黒の瞳の覚醒者

一条光

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六章~目指す場所~

喪失

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 駆け付けた先で目にしたのは武装した集団に一般人が撃ち殺されている光景、なんだこれは…………?
「おいおいおい、なんだよこりゃぁ――」
 武装した連中の一人がこちらに銃を向けようとしたのに気が付いて遠藤を蹴り飛ばし、もう一人も投げ飛ばして路地へ放り込み、残った一人の腕を引っ掴み遠藤たちとは反対の路地へ飛び込んだ。通りでは一般人を撃ち殺しながら武装集団が奇声の様な笑い声を上げている、なんだ? この異常な光景は……現代で、それも日本でこんな事が起こるのか?
「っ!」
 相手が人間だろうと戦う力の無い相手を一方的に殺して喜んでいる連中だ、放っておいていいはずがない。路地を飛び出し電撃を放って数人に当てて倒していく、俺の攻撃に最初は狼狽えた様子だった連中はすぐに立て直して、発砲しながらこちらを牽制しつつ負傷した者を担いでビルの間を縫うようにして退いて行った。それを追おうとした俺を遮るようにどこからか銃弾が飛来し頬を掠めて行った。何となくの勘で少し身体を傾けた直後だった、動かなかったら今頃顔に穴が開いてアスファルトの上に倒れ伏していただろう。頬からチリチリと焼けるような痛みがして血が流れていく。
「馬鹿下がれ! スナイパーが居る、敵の位置が分からなかったらお前でも避けようがないだろ」
 遠藤の言葉に従って路地に戻る途中、連中が落としていった拳銃を五丁回収して戻った。戻る時に目にした血塗れで路上に横たわる人たちの姿が痛ましかった。全員複数個所に銃創があって生きている人は皆無だった。
「おい遠藤、あいつら――」
「日本に自衛隊以外の軍隊なんて一つしかないだろ、米軍どもあいつら無茶苦茶しやがって……戦争でも始める気かよ! クソッ! まだ銃声が聞こえるな、歓楽街が戦場かよ……こっちは電撃超人と拾ったベレッタM92五丁だけだってのに、西野連絡は付いたか?」
 後悔なさいませんか? その言葉が繰り返し頭の中で再生される。俺のせいでこうなっている? ……流石に考え過ぎだ、わざわざ反感を買う行動する意味が無いし、こんな殺戮をすれば世界的な批判は免れない、そんな馬鹿な事をする奴なんていないだろ……そう、思いたい、それでもあの気持ちの悪い笑顔が頭を過ぎって完全に否定が出来ない。電撃超人って俺か? 俺だよな…………嫌な呼び名を付けられたな。
「ああ、すぐに部隊を送ってくれるらしい。俺たちは魔物警戒の為に周辺に配備されていた警官と協力して周辺住民の避難誘導だ」
 すぐにって……その部隊が到着するまであれを放置するのか? 冗談じゃない! そんな事出来るはずがない。銃弾の回避はまだ微妙だが、使ってるのはあくまでも普通の人間、フィオみたいな反応速度があるわけじゃない。狙われて発砲されるまでに回避行動を取るか倒してしまえば問題無いはずだ。
「おい、どこ行くんだ? 一人でカッコよく敵に突撃か? お前にやれるのか? 人間を殺せないとか言ってたやつが……あっちは楽しんで殺しをやってるんだぞ。躊躇えばお前が死ぬぞ」
 銃声のする方へ歩き出そうとした俺を引き留めて遠藤がそう言い放つ。殺す事には躊躇いはある、それでもこの状況を無視なんて出来ない。さっきの攻撃はちゃんと効いていた、だから電撃への対策がされているという感じではなかった。俺をどうにかする目的で来ているという事じゃないんだろう、でも対処出来るならやる以外の選択肢なんて無い。
「殺せなくても潰して行動不能には出来る。電撃に対する対策もされてないようだったし、出来る事はする」
「……そうかい、それじゃあ甘ちゃんが死なない様に俺は御守りでもしますかね。西野と宮園は避難誘導頼まぁ」
「完全に命令無視だな。おい、敵に向かって行くのに一丁で行くのか? あと二つ持って行けよ」
 俺に付いて来ようとする遠藤に、西野と呼ばれたペドの人が二丁寄越した。
「ああ? いいんだよ一丁で、こいつの援護がメインだし、倒す気でいるなら武器回収はいくらでも出来るよなぁ?」
 やらなきゃぶっ殺す。そんな目で睨まれる、それくらいはやるさ。俺だってこの状況は腹わたが煮えくりかえる思いだ。
「一人の方が気を遣わない分楽なんだけど――」
「よく言うぜ。中国じゃお嬢が居なきゃお前やられてただろうが、お嬢みたいにはいかないが甘ちゃんのお前に出来ない事は俺がやってやるからそのサポートくらいしやがれ」
 一応心配されているんだろうか?
「はぁ~、まぁ出来る限りは――」
「おう、さっさとあのクズどもを叩きのめそうぜ。そしてさっさと終わらせて風俗で遊ぶぜ!」
 いやそりゃ無理だろ…………冗談なんだろうけど、こんな事があった一帯がすぐに営業再開するとは思えないんだけど。

