黒の瞳の覚醒者

一条光

文字の大きさ
上 下
305 / 470
番外編~フィオ・ソリチュード~

ワタルは無事?

しおりを挟む
「絶対に駄目!」
「いや、でも――」
「そうね、一人で行くとかあんた自殺願望でもあるの? さっきの戦闘だってこの子がいなかったら確実に死んでたでしょ」
 コウヅキなんか好きじゃないけど、今はワタルを止めようとしてくれるなら誰でもいい。村に来いと言ったエルフがワタル一人で来る事が条件とか言って、ワタルはそれを呑もうとしてる。さっきまで殺し合いをしていて、その相手の拠点へ一人で行くなんて馬鹿すぎる。ワタルの能力が凄くても殺す気が無いなら絶対に加減する、そんな状態で殺意を持ったエルフや獣人に囲まれたら勝てるはずもない。コウヅキの言ってるみたいに本当に死にたいの?
「安全確保の為に話しをする必要があるんだからしょうがないだろ、俺も危険だとは思うけど話を聞いてもらう条件なんだから行くしかないって」
「だからって一人で行く事はないじゃない、この子かあたしも一緒に行く方がいくらか安全でしょ。あっちだって能力持ちで、その上身体能力まで高いんだから別に行くのが一人増えようと問題無いはずでしょう? なに無条件に相手の言うこと聞いてるのよ、馬鹿なの?」
 私が言いたい事をどんどんコウヅキに言われていく…………。
「ワタル、私も一人で行くのは納得できません。もしそれでワタルが帰ってこなかったりしたら…………」
「まぁそうなったら犠牲が一人で済んだという事で――」
「そんなの許さない」
 ワタルの服を掴んで屈ませて目線を合わせて睨みつける。いなくなるなんて絶対に許さない、あんなに苦しいのはもう絶対に嫌。
「睨むなって、冗談だって……相手の条件を呑む方がこっちに害意が無いのを分かってもらえるだろ? 頼む立場なんだし条件は呑まないと、それに殺気は感じないんだろ?」
 冗談? ふざけてるの? 私は真剣なのに……ワタルがいなくなるなんて絶対に嫌なのに、リオだって同じ風に思ってるはず、それなのに…………。
「今は感じない、でも戦い慣れてればそんなものは簡単に隠せる。囲まれた後にころ――」
「わざわざ俺一人を殺す為にそんな面倒な事するはずないだろ、紅月が言ったけど能力持ってて身体能力まで上なんだから」
「でも! ――」
「どうするんだー? 行かないのかー?」
「あ、行きます! 行きます! …………って、放せよ?」
 無視してエルフ達について行こうとするワタルの腕を掴んで捕まえた。聞いてくれないなら捕まえておく方が良い、ワタルの力じゃ振り解くなんて出来ないんだから最初からこうすればよかった。
「ダメ、行くなら一緒に行く。一人では行かせない」
「そうですよ、もう少しエルフの方たちと話してみてフィオちゃんを同行させてもらえるように頼んだ方がいいです」
「人間が警戒されてるんだから一人の方が話しがしやすいんだって……たぶん」
 たぶん……そんな理由で納得できるはずない! 腕を掴む手に力が入る。
「あ~…………フィオ、ちょっと来い」
 ワタルが私を引っ張ってリオ達から離れた。なに? さっきみたいないい加減な理由じゃ絶対に放さない。警戒が足りないワタルは私が一緒に居ないと駄目。

「これは必要な事で話を聞いてもらう条件が俺一人で行く事なんだ。だから俺一人で行く。フィオは残ってリオ達を護ってくれ、俺は戦う方法があるけどリオにはそれが無いんだぞ?」
「それは…………」
 確かにワタルばかり気にしててリオの事が抜けてた。コウヅキは甘くないから敵は燃やすだろうけど、エルフと獣人が襲ってきた場合どこまで対処出来るか分からない。それ以前にリオの事を助けないって前に言ってたから当てにするのなんて間違ってる。ユウヤが傍に居るのも不安、さっきの騒動を引き起こした途端に倒れたってコウヅキが言ってたから能力の制御が出来てない。そんな危ないのとリオを一緒にしておくのは良くない。
「ならリオと二人で付いて――」
「だーめーだー、頼むから待っててくれよ。あっちだって今まで襲い掛かってきてた人間ってものの話を聞いてくれるって譲歩をしてくれてるんだ。こっちだって配慮する必要が――」
「聞くかどうかなんて分からない!」
「一旦戦いが止まって話しが出来たんだ。聞いてくれるって、だからリオ達と待っててくれ。大丈夫だから……ヤバかったらどうにかして逃げるし、な?」
 そんな顔してもこれは聞けない、私が傍に居る範囲での無茶なら聞けるけど、これは違う。だから聞かない……聞かないってば! …………うぅ~、見ない様に顔を逸らしたのに頬を摘ままれてワタルの方を向かせられた。
「フィオ頼む」
 うぅ~、うぅ~、頷くな、頷くな! 一人で行かせるなんて絶対に危険、そんなの許しちゃダメ――。
「…………ん」
 私の馬鹿…………納得なんて出来てないはずなのになんで頷くの? ワタルのせいで私が変になってきてる。



