黒の瞳の覚醒者

一条光

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七章~邂逅ストラグル~

合流

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「大分進んだと思うけど、見えてこないな救援隊……街道を真っ直ぐでいいんだよな? ミノがバイク壊すから歩きでこんな…………」
 街道を進みながらぶつぶつとぼやく。救援隊の出迎えという任務を仰せつかって出発して二日が経ったが、今のところそれらしいものには出くわしていない。歩きだから進みが遅いしなぁ……もちろん最初は歩きじゃなかった、馬を用意してもらっていた…………が、王都を出て数分で魔物の群れに喰われた。最初の内は守ろうともしていたがキリが無いし、逃げるだけなら自分の足の方が速い。馬を守って電池切れになってバテる方がマズいと考えて馬にはごめんなさいした。
「その分自分で歩く羽目になってるから結局疲れはするけどなぁ……っと、来るなよめんどくさい」
 キメラと、それの背に乗っていたゴブリンを斬り捨てた。ゴブは合ってるだろうがキメラは勝手にそう呼んでいるだけで合っているのかは分からない。キメラと聞くと大抵は頭部が獅子、胴体が山羊、尾が蛇の物が浮かぶと思うがこいつの頭部ってどっちかと言うとイヌ科寄りの狼っぽい感じなんだよなぁ。ここまでに獅子っぽい個体も数体見るには見たけど少ない……王都と比べると天と地ほどの差があると言ってもいいくらいに街道は魔物が少ない気がするが、獲物を求めて動いているものを見つけたら襲い掛かってくる。そして――。
「一匹に見つかるとぞろぞろ出てくると…………」
 キメラ乗りのゴブが複数現れた。ここまでにゴブとキメラが一緒に出てくる事はあっても乗ってるのは初めて見たな、飼われてるんだろうか?
『ギギ、ギギャッ! ギャギャギャ!』
 リーダー格っぽい、一番大きなキメラに乗ったゴブが他のゴブに向かってさっさと狩れ! みたいな指示を出している。
「帰った方が良いんじゃないか? 血の臭いがしてても人間の物じゃないのくらい分かるだろ? 逃げるなら追わないからさっさと道開けろ」
『ギギ? ギャッギャッギャッ!』
 伝わっているんだろうか? なんか馬鹿笑いされて全員大爆笑なんですけど……いいや、面倒だしこのまま行こう――ッ!
『ギギャッ!?』
 リーダー格の奴の傍を通り過ぎようとした瞬間キメラが噛み付こうとしてきたので胴体に頭部とさよならしてもらった。
「言ったろ、俺からしてる血の臭いは人間の物じゃないって、邪魔するなら面倒でも全員斬り伏せるぞ」
 苛立ちから出た低い声と共に睨み付けたら、たじろいでキメラ達が後退った。ゴブの方は理解出来ないのか、納得出来ないのか殺気丸出しだがキメラの方は突っ込めば殺されるのを理解したらしい。こういう時は獣に近い生き物の方が察知しやすいのかも――。
「はい一匹目~、どうすんだ? 斬れと言うなら全部斬るぞ」
 キメラを殺されて激昂した奴が飛び掛かってきたのを両断した。
「…………流石に理解したか、もう来んなよ。めんどくさいし疲れる」
 殺気を失ったゴブ達を残して先を急ぐ。

