黒の瞳の覚醒者

一条光

文字の大きさ
上 下
153 / 464
七章~邂逅ストラグル~

不倶戴天

しおりを挟む
 最優先事項は人間を異形に変えた奴の完全排除、次に魔法陣の消去と異形にされた人たちの解放、解放と言っても眠りにつかせる事しか出来ないけど……王様にはそれで良いと了承してもらっている。魔物の排除は後回し……魔法陣の消去ってどうやればいいんだ? 聞いた話だと魔法陣を発生させたハイオークは倒してしまっているらしいし、能力者が死しても効果が残る場合の対処か……にしても、なんなんだ? さっきから向かってくるこの魔物どもの動きは、遅過ぎる。俺が強くなり過ぎた? ――いやいや、ないない。いや、強くはなってるんだけど、こいつらの動きが遅く感じるのはそういう類のものじゃないと思う。前に見た事のある同じ魔物はもっと速かった、個体差はあるだろうが……それを考慮しても遅い。何というか…………弱っている? 何故? 常に兵士が交代で町を見ている、異常があれば話に上がってるはず、俺は何も聞いてない。ならこの魔物の弱体化は一体?
『グギャッ!?』
 群れて十数体程で襲ってきたゴブリンを斬り伏せていきながらゴブリンに紛れて襲ってきた異形に手を当て電撃を使って一瞬で焼く。
『ア゛~、ア゛~』
「っ! ゾンビは無理! 倒してもすぐに起き上がるから今は無理だ! 魔法陣が消えるまで大人しくしてろ!」
 ゾンビを躱し、道を塞ぐ魔物を斬り捨てながら進む。もう大分斬った、これだけ暴れているんだから親玉っぽいのが出て来ても良いと思うんだけど――。
『ウモ゛ォォォオオオオオーッ!』
「お前か……俺のバイクを壊してくれた奴だな。金棒にバイクの塗料が付いてるし…………あの時は逃げるしかなかったけど今は違うんだよ……バイクの恨みー!」
 跳び上がり、ミノタウロスの脳天に剣を突き立てた。ん~、こいつもなんか遅かったな、前に見た時よりも鈍かったし……魔物を弱体化させてるものがあるのは間違いないと思うんだけど、王都に来て二月の間に大きな変化なんてなかったんだけどなぁ…………。

