303 / 469
番外編~フィオ・ソリチュード~
もやもや
しおりを挟む
女エルフと幾度も打ち合って剣戟が響く。刻もうと思っていたのに私の攻撃を全て防いで打ち返してさえ来る。速さは私の方が勝っているはずなのに…………。
降り注いでいた矢は、女エルフの邪魔するな、の一言で止まってる。矢の回避をしなくていいのは楽だけど、何を考えてるの?
「小娘のくせにそんな荷物を持ったまま私についてくるとは恐れ入る」
荷物なんかじゃないっ! ワタルを貶された事と、ワタルの安全を優先して少し動きが鈍っているのを指摘されたような気がして怒りが増した。荷物なんかじゃない、絶対に……そんな事思ってない! 大切だと、失くしたくないものだと確認するように握った手に力を込めた。
「何を見ている!」
っ!
「うおっ!?」
狙いを私からワタルに変えて打ち込んできたのをギリギリのところで防いだ。貶すだけじゃなく命まで狙った…………絶対に許さない。
「そんな何の役にも立たなそうなもの捨ててしまえ、私とまともに打ち合え!」
私がワタルの傍に居るのは役に立つからとかじゃない、大切なものを自分から進んで捨てるなんてするはずがない。ワタルが不安そうにしながら握った手を揺すってきた。大丈夫、絶対護る、放さない、絶対に放すもんか。
「ちょ――っ!」
女エルフがワタルへの攻撃を織り交ぜながら打ち込んでくるのを防ぎ躱しながら打ち込んでいく。絶対にワタルに攻撃なんて当てさせない、こんなの相手に大切な人を傷付けさせない。
「チッ、この小娘は狙わずに引っ付いてる男を射殺せ!」
「フィオ、放し――ぃいいいいいいい」
攻撃を躱して距離を取った瞬間、女エルフがそう命令を出した。
させない! 一気に距離を詰めて打ち込む。防がれた、でもこれは分かってた、ワタルを狙おうとして視線が逸れた刹那に後ろへ回り込んで斬り付ける。これも防いだ…………私の動きについてこれる相手が居るなんて思いもしなかった。
「こんな人間が居るとは驚きだな、この私が圧倒されている…………なら、これならどうだ!」
「っ!?」
女エルフが喋り終わる前にワタルを海に向かって投げて、狙いを定められない様に駆け回る。
「えぇえええええええええー!」
投げた直後にさっきまで居た場所に炎が激しく燃え盛る。危なかった、女エルフの視線がワタルと繋いだ手に向けられてたから、もし放さなかったら二人とも片手が使い物にならなくなっていたかもしれない。
っ! 私からワタルが離れた事で弓を構えていたエルフと獣人たちがワタルに向かって矢を放っている。ワタルは咳き込んでいて気付いてない。
「ワタル! 矢!」
「っ!? あ゛あ゛ぁぁぁあああ!」
ワタルは降り注ぐ矢に雷を放って撃ち落としてどうにか防いだ。
「って今度はなんだぁああああ」
そのワタルをすぐに拾いに行った。私がワタルの手を掴んで引っ張った瞬間にワタルの居た場所の海面が割れた。見えない斬撃を飛ばす奴だ。放したらダメ、でも傍に置き続けるのも危険、能力を使わないとか言ってたのに使い始めた。女エルフも能力を使ってくる事を考えて避けないと、ワタルを傷付けられてしまう。
「止まったらダメ、あいつの攻撃は見えない」
…………やっぱり敵の数を減らさないと、まだ能力を使ってるのが二体だけでこの状態、ワタル達の安全を考えるなら殺さずに、なんて言ってられない。
「ワタル、許可、能力無しなら私の方が強いけど、見えない攻撃も炎も厄介」
「駄目だ! 今はそれで凌げても後がもっと面倒になる」
「…………どうしても?」
考え込んで辛そうにしてる。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「無理を言ってるのは分かってるけど、どうしてもだ」
どれだけ言っても聞きそうにない。こんな状況なのに、ワタルは甘い……でも、そういうところも気に入ってる部分だから――。
「…………分かった、ならどうにかあいつの後ろに回り込むから気絶させて、炎と見えない攻撃、二つあると面倒」
まず見えない斬撃の方を潰して、それから女エルフ。これ以上能力を使い始めるのが増える前に頭を抑えてしまわないと。
「出来るのか?」
「ワタルがどうしてもって言った」
出来る出来ないじゃない、やるかやらないか。それに出来るはずがない事をやってみせてくれたのはワタル、だから私もやる。ワタルが居るなら何とかなる。
「ワタルは雷を地面にいっぱい撃って、砂煙に紛れて後ろを取る」
「フィオは見えなくても大丈夫なのか?」
「気配くらい読める」
そのくらい出来るに決まってる。
「分かった、あと電撃の閃光も使う、閃光で一時的に失明するだろうから撃つ前に握ってる手に力を込めるからその時だけ目を瞑れ」
閃光…………確かにクラーケンの時凄い光を放ってた。調節すればそんな事も出来るんだ。
「ん」
「じゃあ、反撃だ!」
