黒の瞳の覚醒者

一条光

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六章~目指す場所~

束の間の休息~初めてのプール~

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「先ずはどこに行きましょうか?」
 ん~、それにしても……フィオの身体には傷一つ見当たらない。肩や腹からも出血していたと思うから銃弾を受けているはずなのに、そんな痕は全く無く、日本人の白さとは違う元の白くて綺麗な肌をしている。どうなってるんだろうな、半分は日本人の血が入っているのにそんな雰囲気はないし、この超回復……それは少なからず俺にも言えるけど、まだ痕は残ってても傷自体は塞がっててもうなんともないし…………血か? やっぱり俺の血なのか!? 俺の血が原因だとしたら、それはなんか複雑だなぁ――。
「ワタル? ……やっぱり水着、変?」
「へぁ? なんで?」
「ずっと見てた」
 うっ!? 頬を朱に染めこっちを見上げて、少し自分の身体を隠す様に抱いてもじもじしている。フィオがこんな事をするとは、凄く可愛い――。
「かっわいいなぁ! 可憐! 恥ずかしそうにもじもじしてる姿がなんとも愛らしい! やっぱり小さいってのは――ごほっ!?」
 禁句を言った西野さんがぶん投げられて、吹っ飛んで近くのプールを水切りの様に跳ねて行った。凄いな、人間って七回も跳ねるんだな…………最近はあまり無いけど、うっかり言ったら俺でも睨まれたりお仕置きをもらったりするから気を付けてるのに、あの人は小さい事は良い事だと思ってるんだろうから褒めたつもりなんだろうけど、フィオには逆効果だ。入り口の一件で既に目立っていたけど、これで完全に俺たちの事が気付かれてしまったようだ。
「フィオ、お仕置きするのはいいけど加減しないと駄目だ。あんなに飛ばして他の客に当たったらどうする気だ」
「当たらない方向に飛ばした…………それに、手加減もしたはずだったのに、なんで?」
 なんでと俺に聞かれても……あれで加減してたのか? フィオは不思議そうに自分の手を見つめて握ったり開いたりを繰り返している。自分でもコントロール出来ていない? 直近で変化が出そうな出来事と言えば死にかけた事と輸血…………いやいやいやいや! ないないないない! 俺の血にそんな効果ないから! 絶対にないって! ……覚醒者になって何かしらの変化が出ているのか? でも俺自身にじゃなくて輸血対象にって変じゃないか? 俺の血なんだから俺が強くなれよ! ……いや違う、俺の血関係ない、絶対ない! よし、この件は忘れよう――。
「ワタルどうしたの? 顔が強張っているわよ」
「あ、ああ……えっと、プールなんて本当に久しぶりだから俺って泳げるのかなぁって」
「いくらなんでもその歳で泳げないなんて事ないだろ、それに底に足がつくんだから平気だろ」
「ティナ様は泳いだ事がないそうですし、あちらの大きいプールで水に慣れてもらってから他の所を回りましょうか」
「そうですね。ティナもそれでいいか?」
「ええ」
 歩き辛い……さっき見せてくれたあとは俺の腕にしがみ付いて胸元が他の人間に見えない様に隠そうとしている。宮園さんは正面から見るのを諦めて後ろに回って眺めているから時々後ろを振り返って威嚇したりもしてるし…………この人接待するって言ってたのどこ行った!?

 デカいな、ビーチの様な造りになっていて奥には滝っぽいものもある。開園から間もないからか、人が犇めいているって感じは無いな。ニュースとか見てると人が多過ぎて全く泳げそうにない映像が流れてたりするもんなぁ。それとも俺が来るって事で人が来てないのか? ……経営者には申し訳ないが気兼ねなく居られるからラッキーかもな。
「ほらティナ、水に浸かるくらいは平気だろ?」
「え、ええ、そのくらいは平気だけれど、本当に泳いだ事ないのだから手を放さないでよ」
「はいはい」
 弱々しいティナってのは新鮮だなぁ…………す、凄い、ティナの浮き袋がプカプカしてる! 浮くものなんだな、知らんかった。自前の浮き袋があるんだし泳ぎを覚えるのは簡単そうか?