「おいおい、勘弁しろよ。三日歩いて見つけた救援隊を喰われて堪るか!」
 ようやく見つけた救援隊のものと思しき馬車が魔物の群れに襲われていた。兵士たちが応戦しているが魔物の数が異常に多い、ここに来るまであれほどの群れは見なかったのに……人の、獲物の多さに釣られたのか? …………人と魔物が密集し過ぎている、電撃じゃなく剣で始末しないと――。
「裁きの矢よ、降り注ぎ下劣な愚者どもを貫けッ!」
「は? ちょ――っ!?」
 魔物は俺の後ろからも来ていて、俺など無視して馬車へ一直線に進んでいくのを斬り倒しながら馬車へ近付いていたら、荷馬車の上に立った金髪の男がそう叫び、自身の半身よりも大きいクロスボウを構えて複数の矢を発射した。上空に放たれたはずの鏃が向きを変え地上に降り注いだ。金髪の男は次のクロスボウを構え更に矢を放つ、傍では兵士が使い終わったクロスボウに矢を番えている。矢は何らかの力が働いているらしく、迷う事無く標的を貫く――。
「ッ! 俺まで狙ってやがる」
 自分に向かって来た矢を周囲の魔物ごと電撃で焼き尽くした。ふぅ、こんなに人が多い状態でやるのは不安があったが、まだ少し距離があったから兵士たちに被害が出ずに済んだようだ。時間を掛けて訓練していた甲斐があった。
「なんだ奴はっ!? 港町ですらあれだったから王都は更に酷い状態だと理解していたがこれ程危険な物まで出てくるかッ! 皆離れていろ、こいつは僕が斬る!」
 おいおい、なんで俺が魔物みたいになってんだっ!? ――っ! 打ち込んで来やがった。クロスボウだけじゃなく剣も使うらしい。
「ちょ、待て! 俺は人間だ!」
「そのような妖しい風体の者の妄言に騙されるものかっ! この僕が正義の名のもとに成敗してくれる。……貴様、どこを狙っている! 僕を愚弄しているのか!」
 こいつ話聞かねーっ!? こっちの言う事を聞かずガンガン打ち込んでくる。妖しい風体ってなんだ……長髪か? 長髪が駄目なのか? それともコートのフードを被ってるせいか? 攻撃するわけにもいかずひたすら避けつつ、合間に馬車へ近付こうとする魔物を掃除する。ん?
「落ち着くんだアルア、彼は敵じゃない」
 救援隊の馬車の列の後方からやって来た黒髪黒目で長身の男が、自身の身長ほどもある大剣を持って俺と金髪の男、アルア? の間に割って入った。
「何故そんな事が分かる!? 王都に近付いてからというもの、少数とはいえ人間に化けた魔物が数度現れたのを忘れたか! こんな死の土地に僕たち救援隊と王城に居た王族の方、避難した王都の民以外にはこの大陸には生存者は居ないんだ!」
「彼はその王城から来たんだよ。彼のコートの背に描かれているのはクロイツの紋章だろう? 連絡があった出迎えの使者だ。そうだろ? …………ん?」
 激昂したアルアと違い余裕のある爽やかな笑みを向けられた。うわぁ……すっげぇイケメンだな、なんか萎縮するわ…………んん? こっち見て固まったぞ? 何かあるのか? …………俺も妙な感じがするような?
「……はい。出迎えに行くようにと言われてきました」
「……やっぱりな、アルアに一度も攻撃を向ける事無く魔物を処理している事に他の騎士が違和感を持ってね、俺の所に知らせに来てくれたんだ。わざわざ出迎えに来てくれたのにすまない」
「あ、いえ――」
「団長! 次が来ました!」
 団長? 騎士団長? 黒目、だよな? この人も芦屋と同じで凄い出世した人?
「すぐに行く! アルア、次が来たぞ。悪いけど掃除が済むまで少し待っていてくれるか?」
「いや、俺も手伝い――」
「せっかく来てもらった使者に攻撃した挙句に怪我をさせてしまったら俺たちも立つ瀬がない。ここは任せてくれないか?」
 手伝いに来てお客扱いで休まされたら意味がないんだが…………。
「…………分かりました」
「そうか、ありがとう」
 男に背を向け車高のある屋根付きの馬車の上に飛び乗って、手を掲げて電撃を放った。アルアってやつの真似だ、俺は矢ではなく電撃だが、空に向かって放った無数の電撃がこちらに向かって来ている魔物を撃ち抜いていく…………くっそ、同時に複数の電撃を制御するのは結構疲れるな。こういうのは城の狭い修練場じゃ練習出来なかったからなぁ、これも練習しないとだ。
