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番外編~フィオ・ソリチュード~
ズルい
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「やった…………」
そう言ってワタルが女エルフを抱きしめたままへたり込んだ。女エルフの身体をまさぐってる…………なんか、むかむかする。困惑したような表情をしているから変な意図はなくて、怪我の心配とかなんだろうけど……私とリオ以外と一緒に居るのは嫌、それに――。
「ワタル、そのエルフ貸して」
「貸して、って何するつ――!? お前怪我! 額から血が出てるぞ!」
そんな事今はどうでもいい、さっきは身体が勝手にワタルの声に反応して斬らなかったけど、このエルフはやっぱり危ない。気を失ってる間に始末した方が良い、ワタルが反対するだろうけど、あんな大爆発を引き起こすような相手を生かしておいたら絶対にワタル達に危険が及ぶ、殺せるときに殺しておくべき。
「このくらい平気、先にそのエルフの処理をする」
「処理するって……殺さないって言っただろ!」
「そのエルフは危険、空が爆発した。殺しておく方がいい」
やっぱり反対した……そんなものよりリオを大事にして、リオと自分の安全を考えて。ワタルからエルフを引き剥がして喉元を斬り裂こうと剣を当て――、
「駄目だ!!」
「っ!?」
なんでそんなに拒むの? こんなものを生かしておいても大した利なんて無い、あっても敵の動きを少し止められる程度、こんな言い合いをしてないで早く始末して煙に紛れて逃げる方が良いのに。
「さっき言っただろ? 人質にするんだ、それで戦いを止めて話をして、俺たちがこの土地に居てもいいっていう承諾を得るんだ。ここはエルフと獣人しかいない大陸なんだろ? そんな土地でそこに住む人全部を敵に回す気か? それにさっきの爆発は俺と紅月も関係してる、この人のせいだけじゃない」
話しをする? そんなもの役に立つはずない、相手はこっちを完全に敵として見てる。敵は確実に叩き潰して息の根を止めるのが当たり前、だから相手はそうしてきてる。死んだら変な鳥の餌にすらしている。そんなのしか居ない土地で殺さないなんて言ってられない。
コウヅキは分からないけど、ワタルがリオを巻き込むかもしれない爆発を引き起こすなんて考えられない。それに爆発したのはこのエルフが炎を発生させてからだった、こいつが原因で間違いない。
「でも……このエルフは危ない、それにこのエルフが炎を出してから爆発した!」
「危なくなくする為に話しをするんだ、殺してしまったらそれが出来なくなる」
「…………」
「フィオ、頼む」
ワタルが真剣にこっちを見てくる、またあの目だ。ズルい、ズルい! そんな顔をされたら私は頷くしか出来なくなる。排除する方がワタルの為にもリオの為にもいいと思うのに、分かってやってるんじゃないはずだけど、ズルい…………。
「…………分かった」
ほら、反対できなかった。うぅ~、もういいっ! 何かあっても私が二人を絶対に護ればいいだけなんだから、もう考えないっ。アドラの混ざり者の中では一番強かったんだから、エルフと獣人の動きだって私より早くなかった、逃げるのに徹すれば二人くらい連れ逃げるくらいは出来るはず。
「はぁ~、よかった~」
ほっとしたような、嬉しそうな顔をしてる。ズルい…………。
「それで、どうするの?」
「その前にお前、本当に怪我大丈夫なのか?」
今度は心配そうな顔を向けてくる、本当によく表情が変わる。心配してくれるのは嬉しいけど、今はやめて欲しい、今居るのは戦場、気持ちがぐらぐらしてるのは良くない。
「平気、石が当たっただけ、大きな怪我じゃない。それより――」
「分かったわかった、とりあえずフィオはそのままその人を捕まえて剣構えてろ、でも絶対に斬るなよ? 煙が晴れたらまた弓で狙われるだろうから、狙ってる奴らにこいつを捕まえたのを分からせて攻撃を止めてから話をする」
