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番外編~フィオ・ソリチュード~
止まない胸騒ぎ
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謁見の間の空気が張り詰めてる。
王の傍に控えている通信能力者も逼迫した様子で連絡を取り続けてる。
また、大きな戦いが近付いて来てる……この胸騒ぎは……。
「ワタルよ、早速で悪いが事は急を要する。東部の町八つが突如魔物に襲撃を受けた。陣で避難してきた住民によれば東の空に白い影の大群を見つけたのと同時に突然虚空より魔物が溢れ出てきたらしい」
「避難? 住民はみんな避難出来ていたんですか?」
「いえ、避難を完了出来ていたのは八つの町の内二つの町のみです。残り六つの町に繋がる陣からは魔物が現れたのですが、近場に居合わせた紅炎の騎士とナハト様によって倒されました。しかしその間に町側の陣に何らかの被害を受けたようで六つの内四つの陣が使用不能の状態です。それぞれの町、周辺の村落に駐在する兵士とも連絡が取れない状況ですので恐らくは魔物に……残り二つの陣は今も使用可能で紅炎の騎士とナハト様がそれぞれの町へ向かわれました」
ナハトと紅月……広範囲制圧に長けた二人だけど、魔物の規模が分からない状態だとどこまでもつか……嫌な予感がするのに戦力を分ける必要があるなんて――。
「っ! 大変ですっ。紅炎の騎士とナハト様が向かった町とを繋ぐ陣までもが使用不能になったそうです! お二人は現在生き残っていた住民を連れて町からの脱出を図っているそうです」
「っ!? アリスはクーニャ呼んで来い、フィオは結城さんに事情を説明して同行を頼んできてくれ」
「分かった」
「ん」
クーニャと陣、避難民を移動させるにはこれ以上はないけど問題そこじゃない。
都市八つに同時侵攻して六つを短時間で攻め落とした敵の戦力……都市ならそれなりの数の兵士が常駐してる。
それでも落とされた。
数で押し通したか、それとも――。
「フィオはクーニャ側、結城さんの護衛を頼む。ミシャとアリスは俺と一緒にティナの能力で紅月の応援に――どうしたフィオ?」
「なんで私はワタルと別々なの?」
結城を守る必要があるのは理解出来る、けど――。
「フィオなら分かってるだろ? 結城さんの護衛は重要だ。フィオにしか頼めないんだよ。それにナハト側を回収したらこっちと合流するんだし、そんなに心配するな。ミシャやアリスだって居るんだし無茶はしない」
「…………ワタルは守りたいものがある時ほど無茶をする」
二人が足手まといとは思わない。
それでも何かあった時のワタルの咄嗟に動く癖があるから不安は消えない。
『…………』
図星なのか黙り込んだワタルと見つめ合う。
譲る気配は無い。
確かにアリスに結城の護衛を任せるほどの信用はまだ無理、戦力的に考えるならこの振り分けはそう間違ってはいない、でも……。
「フィオ、私が居るんだからそんなに心配しなくていいじゃない。何かあれば私が守ってあげるわよ」
守る? 本当にあなたにそれが出来るの?
「っ!? フィオ!」
アリスをはかる為に素早く回り込んでタナトスを突き込んだ。
加減無しの一撃を大鎌の柄で流してそのままの勢いで薙ぎ払って私を遠ざけた。
実力はある、それは、分かってるけど……。
「……合流した時にワタルが傷一つでも作ってたら許さないから」
時間が惜しい、これ以上ここで時間を使うわけにはいかない、アリスには私についてくるだけの力がある。
ワタル側の戦力としては問題無い、今は、そう納得するしか……。
「フィオ、気持ちは分かるけどあんまり心配し過ぎるとワタルが落ち込むわよ」
心配させるだけの事を今まで散々してきてるからこれは仕方ない――というよりこの程度の警戒じゃ足りないくらい。
ティナも動きは良くなって来てるけどまだまだナハトに追い付くほどじゃないし……不安が増えた……。
アリスの実力を信じるしかないかな……でもそれでまたワタルと仲良くなったりしたらちょっとやだな……。
「ん。ちゅ……ん……気を付けてね?」
ワタルの手を取って屈ませて不意打ちのキスをした。
私と合流するまで無茶をしないで。
『なっ!?』
「何してるのよーっ!」
「何してるのじゃーっ!」
「や、やっぱりそういう関係なのね。し、知ってたけど……フィオもキスとかするんだ…………」
真っ赤になったアリスは引き攣った顔を逸して不自然なくらいに動揺してる。
ちょっと優越感。
「ワタル、私も! ん~」
「何を言っておるのじゃ! 人前でするなど止すのじゃー!」
「クーニャ行こう」
「ちょっと待てフィオ、ティナをどうにかしろ」
「急ぐんでしょ? 遊んでないで出発して」
それだけ言ってナハトが居る場所に一番近い町の陣に飛び込んだ。
「しかしまぁ主の周りは忙しない事だな」
「嫌になった?」
「いや、俄然主への興味が強くなった。お前たちの事も好きになってきたとこだしな、一働きして存分に主に構ってもらおうぞ!」
ニヤリと笑ったクーニャは顕現して私と結城を乗せて飛翔する。
飛び立っていくらもしないうちに異様な光景が広がった。
空を埋め尽くす白と大地を埋め尽くす黒、夥しい数が犇めいている。
あの白いのはペルフィディ……? でもあの形は……王都でワタルを殺そうとしてた魔物……?
