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六章~目指す場所~
思い付きと可能性
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「まったく、お前は~……せっかく一日楽しんだ終わり問題起こすなよ。触れられもせずにフィオが気絶ってだけでも驚きなのに、立ったまま気絶ってなんだよ、びっくりだわ…………」
『きゅ、きゅ、きゅぅー! きゅきゅ、きゅぅ~、きゅぅ~』
「ジェスチャーされても分かんないって、洗ってるんだから動くなよ…………フィオが居なくて寂しくて捜し回ったとかか?」
『きゅ!』
アタリか? 今のきゅ! はアタリって事なのか?
「寂しかったのか、それは悪かった。ほれ、洗い終わり」
「夏だけどやっぱり湯に浸かっちゃうな~」
『きゅぅ~』
タオルの代わりにもさを頭に乗っけて部屋風呂の湯船に浸かる。そういえばこいつ水を嫌わないな、猫だと暴れて大騒ぎになったりするけど……楽だからいいか。
「もさ、か…………」
ヴァーンシアに戻るのはもさ頼りな部分が大きいんだよなぁ。でもフィオはリオに会いたいって願ってる訳だし、主に幸福を齎すというなら戻る事自体は多分成功する。フィオの意思ともさの宝石が要だな……主の、持ち主の願いを叶える? もしフィオ一人の意思ともさ一匹でヴァーンシアへの帰還が可能なら、数が増えたらどうなる? カーバンクルの宝石を増やし日本に戻りたいと強く願う人間複数に持たせたら…………?
「まさかっ!?」
ティナに確認してみないと、ヴァーンシアに戻る事さえできれば向こうとこちらを行き来する事が容易になるのかもしれないっ。
「ティナっ、ティナー!」
「なぁに? ワタル。私今からお風呂に――」
「そんなの後にしろ、大事な話が、い、今じゃないと俺…………」
日本人救出も問題無くできるかもしれない、それどころか、好きな時に行き来する事が可能になるかもしれない事に興奮して上手く言葉が出てこない。
「わ、ワタル……そんなに私を求めてくれるのね」
「ああ、ティナじゃないと駄目なんだ!」
エルフで空間を斬る能力はティナだけだったはずだし、異界者なら居るのかもしれないけど、俺は他に同じ能力を持ってる人を知らないから、ティナ以外に頼めない事だ。
「そんなにも私の事を想っていてくれたのね。誘惑していても素っ気なかったりしてたから不安だったのだけれど、杞憂だったのね…………でも、その、ワタル? 万全の状態のところ悪いのだけれど、少しくらい雰囲気を大事にして欲しいわ。それにやっぱりお風呂は済ませないと……その恥ずかしいわ、初めての事だし、臭いと嫌だもの」
「あの、何の話? それに万全の状態ってなんだ? まだ戻る準備なんて出来てないぞ?」
「? ワタルが私と身を固める事を決めたという話でしょう? だってワタルのそれ…………」
ティナが頬を染め指差した方へ目を向けると――。
「は? ほぉわぁああああああああああああああっ!? っ!? ち、違っ、これはそういうんじゃないからっ! これはちょっと興奮してて」
ヤッバい! アホか俺は!? 風呂からそのままの格好で来てた。やっぱり疲れてたんだ、微妙にウトウトして思考もぼんやりしてたし。
「ええ、私の誘惑に堪え兼ねたのよね? 汗を流してくるから少しの間だけ待っていて――」
「いやいやいやいや! 違うっ! 違うって! そうじゃなくて、聞いて欲しい話があるんだって」
「新居の事? 王宮ではダメなのかしら? ……でもそうね、誰にも邪魔されない静かな所というのもいいわね」
「そういうのじゃなくて――」
「……子供は何人作るかって事? 私は何人でもいいわよ。ワタルとの子なら何人でも欲しいもの……そうね、十人以上作って大家族を目指すのも楽しいかもしれないわね」
何その滅茶苦茶なハードワーク!?
