黒の瞳の覚醒者

一条光

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七章~邂逅ストラグル~

目覚め

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『フッフフフフフ、これはこれは、あの方たちはあなた方二人が不利だと見当違いな判断をして城という安全地帯から出て来てしまわれましたよ? フッフフ、愚かですねぇ。自分たちの方へ気を散らす事でお二人が危機に陥るというのに、どれ、少しワタクシが卓見を説いて差し上げま――』
「お前は大人しくしてやがれ! これ以上異形なんか作らせるか!」
 城を出て、魔物の残党を狩りながらこっちへ進んでくる騎士たちの元へ動き出そうとした外法師の前に立ちはだった。
「天明、お前戻れ」
「なにを――」
「俺が行っても言う事を聞く人たちなんて殆ど居ないだろ。余計な被害が出る前に早く――」
『ホッホッホ、やはり庇いたがりますか。戦いで相手の弱点を抉るのは定石――いえ、そんな事関係なくワタクシは抉るの大好きですが、趣味が実益を兼ねるのは素晴らしいと思いませんか!? ……少々こぢんまりとしてしまいますが、あの方たちには十分でしょう。さあ! 存分に遊んで差し上げなさい』
 外法師は周囲にまた集まり始めていたゴブリンまで次々とゴーレムに変えてしまった。サイズは人間より少し大きい程度だが、混ぜ込まれた物の中に剣や斧なんかの、死んだ魔物が使っていた武器が含まれていたせいでミノタウロスと石畳で作った物と違って金属の光沢を持っている。その上ゴーレムのくせになかなか素早い。
「早く行け、天明」
「すぐに戻る。航、死ぬなよ。異形になったお前と戦いたくなんてないからな」
 天明はそれでけ言い残し、メタルゴーレムを薙ぎ払いながら仲間の元へ向かって行った。
『ふむふむ、行ってしまわれましたね。お一人でよろしいのですか? ワタクシとこの巨大ゴーレム、同時に相手を出来ますか? まぁ、無理でもしていただきますが、フッフフ、どのような苦悶の表情をされるのか、実に興味深いですねぇ。自信に満ちた顔が恐怖に歪み命乞いをするのでしょうか?』
 こんなところで死んでる暇なんてない。この世界に帰って来た目的を何一つ果たしてないんだから。
「お前みたいに気色の悪い奴とめんどくさそうなデカブツの相手なんか御免蒙る。傍に誰も居ないなら全力で電撃を使える、速攻で終わらせてやる」
 言いながら全身から電撃を発して周囲の建物を巻き込みながら電撃が四体のゴーレムを包み込んだ。
『フッフッフ、ホッホッホ、これはこれは……強力な能力を使っていても暴走していませんね。自身を完全に掌握している、という事ですか。こんなに質の良い素材があったとは、もっと早く知りたかったですね。ですが今の程度では焦げたくらい効果が無いようですよ?』
「どうかな――フンッ」
 大きな変化がないから効いていないと判断した外法師を無視してゴーレムの一体の足を斬り裂いた。足を斬られてバランスを崩し、電撃で脆くなった巨体は倒れた衝撃でぼろぼろと崩れた。
『なるほどなるほど、さっきので脆くなっていましたか。そんな使い方も出来るのですね。ですがこうすれば――どうでしょう?』
 石が剥がれ落ちて露出したベースのミノタウロスに触れ、今度は金属で覆い、メタルなミノタウロスを作り上げた。
「金属を混ぜて強度を上げようが生身の部分があるなら感電しやすくなっただけだろう、が!」
 剣先から電撃を放って再生されたミノタウロスの胴を貫いた。
『いえいえ、先程はミノタウロスを核としていただけですが、今度は完全に混ぜ合わせましたからこれの体は原状を留めていませんよ。ほらね? あなたのいかづちに貫かれてもこの通りです』
「あっそ――ッ!」
 自分の作った物を自慢げにしているのを無視してメタルミノを斬り裂いた。うわっ!? 本当に中身までメタルになってる。切り口からあふれてくるのは金属色の血液だ。