あらゆるものを合成する能力を持った魔物が居るってワタルが言ってたけど、ペルフィディでディアボロスを作った……?
またあの魔物を作る事が出来る……?
「居たぞ、ダークエルフの娘だ!」
地上で火柱が上がりそれが渦を巻きながら広範囲に広がって取り囲もうとしていた魔物を消し炭にしていく。
「流石エルフ、あんな化け物の群れからあれだけの人々を……陣を設置します、下ろしてください!」
「分かっておるわ! お前が要だ。下ろすのは安全を確保してからだ!」
そう言うとクーニャが咆哮した。
その瞬間白雷が降り注ぎ、消し炭を踏み越えてナハトと避難民を包囲しようとしていた魔物を消失させた。
「っ! 空にも愚物が湧いておるな、疾く失せよ!」
衝撃波を飛ばしてきた白いディアボロスはクーニャのブレスで焼かれボトボトと地上に落ちていく。
「クーニャ下ろして、あれは病気を撒くかもしれない、早く避難させないと」
「ぬ? あれがペルフィディというものか? 随分と気色の悪い生き物だ」
地上に降り立つクーニャを避難民たちは絶望の表情で見上げている。
「皆安心しろ! この神龍は味方だ、お前たちは生き延びたのだ!」
ナハトの声を聞き、クーニャの手の中に居る私たちを見た事で安堵の声が漏れ始めた。
「如月さんの方にも向かわないといけないので皆さん迅速に陣の中へ!」
避難民が陣に雪崩れ込む間も魔物は押し寄せそれをナハトの火炎が焼き続ける。
「ッ!」
「あ、ありがとう」
「いい、この為に私はここに居る」
結城目掛けて炎を抜けてきた斧と槍を叩き落とす。
狙った……? いや、無闇矢鱈に投げてるだけか。
避難民の方にも向う斧をアル・マヒクで砕く。
結城にも避難民にも被害は出さない!
「賢しいわッ!」
上空から放たれた衝撃波をクーニャが翼を広げ全てを受け止めた。
「この程度の弱々しき力で儂に向かってくるなど愚かにも程がある、主の望みを阻む愚物は消え去れッ!」
一際大きく咆哮すると周囲一帯を光が覆った。
光が治まると空を覆い尽くしていたペルフィディは消失していた。
「今の人で最後です」
「ならば急ぎ儂らも戻り主の向かった陣に」
「私が殿をやる、先に行け」
「ん」
結城と人の姿に戻ったクーニャが陣に入ったのを確認して私も陣に飛び込む。
王都に帰還して少し遅れてナハトも戻ってすぐに陣は消された。
それを見届けた事で避難民たちはようやく安堵した様子でその場にへたり込んだ。
「エルフ様ありがとうございます。もう死ぬんだとばかり……」
「ナハト様本当にありがとうございます」
「そちらの方も、おかげで命拾いしました――」
「退いて、まだあとがある」
感謝の言葉と一緒に押し寄せる避難民を躱してワタルが向かった陣に結城の手を引いて飛び込んだ。
「クーニャ急いで」
「分かっておる、しかしエルフの娘を置いてきたがよかったのか?」
「よくないけど、急いで」
再び顕現したクーニャに乗って飛び立つ。
ナハトも来たかったはずだけどああも避難民に囲まれてるのを待ってられない。
ワタル達の方もあの規模の大群だったとしてもあの質なら十分持ちこたえるはずだけど、もし本物のディアボロスが複数居たりしたら分からない。
あの時のワタルから随分成長してるから一対一なら問題はないけど……なんで胸騒ぎが消えないの。
「クーニャ下りて」
「ぬ? 避難民はあれだけか?」
たしかに、ナハト側の規模の半分もない、それにワタルが居ない。
「ティナ、ワタルはどうしたの?」
「レイナ達と魔物の足止めをしてるわ」
「敵の規模は?」
「数は多かったけど際立った強さのは居なかったわ」
「そう……」
「皆さんこちらの陣に」
少ない避難民の退避はすぐに完了してあとはワタル達を迎えに行くだけ、そのはず……。
「ティナは結城と戻って」
「っ! 私も行くわ――」
「……駄目、嫌な感じがする。ワタルに合流したらすぐに帰るから」
「…………絶対よ?」
「ん」
「いいですか?」
「ん、戻ったら陣は消していい」
ティナ達が陣に入るのを見届けてクーニャは空に飛び立った。
「そんなに心配か? 主は十分強いと儂は思うが」
「ワタルは欲張りだから、まだそれを叶えるだけの強さは無い」
