黒の瞳の覚醒者

一条光

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六章~目指す場所~

細やかな願いと贈り物

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「ルールは単純、身体にこのコバルト紙を両面テープではっ付けてそこを撃たれたら負けで脱落、最後まで生き残った人が勝者です。水鉄砲は一人一つ、水風船を一人三つまで配布します。範囲は浜辺内、補給は自由ですけど補給時にコバルト紙が濡れて色が変わってもアウトですから気を付けてください」
 コバルト紙? 普通の紙じゃないのか? ろ紙っぽい?
「ワタル! この紙濡れたら青から赤に色が変わったわよ!?」
 なるほど、こういう物なのか……水遊びには合ってるかもな。
「不思議ねぇ、ただの紙に見えるのに――」
「あぁ!? ティナ様そんなにじゃんじゃん濡らさないでくださいよ。使うのまで無くなっちゃいますから」
 色が変わるのが不思議で面白かったらしく、ペットボトルの水をじゃぶじゃぶ掛けてしまっている。結構な枚数があったみたいだけど、半分くらいが水に濡れて赤になってしまっている。
「この水の出る銃で紙を狙うのは分かったのだけど、このぷよぷよしたのは何に使うの?」
「投げ付ける、かな。中身は水で風船は破れやすいからぶつけたら破裂して相手に水が掛かる――」
「ぶほっ!? ……ティナ様、まだ開始してません」
「はぁ~、本当にぶつけると破裂するのね」
 説明した途端に宮園さんに投げ付けて確認してるし…………。
「なぜ宮園さん?」
「さっきからずっといやらしい視線を向けているからよ」
「えっ!? いや、俺はそんなつもりは、あまりにお綺麗なのでつい目がいって」
 とか言われてるけど、すっげぇ不快そうにしている。でもティナの過激な水着も原因だと思う、こんな格好の美女が居たら絶対に目が行く。その上異世界人でエルフだし。

「準備も出来たようなので二分後に開始します。隠れるなり、誰かと組むなり自由ですけど勝者は一人です。戦わずに隠れ続けた場合は失格にしますから注意してくださいね」
 人が減るまで隠れようと思ってたのに! それに組むの有りとか完全に開始直後に囲まれて集中攻撃されるパターンじゃないか、隠れるのも封じられてるし……強化を使うか? そもそも、銃弾を避けられるフィオとティナが居る時点で勝ち目がない気がする。どうやって当てるんだよ?
 悩みつつも開始が迫っているから人混みに紛れて逃げる事にした。尾行はない、はず。特に誰かが付いて来ている感じも無いし、でも人混みに紛れる分には俺もフィオ達も不利だな。見つけやすい見た目だし、男でポニテは目立つな、長髪の人なんて殆ど……というか全然いない気がする。切った方がいいかなぁ、でも短いと落ち着かないしはねまくるし、今更な気も――っ!?
「っと、あっぶな。水風船二発……もう開始してたのか」
 襲撃者は遠藤と牧原さん、仲悪そうだったのに組んでるのか。人が多い中上手い具合に他人を避けて俺を狙ってきている。かなり正確だ、普段から銃を扱ってると違うんだろうか? でもいくら正確でも飛んできているのは所詮水、剣が無くても見えるし躱せる。このくらいなら能力も必要ない。
「もっと上手く狙撃しなさいよ! 躱されたじゃない」
「うっせぇー、お前だって最初の水風船外しただろうが!」
 罵り合っているのを無視して、人混みに紛れて動きを見えないようにしつつ水風船を一つ空に向かって投げた。俺に物を投げるコントロールなんて出来るとは思わないが、結構いい具合にふんわりと飛んで二人の真上辺りに行ってる。
「ぶふぅ、うへぇしょっぱ」
「あんたに掛かったのが散って私までアウトになったじゃない!」
「お前が間抜けだからだろうが!」
「避けられなかったあんたに言われたくないわよ!」
 遠藤に当たって巻き添えで牧原さんも討ち取れたらしい。先ず二人脱落、それにしてもギャーギャーと騒がしい、人が多い中であんなに騒いで恥ずかしくはないんだろうか?
「って!? ぎゃぁあああああっ!? なんでナマコが飛んできてるんだー!」
『きゃぁあああああ』
 俺の声で上を見た人が騒ぎ出している。
「敵の弱点を狙うなんて常套手段ですよ如月さん、この時の為に早めに食べ終わって準備しておいたんです」
 通りで……食べ終わるとすぐに居なくなったから変だと思ったよ。投げてきてるの宮園さんと西野さんだし、というか自信満々に何言ってんだあんた!? 他の遊びに来てる人達に滅茶苦茶迷惑掛かってますけど? ナマコから飛び散った変な液も掛かってますけど!? 自衛隊としてそれはいいのか!?
「つーか何匹捕獲してあるんだ!?」
 どんどんナマコが飛んできて砂浜にボトボトと落ちてくる。妙に懐かしい気分になる。懐かしく思いたくはないが、村で追いまわされた時の感覚が蘇る。ナマコの方がマシな気もするが、嫌な物である事には変わりないから――。
「すっげぇ気持ち悪いぃいいいーっ! というかナマコの使用はアリなのかぁあああーっ」
「水鉄砲以外が禁止とは言ってませんよー」
 ……言ってない、確かに言ってなかった。だからってナマコを使うのか!?
「っ! これ借りますよ! ――ふんっ!」
「ギャァアアアアア、気色わりぃいいいっ!」
 家族連れの傍にあったスイカ割り用っぽい棒を借りてナマコを打ち返したら、潰れ気味なのが西野さんの顔に当たって本当に気色悪い事になった。まぁ、自業自得だ。宮園さんも飛び散った液で脱落、四人も討ち取った。結構俺って強くないか? 能力も剣も使ってない状態なのにまだやられてないし、周囲に他の人が潜んでる感じも無い。フィオとティナの方が強敵だし残りはそっちに行ってるのかもしれない…………ラスボスはあの二人か……無理ゲーじゃんか!
「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
 寄ってきたのは小学生になるかならないかくらいの男の子、子供だからよく知らなくて怖がらないんだろうか?
「何か用――ぶぶっ!? けほっけほっ、しょっぱい…………なんで?」
 男の子が後ろに隠していた水鉄砲で顔に海水を食らった。
「あのお姉ちゃんに頼まれたんだー。アイス買ってくれるからお兄ちゃんに水を掛けてきてって」
 男の子が指差した先に居るのは笑顔でピースしている赤羽さん、やられた……まさか関係ない子供を使うとは思わなかった。これで俺も脱落か。