「嫌っ! 誰かっ、助けて! なんで、なんで人間同士でこんな――イヤァアアアアアッ!」
「たす、助けてくれっ! 金、金なら――ガフッ!?」
「止めろ!」
 虐殺を楽しんでいる連中に電撃を放って行動不能に追い込む。ジャップだ、イエローモンキーだと、笑いながら嬉々として蛮行を働いていた。男は殺され、女は犯されている。殺すのもただ殺しているわけじゃない、ケラケラと笑いながら複数人が一人に対して誰が仕留めるかと競うように銃撃している。
「こっちだ、早く逃げろ! おい、武器が足んねぇぞ! さっさと回収させろ!」
 分かってるけど、こっちだって忙しい。電撃で米兵を気絶させて捕まっている人たちを解放して遠藤の居る方へ逃がしながら、逃げる人を撃ち殺そうとしている連中の迎撃、発砲された銃弾が逃走者に当たらない様に弾く作業、武器を回収して遠藤に渡している暇なんてありゃしない。最初に遭遇した連中は俺の攻撃に面食らっていたが、もう情報が回っているからか一切の躊躇なく発砲してくる。
「こんなん、身体がもたない」
 電撃での強化を使ってどうにか反応出来てるレベル、気を抜けばあっという間に自分も死に、逃がした人、遠藤も殺されるだろう。泣き言なんて言ってられない、やるしかないんだ。
「痛っ!?」
 銃弾が左の太ももを掠めた。馬鹿か俺は、脚をやられたら明らかに動きが悪くなる。やっぱりフィオの様にはいかないか、あれだけ無茶苦茶に撃たれて当たったのがまだ一発ってのはマシな方かもしれない。
「一旦退くぞ! ここに居た人たちは全員避難させた、電撃で牽制しながら退け」
 いつ回収したのか、複数の銃を持って、俺を狙っている兵士に向けて発砲しながら遠藤が叫んだ。電撃を放って米兵を薙ぎ倒しながら、遠ざけるように放電を続けながら予め決めておいた建物へ向かって走った。

「馬鹿が、脚やられて動き続けられるのか? 掠っただけみたいだが動きは絶対に悪くなるだろ」
 悪態をつきながらも止血をして応急処置をしてくれた。自分一人の場合ならまだ平気かもしれないが人を助けながらそれを庇って動く事を考えるとかなり厳しいかもしれない。
「遠藤君、塩水撒いてきたよ」
 踏み込まれた場合の対処として店の入り口に塩水を撒いて俺の居る場所まで引いてある。入ってきたらそれに電撃を流して避ける間も無く全員感電、の予定。
「ああ、ありがとゆみちゃん。悪いね、迷惑かけて」
「ううん、お店のみんなも怖がって逃げられずにいたし、それはいいんだけど……これってどうなってるの? 相手は魔物じゃなくて人間だって言うし、戦争でも始まったの? 私たち助かるの?」
「それは大丈夫、あいつらの目的は分かんないけど、すぐに援軍が来るしここに居る人は俺たちが守るから」
 ここに居る人は……逃げる途中でも銃声が聞こえていた。まだ逃げる事が出来ずに捕まっている人や殺されている人が居る。このままここに隠れているわけにもいかない。
「まだ動くなって、出来る事はしてるだろ。それにここに居る人たちだって守らねぇといけねぇんだから、俺たち二人で出来るのはこの程度だ。無茶をしたらここに居る人たちまで危険に晒す事になるんだぞ。あとあいつらの動き少し変じゃなかったか? 異常に機敏というか……お前やお嬢たち寄りの動きに見えたんだが」
 動きは、確かに少し速かったかもしれない。電撃を避ける者も居た、でもそれは訓練をしている兵士だから出来るんだと思ってたんだけど……遠藤から見ても異常なのか。敵に遭遇するまでにも逃げ惑っている人たちをここに誘導していて、助けた人たちと店の人を含めると広めの店内が埋まって窮屈に感じる程度には人数が居る。それでも、まだまだ助けを求めてる人が居る。
「でも――」
「言いたい事は分かる、あいつらのやってる事を見たら虫唾が走る。それでも人ひとりに出来る事なんて高が知れてる、数には数で対抗するしかねぇんだよ」
 そう言いながら誘導した人から借りた双眼鏡で窓の外を窺って顔を歪めている。
「反吐が出るぜ、よくもまぁ同じ人間に対してあんな事が出来る…………あいつら完全に頭イッてるだろ」
 同じ様にして外を窺うと、吐き気を催すなんて表現では足りない様な光景が繰り広げられていた。犯す、射殺は当たり前で、生きている人間に火をつけてそれをキャンプファイアでも囲むかのように眺めている。殺した相手の亡骸の口や銃創目掛けて小便をかける、眼球を抉ってそれを口に詰める、男なら男根も切り取って詰める。首や手を斬り落とす、斬り落とした首を蹴ってサッカーの様にして遊んでいる連中までいる。それらをとても楽しい事の様に嬉々として行っている、正常な人間だとは思えない。そして被害者はまだ増えている、夜七時、仕事終わりに歓楽街を訪れた人なんかで人は多い。
「おい待てって、西野から連絡があった。援軍と合流して交戦中だとよ……やっぱり動きが異常で苦戦しているみたいだが、こっちにも避難誘導の人員が向かってるらしいから大人しくしてろ」
 ここに居る人たちを逃がす為に向かって来ている自衛隊がいるのなら俺がここに居続ける必要もない、多少痛むが脚はまだ動く、剣だって振れる、電撃だって撃てる、まだやれる事がある。
「助けが来てるのなら俺が居なくてもいいだろ」
「あのなぁー、てめぇが入院して寝てる間姫さんとお嬢の状態酷かったんだぞ。女泣かせんなって言ってんだ。怪我してない状態でギリギリだったのにその状態だと無謀だろ!」
「何とかする」
「おい――」
 捕まる前に店を飛び出した。武器はそれなりに回収できてた、救援も向って来ているしここはまだ気付かれていない、周囲にも殺気や敵意、気配は感じない、大丈夫だ。