「違う違う違う違うっ! ちっがーうっ! 俺が聞いて欲しい話ってのはカーバンクルかその宝石を増やして世界の行き来を強く願う者に持たせれば行き来が容易になるんじゃないか? 望んだ世界へ行ける確率がかなり上がるんじゃないか? って話だーっ!」
「結婚の話ではないの…………?」
そんな、この世の終わりみたいな表情で俺を見るなよー。
「ああ」
「ならそれは? 私の誘惑で辛抱堪らーん、じゃないの?」
「これは行き来出来る可能性が出てきた事に興奮して? 用が無くても反応する事くらいあるよ」
「ひ、酷いわ。そんな凶器を見せつけてあんな事言うなんて……乙女の純情を弄んだわねっ」
人聞きの悪い言い方をするなっ! そしてナニの話から離れろ。
「…………その話はとりあえず置いておいて、ティナはどう思う?」
「…………つーん」
そっぽ向いて完全に無視の姿勢、機嫌を損ねたようだ。はぁ~、めんどくさいなぁ……とりあえず服着て来よう。
「ティナー?」
「つーん」
どうすりゃいいんだよ……さっさと確認をして、可能性が上がるなら日本人の救出が出来そうだと惧瀞さん達に伝えた方が良いだろうし。
「姫様ー? ティナ様ー? ティナ? ティナちゃーん?」
ちゃんで表情が少し緩んだな。
「ティナちゃんの考え教えて欲しいなぁ~」
うえぇえええ、俺がちゃんとか使ってるの気持ち悪い。
「…………確かにワタルが言っている方法ならこの世界とヴァーンシアの行き来を安定させる事は可能かもしれないわ。試した事のある者などいないから絶対とは言えないけれど、戻りたいと願う私たちともさ……ヴァーンシアに帰る事が出来ればこの事はある程度実証されると思うわ」
顔はこちらに向けず視線だけを向けて俺の考えを肯定してくれた。
「そ、そうか……そうかっ! よっし! 俺惧瀞さんに伝えてくる!」
「あっ! 待ちなさいっ、行き来が可能になると言っても頻繁に移動する事は出来ないわよ。世界を繋いでしまう程の穴を開けるのだからどんな厄難があるか分からない、私たちの時だって周囲の物を無差別に飲み込む様なものだったし、その後世界に影響が出ないとも限らない。交流するような頻繁な行き来は駄目よ? あくまで被害者を元の世界に返すだけ、ちゃんとそれも伝えないと駄目」
「あ、ああ、分かった。少し浮かれすぎてた、ごめん」
「いいわよ、このくらい」
「惧瀞さん、話があるんです。入ってもいいですか?」
「…………」
返事がない、ただの屍の様だ。ではなくて! 惧瀞さんの部屋まで来てみたが反応ないな、まだ寝たりしてないと思うんだけど、伝えたい、早くこの情報を伝えたい! 覗いてみて寝てれば明日にすればいいか。
「惧瀞さんお邪魔しまー――したっ! …………ふぅ、今日は疲れたな、戻って寝よう――」
「ひゃぁあああああああああああああああああ!?」
「あぁああああっ、ごめんなさいごめんなさい! 事故です、事故なんです!」
やっぱり駄目だったか。戸を開けたら惧瀞さんが旅館の浴衣に着替えようと着ている物を全て脱いでいるところだった。覗いてみて、とか思ったけど、本当に覗きになっちゃったよ!? どうするんだこれ? 訴えられるのか? その後変質者として報道されるのか? …………惨虐な人斬りって報道されるより性犯罪者って報道される方が傷付く気がする。やべぇ、性犯罪者のレッテルは嫌だぁ。ちょろっと見えただけだし許してもらえないだろうか? …………いやいや、ティナ達のせいで感覚おかしくなってる。ちょろっとだろうと何だろうと女性にとっては嫌な事には変わりない。つまり……犯罪者ですかっ!? うぅ、まさか性犯罪者のレッテルを貼られる事態になろうとは……でも、事故だろうと見たのは事実だし、受け入れるしかないのか――。
「あの、如月さん膝を抱えて床をいじいじして何しているんですか?」