「勝者は水無瀬か、あそこので不意打ちが無かったらなぁ」
「二人同時にやられたのは情けなかったな」
 最後まで残っていたらしい澄野さんと高原さんが悔しそうにしている。
「敵を討ち取って油断してたのが悪い」
 意外な結果だ。水無瀬さんがどんな人かは知らないけど、フィオとティナまで負けてるとは思わなかった。
「なんでティナ達まで負けてるんだ?」
「だってこの人たちズルいのよ! 水着がズレてるなんて言われたらびっくりして止まっちゃうでしょ!?」
 ティナが指差してるのは遠藤たちとは別の三人組、丸坊主の山本武やまもとたけるさん、色黒で人相の悪いヤクザっぽい感じの葛啓太かずらけいたさん、筋トレが趣味らしくゴリゴリのマッチョの小野崎隆人おのざきたかとさん。
「てぃ、ティナ様がポロり!? み、見たかったぁー、ものすっごい見たかったぁ…………山本、どんなだった!? 一体どんな美乳でどんな絶景が! しゃ、写真は撮って――はふぅっ!?」
「動きを止める為の嘘だったんだから見てるわけないだろ」
 今更だが、仮にも姫に対してこの態度は如何なものか。騒いだ宮園さんはティナに股間を蹴られて悶絶している。
「嘘だったんだから見られてなんかないわよ! ほ、本当よ? 絶対に見られてないから、だから、嫌わないわよね?」
 物凄く不安そうにしがみ付いてきた。
「いや、そんな事じゃ嫌わないけど、というか、もし見られてても被害者なんだから嫌う理由が分からん」
「そ、そう、よかった。私はワタルの物だから他の男に見られるのも穢されるみたいで嫌なのよ。穢れた物なんてワタルも嫌でしょう?」
「あ~、まぁ…………フィオはどうだったんだ?」
 話が面倒な流れになってる気がしてフィオに話を振った。
「…………アイスを持った子供がぶつかってきた」
「は?」
 ゲームでやられたんじゃなくて、事故で脱落?
「大変だったんですよぉ、アイスが駄目になっちゃったからその子大泣きして、泣きながらフィオさんに頭突きを始めて、その上迷子だったらしくライフガードの人の所へ連れて行っても親御さんが来るまで頭突きが続いちゃって」
 惧瀞さんが本当に大変だったといった感じで説明してくれるが――。
「じゃあ、アイスで濡れたんじゃなくて、涙と鼻水で?」
「…………ちゃんと洗った」
「あ~……災難だったな」
 不機嫌だったが頭をぽんぽんしたら少し改善した。
「まぁなんにせよ、葵が勝ったんだから何か頼めるのよね。何頼むの? 異世界のイケメンとの合コンとかだったら私も混ぜて欲しいんだけど」
「未来じゃないんだからそんなの頼まないわよ」
 水無瀬さんにじぃっと睨まれる。何注文されるんだろう? 怖いんですけど。
「それを止めて」
「はい?」
「その態度、怖がってる感じとか、目が合ったらすぐに逸らすのとか、そういうの色々」
「えっと、それが頼み? ですか?」
「あっははははは、やっぱり葵気にしてたんだ~。怖がられるのなんていつもの事だから気にしなきゃいいのに、新人になんかしょっちゅう怯えられてるのに。頼みが意外過ぎて如月君ポカーンとしてるし、葵ってパーツは良いのに目つき悪かったりして妙に人相悪いから誤解されやすいのよ。今だって本当に睨んでるわけじゃないのよ? そんなわけだからビビらないであげて」
 笑いを堪えながら牧原さんが補足してくれた。今のこれも睨んでるわけじゃないのか? ……睨んでる様にしか見えないんですけど。
「かっわいいなぁ葵は~、せっかく無理難題を吹っ掛けられるチャンスにそんな細やかなお願いするなんて」
 牧原さんが水無瀬さんに抱き付いている。無理難題って分かってるなら頼もうとするなよ。
「だって……如月君は自衛隊でなくてもこれから同じ日本人救出の任に就くわけだし、誤解されたままぎくしゃくするのは良くないし、悲しい」
 顔を赤くして俯いてしまった。見た目に反して結構可愛い人なのかも?