「おかえりさない、如月さん。ご無事で何よりです、何か発見できましたか?」
 城壁を登りきると兵士が話しかけてきた。
「いや、めぼしいものは何も……魔法陣の原因もハイオークも見つかりませんでした。魔物は相当倒したし異形も眠らせはしたけど、原因を取り除かないと」
「まぁまぁ、まだ始めたばかりなんですから、籠城するしかない状況から攻勢に転じれたというだけでも進歩ですよ。おかげで表情が明るくなってきている人達も居ますし、これからもよろしくお願いします」
「……出来る限りは全力でやります」
「ご無理だけは無いようにお願いしますよ。また希望を失うような事になれば皆の絶望は相当なものになってしまいますから」
 嫌な言い方するなぁ、俺ってばプレッシャーに弱いのに。
「き、気を付けます」
「ワタル様! おかえりなさいませ。お怪我などされていませんか? お疲れではありませんか? お水を飲まれますか?」
 クロエさんが矢継ぎ早に聞いてくる。
「平気平気、怪我もしてなければ大して疲れても無いです。あっ、水は貰います」
 水筒から水を注いだコップを手渡されたのでそのままいただく、うん、一時間以上動きっぱなしだったから水でも美味いな。
「シロナが今、他の方々と食事の準備をしていますからもう少しで昼食だと思います。今日はもう終えられるのですか?」
「そのつもりです。もっと動こうかとも思うんですけど焦って失敗したら良くないし、今日はもう止めてゆっくり休みます」
「そうですね、ご無理は良くないですからそれが良いと思います」
「そういえばクロエさんよく俺が戻ってくるのが分かりましたね」
「はい、お借りしたこれで城壁の上からずっと見ていましたので、この道具は素晴らしいですね。一つ所に居ながらにして遠くの景色を見る事が出来る、私にもこのような道具があればと思ってしまいます」
 城から出る事が許されなかった身としては双眼鏡はかなり良い物に映るらしい。
「そんなに気に入ったならあげますけど、この状態を解決出来さえすれば今のクロエさんはどこにだって行けるんだからそんな物で遠くを眺める必要なんてないと思いますよ」
「そう、ですね。そうかもしれません…………あの、でも、それでもいただいてもよろしいですか?」
「それはいいです、け、ど……そんな……まさか…………」
 クロエさんと話しながら歩いていると一人の男が視界に入り込んだ。二度と見たくない、二度と会う事のないと思っていた顔だ。
「ワタル様? どうかなさったのですか? ……あちらの方ですか?」
竜也たつやさんどうでした? 何か聞けました?」
「いや、上の連中はどうか分からんが見張りに立ってるような兵士には詳しい事は教えてないみたいだ。まったく、救援がどうのって話はどうしたんだよ」
「でもほら、竜也さんと同じ苗字の異界者が戦い始めてるんでしょう? 救援なんか来なくても脱出出来るかもしれないわ」
 確定だ。竜也と言う名前、俺と同じだという苗字、何よりあの顔、十年以上会っていないが記憶にある顔を老けさせればあれになる。糞親父だ、身体が沸騰するような熱、嫌な感情が渦巻く感じ……これはマズい。
「ワタル様? やはりお疲れなのでは? 呼吸も荒くなっていますし、お部屋に戻ってお休みになった方が――」
 クロエさんがこちらに手を伸ばしたのに気が付いて身を引いた。
「ワタル様?」
「ちょっと、すいません。もう一度外に行ってきます」
「あっ」
 クソックソックソッ! 多少強くなって変わったかと思えば、こんな事で動揺して……中身が全く成長してない。腹が立つ、あいつにも、そして自分にも…………なんでこんな所に居るんだ? なんでこんなに動揺してるんだ? あんな奴もうどうでもいいじゃないか、放っておけばいい無視すればいい。
「クソッ!」
「あれ? 如月さん? 今日は終わりなのでは?」
 城壁を登ると兵士が不思議そうな顔を向けてきた。そのつもりだったさ、あいつを見なけりゃ、でもこれは発散しないとマズい。
「もう一回行ってきます」
「え!? ちょっ――」
 兵士を無視して城壁から飛び降りて、片っ端から魔物を斬りながら町を駆け抜ける。すぐにゾンビも集まり始めるがこれは駄目だ、死んでいるとはいえ元は人間、八つ当たりするなら魔物相手じゃないと――。
『暴レ過ギダ、人間』
「オークか、これだけ魔物で溢れかえってるのに喋れる奴が今まで一体も出てこなかったのはどういう訳だ? 親玉はどこだ? 魔法陣の消し方は? 無駄な事を言わずにすぐに答えろよ。今は機嫌が最悪に悪いんだ」
 落ち着け、この鬱陶しい熱を鎮めろ! あんな奴の事なんかで暴走なんかしたくないし、しない為に二月も使ったんだから。