ワタルの言葉に黙って頷く。これが失敗したら、『殺さない』なんて考えを変えてくれるかもしれない……でも、殺しをするワタルはワタルじゃない気がする。
「ワタル、煙が晴れる」
そう言ってワタルの方を見ると顔がこわばっていて、少し震えているように見えた。
「怖いの?」
「怖いよ、全員の安全が掛かってるんだから」
変なの、クラーケン相手の時は迷わず突っ込んだくせに、エルフも獣人も人間と形が似てるのと海上じゃない分、あんな怪物なんかを相手にするよりマシだと思うけど…………。
「そう…………何かあってもワタルは私が守る」
安心するように、護るって言ってあげたのに困ったような変な顔をされた。
「攻撃をやめろ! お前たちのリーダーは捕まえた! こっちにこれ以上争う意思はない! 俺たちは人攫いをしに来た連中とは違うんだ! 敵対するつもりはないんだ! 話を聞いてくれ!」
煙が晴れてワタルがそう叫んだ。弓を構えてるけど撃ってはこない、人質としての価値はあるみたい……意識が戻るまでだけど。
エルフと獣人は困惑してるみたいで、何か行動を起こそうとする者も居なくて、ワタルの言葉に応じようとする者も居ない。よほどこのエルフの実力が信頼されてたみたい。
「先ず確認させてくれ、そいつは、ナハトは生きているのか?」
随分と時間が経ってようやく金髪の男のエルフがそう言って前に出てきた。
確認……当然か生きていなかったら人質としての価値が無くなる、でも近寄らせるのは危険だからさせるべきじゃない。それにしても、大きい…………そういえばこの女エルフも背が高くてワタルと同じかそれよりも高い……この土地だと私が凄く小さいみたいに感じる。
「えっと、どうやって確認します?」
っ!? なんで相手に聞くの!? そんな事させなくても動きが止まっていて代表が出てきてるんだから話せばいいのに――。
「とりあえずその娘に剣を下ろさせてくれ、話を聞いて欲しいんだろう? それとも人間は話をする時は相手に剣を突き付けて話をするのか?」
剣を下ろすなんて、そんな事するはずない、弓こそ構えてないけどこっちをちゃんと警戒しているのが何人かいる。このエルフに剣を向けるのを止めたら攻撃を開始するかもしれな――。
「フィオ、剣を下ろし――」
っ!? 無警戒過ぎる。さっきまで戦ってた相手でどんな能力を持ってるかも分からないのになんでそんな事言うの? ワタルが甘い分私が警戒しないと。
「ダメ」
「い、いや、それじゃあ話が進まな――」
「ダメ、確認したいならそっちが近付いて勝手にすればいい、解放したら捕まえた意味がない」
少しでも不審な挙動があればすぐに首を斬り落とす。
「それがそちらの考えか?」
当たり前、敵を信じるなんて異常な事するはずがない。
「そ――」
「いやいやいやいや! 違う! 全然違う! フィオ、捕まえたのは戦いを止めて話を聞いてもらう為だったんだ、もう戦いは止まってるし話を聞く前にちゃんと生きてるのか確認してもらうのも必要な事だから! 戦いを止めるって目的は達成してるんだから剣は下ろせ、な?」
っ!? 返事をしようとしたら遮って否定された。放すの? せっかく捕まえたのに? 甘い、甘いとは思ってたけど…………。
「…………」
縋るような目で見てくる…………私は悪くないのに、私がワタルに嫌がらせをしてるみたいな気分になってくる。
「どうしても?」
「どうしても!」
即答…………もう考えないって決めたんだ、好きにすればいい。
「…………はぁ~、ワタルは甘い」
剣を下ろして女エルフを砂浜に寝かせると、それを見た男のエルフがこちらに来ようとしている。
「変な事をしようとしたら斬るから」
……ワタルが凄く驚いた顔をしてる。これは脅しじゃない、ワタルにどう思われてもワタルやリオに危害を加えられるのは絶対に避けないといけない。
「はぁ、確認をするだけだ。こちらもナハトが倒された事で混乱している、そんな状態でナハトを倒した者を相手に戦闘を続行するつもりはない」
「フィオ、俺たちは少し離れよう、あっちは丸腰で来てくれてるんだから」
この上まだそんな事を言うの!?