「二回戦目のゲームは向こうにあるコートを借りてビーチバレーです。ルールを知らないフィオちゃん達もいるから細かい事は無しでとにかく相手のコートに落とせば得点という簡易ルールで行きます」
 まだ悶絶している宮園さんに代わって西野さんが説明をしている。よかった、俺もルール知らないからありがたい、学校行ってれば授業で球技をしたりもしてるんだろうが俺は全くだからな。
「あ~、私二回戦の参加はパス、ちょっと熱中症っぽいから休んでくる~」
 赤羽さんがふらふらとした足取りで日陰に向かって行った。
「この程度で熱中症とかひ弱過ぎだろ」
「違う違う、たぶん美春は昨日寝てないのよ」
「…………例の趣味か?」
 例の趣味? 遠藤が嫌そうな顔をしている。寝てないって事は徹夜するほどにハマってるのか?
「そう、だからほっとけばいいわ」
「ん? ビーチバレーって少なくとも二人で組むんじゃないのか? 一対一でやるものなの? 人数奇数になったけど」
「あー、どうしよう? ペアはくじで決めるつもりだったんですけど」
「ここはこいつだけ一人って事で」
 ふざけんなっ! ルールも知らないの二対一とか不利すぎるだろ。
「せ、せめてもさをパートナーに」
「ぷぷ、いくら幸運を齎すって言ってもペットにはスポーツなんて出来ないだろ」

「おいおいマジかよ…………なんだあの速さ」
 遠藤の考えに反してもさが大活躍、忘れてたけどカーバンクルってエルフでも簡単に捕まえられない程に素早いんだったな。もさは打ち込まれるボールを全て捕球して打ち上げてくれる。そしてそれを俺が叩きこむ!
「よっしゃー、勝ち。もさ、よくやった!」
『きゅぅ~!』
 抱き上げるともさもさ尻尾をふりふり。
『カワイイー』
 見物人にもさファンが増加中。
「二対一なら余裕勝ちだと思ったのに、てめぇが足引っ張るからだ結城」
「ペットを許可したお前のミスが原因だろう、俺は自分の仕事はこなしていた」
「なんだと!」
「はいはい、喧嘩はコートの外でやって、次が出来ないでしょーが」
 次の試合、フィオ西野チーム対ティナ宮園チーム、不機嫌なフィオ達とは対照的に西野さん達は幸せそうだ。ペア決めはくじだからな、その上フィオとティナが組んだら勝てなくなりそうだからって二人が確実にバラけるようにしたし…………にしても――。
「フィオちゃん動いてよ~」
「ティナ様も、これはゲームなんだし、勝てば賞品ですよ?」
 二人とも棒立ちで全く動かない――ん? お互い目で合図して頷き合ってる?
「いくわよフィオ!」
 宮園さんの打ち上げたボールをティナが跳び上がってスパイク、ものっ凄い揺れてる――って!?
「ぶぼっ!?」
 西野さんの顔にヒットした。
「ふんっ!」
「ごほっ!?」
 西野さんの顔に当たって跳ね上がったボールを今度はフィオが叩きこんだ。揺れるティナの胸を凝視する宮園さんの顔に…………合図してたのはこれか。
「えー、両チームとも戦闘不能者が出て試合続行不可能なので失格」
 そりゃそうだな…………まともな試合にならず見物人はガッカリしているかと思ったが、揺れが見れた事で満足している人が多い様子……なんかムカつく。
「まさか惧瀞さんと水無瀬さんのペアと決勝とは」
 惧瀞さんも結構揺れるから見物人も興奮気味、というかこの揺れで対戦相手が戦闘不能になっている。
「もさ、速攻でいくぞ。長引くとマズい」
『きゅ!』
 どうしても目がいっちゃうし、それを見てるフィオ達の視線も痛い。これ以上いらん事になる前に終わらせねば。