「いえ、性犯罪者として報道される覚悟を決めようかと…………あはははは……どうせ俺なんて犯罪者だし、今更罪状増えったってなんてことないし、惨虐で性犯罪者とか……くっ、うぅ…………」
「目が死んでますよっ!? だ、大丈夫です。ビックリしましたけど怒ってませんから! 如月さんになら大丈夫です。だから戻って来てくださーい!」
惧瀞さんに胸倉を掴まれて揺すられる。覗いちゃったのに怒ってないとか……この人優しいなぁ。
「もさちゃんの力で行き来できる可能性が上がる、ですか?」
「はい、まだ試したわけじゃないですから確実性があるわけじゃないですけど、俺たち三人は戻る気でいますし、もさはフィオに滅茶苦茶懐いてるから移動時に望んだ世界を引く可能性はかなり高いと思います。そして向こうに行ってしまえばカーバンクルは増やせる。一応ティナに献上した宝石もあるからそれも借りれると思うし、だから向こうに居る日本人をこっちに連れ帰る事は可能になると――」
「凄いですっ! 異世界を行き来出来るなんて! この世界に無い物も沢山あるでしょうし、両方の世界が協力したら凄い発展を遂げるんじゃないですか!?」
「あ~、いや、そういうのは無しです。移動に問題が無くても移動する為の穴を開ける事には結構リスクがあるかもなんで、あくまで救出のみで、この事をティナは懸念してるから頻繁に行き来しろとか言ったら協力してくれないと思います」
「そ、そうなんですか……残念です。でも行方不明になっている方々を助けられるのは良い事ですよね。移動が安定するのなら自衛隊の派遣も現実味を帯びてきますし、早速工藤さんにお伝えしますね」
「よろしくお願いします。それと、覗いてすいませんでした」
「えっと……お粗末様でした?」
「ぷふっ、なんですかそれ?」
「だって如月さんティナ様を見慣れてるから」
「へぁ? いやいやいやいやっ! 見慣れてないですから、そういうのした事ないですから! それに、綺麗だったから、お粗末とかそういうのは…………何言ってんだ俺? お邪魔しました!」
訳が分からなくなって逃げ出した。
「あ~あ~ぁ~、今日は色々起こり過ぎだ。マジで疲れた」
「わぁ~たぁ~るぅ~、随分と長かったのねぇ? もしかして惧瀞とイイコトしてたんじゃないでしょうねぇ?」
「うわっ!? してない、そんな事してない。ていうかくさっ!?」
部屋に戻った途端ティナに拘束された。この臭さ、確実に酒を飲んでるな。王様からの禁止令はどこ行った!?
「失礼ねぇ、ちゃんとお風呂に入って準備万端よぉ~。それよりそんな事ってどんな事かしらぁ?」
「…………はだけてるぞ、ちゃんと着ろ」
「どうせ乱れるからいいじゃない~」
乱れるってなんだっ!?
「お、落ち着こうティナ、酒の勢いで行動すると後悔する事になるぞ?」
「ワタルがあぁんな勘違いする事を言うのが悪いんでしょぉ? あんな事言われたら我慢なんて出来なくなっちゃうもの。それに、後悔しない様にワタルが優しくしてくれれば問題無いわぁ」
押し倒されて覆い被さられている。逃げ出そうともがいてみるが、肩を押さえ付けれれていて起き上がれない。というか、力強すぎだろ!? 身動き取れないんですけど!?
「先ずは優しくきしゅ~……んぅ…………すぅ、すぅ」
顔を寄せてきたかと思ったら倒れ込んで動かなくなった。寝たか? 酔って眠るとか一体どれだけ飲ん――おいおい……部屋を見回すと散らかりまくっていて、一升瓶やら五百のビール缶が散乱している。この短時間にこれ程飲んだのか。
「わたりゅぅ~…………んふふふ~」
そんな甘えたような声をして耳元で俺の名前を囁くなっ。酒臭い、でも甘い匂いも混じってて頭がくらくらしてくる。どうにか抜け出して――。
「ふぬっ、あれ? ふんっ、おいおい、びくともしないんですけど?」
肩も巻き込む様に抱き付かれているから腕も上手く動かせないという。抜け出せない、手も出せない、完全に生殺しじゃないですかーっ!