「フィオは泳げるんだよな?」
「泳げなかったらワタルは今頃海の底」
「あぁ~、だよな。あの時はもう死んだと思ったもんなぁ」
 フィオは泳いでる、泳いではいるが…………なんか、犬掻きっぽい? 学校に行ってたってわけでもないだろうし、そこに水泳の授業があるのかも不明だが、何故に犬掻き…………。
「う、海の底って……何があったんですか?」
「あ~、怪獣大決戦? そんな事より、フィオはその泳ぎ方難しくないのか?」
「泳ぎ方なんかあるの?」
 やっぱり楽だから犬掻きってわけじゃなくて、浮いてなんとなく水を掻いてたら犬掻きになってたって事か。
「こんなのとか、こんなのだな。他にもバタフライとか背泳ぎとかもあるけど、俺は出来ねぇ」
 クロールと平泳ぎをやって見せてみたけど、一応泳げるな。かなづちにはなってないみたいだ。十年以上泳いでないのに、身体って覚えてるものなんだな――。
「は、放さないで、って言ったでしょ!」
「がぼぼぼぼっ!?」
 手を放して少し泳いで見せていたらティナに飛び付かれて沈む事になった。立とうとしているのにティナが暴れて上手くいかない。どうも水に顔を着けたせいでパニックになっているようで俺を沈めたまま放そうとしない。ッ!
「ぷはっ! はぁ、はぁ、はぁ、死ぬかと思った」
「けほっけほっけほっ、少し飲んじゃったわ。ワタルが悪いのよ? 放さないでって言ったのに放すから」
 底に足がついた瞬間思いっきり蹴って何とか脱出したけど、今のがトラウマになったらしく、きつくしがみ付いて放れなくなってしまった。
「如月さん、羨ましいっす」
 なんで泣いてんですか…………何も羨ましい事なんかないだろ、遊びに来てるのにこれじゃ駄目だ――。
「って……お前、もう泳げるようになったのか?」
「ワタルの真似しただけ、どこか変?」
「いや、俺よりちゃんと出来てそう」
 クロールなんてうろ覚えでやってぎこちなかったし、フィオの方がフォームが綺麗な気がするよ。
「おおー、見ただけで覚えたのか、すげぇなお嬢。ならこれはどうだ?」
「こう?」
 マジか……遠藤がバタフライをやって見せたらそれを真似てあっという間にマスターしやがった。万能か? 万能ロリか? 身体を動かす事に関しては確実に万能そうだ。
「ティナも運動神経はいいんだし、少しやればすぐに泳げるようになるんじゃないか?」
「このままでいいわ…………」
 しがみ付いたまま暗くなってらっしゃる…………なんか負のオーラが……遊びに来たのにこれじゃいかんでしょう!