「ふむ、お主は厳しいな」
だって本当にワタルは多くを望むから……それにこの治まらない胸騒ぎ、嫌な予感が止まらない。
「くくっ、流石儂の主、やはり杞憂であったな、雑兵とはいえ人間の身であの軍勢を押し止めておるとは、本当に面白い、主ー!」
「っ! 来たか!」
雷帝の威を示すように白雷が魔物たちに降り注ぎ地形さえ変える程の攻撃が敵を撃ち抜いていく。
「撤退の目処は立った。全開で行くわよ!」
紅月の炎に合わせるようにしてクーニャが襤褸屑同然になった魔物を焼き払った。
「残りはお前らだけだ。消え去れ!」
白いディアボロスを一匹も逃さない為に作ってただろう黒雷の檻を収縮させて空を黒く染める程の大放電で残りの敵も消え去った。
本当に、杞憂だったの……?
能力使用の疲労で動けなくなってるワタルと紅月を連れてアリスがクーニャの背中に飛び乗ってきた。
見た感じ怪我をしてる風じゃないけど――。
「ワタル、怪我無い?」
結構返り血が付いてて分かりづらくて触りながら確認していく。
「無いよ。フィオも大丈夫か?」
「ん、大丈夫」
良かった、どこも怪我してない。
無事が嬉しくて抱き付く私に紅月が呆れた視線を送ってくる。
「そっか。なら早く帰ってリオ達を安心させよう」
そう、あとは帰るだけ……なのに胸騒ぎが酷くなってる。
この上まだ何かあるの……?
王の傍に控えている通信能力者も逼迫した様子で連絡を取り続けてる。
また、大きな戦いが近付いて来てる……この胸騒ぎは……。
「ワタルよ、早速で悪いが事は急を要する。東部の町八つが突如魔物に襲撃を受けた。陣で避難してきた住民によれば東の空に白い影の大群を見つけたのと同時に突然虚空より魔物が溢れ出てきたらしい」
「避難? 住民はみんな避難出来ていたんですか?」
「いえ、避難を完了出来ていたのは八つの町の内二つの町のみです。残り六つの町に繋がる陣からは魔物が現れたのですが、近場に居合わせた紅炎の騎士とナハト様によって倒されました。しかしその間に町側の陣に何らかの被害を受けたようで六つの内四つの陣が使用不能の状態です。それぞれの町、周辺の村落に駐在する兵士とも連絡が取れない状況ですので恐らくは魔物に……残り二つの陣は今も使用可能で紅炎の騎士とナハト様がそれぞれの町へ向かわれました」
ナハトと紅月……広範囲制圧に長けた二人だけど、魔物の規模が分からない状態だとどこまでもつか……嫌な予感がするのに戦力を分ける必要があるなんて――。
「っ! 大変ですっ。紅炎の騎士とナハト様が向かった町とを繋ぐ陣までもが使用不能になったそうです! お二人は現在生き残っていた住民を連れて町からの脱出を図っているそうです」
「っ!? アリスはクーニャ呼んで来い、フィオは結城さんに事情を説明して同行を頼んできてくれ」
「分かった」
「ん」
クーニャと陣、避難民を移動させるにはこれ以上はないけど問題そこじゃない。
都市八つに同時侵攻して六つを短時間で攻め落とした敵の戦力……都市ならそれなりの数の兵士が常駐してる。
それでも落とされた。
数で押し通したか、それとも――。
「フィオはクーニャ側、結城さんの護衛を頼む。ミシャとアリスは俺と一緒にティナの能力で紅月の応援に――どうしたフィオ?」
「なんで私はワタルと別々なの?」
結城を守る必要があるのは理解出来る、けど――。
「フィオなら分かってるだろ? 結城さんの護衛は重要だ。フィオにしか頼めないんだよ。それにナハト側を回収したらこっちと合流するんだし、そんなに心配するな。ミシャやアリスだって居るんだし無茶はしない」
「…………ワタルは守りたいものがある時ほど無茶をする」
二人が足手まといとは思わない。
それでも何かあった時のワタルの咄嗟に動く癖があるから不安は消えない。
『…………』
図星なのか黙り込んだワタルと見つめ合う。
譲る気配は無い。
確かにアリスに結城の護衛を任せるほどの信用はまだ無理、戦力的に考えるならこの振り分けはそう間違ってはいない、でも……。
「フィオ、私が居るんだからそんなに心配しなくていいじゃない。何かあれば私が守ってあげるわよ」
守る? 本当にあなたにそれが出来るの?