「エルフは覚醒者と同じで能力を持ってる」
「別にそのままで構わない、あれだけ攻撃された後で警戒するのも理解できる、それに話をしたいならそちらも何もしないはずだろう?」
そっちが何もしない限りはワタルに従うけど、少しでも変な動きがあればこのエルフは斬って女の方を人質にして逃げる。
「ふぅ、怪我もないし気絶しているだけか…………まさかこいつが気絶させられる日が来るとはな…………どっちがやったんだ? やっぱり娘の方か?」
「ん」
「お前がやったのか!?」
ワタルの方を指差したら凄く驚いてる。ワタルは甘いだけでそんなに弱くない、クラーケンだって倒せるんだから、加減なんかしなかったらエルフの能力にだって勝てるはず。
「本当にお前がやったのか? 娘の方じゃなくてか?」
「あ~、気絶させたのは俺ですけど、フィオの不意打ちが無かったら絶対に無理でしたよ?」
そんな事わざわざ言わなくてもいいのに、脅威だと思い込ませて警戒させておけば無闇にこっちを攻撃する事も無くなるだろうから、ワタル達の安全が増す可能性があったのに…………。
「状況はどうでもいい、気絶させたのがどちらなのかが問題なんだ。そうか、お前か…………」
ワタルの言葉を聞いて男のエルフは黙り込んで何かを考え込んでる。ワタルは、なんで指差した!? みたいな顔をしてる。ワタルを脅威に思わせられれば、もし戦闘になってもワタルを恐れてワタルへの攻撃頻度が減ると思って指差したんだからそんな顔しないで。
「ふむ、確かに話をする必要が出来た様だ」
しばらく考え込んだ後にそう言った。上手く脅威だと思わせられた?
「さっき人攫いの連中とは違うと言っていたが、あれはどういう意味だ? ここへ来る人間は人攫い目的以外で来た事はないぞ」
「その人攫いの奴らが所属してる国の連中に追われる身になったんで密航して別の大陸に行こうと思ったんですけど、俺たち異界者も混じってるから警備が厳しくて普通の船に乗れなかったんですよ」
「それで人攫いの船に、というわけか、確かにお前は瞳が黒いな。なら話というのはこの土地での安全についてか?」
さっきまで殺し合いをしてたのに普通に話しをしてる。臆病なのか図太いのかよく分からない…………それでもワタルが必死なのだけは分かる。だから反対が出来ない。
「はい、そうです。俺とフィオと、船に残ってるのが一緒に逃げ出してきた仲間でこの六人の身の安全を約束して欲しいんです。俺たちは他者を奴隷にしたいって考えはないですし、危害を加えられないならそもそも戦うつもりもなかったんです」
「その割には先ほどの能力は一切の加減がされてなかった様だが? まぁ、それを止めようとしていたのも見てはいたが」
あんなのユウヤが勝手に出て来て勝手にやっただけ、あれが問題になるならあれだけ処理すればいい。
「あ~、あれはさっき覚醒者になったばかりみたいで、そもそも力の加減なんて分かってなかったんだと思います。すみません」
「…………ふふふ、あっはははははははは」
? ワタルは謝ったのに何で笑うの? 変な事は言ってない――事もないか、殺し合いをしてた相手に謝罪なんて変な事以外の何物でもない。
「いや、すまない、今まで来た人間とは敵対してきたし、たまに覚醒者も混じっていた事もあった。だから異界者であろうと人間は敵という認識だったんだが、それが素直に謝罪をしたものだから可笑しくてな! 話は分かった、だが俺が決められる事ではないから一度村に来て族長に会ってもらう」
「! はい! よろしくお願いします!」
話が進んだ……こんなやり方で上手くいくなんて思えなかったのに、ワタルは成功させた。流れは悪くないのに……なんだか、ズルい。私があれだけ警戒してたのが馬鹿馬鹿しくなる。運が良いだけなのか、ワタルが凄いのか……たぶん両方、じゃないと私がこんなに興味を持って惹かれるはずない。甘いし無茶苦茶だけど、ワタルと居ればこれからも色んな事を経験出来そう。ワタルとリオの二人が危険な目に遭うような事は無い方がいいけど…………。