「はぁ~」
 ぼんやりと船の上で空を眺める。何やってるんだろう…………危険だと思うのにワタルを一人で行かせて、コウヅキに馬鹿って言われたけど反論できなかった。
「ねね、フィオちゃんキスしたの?」
 は? …………ミズハラが変な事を言ってきた。
「誰と?」
「航しかいないじゃん、無理矢理されちゃった?」
「? そんなのしてない」
「えぇー、だってあの時顔を寄せられてたじゃん。今もぼーっとしてるし、されちゃったから大人しく言う事聞いちゃったとかじゃないの?」
 ぼんやりしてたのは事実だけど、そんな理由じゃない。自分の判断について考えてたからだ。ワタルの言う通りリオを護らないといけないのも分かるけど、もっと他の方法を取れたんじゃないか? そんな事を考えていた。それに――。
「ワタルはそんな事しない」
「…………な~んだ、本当に何もないんだ。面白い話になるかと思ったのにぃ~」
 しばらく私の目を見た後にそう言って離れて行った。私がキスしてたら何が面白いの? 理解出来ない。
「フィオちゃん、元気出しましょ? フィオちゃんが信じて行かせたのならワタルは無事に帰ってきますよ」
 今度はリオが傍に来て隣に座り込んだ。
「怒ってないの?」
「? なんで怒るんですか? 私がフィオちゃんを怒るような事なんて何も無いですよ」
「ワタルを一人で行かせた」
 リオも一人で行かせるのは反対してたから一人で行かせたのを怒ってると思ってた。収容所の時凄く怒ってたし。
「フィオちゃんには怒ってないですよ、ワタルには少し怒ってますけどね。それでも今はワタルならなんとかしちゃうと思っちゃってるんですけどね、フィオちゃんもそう思ったから一人で行くのを許したんでしょ? じゃなきゃ行かせるはずないですもんね、ワタルの腕を掴んでる時のフィオちゃん絶対に放しそうになかったですから」
 そう、頭では危険だと、警戒するべきだと考えてるのに、ワタルのせいで大丈夫だと思ってしまった。
「そんな顔しなくても大丈夫ですよ。帰ってくるって言ってたならちゃんと帰って来てくれます。ワタルは無茶しますけど何とかしちゃいますから」
 リオが笑いかけてくれて少し気が楽になった。今は頼まれた事をしよう、エルフや獣人が居なくても変な鳥がまた来るかもしれない、他にも変な物が居る可能性もある。そういうのからリオを護る。

「お~い! ワタルと族長の話し合いが終わって滞在の許可が出たぞー」
 船内から外を警戒していたら外から声が聞こえてきて確認に出るとあの時のエルフが戻って来ていた。許可が出た? ならワタルは無事? …………ならなんで戻って来てないの?
「やったー! 航やるぅ~。やっとこれで逃亡生活が終わる~。あ、麗奈ほっとしてない? やっぱり気になるの?」
「綾乃と同じで逃亡生活が終わる事に安心しただけよ!」
 騒いでいるミズハラ達をおいてリオと一緒に船を下りてワタルの事を確かめる。
「あの、ワタルはどうして戻ってこないんですか?」
「あぁ、ちょっと事情があってナハトを村まで運んでもらったんだが、それで疲れたみたいだ。それに人間の足に合わせてここに来るより俺一人で知らせに来る方が早いからな、あいつは村に滞在するだろうからお前たちを迎えに来た」
 本当にそんな理由? …………ワタルが戻ってこない事に不安を感じる。ワタルに何かしたんじゃ――。
「そんなに睨んでくれるな、あいつは無事だフィオ」
 っ!? なんで私の名前を?
「それでこっちがリオだったな? 紅い髪で炎を使えるのがコウヅキ、能力を暴走させたのがユウヤで茶髪の娘がミズハラ、ワタルの記憶を覗かせてもらってお前たちがこの大陸に来た真意を確認させてもらったから害意がないのも分かっている。俺たちももうお前たちを攻撃する事はない、信用できないというなら構わないが信じてくれるのならすぐに出発しよう。人間に合わせるとそれなりに時間が掛かるからな、日暮れまでには村に着いて休みたいだろう?」
 記憶を覗く? そんな能力があるの? ……確かにワタルの知っている事を丸々知る事が出来るならワタルが敵意を持ってここに来たんじゃないって理解してもらえるだろうけど…………。
「ははは……その顔だと信じてはもらえそうにないな。まぁお前はワタルとリオ以外には気を許していない様だったから仕方がないか。ワタルの無事が確認できれば少しは変わるか?」
「フィオちゃん、行きましょう? この人は嘘を吐いていないと思います」
「あ、俺はライルだ。よろしくな」
 信じたわけじゃない、でもワタルの事を確認しないといけない。
「リオが言うなら…………」
「信じる信じないは自由だが睨むのは勘弁してくれ、ナハトを圧倒するようなやつに敵意を向けられるのは中々に心臓に悪い」
「フィオちゃん」
 むぅ、まだ敵じゃないって決まったわけじゃないのに。
「ユウヤは起きているのか? まだ起きていないなら俺が運ぶが」
「いいんですか?」
「ああ、俺が来たのはそれも理由だしな。さぁ出発しよう」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...