「っ!? フィオ!」
アリスをはかる為に素早く回り込んでタナトスを突き込んだ。
加減無しの一撃を大鎌の柄で流してそのままの勢いで薙ぎ払って私を遠ざけた。
実力はある、それは、分かってるけど……。
「……合流した時にワタルが傷一つでも作ってたら許さないから」
時間が惜しい、これ以上ここで時間を使うわけにはいかない、アリスには私についてくるだけの力がある。
ワタル側の戦力としては問題無い、今は、そう納得するしか……。
「フィオ、気持ちは分かるけどあんまり心配し過ぎるとワタルが落ち込むわよ」
心配させるだけの事を今まで散々してきてるからこれは仕方ない――というよりこの程度の警戒じゃ足りないくらい。
ティナも動きは良くなって来てるけどまだまだナハトに追い付くほどじゃないし……不安が増えた……。
アリスの実力を信じるしかないかな……でもそれでまたワタルと仲良くなったりしたらちょっとやだな……。
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ワタルの手を取って屈ませて不意打ちのキスをした。
私と合流するまで無茶をしないで。
『なっ!?』
「何してるのよーっ!」
「何してるのじゃーっ!」
「や、やっぱりそういう関係なのね。し、知ってたけど……フィオもキスとかするんだ…………」
真っ赤になったアリスは引き攣った顔を逸して不自然なくらいに動揺してる。
ちょっと優越感。
「ワタル、私も! ん~」
「何を言っておるのじゃ! 人前でするなど止すのじゃー!」
「クーニャ行こう」
「ちょっと待てフィオ、ティナをどうにかしろ」
「急ぐんでしょ? 遊んでないで出発して」
それだけ言ってナハトが居る場所に一番近い町の陣に飛び込んだ。
「しかしまぁ主の周りは忙しない事だな」
「嫌になった?」
「いや、俄然主への興味が強くなった。お前たちの事も好きになってきたとこだしな、一働きして存分に主に構ってもらおうぞ!」
ニヤリと笑ったクーニャは顕現して私と結城を乗せて飛翔する。
飛び立っていくらもしないうちに異様な光景が広がった。
空を埋め尽くす白と大地を埋め尽くす黒、夥しい数が犇めいている。
あの白いのはペルフィディ……? でもあの形は……王都でワタルを殺そうとしてた魔物……?
あらゆるものを合成する能力を持った魔物が居るってワタルが言ってたけど、ペルフィディでディアボロスを作った……?
またあの魔物を作る事が出来る……?
「居たぞ、ダークエルフの娘だ!」
地上で火柱が上がりそれが渦を巻きながら広範囲に広がって取り囲もうとしていた魔物を消し炭にしていく。
「流石エルフ、あんな化け物の群れからあれだけの人々を……陣を設置します、下ろしてください!」
「分かっておるわ! お前が要だ。下ろすのは安全を確保してからだ!」
そう言うとクーニャが咆哮した。
その瞬間白雷が降り注ぎ、消し炭を踏み越えてナハトと避難民を包囲しようとしていた魔物を消失させた。
「っ! 空にも愚物が湧いておるな、疾く失せよ!」
衝撃波を飛ばしてきた白いディアボロスはクーニャのブレスで焼かれボトボトと地上に落ちていく。
「クーニャ下ろして、あれは病気を撒くかもしれない、早く避難させないと」
「ぬ? あれがペルフィディというものか? 随分と気色の悪い生き物だ」
地上に降り立つクーニャを避難民たちは絶望の表情で見上げている。
「皆安心しろ! この神龍は味方だ、お前たちは生き延びたのだ!」
ナハトの声を聞き、クーニャの手の中に居る私たちを見た事で安堵の声が漏れ始めた。
「如月さんの方にも向かわないといけないので皆さん迅速に陣の中へ!」
避難民が陣に雪崩れ込む間も魔物は押し寄せそれをナハトの火炎が焼き続ける。
「ッ!」
「あ、ありがとう」
「いい、この為に私はここに居る」
結城目掛けて炎を抜けてきた斧と槍を叩き落とす。
狙った……? いや、無闇矢鱈に投げてるだけか。
避難民の方にも向う斧をアル・マヒクで砕く。
結城にも避難民にも被害は出さない!