「天明の剣程じゃないけど俺の剣も大抵の物なら斬れるんだよ。多少丈夫だろうと意味がない。大人しく消え去れ」
『フッフフフフフ、そうですか。ではあなたのお相手はワタクシが致しましょう。彼らにはあちらに向かってもらう事にします』
「させ――っ!?」
『フフ、ワタクシの手が怖いでしょう? 手を見た途端に表情が崩れましたよ? 最高ですね。フッフフフフフ』
 横に回り込まれ突き出された左手を既の所で躱した。俺を見てニタァと笑う外法師の表情が不快で堪らない。
『自分の姿が変わる事が怖いですか? 心配しなくともより良い姿にして差し上げますよ』
 剣と杖がぶつかり合う兵戟の音が響く。自負しているだけあって動きが速い、それに腕力は圧倒的に外法師の方が上だ。正面からぶつかれば弾き飛ばされ体勢を崩される。触れる為だろう、杖を短く持ち執拗に距離を詰めた戦い方をしてくる。
「ッ!?」
『おや、失礼――』
 距離を詰められ外法師の手に集中するように仕向けられたところで杖の先で足を払われ転倒した。
「寄るなっ!」
 咄嗟に障壁を張って退けたが……危なかった。悍ましい気配が身体を掠めた事で怖気がして少し身体が震えている。もし自分が今まで見たような異形の姿に変えられたら…………。
『震えてらっしゃいますか? フッフフフフ、それほどにワタクシが怖いですか? 今のあなたの表情、堪りませんよぉ』
「ああ、怖いね。俺はこの世界にもう一度会いたい人たちに会う為に帰って来たんだ。姿が変わったら分かってもらえないだろうが!」
『ッ!? なるほど、剣に雷を纏わせればぶつかった時に杖を伝ってワタクシにダメージを……色々使い方があって便利ですねぇ。自身にあなたを混ぜ込むのもまた一興! いかがですか!?』
「遠慮する! 自分まで素材扱いかよ。酔狂過ぎだろ」
『いえいえ、これは楽しみというよりは自身の強さの底上げの為ですから、ですがディアボロスに混ぜると更に素晴らしくなる……迷いますねぇ! 多芸である分、身体能力という点では先程の方より劣っていますし…………そうだ! あなたはワタクシが頂いて、先程の方をあれに混ぜるとしましょう。そうと決まれば早々に決着を付けさせていただきます。お二人を同時に相手するのは骨が折れますから』
「嫌だっつってんだろうが! 寄んな! 気色悪い」
 放射状に電撃を放って近付けない様にして距離を取った。こんな奴の相手なんていつまでもしてられない。この町に残ってる厄介な奴はこいつだけ、こいつさえ倒せば調査だって好きなだけ出来る。さっさと決着を付けたいのは俺も同じ――。
『――――ッ!!』
「なっ!?」
『っっ!? これは、まさか…………予定より幾分早い、まだ猶予はあったはずですが――フフフフフ、アッハハハハハハハハハハハハハ! アリルゥゥーイヤァァァアアアアアー!! もう少し手を加えたいと思っていましたが、最早そんな事はどうでもいい、完ッ成! です! さぁ、惨劇を始めましょう?』
 空に舞う、人間と魔物の死体、その中心に悪魔が居た。大きさは人のそれより一回りくらい大きい程度だと思うが、背に生え広げられた翼は体長の三倍くらいはある。それが巻き起こった竜巻の中心に居る。
『今貴方を作った主人が行きますよ』
「待――っ!? 邪魔をするなッ!」
『あれが目覚めた以上あなたに用はありません。ワタクシは急ぎますのでこれにて失礼。間近であれが繰り広げる惨劇を目にしなくては! あなたは他の魔物の相手でもしていなさい』
 外法師を追おうとする俺を阻むように魔物が取り囲み、電撃で焼こうが剣で斬り裂こうがすぐに他の魔物が穴を埋めていく。
「待てッ、外法師! チッ、邪魔なんだよ!」
 放射状に電撃を放つ事で周囲を囲んでいた魔物を一掃したが、巨体の魔物の死骸を盾にしてゴブリンなんかが生き残っている。急いで追わないと、いくら天明でも外法師とディアボロスの挟撃は手こずるはずだ。

