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番外編~フィオ・ソリチュード~
隠し事
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ワタルの実家に帰省して移動の疲れかワタルだけ一人早めに寝てしまった夜の時間、丁度いいからってティナがみんなを集めた。
「にしてもなんなのじゃこの世界は……妾とろけてしまう」
「あぁ、まったくだ、外は雪まで降っているというのに室内の暖かさとこのテーブルの組み合わせは、ダメだろう……」
前に来た時は暑い季節だったけど今は冬だから帰ってすぐにワタルが色々引っ張り出してた。
その一つ、布団が掛かったみたいな机にミシャとナハトは足を突っ込んで突っ伏してる。
「まったく二人ともだらしない――これは……ダメね……」
「だろう? 日本とは堕落の国かもしれん、このように全ての環境を整えられてしまうともはやだらけるのが当然のように思えてくる」
それはなんとなく分かる、この世界は贅沢過ぎる。
日本人にとっては違うんだろうけど私達から見たら何もかもが与えられてるように見える。
その中で更に上を、更に先をって、欲が深い。
「心構えの問題だと思いますけど――はい、皆さんどうぞ」
湯気の出る液体をカップに注いでリオがみんなに回してる。
なんか、変わった匂いがする。
「これなぁに?」
「日本のお茶だと思います。書かれてる漢字はお茶って所しか読めなかったのでどういうお茶かは分かりませんけど」
「リオさんたまに冒険されますよね……クロエ様にこんななんなのかも分からないお茶なんて飲ませるわけには――」
「あら、これ美味しいですね、妙な酸味がクセになりそうです」
「さ、酸味!? も、もしや腐っているのでは!? クロエ様急いで水で口を洗いだ方がっ!」
「シロナったらそんな大げさな、とても美味しいから飲んでみて」
クロエに言われたせいでシロナがカップを睨んで固まってる……。
「塩気もあるわね……なんなのかしらこれ――何か赤い物が入ってるわね」
「この匂い梅干しなのじゃ、梅干し茶なのじゃ」
「なんだ梅干しですか……日本人は妙なものを作りますね、あの酸っぱさを思い出しただけで唾液が出てくるので気分が悪いです」
味を思い出したのかシロナは顔を顰めてカップを遠ざけた。
「美味しいのに」
クロエはちょっと残念そう。
「さて、落ち着いたところで、ティナさん、話というのはワタルの事ですよね? 外を歩く時様子がおかしかった説明をしてもらえるんですか?」
リオが問いかけるとだらしなくしてたナハトもミシャも自然と姿勢を正してティナに向き合った。
「ええ、気付いていたのに知らないフリで通してくれてありがとう、もしこの問題を突いていたら今日までの旅行の内容はガラリと変わっていたと思うわ」
「それはワタルが何かの問題を抱えているという事か? 私たちはどうすればいい? 話せ」
「結論から言えば何もしては駄目よ」
「なんだと? ワタルが苦しんでいるのに何もするなと言うのかっ!」
「ナハト煩いのじゃ、旦那様が起きたらどうするのじゃ」
ナハトは机を叩いて立ち上がろうとしたけどミシャに言われて渋々座り直した。
「ワタルは自分のした事をみんなに知られるのを恐れているのよ」
「ワタル様のした事、ですか?」
「だからそれはなんなんだ、まわりくどいのは嫌いだ、さっさと結論を話せ」
「……みんな何を見てもワタルへの態度を変えない覚悟はある? もしそれが難しいようならこの話は聞かない方がいいわよ?」
「愚問だ、ワタルは私の男だぞ? 受け入れないなんて事があるものか」
「妾は、えっちなの以外なら大丈夫なのじゃ」
「私も何があっても受け入れます。今の私の世界の全てをくださった方ですから」
「うぅ……ティナ様がここまで念押しされているだけに私は若干不安なのですが……クロエ様がこう仰っている以上私も覚悟を決めます」
「態度を変えてはいけないって事は話を聞いた事を隠さないといけないって事ですか?」
「そうね、これまで通り気付かないフリ、知らないフリで通して欲しいわ」
「……フィオちゃんは知ってるんですか?」
「ん、知ってる」
「……そうですか」