窓の外で雀がチュンチュン言ってるぅ~。もう朝か、結局一睡もできてない。リオと再会した時にも似たような状態だったが、今回の方が辛い気がする。これも心境の変化ってやつなんだろうか? どちらにしても、もう勘弁してくださいっ! 眠いし、欲望でおかしくなりそうです。誰か冷水でもぶっかけてくれ…………。
「なにしてるの?」
「おぉフィオ、髪跳ねまくってるけど天使に見える。ティナを外してくれ」
「ん、これでいい?」
「ああ、やっと抜け出せた。俺は寝るからなっ、絶対に邪魔しない様に」
「お風呂で寝るの?」
「ああ、水風呂だ」
ふらふらとした足取りで風呂場へ向かった。
『きゅ、きゅ、きゅぅー! きゅきゅ、きゅぅ~、きゅぅ~』
「ジェスチャーされても分かんないって、洗ってるんだから動くなよ…………フィオが居なくて寂しくて捜し回ったとかか?」
『きゅ!』
アタリか? 今のきゅ! はアタリって事なのか?
「寂しかったのか、それは悪かった。ほれ、洗い終わり」
「夏だけどやっぱり湯に浸かっちゃうな~」
『きゅぅ~』
タオルの代わりにもさを頭に乗っけて部屋風呂の湯船に浸かる。そういえばこいつ水を嫌わないな、猫だと暴れて大騒ぎになったりするけど……楽だからいいか。
「もさ、か…………」
ヴァーンシアに戻るのはもさ頼りな部分が大きいんだよなぁ。でもフィオはリオに会いたいって願ってる訳だし、主に幸福を齎すというなら戻る事自体は多分成功する。フィオの意思ともさの宝石が要だな……主の、持ち主の願いを叶える? もしフィオ一人の意思ともさ一匹でヴァーンシアへの帰還が可能なら、数が増えたらどうなる? カーバンクルの宝石を増やし日本に戻りたいと強く願う人間複数に持たせたら…………?
「まさかっ!?」
ティナに確認してみないと、ヴァーンシアに戻る事さえできれば向こうとこちらを行き来する事が容易になるのかもしれないっ。
「ティナっ、ティナー!」
「なぁに? ワタル。私今からお風呂に――」
「そんなの後にしろ、大事な話が、い、今じゃないと俺…………」
日本人救出も問題無くできるかもしれない、それどころか、好きな時に行き来する事が可能になるかもしれない事に興奮して上手く言葉が出てこない。
「わ、ワタル……そんなに私を求めてくれるのね」
「ああ、ティナじゃないと駄目なんだ!」
エルフで空間を斬る能力はティナだけだったはずだし、異界者なら居るのかもしれないけど、俺は他に同じ能力を持ってる人を知らないから、ティナ以外に頼めない事だ。
「そんなにも私の事を想っていてくれたのね。誘惑していても素っ気なかったりしてたから不安だったのだけれど、杞憂だったのね…………でも、その、ワタル? 万全の状態のところ悪いのだけれど、少しくらい雰囲気を大事にして欲しいわ。それにやっぱりお風呂は済ませないと……その恥ずかしいわ、初めての事だし、臭いと嫌だもの」
「あの、何の話? それに万全の状態ってなんだ? まだ戻る準備なんて出来てないぞ?」
「? ワタルが私と身を固める事を決めたという話でしょう? だってワタルのそれ…………」
ティナが頬を染め指差した方へ目を向けると――。
「は? ほぉわぁああああああああああああああっ!? っ!? ち、違っ、これはそういうんじゃないからっ! これはちょっと興奮してて」
ヤッバい! アホか俺は!? 風呂からそのままの格好で来てた。やっぱり疲れてたんだ、微妙にウトウトして思考もぼんやりしてたし。
「ええ、私の誘惑に堪え兼ねたのよね? 汗を流してくるから少しの間だけ待っていて――」
「いやいやいやいや! 違うっ! 違うって! そうじゃなくて、聞いて欲しい話があるんだって」
「新居の事? 王宮ではダメなのかしら? ……でもそうね、誰にも邪魔されない静かな所というのもいいわね」
「そういうのじゃなくて――」
「……子供は何人作るかって事? 私は何人でもいいわよ。ワタルとの子なら何人でも欲しいもの……そうね、十人以上作って大家族を目指すのも楽しいかもしれないわね」
何その滅茶苦茶なハードワーク!?