 駆け回って、暴行をしている連中を見つけては捕まっている人を解放する。自衛隊と交戦している兵士もいるのにまだ女を犯して、一般人を殺して楽しんでいる連中がいる。解放できても凄惨な光景と受けた暴行にショックを受け衰弱して逃げようとする人が少ない、その人たちを庇いながら戦って電撃で敵を行動不能にしながら遠ざけるが、電撃を躱した者たちが一般人を狙えば俺の動きが制限されるのを悟って一般人へ集中的に発砲を繰り返してくる。
「逃げろよ、逃げろって! 頼むから逃げてくれ! 助けは来てるんだ、だから! ――あぁ…………」
 銃撃に反応出来ても全てを弾く事が出来るわけじゃない、躱さないと間に合わない時もあって完全には防げない。そして防げなかった銃弾で解放した人たちが撃たれ、血を流して倒れていく。対処しきれず逃げない人を蹴り飛ばして路駐している車の陰へ隠す。
「おいアンタっ――クソッ!」
 死を求める様に米兵に向かって歩き出した女に跳びついて、腕を引っ掴み建物の陰へ――。
「がっ!? くそ! ハァ、ハァ、ハァ」
 ガクンと脚から力の抜ける感覚に襲われた。どうにか物陰に隠れられたけど今度は右脚、今回も掠っただけみたいだがさっきよりも出血が酷い。両脚やられるとか間抜け過ぎだな。
「なんで、なんで邪魔したのよ!? 私も死にたかったのに! ゆうとさんが居ないこんな世界生きてたって意味無いのよ!?」
 助けた相手に胸倉を掴まれて揺さぶられる。恋人が殺されたってとこだろうか、大事な人が居なくなった世界で生き続ける苦しみ…………死なせてあげる方が正しかったのか? ……だとしても、目の前で人が死に逝くのを黙って見てられるはずもない。
「っ!? おいおい、マジかふざけんなっ!」
 掴みかかっていた女を蹴り飛ばして走り出す。走った場所のアスファルトが抉れて穴だらけになっていく、狙われてるのは俺か……連れて逃げなくて正解だった。妙な音がすると思って上を見るとヘリが居て、銃口を向けられているのに気付いて慌てて逃げた。
「追ってくる…………」
 狙いを付けられないのか、元々無茶苦茶に撃っているのか、路上にある車が蜂の巣になって爆発する。あんなものを人間に向けているのか……今この場所は平和な日本ではなく、血腥い戦場になり果てていた。
「っ!? しまっ――」
 左肩に痛みが走って脚を止めてしまった。アスファルトの抉れた箇所がだんだんと俺に近くなってくる、それをまるで他人事のように眺める。弾丸が激しい雨の様に降り注いでいる、これで死ぬのか? こんなので? 異世界じゃない、自分の生まれた世界で人間に殺されるのか? 死にかけている、考えている時間なんて無いはずなのにこんな事を暢気に考えている。
 死を覚悟した刹那、身体に衝撃を受けて、目の前に現れた銀色が紅く染まった。
「っ!? あ、あ、あぁ……あぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
 血を噴き出して倒れ込むフィオを抱き留めた。ヘリは叫びに呼応して発せられた光に飲まれて墜落した。身体の震えが止まらない、なんで……なんでこんな――。
「わた、る……ぶじ?」
「あ、ああ、無事……だ」
 震えてる場合かっ、早く病院に行かないと…………。
「そ……う、よかっ…………」
 フィオの身体から力が抜け、目を閉じて動かなくなった。背中へ回した手にはべったりと紅い血。
「フィオ? フィオ! 起きろっ! 死ぬな、死ぬなっ! ……あ、あぁ、あ、ああぁ…………」
「ワタル! 良かった無事――フィオ!? どうしたの!? なんでこんな――」
 さっきの光が目印になったのか、ティナが駆け寄ってきてフィオの前に跪く。フィオの頬に一滴の涙が零れ落ちて伝った、零れ落ちたのは俺の中に残っていた心や理性だったのかもしれない。
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