「賢しいわッ!」
上空から放たれた衝撃波をクーニャが翼を広げ全てを受け止めた。
「この程度の弱々しき力で儂に向かってくるなど愚かにも程がある、主の望みを阻む愚物は消え去れッ!」
一際大きく咆哮すると周囲一帯を光が覆った。
光が治まると空を覆い尽くしていたペルフィディは消失していた。
「今の人で最後です」
「ならば急ぎ儂らも戻り主の向かった陣に」
「私が殿をやる、先に行け」
「ん」
結城と人の姿に戻ったクーニャが陣に入ったのを確認して私も陣に飛び込む。
王都に帰還して少し遅れてナハトも戻ってすぐに陣は消された。
それを見届けた事で避難民たちはようやく安堵した様子でその場にへたり込んだ。
「エルフ様ありがとうございます。もう死ぬんだとばかり……」
「ナハト様本当にありがとうございます」
「そちらの方も、おかげで命拾いしました――」
「退いて、まだあとがある」
感謝の言葉と一緒に押し寄せる避難民を躱してワタルが向かった陣に結城の手を引いて飛び込んだ。
「クーニャ急いで」
「分かっておる、しかしエルフの娘を置いてきたがよかったのか?」
「よくないけど、急いで」
再び顕現したクーニャに乗って飛び立つ。
ナハトも来たかったはずだけどああも避難民に囲まれてるのを待ってられない。
ワタル達の方もあの規模の大群だったとしてもあの質なら十分持ちこたえるはずだけど、もし本物のディアボロスが複数居たりしたら分からない。
あの時のワタルから随分成長してるから一対一なら問題はないけど……なんで胸騒ぎが消えないの。
「クーニャ下りて」
「ぬ? 避難民はあれだけか?」
たしかに、ナハト側の規模の半分もない、それにワタルが居ない。
「ティナ、ワタルはどうしたの?」
「レイナ達と魔物の足止めをしてるわ」
「敵の規模は?」
「数は多かったけど際立った強さのは居なかったわ」
「そう……」
「皆さんこちらの陣に」
少ない避難民の退避はすぐに完了してあとはワタル達を迎えに行くだけ、そのはず……。
「ティナは結城と戻って」
「っ! 私も行くわ――」
「……駄目、嫌な感じがする。ワタルに合流したらすぐに帰るから」
「…………絶対よ?」
「ん」
「いいですか?」
「ん、戻ったら陣は消していい」
ティナ達が陣に入るのを見届けてクーニャは空に飛び立った。
「そんなに心配か? 主は十分強いと儂は思うが」
「ワタルは欲張りだから、まだそれを叶えるだけの強さは無い」
「ふむ、お主は厳しいな」
だって本当にワタルは多くを望むから……それにこの治まらない胸騒ぎ、嫌な予感が止まらない。
「くくっ、流石儂の主、やはり杞憂であったな、雑兵とはいえ人間の身であの軍勢を押し止めておるとは、本当に面白い、主ー!」
「っ! 来たか!」
雷帝の威を示すように白雷が魔物たちに降り注ぎ地形さえ変える程の攻撃が敵を撃ち抜いていく。
「撤退の目処は立った。全開で行くわよ!」
紅月の炎に合わせるようにしてクーニャが襤褸屑同然になった魔物を焼き払った。
「残りはお前らだけだ。消え去れ!」
白いディアボロスを一匹も逃さない為に作ってただろう黒雷の檻を収縮させて空を黒く染める程の大放電で残りの敵も消え去った。
本当に、杞憂だったの……?
能力使用の疲労で動けなくなってるワタルと紅月を連れてアリスがクーニャの背中に飛び乗ってきた。
見た感じ怪我をしてる風じゃないけど――。
「ワタル、怪我無い?」
結構返り血が付いてて分かりづらくて触りながら確認していく。
「無いよ。フィオも大丈夫か?」
「ん、大丈夫」
良かった、どこも怪我してない。
無事が嬉しくて抱き付く私に紅月が呆れた視線を送ってくる。
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