「まぁまぁ、少しやってみよう? 俺もあんまし上手くないけど教えるか――らぶっ!? 何してんだ……前見て泳げよ」
 フィオがバタフライで突っ込んできやがった。
「ティナばっかり構ってる」
「泳げないんだから仕方ないだろ? 少し教えたら大丈夫なはずだからも少し待ってろ」
「やるなお嬢、完璧じゃねぇか。よっしゃっ、勝負だお嬢! このプールの端から端まで、何知らん振りしてやがる結城、てめぇも参加だぞ。西野も、勝てばお嬢に認めてもらえるぞ。宮園も姫さんばかり見てないで参加しろ」
「なんで俺まで……俺は仕事で来ているんだ」
「やる、俺はやるぞぉおおおおおおおっ!」
「俺だってティナ様にいいとこ見せて挽回するぜ!」
「お嬢たちを楽しませる為に来てるのに仏頂面で傍に居られるとシラケるんだよ、ここに居るんだから参加は当たり前だ」
 結構気を遣ってくれてるんだろうか? フィオはやる気になってるみたいだし、楽しめてるならいいな。そうなると問題は――。
「こっちだな……ほらティナ、最初は俺が手を引くから、身体浮かしてみろって」
「うん…………」
 全然乗り気じゃないな。それでもティナの手を引いてしばらくバタ足をさせてみたけど……微妙だな。ん~、水に顔を着けるのが怖いんだろうか? 水の中で目を開けるのって痛いしなぁ。
「もういいわワタル、水の中で生活する事なんてないんだから泳げなくても困らないもの…………」
 暗っ! いつもの自信はどこ行った!? こんな事を言いながらも泳いでる人達を羨ましそうに見てるし。
「なぁティナ、水に顔を着けるのが怖いようなら平泳ぎはどうだ? これなら別に顔を着ける必要ないだろ? 浮く事は出来てるんだし身体だって動いてるんだから泳げないはずないって」
「…………もう少しだけならやってみるわ」
「あの、どうしてもダメなら浮き輪を使ったらどうでしょう? 販売も貸し出しもしてますから、いい物がないか少し見てきますね」
 まぁ、最悪浮き輪だな。大人が足のつくプールで浮き輪というのはなんとも微妙な図な気もするが、泳げず楽しめないより全然いいよな。
「浮き輪って、子供が付けてるあれ?」
「そうそう、泳げない人が使ったり、海で深い所に行ったりする時に使う感じ、あとは――」
「やるわ。子供と同じ扱いなんて嫌だもの、早く教えて!」
「あ、うん」
 大人でも疲れた時には浮き輪に乗って浮かんでたりするんだけど……やる気になってるし言わなくていいか。

「わぁ! ティナ様泳げるようになったんですね! よかったです」
「ワタルが教えてくれたのだから当然よ」
 相変わらず水に顔は着けられないままだが、浮いて移動する程度は出来るようになったし、いいか。
「ところで惧瀞、その大きなのは何?」
「ビーチボールだそうですよ。普通のはこの位なんですけど、こんなに大きいのは初めて見たので思わず買ってしまいました」
 直径が自分の身長ほどもあるビーチボールを衝動買いですか…………にしてもデカいなぁ、あんなのどうやって遊ぶんだ? というかこんなにデカいの迷惑にならないか? 人も増えてきてるぞ――あいた、ビーチボールが当たったのか。これは普通サイズだな。
「すいませーん。取ってくださ――あっ…………」
 途中まで普通だったのにこちらを確認した途端固まってしまったな。顔も引き攣ってるように見えるし、やっぱ怖がられる存在になっちゃったんだなぁ。
「す、すいません! すいません! 自分で取りに行きます! …………」
 焦った様子でそう言ったものの、怖いらしく一向に来る気配は無い。たかがビーチボールが当たったくらい怒るわけないのに、これほど怯えられるものに成ったんだ。やった事に対して当然の結果、当然の扱い…………。
「いきますよー?」
 持っててもしょうがないので軽く弾いて持ち主に返すと何度もお辞儀したあとに足早に去って行った。遊びに来てるのに悪い事しちゃったな、他の人たちには迷惑な存在――。
「ぶっ!? …………何するんですか惧瀞さん」
 顔に当たったのはビーチボール、但し特大の。流石にこの大きさで顔に当たると少し首がぐにっといった。
「私たちも遊びましょう? せっかく来たのに暗い顔してちゃ勿体ないですよ」
「…………いいでしょう、先ずは今の攻撃を倍返しだ!」
 そうだな。もう来てしまってるんだし、遠藤も言っていたが暗いやつとかが居たらティナ達が楽しめない。ごめんなさい、今は遊びます。
「甘いですっ、この程度なら、それっ」
 水から飛び上がって惧瀞さん目掛けて投げた特大ボールはあっさりトスで打ち上げられた。デカいと全くスピード出ないな。次は蹴ってみるか?
