私の手を取った。
「あ――違う、これは魔物の血、私は怪我してない」
腕に付いてた血を拭って腕を見せるけどリオの不安そうな表情は変わらない。
「……我儘だって分かってます。フィオちゃん達が戦ってくれるから私たちは――この国の人達は今も生きていられる、それでも……」
「……ワタルも、自分も、みんなも守るから、リオがそんな顔しなくてもいいようにするから、あの……」
「困らせてごめんなさい、やっぱりまだ気持ちが不安定みたいです」
そう言うとリオは私をそっと抱き締めた。
私も抱き締め返してリオの背中を撫でる。
守りたい、みんなで笑ってられる時間を――。
奪われたくない、みんなと居られる居場所を――。
その為に、あの壁の向こう側全てを殺し尽くす。
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