「はは、驚いたな。クロイツ王は相当な覚醒者を遣わしてくれたらしい……任せてくれと言ったのになぁ」
 怒った風もなく団長と呼ばれていた男がそう言ってくる。
「前衛は任せてましたよ? 怪我しない位置に居ればよかったんですよね?」
「なるほど、なら後衛は任せて俺たちは前衛――」
「団長はお休みください! もう十日近くまともに眠っておられないでしょう! こうして凄い使者の方が来てくださったのですから少しでもいいのでお休みください」
 魔物の波がひと段落したのを見て御者をしていた兵士が団長? に近付いて必死に進言している。十日寝てないって……人間か? 無茶苦茶過ぎるだろ。
「でも――」
「いざという時に団長が動けなくなっていたら皆が不安になります。それに使者さんの力は相当なものです、少しくらい休んでいても問題無いはずです。あの、少しくらい構いませんよね?」
 自分の言葉だけでは承諾してもらえないと思ったようで兵士が俺に振って来た。
「あぁ、まぁ、平気です。まだまだ電池切れにはならないですし、休んでないなら休んだ方が良いんじゃないですか?」
「そうだ、お前なんかいなくても僕一人でも対処出来る。倒れられても面倒だから大人しく休んでいろ」
 アルアまで加わって来た。
「いえ、隊長もお休みください。団長に張り合って既に二日寝ておられないでしょう? 先程の攻撃、我々には当たってはいませんがいつもと違ってスレスレでしたよ」
 お前も寝てないのかよ…………そんな状態であんな危ない事するなよ。
「なっ!? お前は僕が仲間に当てると思っているのか? 僕がどれだけあの技を練習したと思っているんだ! たった二日程度眠っていないくらいで狙いが狂うような軟弱な鍛え方はしていないぞ!」
「い、いや、ですが――」
『痛っ』
 困惑しながらも食い下がる兵士を遮って、老騎士が二人の頭をポカりとやった。ん~、白髪で立派な白髭の老紳士だな……ガタイが良いせいで微妙にアンバランスだが。
師匠せんせい、いきなり何するんですか!」
「そうですよ、別に殴らなくても俺は少し休ませてもらうつもりでしたよ」
「ならそうしなさい、上に立つ者が下の者に心配をかけるようではいけません。そしてアルア、妙な事で張り合って睡眠を取っていないからそんなにイライラして声を荒げるのです。冷静になって何をすべきか考えなさい、一部隊を率いる者がそのようでは指揮に影響も出るでしょう、そうなれば部下も付いてこなくなり、いずれは瓦解を招きますよ?」
「そんな大袈裟な――」
「…………」
 無言の視線、睨んでいるわけではない。ただ、諭すように見つめている。
「分かり、ました。すまなかった、少し休ませてもらう」
 髭紳士凄いな、あっさり黙らせた。
「はい! 流石フレデリック様、お二人ともあっさり折れてくださいましたね。これなら道中にもっと早く言って下されば良かったのに」
「いえいえ、ここまでの道中それなりに魔物の襲撃頻度が高かったですからねぇ、アルアはともかく団長には少し無理をしていただかないと隊に被害が出ていましたからね。団長もそれを理解してああしていたのです、あまり責めないであげてください」
「いえ! 責めるなどとんでもない。自分はただ団長が心配だっただけなので」
「そうですか。ではそろそろ出発しましょう、折角道が開けているにのんびりしていて囲まれてしまっては元も子もないですからね。そうそう、使者様、ご助力感謝いたします。救援に来た我々が助けられてしまうのは少々情けないですが、団長にもそろそろ休息を取っていただかないといけない頃合いでしたので助かりました」
「あ、いえ、王都の掃除は俺一人じゃかなりの時間が掛かりそうなのでみなさんが来てくださってこっちも助かりますから」
「ほっほっほ、その口ぶりだと時間さえあればお一人でどうにかしてしまえるご様子ですね」
 ちょっと自信過剰な発言だったか……でも実際ヤバい物には出くわしてないんだよな、不意打ちはされたけど、力の差があっての負傷じゃなかったし。
「まぁ、数が多いけど魔物の強さがちょっと――」
「……お話は移動しながらに致しましょう」
「あ、はい」
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