黒の瞳の覚醒者

一条光

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七章~邂逅ストラグル~

一足飛び

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「お前らなぁ……俺ってば怪我人ですよ? それ以前にこんな場所でこんな状況なのに――」
「だってしょうがないでしょう? ずっと会えなかったからワタル成分が不足しているんだもの、補給しないと死んじゃうわ」
 なんだその訳の分からない成分は…………。
「なっ!? ティナ! お前はニホンでずっと一緒だっただろう! 私だ、私の方が不足している!」
「いだだだだだだだだだっ! 腕をグイグイ引っ張るな! 両肩に穴空いてるんだぞ!? 千切れたらどうしてくれる!?」
「もしそうなったらずっと傍に寄り添ってお世話してあげるわね」
「千切れてすぐならセラフィアの能力で治療可能だ」
 アフターケアっ!? 千切れないようにする配慮とかないのか!?
「千切れても問題ないみたいな回答止めろよ!? 俺は千切れるの嫌だぞ。本当に再会を喜んでるのか…………?」
「当然よ!」
「当然だ!」
 腕を引っ張るのは止めてくれたが、代わりに手は握りっぱなしだな、このくらいならいい、のか?
「ワタル」
「ん? なんだ、フィオ――って、おい?」
 大剣を下ろし近付いてきたフィオが俺の腰にしがみ付き、腹にぐりぐりと顔を押し付けてきた。
「また、会えてよかった。嬉しい」
 そして少しだけ潤んだ瞳でこちらを見上げてほにゃっと顔をほころばせた。なにこいつ……可愛さ爆発なんですけど!
「お、俺も嬉しいよ」
「そう、よかった――」
「ワタル! 私は? 私と会えたことも嬉しいわよね?」
「あ、うん、それはもち――」
「私は!? 私はどうだ? ずっと会いたかったのだぞ?」
「ナハトも来てくれて嬉しいよ。おかげで助かった、ありがとう」
「っ! そ、そんな事気にするな。私はお前の為ならなんだってする覚悟だ!」
「……そういう話は置いておいて、どうやってここに来たんだ? 移動手段は……まぁティナがここに居るんだからティナの能力を使って来たんだろうけど、俺の位置は――」
「ワタル、これはなんだと思う?」
 ナハトが掲げたのは模様の入った大きめの紙…………。
「ああっ! 地図! そうか、それで居場所が分かったのか」
 監視されてるみたいで嫌だと思ったやつがこんな所で役に立とうとは!
「ああ、もしもの時を考えて作っておいて正解だった――」
「そんな事より聞いてよワタル~、私すっごく頑張ったのよ? 私たちの大陸から海を越えて、この大陸に着いてからもずっと跳躍し続けよ? 褒めて~、そして甘えさせてぇ~」
「っ!? ティナ! ワタルは私のだと何度言えば分かるんだ! 勝手に触るな抱き付くな。フィオお前もだ、早く離れろ!」
「やぁよ」
「や」
『ねー』
 お前ら仲いいな、日本に居る間に打ち解けた感はあったけど……ナハトが涙目になってるぞ。
「離れろぉ、私のなんだ……私が、私が最初に選んだんだぞ」
「最初はリオで次がフィオでしょう? 出会った順番なんて関係ないわよそれに選んだと言ってもナハトが勝手に選んだだけでしょう?」
 それはティナも同じだと…………ん?
「リオ、リオは無事だったか!? ナハトと一緒に居たならリオにも会えたんだよな!?」
「それは…………」
「っ!? おい、なんだよその沈黙は……まさか――」
 ナハトや紅月も一緒に居たはずだろ? 危険な目に遭ったりなんてしてないはず――まさか守ってもらえなかったのか? ……いや、紅月はどうか知らないけどナハトはそんなタイプじゃないはず――。
「最近はそうでもなかった気がするけど私たちが合流したばかりの頃は泣いてばかりで大変だったわね」
「無事なんじゃないかよ。真剣に心配してんのに、俺で遊びやがったな」
 ティナとフィオを振り解いて、痛む腕でティナの頬をグイグイ引っ張ってやるが全く堪えた様子がない。
「にゅふふ~、ワタルは困惑した顔も落ち込んだ顔も可愛いわ~」
「お前なぁ――っ!? 銃声? なんで銃声? しかも複数? 自衛隊の誰かも連れて来たのか? いくらティナの能力でもそんな大勢で移動するのは――」
「そう! 問題はそこよ! まったく! 面倒な事にこの私があの不埒者と二人旅よ? 仕方がないとはいえずっと手を繋いだままだったし…………どう考えたってナハト達がここに居られるのは私のおかげなのだから少しくらいワタルに甘えさせてもらう権利はあると思うのだけど?」
 不埒者? 覗き事件で不埒者増えちゃったから誰か分かんないんだけど……初代不埒者の称号を持つ結城さんだろうか? ……なんで結城さん?
「それは…………ティナの苦労は分かっているし感謝もしているが、だがワタルは譲れない!」
「なぁ――」
「譲るもなにもナハトより私の方がワタルとの関係は進んでいるのよ? ワタルだって私を選ぶはずよ」
「ちょっと――」
「た、偶々長く一緒に居られただけでいい気になるな。これから私は一気に挽回する、そうすればティナは捨てられる事になる。大人しく身を引いておくのがいいのではないか?」
「無視すんな!」
『ひゃい!?』
「だいたい、当人を無視して好き勝手――」
「ワタル、話は戻ってからにしよう。銃声が気になる」
「あぁ、えっと、ワタルの友達の…………」
「玖島天明です。さっきは移動に手を貸してくださってありがとうございました」
「そう、タカアキね。ワタルの友達なんだからいいのよあのくらい。それより、この銃声は自衛隊が死体の処理を開始しただけだから心配する事ないわ」
「死体って、ゾンビ?」
「そうそう、日本人は動く死体をそう呼ぶのよね。空に見えるあの陣のせいで死者が動き回っているでしょう? あの陣は陣の範囲内に動ける状態を保ってる死体が存在している限り消えないのよ。その上人を襲うから消すのがどんどん面倒になるのよね……死者には悪いけど少ないうちに酷い損傷をさせて早めに消すのが一番だったのだけれど…………」
 この町にはかなりの数のゾンビが犇めいているぞ。これを全部片付けないと繰り返される? ……なんて面倒な魔法陣を設置してるんだ。
「んん? 一人二人連れて来たからって大した戦力じゃないだろ」
「一人二人じゃないもの」
「どういうことだ?」
「自分の目で確かめた方が早いんじゃないかしら?」
「なら早く戻ろう。銃声の件が大丈夫でも航の治療をしないといけないし、話をするなら落ち着ける場所の方がいいですから。俺も怪我は治してもらったけど血を流し過ぎたから少し休まないといけないし」
 治療って言ってもなぁ……そういえば、セラフィアさんに治してもらわなくても城に戻れば大輝に治してもらえるじゃないか! 色々起こり過ぎて頭が回ってないな。