「てめぇ如月! 綾ちゃんに何してやがる!」
「ボール遊び?」
「勝負はどうなったんですか?」
「あぁ…………全戦全敗、今日初めて覚えた泳ぎなのに全く勝てやしない。その上犬掻きにまで負けたんだぜ? 鍛えてんのに自身無くすよぉー」
「凄いのは知っていたが、年下の少女の犬掻きに負けるなんて…………」
「フィオちゃんって凄いですね!」
「俺なんて誰も守れない…………」
 西野さんを除く自衛隊男子は相当落ち込んでいる様子だ。フィオに勝てると思う方が間違っている。最強少女だし、この世界に勝てる奴なんて存在してないって。
「せっかく惧瀞さんが買って来たんだし、全員でこれで遊ぶか。少し面白くする為に何か……被弾が一番多い人は罰ゲームで、被弾のカウントは手以外に当たった場合にして、一番多くヒットさせた人には何か賞品を――」
「先手必勝っ! こないだ行きそびれた店奢れぇぇえええ!」
「ぐはっ!?」
 惧瀞さんからボールをふんだくった遠藤のスパイクが顔面にヒットした。こんな場所で何叫んでんだよ……惧瀞さんにバレたらマズいんじゃなかったのかよ?
「いきなりとか卑怯な――ぶふっ!?」
「俺はフィオちゃんの一日レンタル権を所望します!」
 起き上がった所へ追い打ちをかけられてもう一度水に沈んだ。
「だからいきなりは――がはっ!?」
「なら俺はティナ様とデートする権利をください」
 欲望丸出しの軍人に襲撃されまくってるんですが……接待はどうした!? 自分の望みが優先なのかっ!? 俺にぶつけ、跳ねたボールを別の人間がキャッチしてまた俺へ、完全に集中攻撃されとる…………。
「つーかなんで玉増えてるんだ!?」
 いつの間にか特大ビーチボールが三つになっている。
「得点を稼ぐなら玉数は必要でしょう。俺は絶対にレンタルさせてもらいます!」
 なんて欲望に忠実な人たち…………。
「フィオ、助かった――」
「一、二、三、四、五――」
 俺目掛けて飛んできたボールをキャッチしてくれたと思ったら、それを抱えたまま俺にぶつかって来てバウンドさせながらカウントし始めやがった。
「ちょっ!? おいおいお嬢それは反則だろ!」
「当てればいいとしか聞いてない」
「それが許されるのなら私もっ」
「く、惧瀞さんそのボールは…………」
「買ってきました。ティナ様の分も」
 ふざけんなっ! なんで俺以外全員がボール持ってるんだよ!? そして何故俺が集中砲火!? ヒット数稼ぐなら誰に当てても同じだろうがっ! なんで俺を狙う?
「えいっ、ワタル、これも数に入るのかしら?」
 顔に押し付けられている丸いもの、ティナの自前の…………。
「数えねぇ」
「う、羨ましい、如月さん羨ましすぎるっす! 俺にもその権利をぉおおおお!」
「俺は逃げるっ」
 ティナの拘束から抜け出して潜水して離脱を謀る。空気の入ったボールである以上水中には攻撃でき――っ!? 突然水面が窪んだかと思ったら大きな波が発生した。
「何やってんだお前はっ!?」
「ワタルが潜るから」
 ボールを叩き付けて水面凹ませやがった。ボールが底に着きそうだったぞ……。
「待てまて、持ったままは禁止! 飛ばして当てるののみだ! お前ら持ったままだから俺がボールに触れないだろうが」

 ルールを追加して再開されたゲームの勝敗の行方は――意外な事に惧瀞さんの勝利となった。ほぼ全員が俺を狙ってくる中、隙のある者にちょこちょこと当てて数を稼いだらしい。そして当然の如く被弾数一位は俺、それなりに逃げ回ったし反撃もしたが、剣が無い状態だと大した動きは出来なかった。賞品は何か一つ頼みを聞くというもので落ち着いた。因みに罰ゲームは今日の飲食代、遊興費が俺持ちというものになった。まぁ、二人の為に付き合ってもらってるから異存はない。
「ねぇワタル、ずっと気になっていたのだけれどあれは何?」
「ウォータースライダー、滑って遊ぶものだな。行ってみるか」
「滑って楽しいの?」
 普通の人は体感しないようなスピードやスリルを味わえるだろうけど、フィオやティナの場合はどうなんだろう? あんなのよりももっと速いスピードで動けるわけで、二人にとって楽しいのかどうか謎だな。
「まぁ一回やってみればいいだろ」
 上まであがってきたが、結構並ぶのかと思ったらスムーズに列が動いてフィオの番になった。
「お嬢、立ったまま滑るのが通だぞ」
 なに嘘吹き込んでるんだよ。
「ん」
「ん、って――おい!? ぎゃぁああああああああああっ!? 行くなら一人でいけよぉおおお」
「? 一緒に滑るものじゃないの? 前の二人は一緒だった」
 そりゃカップルだろうが!? しかも立ったまま絶妙にバランスを保って滑ってるし……俺なんてフィオにしがみ付いてないとヤバい――っ!