『外法師ノ事カ? アレハ我ラニスラ害ヲ為ス。居場所ナド知ラン、マダコノ町ニハ居ルダロウガ……機嫌ガ悪イノハコチラモ同ジ、ココノ空気ハ最悪ダ』
 外法師? 空気? …………特に何も感じないが、魔物だけが感じる何かがあるのか? それに、魔物にも害をなす存在? ……異形の中に魔物の様な特徴を持った個体が居たのは魔物も混ざっているから?
『死肉ニハ飽イテイタトコロダ。久々ノ生キタ人間、簡単ニハ死ナセン、来イ!』
『モ゛ォォォオオオオオーッ!』
「チッ、まだ聞きたい事があるのにミノの群れかよ」
 一、二、三……十六体、あのデカい図体でどこに隠れてたのやら。
『同胞ヲ殺サレテコイツラモ怒リ狂ッテ――ナッ!?』
 偉そうに喋り続けようとするオークを無視して、一体だけ突出してきていたミノの胸部を貫いた。
「悪いけどな、こっちは積年の怨みがある相手を見つけたのに何もしないように我慢してるからイライラしてるんだ。一切手加減なんかしてやらねぇぞ」
 怒ったミノ複数に囲まれるが、振り下ろされる両刃斧ラブリュスや金棒は簡単に躱せるから問題はない。問題はないが、やっぱり違和感を感じる。
「にしても無茶苦茶打ち込みやがって、地響き酷過ぎるだろ。当たったら即死だな……当たる可能性はほぼないけど、な!」
『ウボッ!? ゴホッ…………』
『ウモ゛ォオオオ! オォォォオオオオオーッ!』
 囲んでいたミノの首を全て斬り落とした。それを見た残りが怒り狂い石畳を踏み鳴らし武器を叩き付けている。
「怒ってるようだけどな、襲ってきてるのはそっちだ。降り掛かる危難は全て撃ち払う、この土地に居座るなら容赦しない。嫌ならさっさと逃げ出せ」
『撃チ払エルカナ?』
「うわぁぁぁあああああっ! 助けてっ! お兄ちゃん助けて!」
 子供っ!? オークが少年を抱えている。なんでこんな所に? 瞳は紅くない、混血じゃないなら自分から外に出るなんて城門が閉じてる状態じゃ不可能なはずなのに、この魔物が溢れる魔都で王城以外で生き延びていたのか――。
「助けて! 助けてぇ!」
 子供の悲鳴が焦らせる。考えてる暇もない。
「分かったから大人しくしてろ」
 ミノの攻撃を躱してオークに近付いて戦斧と打ち合う。子供を抱えていて片腕だろうと腕力じゃ敵うはずもない。攻撃を流して出来た隙をついて子供を抱えている方の腕を裂いた。
『グゥウウウッ!?』
 腕を斬られ、オークが子供を放した。
「大丈夫かっ? 怪我は? なんでこんな場所に居たんだ? 他にも生きてる人が居る――痛っ、ぁあああっ……お前…………」
 子供に駆け寄ると皮膚が裂けゴブリンくらいの大きさの、顔が潰れた様に歪んだ生き物が現れ、手の甲に生えた手甲剣の様な突起物で左肩を貫かれた。
『面白イダロウ? 外法師ハ好カンガ、コレハ面白イ。人間ノ子供トゴブリンヲ混ゼ合ワセテアル、外皮ハ裂ケテモスグニ再生シテ、再ビ人間ニ擬態スル」
 オークの言葉通り皮膚が再生して醜い姿を覆い隠して先程の子供の姿になった。
『こんな死の世界に人間が生きていられるわけないじゃないか。ちょっとは考えなよ、おにぃちゃん』
「ははは……確かに、ちょっと考えれば異常だと気付けたんだろうな」
 あいつのせいで冷静じゃなかった。不幸ばっかり与えてくれる嫌な親だ。
『どんな風に殺してあげようか?』
『先ズハ逃ゲラレナイヨウニ足ヲ潰ス――ッ!?』
「不意打ちを一発当てただけだろうが、仕留めておけばいいのに優位に立って見下す為に半端な事をするから自分達が負ける羽目になるんだ!」
 オークの一撃を避け、地面を流れるミノの血に電撃を流した。
『ガァァァアアアアアアーッ!?』
 ミノの巨体から大量の血が流れ出ていたから周囲の魔物も一掃出来たけど――。
「あぁ、くそっ……滅茶苦茶痛くて能力の制御に集中出来ない」
 今は血に流したから狙う必要なかったけど……能力は暴走してないけど感情が暴走して痛い目を見てしまった。――っ!?
「ちょっ!? 嘘だろー!」
 ミノがガンガンやり過ぎたらしい、脆くなっていたところへ今の電撃がトドメになったようだ。石畳が崩れて俺が立っている周囲の地面が崩落した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢の私は死にました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,718pt お気に入り:3,995

この庭では誰もが仮面をつけている

BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:74

煌めくルビーに魅せられて

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:9

処理中です...