そう返事をしたきりリオは目を閉じて黙り込んでしまった。
アドラに居たリオは普通の日本人なんかよりは人の死に触れる機会があったと思うけど、ワタルがあれだけ悩むならリオにも相当忌避するものに映るかもしれない……。
でも――。
「わかりました」
リオがワタルから離れていくなんて考えられない。
「大丈夫です。ワタルが辛い時のフォローはお二人にお任せしますから教えて下さい」
全員の意思確認を終えたティナは日本で起こった事を静かに話し始めた。
「まったく……何かもっと恐ろしい問題を抱えているのかと思えば、私は長い間ワタルが想像もつかない程の数を苦しめ殺してきたというのに、今更その程度の事を知ったくらいで私が態度を変えてしまう女だと思われている事に腹が立つ!」
「あら、でもみんなに絶対嫌われたくないって思って怯えてるのよ? 自分への気持ちの表れだと思えば可愛いと思わない?」
「むぅ……いや、だが、やはり……私の心を信じ切ってくれていないようで悔しい」
一瞬嬉しそうな顔をしたけどやっぱり腹立たしいのか指先が苛立たしげに机を叩いてる。
「……妾も、やり方は問題だったのかもしれぬが悪い人間を殺める事に忌避感は無いのじゃ、特にクオリア大陸に居た者はそういう者が多いと思うのじゃ、何度となく人攫いに現れる人間の悪行を経験者のエルフから幼き頃より聞かされて育ったのじゃ、やらねば守れぬ、大切なものの為に怒れる旦那様を嫌う事などないのじゃ」
「やっぱり二人はあっさりしたものね、まぁ私たちは根本的に人間というものへの感覚がワタル達とは違うものね、いくら人間と打ち解けたとしても簡単には変わらないわね」
ミシャは想定した話より酷くなかったって梅干し茶を啜ってる。
「私は少なからぬ衝撃を受けています……戦いをされる方ですし魔物とはいえ生き物を殺めるところも見ているので殺すという事に関しては悪人という事もありますのであまり気になりませんがやり方が……」
シロナは目を伏せて俯いたまま考え込んでる。
クロエとシロナはヴァーンシアの人間だけどずっと城の中に居たなら死に触れる機会は日本人と大差ないか、全くなかったのかもしれない。
だとしたら、二人はワタルを嫌いになるの……?
「ワタル様はフィオさんが殺されたと思ってお怒りになられたのですよね?」
「ええ、他にも敵の行いについても思うところはあったでしょうけど間違いなくフィオを殺されたのが引き金よ」
「生きてる」
「死にかけたでしょ! そもそも治癒能力も無い状況でそこら中穴を開けられたら普通死んだと思うわよ! というかほぼ死んでたわ!」
私も死んだと思ったけど……私とティナのやり取りを見てシロナは表情を変えた。
「……酷い、状態だったのですね」
「そうよ、拷問されたってあんなに穴だらけになんかならないわ! 殺すにしても相手への一定の配慮というものがあるでしょう? でもあの時はそんなもの無かったわ、ゴミでも蹴散らすように銃弾があちこちで降り注いでいた。クロイツ王都のゾンビ掃討の様子をいくらか見たでしょう? あれが人に向けられていたのよ、それを怒るワタルを責められる?」
「私は、人を傷付けるのは悪い事だと思います」
「そう、じゃあクロエは――」
「いいえティナ様、私はワタル様が咎人だとしてもその咎も受け入れます。だって私にも分かります、大切な人を殺されてしまった時の気持ち……行いは赦されず消す事も出来ない、それでもワタル様は償うようにしてヴァーンシアで多くの人を助けようとしていらっしゃいました。あの方は優しくて弱い方です、それを知る事が出来たのに拒むなんてありえません、あの方が必要としてくださるのなら私はいつでもお側に居るつもりです」
言い切ったクロエはリオが私に向けてくれるみたいなすごく優しい目をしてた。
ワタルのした事、受け入れてくれたんだ。
もうクロエもワタルにとっては大切なもの、離れていくってなったらきっと、確実に落ち込むから受け入れてくれて良かった。
「クロエ様……」
「シロナはワタル様が恐ろしい?」
「……はい、恐ろしいです」
シロナの返事にそれぞれが目を伏せる。
みんなそれぞれ考え方が違う、それでもワタルを好きでこの場所があたたかいから居られる、居たいと思える。
なら、思えなくなったシロナは、居なくなる……?