「伏せろっ――と、危なかった」
 途中でトンネルになってて、あのまま行けば二人とも顔面打撲で酷い事になるところだった。
「ぶぶぶぶぶぶっ」
「ああっ!? 悪いわるい、押さえ付けたままだった」
 どうにか滑り下りたが、嫌なスリルを味わったぞ。
「フィオだいじょう――ぶっ!? ちょ、お前水着どこやった!?」
 フィオの水着の上が無くなっていて、気付いていないようなのでやむを得ず自分の手で隠した。
「っ!? ……触りたいの?」
「ちっがーう! 水着! 無くなってんの! どこ行ったんだ? 確かに急だったし水も凄かったけど、どこか…………お前も探せ、水から上がれないぞ」
「ワタル、自分で隠すからいい」
 涙目になってフィオの顔がリンゴの様に真っ赤に染まってしまっている。その顔やめろよぉ、俺が悪いみたいじゃないか。
「あ、ああ、ごめん。なら俺が探すから水に浸かって隠れてろ――ってあった」
 俺たちに遅れて水着が流れてきた。
「ほれ、今度は外れない様に少しきつめに結んでおいた方が良いんじゃないか?」
「やって」
 俺がやるのかよ…………。
「これでいいか? きつ過ぎないか?」
「いい…………」
 気まずい、一瞬見たし触ったし……でも見るのは前にも見てるし、触るのも……俺って何やってんだ…………。
「あ、あ~、どうだった?」
「顔が痛かった」
 そうだねぇ~、それについてはごめんなさい。
「ティナが呼んでる」
 ティナが滑らないせいで後ろが支えてるみたいで列が長くなってしまっているので急いで戻った。
「遅いわよワタル」
「走ってきただろ……それで、なに? 滑るのが怖くなったとか?」
「そんなわけないでしょ、一緒に滑りたいだけ、よ!」
「へ? うぇえええええええええええええっ!?」
 ティナに押し込まれてそのまま背中に圧し掛かられて、俺が浮き輪代わりのような状態で滑り下りる事となった。
「きゃぁあああっ、凄いわ! 人間って面白い事を考えるのねー」
 楽しんでくれているみたいでよかった。でも……滑り下りて、下で待ってったフィオに一言。
「これ顔が痛いな」
「うん」

「えぇええええええええええええええええええっ!? フィオちゃんのポロりですか!? 見たかった! めちゃくちゃ見たかった! くっそぉおおお、なんで俺は下に居なかったんだ! 何て瞬間を逃してしまったんだぁあああっ!」
 帰りの車内でウォータスライダーの一件を話すと西野さんが大騒ぎ、最初こそ睨み付けていたフィオが今は怯えてしがみ付いて離れなくなってしまった。この人凄いよ……フィオが怯えるなんてそうそうないはずだぞ。
「にしても疲れたぁ~、もう寝たい」
「何言ってるんですかっ、これから浴衣に着替えてお祭りですよ。花火も上がりますし、ティナ様たちの浴衣姿きっと綺麗ですよ」
 久々の水泳でバテバテなんですが……車内には疲れた様子の人はいない。俺だけか…………まだまだ体力が足りないなぁ。
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