そう言ってワタルが女エルフを抱きしめたままへたり込んだ。女エルフの身体をまさぐってる…………なんか、むかむかする。困惑したような表情をしているから変な意図はなくて、怪我の心配とかなんだろうけど……私とリオ以外と一緒に居るのは嫌、それに――。
「ワタル、そのエルフ貸して」
「貸して、って何するつ――!? お前怪我! 額から血が出てるぞ!」
そんな事今はどうでもいい、さっきは身体が勝手にワタルの声に反応して斬らなかったけど、このエルフはやっぱり危ない。気を失ってる間に始末した方が良い、ワタルが反対するだろうけど、あんな大爆発を引き起こすような相手を生かしておいたら絶対にワタル達に危険が及ぶ、殺せるときに殺しておくべき。
「このくらい平気、先にそのエルフの処理をする」
「処理するって……殺さないって言っただろ!」
「そのエルフは危険、空が爆発した。殺しておく方がいい」
やっぱり反対した……そんなものよりリオを大事にして、リオと自分の安全を考えて。ワタルからエルフを引き剥がして喉元を斬り裂こうと剣を当て――、
「駄目だ!!」
「っ!?」
なんでそんなに拒むの? こんなものを生かしておいても大した利なんて無い、あっても敵の動きを少し止められる程度、こんな言い合いをしてないで早く始末して煙に紛れて逃げる方が良いのに。
「さっき言っただろ? 人質にするんだ、それで戦いを止めて話をして、俺たちがこの土地に居てもいいっていう承諾を得るんだ。ここはエルフと獣人しかいない大陸なんだろ? そんな土地でそこに住む人全部を敵に回す気か? それにさっきの爆発は俺と紅月も関係してる、この人のせいだけじゃない」
話しをする? そんなもの役に立つはずない、相手はこっちを完全に敵として見てる。敵は確実に叩き潰して息の根を止めるのが当たり前、だから相手はそうしてきてる。死んだら変な鳥の餌にすらしている。そんなのしか居ない土地で殺さないなんて言ってられない。
コウヅキは分からないけど、ワタルがリオを巻き込むかもしれない爆発を引き起こすなんて考えられない。それに爆発したのはこのエルフが炎を発生させてからだった、こいつが原因で間違いない。
「でも……このエルフは危ない、それにこのエルフが炎を出してから爆発した!」
「危なくなくする為に話しをするんだ、殺してしまったらそれが出来なくなる」
「…………」
「フィオ、頼む」
ワタルが真剣にこっちを見てくる、またあの目だ。ズルい、ズルい! そんな顔をされたら私は頷くしか出来なくなる。排除する方がワタルの為にもリオの為にもいいと思うのに、分かってやってるんじゃないはずだけど、ズルい…………。
「…………分かった」
ほら、反対できなかった。うぅ~、もういいっ! 何かあっても私が二人を絶対に護ればいいだけなんだから、もう考えないっ。アドラの混ざり者の中では一番強かったんだから、エルフと獣人の動きだって私より早くなかった、逃げるのに徹すれば二人くらい連れ逃げるくらいは出来るはず。
「はぁ~、よかった~」
ほっとしたような、嬉しそうな顔をしてる。ズルい…………。
「それで、どうするの?」
「その前にお前、本当に怪我大丈夫なのか?」
今度は心配そうな顔を向けてくる、本当によく表情が変わる。心配してくれるのは嬉しいけど、今はやめて欲しい、今居るのは戦場、気持ちがぐらぐらしてるのは良くない。
「平気、石が当たっただけ、大きな怪我じゃない。それより――」
「分かったわかった、とりあえずフィオはそのままその人を捕まえて剣構えてろ、でも絶対に斬るなよ? 煙が晴れたらまた弓で狙われるだろうから、狙ってる奴らにこいつを捕まえたのを分からせて攻撃を止めてから話をする」
ワタルの言葉に黙って頷く。これが失敗したら、『殺さない』なんて考えを変えてくれるかもしれない……でも、殺しをするワタルはワタルじゃない気がする。