「大切なものの為にここまでの事を仕出かす方の大切なものになってしまっているのは恐ろしいです。私達に何かあれば国の一つも潰しそうな感じじゃなきですかっ……私達どれだけ愛されているんですか!? これだけの想い、どのように返していけばいいのか分からなくて恐ろしいです」
最初に笑いだしたのはリオだった。
次に心底おかしそうにティナが、次が安堵したクロエ、最後にミシャとナハトがやっぱり誰も離れていかないって笑ってる。
「みんな家族……」
なんだか嬉しくてリオの背中に抱きついた。
良かった……私の家族は壊れてない。
「そうですね、ワタルが居なかったらあり得なかった家族です」
私の気持ちを理解してくれたリオが抱き締めて返してくれてこたつなんかよりもっとあたたかくなる。
「皆さん不安は無いんですか? 私クロエ様以外にこれ程大切に想われる経験が……しかも男性ですし……あの、なんだか別の意味で今まで通りの接し方が出来なくなりそうなんですけど」
「ワタルに対してドキドキしてるくらいなら全然いいんじゃないかしら? 寧ろワタルが感化されて挙動不審になって可愛いかもしれないわ」
「またそんな事を……お前はワタルが何をしてようと可愛いで済ませすぎだ」
「そうですねぇ……ティナさんはワタルに対して甘過ぎかもしれませんね、今回の事もあんな前置きをして念押しまでしてちょっと過保護というか」
「なによぉ~、みんなだって甘いでしょう?」
リオもなんだかんだ甘い、でも怒った時は一番恐い。
「さて、話す事も話したし寝ましょうか、日本の移動は楽だけどずっと座ってばかりで逆に疲れちゃうわ」
「弛んでいるな、私は少し鍛練をしてから眠る」
「棘のある言い方ね、いいわ、私が弛んでいるか見せてあげる」
雪が降って寒い夜風が吹く中二人は外に出て行った。
「フィオちゃんは行かないんですか?」
「私は弛んでないから寝る、寒いし……リオも一緒に寝よ?」
「……またワタルの布団に行くんですよね?」
「ん」
私が返事をするとリオは眉を寄せて目を伏せた。
もう何度も一緒に寝てるのに何を躊躇ってるんだろう?
「寒いから皆さんで寝るときっと温かいですね」
「ん、行こ」
賛同してくれたクロエと一緒にワタルの布団に潜り込んだ。
リオ達は迷ったみたいだけど結局ワタルが準備してた布団を持ってきて合体させて隣で寝ることにしたみたい。
「にしてもなんなのじゃこの世界は……妾とろけてしまう」
「あぁ、まったくだ、外は雪まで降っているというのに室内の暖かさとこのテーブルの組み合わせは、ダメだろう……」
前に来た時は暑い季節だったけど今は冬だから帰ってすぐにワタルが色々引っ張り出してた。
その一つ、布団が掛かったみたいな机にミシャとナハトは足を突っ込んで突っ伏してる。
「まったく二人ともだらしない――これは……ダメね……」
「だろう? 日本とは堕落の国かもしれん、このように全ての環境を整えられてしまうともはやだらけるのが当然のように思えてくる」
それはなんとなく分かる、この世界は贅沢過ぎる。
日本人にとっては違うんだろうけど私達から見たら何もかもが与えられてるように見える。
その中で更に上を、更に先をって、欲が深い。
「心構えの問題だと思いますけど――はい、皆さんどうぞ」
湯気の出る液体をカップに注いでリオがみんなに回してる。
なんか、変わった匂いがする。
「これなぁに?」
「日本のお茶だと思います。書かれてる漢字はお茶って所しか読めなかったのでどういうお茶かは分かりませんけど」
「リオさんたまに冒険されますよね……クロエ様にこんななんなのかも分からないお茶なんて飲ませるわけには――」
「あら、これ美味しいですね、妙な酸味がクセになりそうです」
「さ、酸味!? も、もしや腐っているのでは!? クロエ様急いで水で口を洗いだ方がっ!」
「シロナったらそんな大げさな、とても美味しいから飲んでみて」
クロエに言われたせいでシロナがカップを睨んで固まってる……。
「塩気もあるわね……なんなのかしらこれ――何か赤い物が入ってるわね」
「この匂い梅干しなのじゃ、梅干し茶なのじゃ」
「なんだ梅干しですか……日本人は妙なものを作りますね、あの酸っぱさを思い出しただけで唾液が出てくるので気分が悪いです」