「違う違う違う違うっ! ちっがーうっ! 俺が聞いて欲しい話ってのはカーバンクルかその宝石を増やして世界の行き来を強く願う者に持たせれば行き来が容易になるんじゃないか? 望んだ世界へ行ける確率がかなり上がるんじゃないか? って話だーっ!」
「結婚の話ではないの…………?」
そんな、この世の終わりみたいな表情で俺を見るなよー。
「ああ」
「ならそれは? 私の誘惑で辛抱堪らーん、じゃないの?」
「これは行き来出来る可能性が出てきた事に興奮して? 用が無くても反応する事くらいあるよ」
「ひ、酷いわ。そんな凶器を見せつけてあんな事言うなんて……乙女の純情を弄んだわねっ」
人聞きの悪い言い方をするなっ! そしてナニの話から離れろ。
「…………その話はとりあえず置いておいて、ティナはどう思う?」
「…………つーん」
そっぽ向いて完全に無視の姿勢、機嫌を損ねたようだ。はぁ~、めんどくさいなぁ……とりあえず服着て来よう。
「ティナー?」
「つーん」
どうすりゃいいんだよ……さっさと確認をして、可能性が上がるなら日本人の救出が出来そうだと惧瀞さん達に伝えた方が良いだろうし。
「姫様ー? ティナ様ー? ティナ? ティナちゃーん?」
ちゃんで表情が少し緩んだな。
「ティナちゃんの考え教えて欲しいなぁ~」
うえぇえええ、俺がちゃんとか使ってるの気持ち悪い。
「…………確かにワタルが言っている方法ならこの世界とヴァーンシアの行き来を安定させる事は可能かもしれないわ。試した事のある者などいないから絶対とは言えないけれど、戻りたいと願う私たちともさ……ヴァーンシアに帰る事が出来ればこの事はある程度実証されると思うわ」
顔はこちらに向けず視線だけを向けて俺の考えを肯定してくれた。
「そ、そうか……そうかっ! よっし! 俺惧瀞さんに伝えてくる!」
「あっ! 待ちなさいっ、行き来が可能になると言っても頻繁に移動する事は出来ないわよ。世界を繋いでしまう程の穴を開けるのだからどんな厄難があるか分からない、私たちの時だって周囲の物を無差別に飲み込む様なものだったし、その後世界に影響が出ないとも限らない。交流するような頻繁な行き来は駄目よ? あくまで被害者を元の世界に返すだけ、ちゃんとそれも伝えないと駄目」
「あ、ああ、分かった。少し浮かれすぎてた、ごめん」
「いいわよ、このくらい」
「惧瀞さん、話があるんです。入ってもいいですか?」
「…………」
返事がない、ただの屍の様だ。ではなくて! 惧瀞さんの部屋まで来てみたが反応ないな、まだ寝たりしてないと思うんだけど、伝えたい、早くこの情報を伝えたい! 覗いてみて寝てれば明日にすればいいか。
「惧瀞さんお邪魔しまー――したっ! …………ふぅ、今日は疲れたな、戻って寝よう――」
「ひゃぁあああああああああああああああああ!?」
「あぁああああっ、ごめんなさいごめんなさい! 事故です、事故なんです!」
やっぱり駄目だったか。戸を開けたら惧瀞さんが旅館の浴衣に着替えようと着ている物を全て脱いでいるところだった。覗いてみて、とか思ったけど、本当に覗きになっちゃったよ!? どうするんだこれ? 訴えられるのか? その後変質者として報道されるのか? …………惨虐な人斬りって報道されるより性犯罪者って報道される方が傷付く気がする。やべぇ、性犯罪者のレッテルは嫌だぁ。ちょろっと見えただけだし許してもらえないだろうか? …………いやいや、ティナ達のせいで感覚おかしくなってる。ちょろっとだろうと何だろうと女性にとっては嫌な事には変わりない。つまり……犯罪者ですかっ!? うぅ、まさか性犯罪者のレッテルを貼られる事態になろうとは……でも、事故だろうと見たのは事実だし、受け入れるしかないのか――。
「あの、如月さん膝を抱えて床をいじいじして何しているんですか?」
「いえ、性犯罪者として報道される覚悟を決めようかと…………あはははは……どうせ俺なんて犯罪者だし、今更罪状増えったってなんてことないし、惨虐で性犯罪者とか……くっ、うぅ…………」
「目が死んでますよっ!? だ、大丈夫です。ビックリしましたけど怒ってませんから! 如月さんになら大丈夫です。だから戻って来てくださーい!」