「ワタル、煙が晴れる」
そう言ってワタルの方を見ると顔がこわばっていて、少し震えているように見えた。
「怖いの?」
「怖いよ、全員の安全が掛かってるんだから」
変なの、クラーケン相手の時は迷わず突っ込んだくせに、エルフも獣人も人間と形が似てるのと海上じゃない分、あんな怪物なんかを相手にするよりマシだと思うけど…………。
「そう…………何かあってもワタルは私が守る」
安心するように、護るって言ってあげたのに困ったような変な顔をされた。
「攻撃をやめろ! お前たちのリーダーは捕まえた! こっちにこれ以上争う意思はない! 俺たちは人攫いをしに来た連中とは違うんだ! 敵対するつもりはないんだ! 話を聞いてくれ!」
煙が晴れてワタルがそう叫んだ。弓を構えてるけど撃ってはこない、人質としての価値はあるみたい……意識が戻るまでだけど。
エルフと獣人は困惑してるみたいで、何か行動を起こそうとする者も居なくて、ワタルの言葉に応じようとする者も居ない。よほどこのエルフの実力が信頼されてたみたい。
「先ず確認させてくれ、そいつは、ナハトは生きているのか?」
随分と時間が経ってようやく金髪の男のエルフがそう言って前に出てきた。
確認……当然か生きていなかったら人質としての価値が無くなる、でも近寄らせるのは危険だからさせるべきじゃない。それにしても、大きい…………そういえばこの女エルフも背が高くてワタルと同じかそれよりも高い……この土地だと私が凄く小さいみたいに感じる。
「えっと、どうやって確認します?」
っ!? なんで相手に聞くの!? そんな事させなくても動きが止まっていて代表が出てきてるんだから話せばいいのに――。
「とりあえずその娘に剣を下ろさせてくれ、話を聞いて欲しいんだろう? それとも人間は話をする時は相手に剣を突き付けて話をするのか?」
剣を下ろすなんて、そんな事するはずない、弓こそ構えてないけどこっちをちゃんと警戒しているのが何人かいる。このエルフに剣を向けるのを止めたら攻撃を開始するかもしれな――。
「フィオ、剣を下ろし――」
っ!? 無警戒過ぎる。さっきまで戦ってた相手でどんな能力を持ってるかも分からないのになんでそんな事言うの? ワタルが甘い分私が警戒しないと。
「ダメ」
「い、いや、それじゃあ話が進まな――」
「ダメ、確認したいならそっちが近付いて勝手にすればいい、解放したら捕まえた意味がない」
少しでも不審な挙動があればすぐに首を斬り落とす。
「それがそちらの考えか?」
当たり前、敵を信じるなんて異常な事するはずがない。
「そ――」
「いやいやいやいや! 違う! 全然違う! フィオ、捕まえたのは戦いを止めて話を聞いてもらう為だったんだ、もう戦いは止まってるし話を聞く前にちゃんと生きてるのか確認してもらうのも必要な事だから! 戦いを止めるって目的は達成してるんだから剣は下ろせ、な?」
っ!? 返事をしようとしたら遮って否定された。放すの? せっかく捕まえたのに? 甘い、甘いとは思ってたけど…………。
「…………」
縋るような目で見てくる…………私は悪くないのに、私がワタルに嫌がらせをしてるみたいな気分になってくる。
「どうしても?」
「どうしても!」
即答…………もう考えないって決めたんだ、好きにすればいい。
「…………はぁ~、ワタルは甘い」
剣を下ろして女エルフを砂浜に寝かせると、それを見た男のエルフがこちらに来ようとしている。
「変な事をしようとしたら斬るから」
……ワタルが凄く驚いた顔をしてる。これは脅しじゃない、ワタルにどう思われてもワタルやリオに危害を加えられるのは絶対に避けないといけない。
「はぁ、確認をするだけだ。こちらもナハトが倒された事で混乱している、そんな状態でナハトを倒した者を相手に戦闘を続行するつもりはない」
「フィオ、俺たちは少し離れよう、あっちは丸腰で来てくれてるんだから」
この上まだそんな事を言うの!?