味を思い出したのかシロナは顔を顰めてカップを遠ざけた。
「美味しいのに」
クロエはちょっと残念そう。
「さて、落ち着いたところで、ティナさん、話というのはワタルの事ですよね? 外を歩く時様子がおかしかった説明をしてもらえるんですか?」
リオが問いかけるとだらしなくしてたナハトもミシャも自然と姿勢を正してティナに向き合った。
「ええ、気付いていたのに知らないフリで通してくれてありがとう、もしこの問題を突いていたら今日までの旅行の内容はガラリと変わっていたと思うわ」
「それはワタルが何かの問題を抱えているという事か? 私たちはどうすればいい? 話せ」
「結論から言えば何もしては駄目よ」
「なんだと? ワタルが苦しんでいるのに何もするなと言うのかっ!」
「ナハト煩いのじゃ、旦那様が起きたらどうするのじゃ」
ナハトは机を叩いて立ち上がろうとしたけどミシャに言われて渋々座り直した。
「ワタルは自分のした事をみんなに知られるのを恐れているのよ」
「ワタル様のした事、ですか?」
「だからそれはなんなんだ、まわりくどいのは嫌いだ、さっさと結論を話せ」
「……みんな何を見てもワタルへの態度を変えない覚悟はある? もしそれが難しいようならこの話は聞かない方がいいわよ?」
「愚問だ、ワタルは私の男だぞ? 受け入れないなんて事があるものか」
「妾は、えっちなの以外なら大丈夫なのじゃ」
「私も何があっても受け入れます。今の私の世界の全てをくださった方ですから」
「うぅ……ティナ様がここまで念押しされているだけに私は若干不安なのですが……クロエ様がこう仰っている以上私も覚悟を決めます」
「態度を変えてはいけないって事は話を聞いた事を隠さないといけないって事ですか?」
「そうね、これまで通り気付かないフリ、知らないフリで通して欲しいわ」
「……フィオちゃんは知ってるんですか?」
「ん、知ってる」
「……そうですか」
そう返事をしたきりリオは目を閉じて黙り込んでしまった。
アドラに居たリオは普通の日本人なんかよりは人の死に触れる機会があったと思うけど、ワタルがあれだけ悩むならリオにも相当忌避するものに映るかもしれない……。
でも――。
「わかりました」
リオがワタルから離れていくなんて考えられない。
「大丈夫です。ワタルが辛い時のフォローはお二人にお任せしますから教えて下さい」
全員の意思確認を終えたティナは日本で起こった事を静かに話し始めた。
「まったく……何かもっと恐ろしい問題を抱えているのかと思えば、私は長い間ワタルが想像もつかない程の数を苦しめ殺してきたというのに、今更その程度の事を知ったくらいで私が態度を変えてしまう女だと思われている事に腹が立つ!」
「あら、でもみんなに絶対嫌われたくないって思って怯えてるのよ? 自分への気持ちの表れだと思えば可愛いと思わない?」
「むぅ……いや、だが、やはり……私の心を信じ切ってくれていないようで悔しい」
一瞬嬉しそうな顔をしたけどやっぱり腹立たしいのか指先が苛立たしげに机を叩いてる。
「……妾も、やり方は問題だったのかもしれぬが悪い人間を殺める事に忌避感は無いのじゃ、特にクオリア大陸に居た者はそういう者が多いと思うのじゃ、何度となく人攫いに現れる人間の悪行を経験者のエルフから幼き頃より聞かされて育ったのじゃ、やらねば守れぬ、大切なものの為に怒れる旦那様を嫌う事などないのじゃ」
「やっぱり二人はあっさりしたものね、まぁ私たちは根本的に人間というものへの感覚がワタル達とは違うものね、いくら人間と打ち解けたとしても簡単には変わらないわね」
ミシャは想定した話より酷くなかったって梅干し茶を啜ってる。
「私は少なからぬ衝撃を受けています……戦いをされる方ですし魔物とはいえ生き物を殺めるところも見ているので殺すという事に関しては悪人という事もありますのであまり気になりませんがやり方が……」
シロナは目を伏せて俯いたまま考え込んでる。
クロエとシロナはヴァーンシアの人間だけどずっと城の中に居たなら死に触れる機会は日本人と大差ないか、全くなかったのかもしれない。
だとしたら、二人はワタルを嫌いになるの……?