「まさかもさちゃんがここまで強敵になるとは思ってもみませんでした。動きなんて目で追えなかったりしますし」
「いや~、俺もその事はすっかり忘れてて、ぼっちじゃなければいいかなぁ、くらいの気持ちでもさを指名したんですけど、大活躍でしたね」
 もさの奮闘で二回戦のビーチバレーは俺ともさの勝利となった。さて、もさに何をしてやればいいだろう? 美味しい物とかは普段から好き勝手に食べてるし、何かないかな…………。
「もさが好きなのはフィオ」
『きゅう!』
「それとティナ」
「……きゅぅ」
「間が開いたのが気になるけれど、好かれているのならいいわ」
「ワタル」
『きゅぅ!』
 フィオが指差したのにも反応した。俺も嫌われてはいない、と。
「ん~…………二人ともちょっとこっちに」
「?」
「なぁに?」
 フィオの頭にもさを乗っけて、ティナと一緒にフィオを挟んでカシャり。
「あー! いいなぁ~、そんな両手に花状態で記念写真なんて撮っちゃって羨ましいなぁー。同じ男なのにこの格差はなんだろうなー…………」
 いつの間にか起きていた西野さん達に、変な念を込められていて呪われそうな視線を向けられた。
「別に自分用じゃないですよ。食い物とかだとつまらないからもさにロケットを遣ろうかと思って、それ用です」
「ろけっとってなに?」
「写真を入れておけるペンダントの事だ。この写真とフィオの写真でいいか?」
『きゅう~!』
 この反応は一応気に入ってくれてるのかな?
「ペットにペンダントとかブルジョワめ…………」
 別にそういうのじゃなんだけど、ペットに服着せたりするのはどうかと思うし。
「良かったわねもさ。それで、ワタルはどうするの?」
「命令権? ……めんどくさそうだから放棄かな。どうしても必要な事とかだったら命令じゃなくてちゃんと頼みたいし」
「えぇー、如月君それじゃつまらないよ。欲は無いの? 女の子が六人もいるんだから、ここはゲスな命令の一つもしないと」
「そうっすよ。俺たちも楽しめるようなエロい命令を!」
 牧原さん、あなた俺を何だと思ってるんだ? そして宮園さん、それやったら本当の下種だから。
「ん~、なら……水無瀬さんちょっと」
「おー、さっそく和解した葵に魔の手が!」
 違うっての! ちょっと思った事をこそっと水無瀬さんに伝えた。
「出来ます?」
「ええ、捌いてたのだし触るのも問題ない」
 俺の頼みを了解して水無瀬さんが離れていった。
『触る?』
「なにかいやらしい事を命令したんじゃないでしょうね?」
 フィオとティナにジト目を向けられてしまった。
「違うって、ちょっとした仕返し? みたいな感じ」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
『っ!?』
 西野さんと宮園さんの悲鳴に俺以外の全員が驚いた。
「何かヌルヌルぬめぬめ動く物が海パンにぃいいい!」
「なっ、なんだこれ!? って、水無瀬お前か? 何入れた!?」
「タコ、これが如月君の命令、さっきのナマコのお返しだそうよ」
 そう、水無瀬さんに頼んだのは西野さんと宮園さんの海パンに調理せずに余ってたタコを放り込む事。
「ギャアアアアアッ! タコが、タコが! タコに、タコに犯されるーっ!」
 大慌てで二人は走り去ってしまった。
「哀れだ」
「お前がやったんだろうが」
 そうだけどね。海パンに入れるのはちょっとやり過ぎだったかもしれない、タコが狭い所に入りたがる習性があるのを忘れていた。
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