「エルフは覚醒者と同じで能力を持ってる」
「別にそのままで構わない、あれだけ攻撃された後で警戒するのも理解できる、それに話をしたいならそちらも何もしないはずだろう?」
そっちが何もしない限りはワタルに従うけど、少しでも変な動きがあればこのエルフは斬って女の方を人質にして逃げる。
「ふぅ、怪我もないし気絶しているだけか…………まさかこいつが気絶させられる日が来るとはな…………どっちがやったんだ? やっぱり娘の方か?」
「ん」
「お前がやったのか!?」
ワタルの方を指差したら凄く驚いてる。ワタルは甘いだけでそんなに弱くない、クラーケンだって倒せるんだから、加減なんかしなかったらエルフの能力にだって勝てるはず。
「本当にお前がやったのか? 娘の方じゃなくてか?」
「あ~、気絶させたのは俺ですけど、フィオの不意打ちが無かったら絶対に無理でしたよ?」
そんな事わざわざ言わなくてもいいのに、脅威だと思い込ませて警戒させておけば無闇にこっちを攻撃する事も無くなるだろうから、ワタル達の安全が増す可能性があったのに…………。
「状況はどうでもいい、気絶させたのがどちらなのかが問題なんだ。そうか、お前か…………」
ワタルの言葉を聞いて男のエルフは黙り込んで何かを考え込んでる。ワタルは、なんで指差した!? みたいな顔をしてる。ワタルを脅威に思わせられれば、もし戦闘になってもワタルを恐れてワタルへの攻撃頻度が減ると思って指差したんだからそんな顔しないで。
「ふむ、確かに話をする必要が出来た様だ」
しばらく考え込んだ後にそう言った。上手く脅威だと思わせられた?
「さっき人攫いの連中とは違うと言っていたが、あれはどういう意味だ? ここへ来る人間は人攫い目的以外で来た事はないぞ」
「その人攫いの奴らが所属してる国の連中に追われる身になったんで密航して別の大陸に行こうと思ったんですけど、俺たち異界者も混じってるから警備が厳しくて普通の船に乗れなかったんですよ」
「それで人攫いの船に、というわけか、確かにお前は瞳が黒いな。なら話というのはこの土地での安全についてか?」
さっきまで殺し合いをしてたのに普通に話しをしてる。臆病なのか図太いのかよく分からない…………それでもワタルが必死なのだけは分かる。だから反対が出来ない。
「はい、そうです。俺とフィオと、船に残ってるのが一緒に逃げ出してきた仲間でこの六人の身の安全を約束して欲しいんです。俺たちは他者を奴隷にしたいって考えはないですし、危害を加えられないならそもそも戦うつもりもなかったんです」
「その割には先ほどの能力は一切の加減がされてなかった様だが? まぁ、それを止めようとしていたのも見てはいたが」
あんなのユウヤが勝手に出て来て勝手にやっただけ、あれが問題になるならあれだけ処理すればいい。
「あ~、あれはさっき覚醒者になったばかりみたいで、そもそも力の加減なんて分かってなかったんだと思います。すみません」
「…………ふふふ、あっはははははははは」
? ワタルは謝ったのに何で笑うの? 変な事は言ってない――事もないか、殺し合いをしてた相手に謝罪なんて変な事以外の何物でもない。
「いや、すまない、今まで来た人間とは敵対してきたし、たまに覚醒者も混じっていた事もあった。だから異界者であろうと人間は敵という認識だったんだが、それが素直に謝罪をしたものだから可笑しくてな! 話は分かった、だが俺が決められる事ではないから一度村に来て族長に会ってもらう」
「! はい! よろしくお願いします!」
話が進んだ……こんなやり方で上手くいくなんて思えなかったのに、ワタルは成功させた。流れは悪くないのに……なんだか、ズルい。私があれだけ警戒してたのが馬鹿馬鹿しくなる。運が良いだけなのか、ワタルが凄いのか……たぶん両方、じゃないと私がこんなに興味を持って惹かれるはずない。甘いし無茶苦茶だけど、ワタルと居ればこれからも色んな事を経験出来そう。ワタルとリオの二人が危険な目に遭うような事は無い方がいいけど…………。
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