「ワタル様はフィオさんが殺されたと思ってお怒りになられたのですよね?」
「ええ、他にも敵の行いについても思うところはあったでしょうけど間違いなくフィオを殺されたのが引き金よ」
「生きてる」
「死にかけたでしょ! そもそも治癒能力も無い状況でそこら中穴を開けられたら普通死んだと思うわよ! というかほぼ死んでたわ!」
私も死んだと思ったけど……私とティナのやり取りを見てシロナは表情を変えた。
「……酷い、状態だったのですね」
「そうよ、拷問されたってあんなに穴だらけになんかならないわ! 殺すにしても相手への一定の配慮というものがあるでしょう? でもあの時はそんなもの無かったわ、ゴミでも蹴散らすように銃弾があちこちで降り注いでいた。クロイツ王都のゾンビ掃討の様子をいくらか見たでしょう? あれが人に向けられていたのよ、それを怒るワタルを責められる?」
「私は、人を傷付けるのは悪い事だと思います」
「そう、じゃあクロエは――」
「いいえティナ様、私はワタル様が咎人だとしてもその咎も受け入れます。だって私にも分かります、大切な人を殺されてしまった時の気持ち……行いは赦されず消す事も出来ない、それでもワタル様は償うようにしてヴァーンシアで多くの人を助けようとしていらっしゃいました。あの方は優しくて弱い方です、それを知る事が出来たのに拒むなんてありえません、あの方が必要としてくださるのなら私はいつでもお側に居るつもりです」
言い切ったクロエはリオが私に向けてくれるみたいなすごく優しい目をしてた。
ワタルのした事、受け入れてくれたんだ。
もうクロエもワタルにとっては大切なもの、離れていくってなったらきっと、確実に落ち込むから受け入れてくれて良かった。
「クロエ様……」
「シロナはワタル様が恐ろしい?」
「……はい、恐ろしいです」
シロナの返事にそれぞれが目を伏せる。
みんなそれぞれ考え方が違う、それでもワタルを好きでこの場所があたたかいから居られる、居たいと思える。
なら、思えなくなったシロナは、居なくなる……?
「大切なものの為にここまでの事を仕出かす方の大切なものになってしまっているのは恐ろしいです。私達に何かあれば国の一つも潰しそうな感じじゃなきですかっ……私達どれだけ愛されているんですか!? これだけの想い、どのように返していけばいいのか分からなくて恐ろしいです」
最初に笑いだしたのはリオだった。
次に心底おかしそうにティナが、次が安堵したクロエ、最後にミシャとナハトがやっぱり誰も離れていかないって笑ってる。
「みんな家族……」
なんだか嬉しくてリオの背中に抱きついた。
良かった……私の家族は壊れてない。
「そうですね、ワタルが居なかったらあり得なかった家族です」
私の気持ちを理解してくれたリオが抱き締めて返してくれてこたつなんかよりもっとあたたかくなる。
「皆さん不安は無いんですか? 私クロエ様以外にこれ程大切に想われる経験が……しかも男性ですし……あの、なんだか別の意味で今まで通りの接し方が出来なくなりそうなんですけど」
「ワタルに対してドキドキしてるくらいなら全然いいんじゃないかしら? 寧ろワタルが感化されて挙動不審になって可愛いかもしれないわ」
「またそんな事を……お前はワタルが何をしてようと可愛いで済ませすぎだ」
「そうですねぇ……ティナさんはワタルに対して甘過ぎかもしれませんね、今回の事もあんな前置きをして念押しまでしてちょっと過保護というか」
「なによぉ~、みんなだって甘いでしょう?」
リオもなんだかんだ甘い、でも怒った時は一番恐い。
「さて、話す事も話したし寝ましょうか、日本の移動は楽だけどずっと座ってばかりで逆に疲れちゃうわ」
「弛んでいるな、私は少し鍛練をしてから眠る」
「棘のある言い方ね、いいわ、私が弛んでいるか見せてあげる」
雪が降って寒い夜風が吹く中二人は外に出て行った。
「フィオちゃんは行かないんですか?」
「私は弛んでないから寝る、寒いし……リオも一緒に寝よ?」
「……またワタルの布団に行くんですよね?」
「ん」
私が返事をするとリオは眉を寄せて目を伏せた。
もう何度も一緒に寝てるのに何を躊躇ってるんだろう?
「寒いから皆さんで寝るときっと温かいですね」
「ん、行こ」
賛同してくれたクロエと一緒にワタルの布団に潜り込んだ。
リオ達は迷ったみたいだけど結局ワタルが準備してた布団を持ってきて合体させて隣で寝ることにしたみたい。
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