「なんだ……これは…………」
『おや遅かったですね。惨劇ですよ、ですがあなたは目を瞑る事など許されない! 生き延びたいと、足掻きたいと思うのであれば見続けなければならない』
 ようやく魔物を片付け、兵戟音が響く場所へ向かうと、異様な死体が散乱する中心で天明とディアボロスが戦い続けていた。ディアボロスの体は青黒い鉱石の様な体表をしていて、人の頭など軽々と握り潰せそうな手から伸びた鋭利な爪で天明の大剣と打ち合っている。
「なんで…………?」
『ん? ……あぁ、ディアボロスにはオリハルコンやミスリルも混ざっていますから、混ざり合いより硬い物となっているでしょうね。あなたの剣では刃も立たないでしょう』
 だとしても素手だぞ? 目覚めたばかりだから体を上手く動かせていないのか、それとも奴より天明が上なのか、打ち合いに間に合わない場合天明の剣を腕でまともに受けている。それなのに傷一つ追っていない。動きだって、天明は俺なら流すだけで精一杯だろう速さで畳み掛けているのにディアボロス自身も攻撃を織り交ぜている。
「ッ!?」
『おやおや残念。呆然としてらっしゃるから簡単かと思ったのですが、良い素材というのは捕えにくいのが問題ですね』
 危なかった。あと一秒でも反応が遅れていたら俺は俺じゃないものに変えられていた――っ!?
「ニック…………?」
『おや、そちらお知り合いでしたか? フフッ、引き絞られて全身から血を噴き出してらっしゃいますね。さぞ苦しみぬいた上で絶命させたのでしょうね。フフッフッフッフ』
 周囲にはいくつか雑巾の様に捻じられた死体が転がっている。
『すぐに終わらせると息巻いていた方の表情とは思えませんね。良い表情です』
 今の俺はどんな顔をしてる? 許せないという怒り? こうはなりたくないという恐怖? 死者への憐れみ?
『あなたは随分と揺れやすいのですねぇ。あちらの方は感情を抑え冷静に斬り結んでいるというのに、死体を見ただけでこれ程動揺されるとは』
 一度やらかしたからこそ、こういうのには冷静でいられない。
『ならこちらを見たら更に乱れるのでしょうか?』
「っ!? …………」
 外法師が掲げたのは子供の首だった。どういう訳で外に出たのか、恐らく騎士たちが外に出るのに紛れたんだろうが…………。
『ふむ、もっと乱れるのかと思ったのですが、表情が無くなってしまいましたね。せっかく用意したというのにこれではつまらない、もっと苦悶する姿を――』
「死ね」
『お? おぉお!? 腕、ワタクシの腕が!? こ、これでは能力が――』
「消え去れ!」
『がぴゅ…………ハ、ハハハ、趣味に走り過ぎましたか。フフフ、まるで化け物の様な表情ですよ? そう……ですね、あなたの世界の言葉で言うなら鬼、夜叉、でしょうか? …………あなたは内に夜叉を飼っている。今のあなたもなかなかの惨劇を繰り広げそうですよ……ディアボロスやあなたが起こす惨劇の果てを見届けられないのは無念ですが、この身で舞台に残るのは難しいですね……潔く退場しましょう。そのようなものを内に飼ったままあなたが人間の中でどう生きるのか、楽しみ……です、ねぇ…………』
「そんな事……知るかよ」
 俺がもっと早くこいつを片付けていれば…………。
「…………ん? この首……青い瞳?」
 目を閉じさせようと首に触れて違和感を感じた。この顔は俺の所に来ていたガキの一人だけど、来てたのは全員混血、青い瞳なんてあり得ない――。
「って、うわっ!? ご、ゴブリン? …………くっ、くっくっく……やりやがったなヴェロめ」
 持っていた首が突然ゴブリンのものに変わり、驚き投げ捨てた。慌てて周囲を見回したが、子供の死体は無い。それどころか人間の死体が減って魔物の死体が増えている気さえする。あいつが変えられるのは一分くらいの間だったはず……他にこの能力を知らないからヴェロだろうとは思うけど、酷い負荷に襲われてなければいいが、あいつのおかげで助かった人が結構いるようだ。ここを片付けて礼を言わないとな。
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