惧瀞さんに胸倉を掴まれて揺すられる。覗いちゃったのに怒ってないとか……この人優しいなぁ。
「もさちゃんの力で行き来できる可能性が上がる、ですか?」
「はい、まだ試したわけじゃないですから確実性があるわけじゃないですけど、俺たち三人は戻る気でいますし、もさはフィオに滅茶苦茶懐いてるから移動時に望んだ世界を引く可能性はかなり高いと思います。そして向こうに行ってしまえばカーバンクルは増やせる。一応ティナに献上した宝石もあるからそれも借りれると思うし、だから向こうに居る日本人をこっちに連れ帰る事は可能になると――」
「凄いですっ! 異世界を行き来出来るなんて! この世界に無い物も沢山あるでしょうし、両方の世界が協力したら凄い発展を遂げるんじゃないですか!?」
「あ~、いや、そういうのは無しです。移動に問題が無くても移動する為の穴を開ける事には結構リスクがあるかもなんで、あくまで救出のみで、この事をティナは懸念してるから頻繁に行き来しろとか言ったら協力してくれないと思います」
「そ、そうなんですか……残念です。でも行方不明になっている方々を助けられるのは良い事ですよね。移動が安定するのなら自衛隊の派遣も現実味を帯びてきますし、早速工藤さんにお伝えしますね」
「よろしくお願いします。それと、覗いてすいませんでした」
「えっと……お粗末様でした?」
「ぷふっ、なんですかそれ?」
「だって如月さんティナ様を見慣れてるから」
「へぁ? いやいやいやいやっ! 見慣れてないですから、そういうのした事ないですから! それに、綺麗だったから、お粗末とかそういうのは…………何言ってんだ俺? お邪魔しました!」
訳が分からなくなって逃げ出した。
「あ~あ~ぁ~、今日は色々起こり過ぎだ。マジで疲れた」
「わぁ~たぁ~るぅ~、随分と長かったのねぇ? もしかして惧瀞とイイコトしてたんじゃないでしょうねぇ?」
「うわっ!? してない、そんな事してない。ていうかくさっ!?」
部屋に戻った途端ティナに拘束された。この臭さ、確実に酒を飲んでるな。王様からの禁止令はどこ行った!?
「失礼ねぇ、ちゃんとお風呂に入って準備万端よぉ~。それよりそんな事ってどんな事かしらぁ?」
「…………はだけてるぞ、ちゃんと着ろ」
「どうせ乱れるからいいじゃない~」
乱れるってなんだっ!?
「お、落ち着こうティナ、酒の勢いで行動すると後悔する事になるぞ?」
「ワタルがあぁんな勘違いする事を言うのが悪いんでしょぉ? あんな事言われたら我慢なんて出来なくなっちゃうもの。それに、後悔しない様にワタルが優しくしてくれれば問題無いわぁ」
押し倒されて覆い被さられている。逃げ出そうともがいてみるが、肩を押さえ付けれれていて起き上がれない。というか、力強すぎだろ!? 身動き取れないんですけど!?
「先ずは優しくきしゅ~……んぅ…………すぅ、すぅ」
顔を寄せてきたかと思ったら倒れ込んで動かなくなった。寝たか? 酔って眠るとか一体どれだけ飲ん――おいおい……部屋を見回すと散らかりまくっていて、一升瓶やら五百のビール缶が散乱している。この短時間にこれ程飲んだのか。
「わたりゅぅ~…………んふふふ~」
そんな甘えたような声をして耳元で俺の名前を囁くなっ。酒臭い、でも甘い匂いも混じってて頭がくらくらしてくる。どうにか抜け出して――。
「ふぬっ、あれ? ふんっ、おいおい、びくともしないんですけど?」
肩も巻き込む様に抱き付かれているから腕も上手く動かせないという。抜け出せない、手も出せない、完全に生殺しじゃないですかーっ!
窓の外で雀がチュンチュン言ってるぅ~。もう朝か、結局一睡もできてない。リオと再会した時にも似たような状態だったが、今回の方が辛い気がする。これも心境の変化ってやつなんだろうか? どちらにしても、もう勘弁してくださいっ! 眠いし、欲望でおかしくなりそうです。誰か冷水でもぶっかけてくれ…………。
「なにしてるの?」
「おぉフィオ、髪跳ねまくってるけど天使に見える。ティナを外してくれ」
「ん、これでいい?」
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