 城に戻るのはティナの能力で一瞬だったが戻ってからが大変だった。城壁で待っていたクロとシロ、アリシア姫にソフィア姫と恋、クロとアリシア姫は狼狽えておろおろしててシロは青ざめながらもぱたぱたと動き回って治療に必要なものを集めたり大輝を呼んできてくれたりした。ソフィア姫は天明の無事に安堵したようだったが血塗れの服を見て泣き出していた。恋は青ざめた顔をして座り込み、そんなみんなの様子を眺めていた。
「ありがとう大輝、大分楽になった」
「でもまだ外側しか治せてないよ?」
「肩に風穴空いてそれが見えてるのと見えてないのじゃ相当違うんだよ。自分の体ながらなかなかに気色悪かった」
「う、うん。お兄ちゃん酷い怪我ばかりするから怖いよ」
 俺も好きで怪我してるわけじゃないんだけどなぁ。痛いの嫌いだし。
「ダイキ、だったか? 私のワタルを治してくれた事、礼を言う」
「あ――」
「ナハトのじゃなく私のなのよ。治療ありがとね」
「いつ貴様のになった!」
「日本で暮らしてる間によ!」
「あはは……お兄ちゃんって凄いね。昔話に出てくるエルフさんと仲が良いなんて僕びっくりだよ」
 これは仲が良いって言うのか? 結構微妙だと思うが…………それにしても驚いた、城壁の内側には自衛隊、エルフ、獣人が何人も歩き回っている。この状況を作り出したのはティナと結城さん、結城さんは覚醒者になったらしい。その能力は転移魔法陣の設置、転移元と転移先両方に同じ陣を設置しないといけないらしいが、陣に入るだけで自由に行き来できるというのはかなり便利だ。この陣を設置する為に結城さんと二人で跳んできたという事だった。結城さんが先行して陣を設置しさえすればどの大陸にも大所帯や大型車両も一瞬で移動できる。なんとも便利な能力に目覚めたものである。今はエルフや獣人、自衛隊が協力して外の魔物とゾンビの掃討を開始している。どうにかしようと足掻いてどうにもできていなかった事が一気に動き始めた。動き始めた事は嬉しくもあり、結局役に立っていない自分の無力が悔しくもある。調べてみないと断言は出来ないそうだが怪樹を沈静化出来る可能性もあるらしい。その為にも先ず掃討と。
「はぁー」
「どうした?」
「ん、姫さんの相手はいいのか?」
 死にかけたせいだろう。幾分疲れた様子の天明がやって来た。
「ああ、泣き疲れたみたいだ。心配してくれてるのは嬉しいけど、泣かれるのは、辛いな」
 そう言って空を見上げた天明に釣られて俺も空を見上げた。
「まぁ、そうだな。泣かれたら対処に困る」
「ぷっ、くくく」
「何だよ急に」
「いや、喧嘩して女の子を泣かしてオロオロしてる航を思い出してね。普段強気な態度だったのに急にぺこぺこして女の子を構ったりね」
「なっ!? なんでそんなもん覚えてるんだよ! 忘れろ、記憶から消せ!」
「無理無理、数少ない大事な友達の思い出だからな。他にも――」
「いい! 分かった。消さなくていいから口に出すなーっ」
「はっはっは」
「はっはっはじゃないっての」
 この調子だと俺が忘れてる恥ずかしいネタなんかも覚えてそうで怖いな。
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