ワタルが次々に雷を撃って砂を巻き上げて砂煙を作っていく。周囲が覆われる程に巻き上がったそれに突っ込み身を隠して敵との距離を詰める。
「目眩ましか、こんなもの!」
炎を使う気? 砂煙に包まれているのは他のエルフも同じなのに――。
「フィオ、砂煙から出ろ! すぐに」
っ!? よく分からないワタルの指示に従って砂煙から抜け出そうとしたら、少し離れた位置を炎が通過していった――っ!? 熱い、炎は当たっていないのに全身を焼かれているような感覚…………熱せられた砂が当たってるせいだ。
「あっつ!」
あんな場所に潜んでいる事なんて出来なくて瞬時に抜け出した。
「ワタル、閃光!」
絶対潰す。
「は、はい…………」
ワタルが強く手を握ったのに反応して目を瞑ると雷の大きな音が数度聞こえて、力が弱まって目を開くとエルフと獣人の動きが止まっていた。考えるなんて事をすることも無く体が勝手に動いて斬撃を飛ばしていたエルフの後ろを取っていた。
「っ! ワタル!」
「寝てろ!」
「がぁああああああああああああああ!」
ワタルがエルフの背中に手を押し当てた途端、エルフが叫び声をあげて白目をむいた。
「次」
視界を奪われて動きの止まっている女エルフとの間合いを詰める。これで終わらせ――。
「っ!? 人間ごときが調子に乗るな!」
っ! 回り込んで残りの距離を詰めようとした瞬間嫌な気配を感じて後ろへ跳んだら、進もうとしていた場所に爆炎が起こった。
「チッ、もうちょっとだったのに…………」
「うわっ!?」
女エルフが自分の周囲を爆炎で囲み始めた。近付かせないのと私たちの位置を探ってる。
「静かにして、声で気付かれる」
「あいつ無茶苦茶やってるな」
「違う、ちゃんと気配を探ってる」
はぁ~、閃光から逃れたのも居たみたいで、女エルフから私たちを引き離そうと矢を放ってきている。
「ワタル、矢」
「え? あ、もう、めんどくせぇ」
殆どをワタルに撃ち落としてもらって残りを私がワタルを連れて回避する。大した数じゃないけど、一々邪魔されるのは面倒…………ワタルにもう一度閃光を頼んで――。
「あれ? 全然違う方向にも飛んでるぞ」
「え? っ! リオ達が出て来てる」
なんで出てきたの!? リオ達は気付かれていなかったから船に攻撃が向けられる事も無く安全でいられたはずなのに。
「はぁ!?」
ワタルも船の方を見て唖然としてる。
「お~い! 航ー! 僕も覚醒者に成れたから手伝うよー!」
覚醒者? ユウヤが? コウヅキを入れれば覚醒者が三人、人間相手の戦いなら充分な戦力だけどエルフと獣人相手じゃどこまで役に立つか分からない。それに覚醒者に成りたてだと上手く能力を扱えないんじゃないの? 少なくともツチヤはそうだった。
「いらねぇー! なんで出てきたんだあのバカ! フィオ船に――」
「矢くらいなら大丈夫、紅月が燃やす」
そう、矢くらいなら……それでも何かの能力を向けられたら対処出来ない可能性が高い…………この状況で戦闘を続けても不利になる一方、ワタルとリオだけ連れてこの場を離れる方がいいかもしれない。
「なっ!?」
ワタルの声に反応して船の方を見ると、放たれていた矢が凍り付いて海へと落ちた。ユウヤの能力は氷?
「僕だって手伝えるよー! ほらー!」
『!?』
「はあ!?」
「っ!? ワタル、ここは危ない」
ユウヤが引き起こした現象に目を奪われてエルフと獣人が唖然として動きを止めている。この隙に船まで行ってリオを連れて逃げないと、こんなものを……空を埋め尽くす程の氷の槍を出現させるような能力なんて危険すぎる。
「ワタ――」
「こぉーづきー! 溶かせぇぇぇええええええ!」
ワタルがそう叫んで自分も空へ向かって雷を放った。さっきまでのとは全然違う太い雷を扇状に広げて広範囲の氷の槍を破壊しようとしている。破壊している範囲にエルフや獣人が居る場所も入っている……助けるの? 殺し合いをしていた相手なのに? こちらにその気が無くてもあっちは殺そうと何度も攻撃を仕掛けてきている、そんな相手を救うの? 自分の上空と船の上空だけで充分でしょ? あんなの放っておけば――。
「くそぉおおおおお! 溶けろぉおおおおお!」
そう思うのにワタルは必死に空を覆う氷の槍を破壊していく。
「っ!?」
傍から炎が噴き上がって、氷の槍が破壊される範囲が広がった。女エルフ……上に気を取られてた、もしあれをこっちに向けられていたら二人とも焼死していた。
「くっ!? うぅ…………」
コウヅキと女エルフの炎、ワタルの雷に覆われて氷の槍が破壊され尽くすかと思った瞬間、空から耳を劈く爆音が響き渡り、それと共に叩き付けられた爆風で吹き飛ばされた。その拍子にワタルの手を放してしまった。辺りは砂と煙が立ち込めていてかなり視界が悪い、敵にワタルが見つかる前に合流しないと。
「っぅ」
早く捜さないと、そう思って立ち上がったら額から紅いものが垂れてきて目に入った。血……自分の血なんか見たのは本当に久しぶりだ。飛ばされた時にどこかで切ったんだろう、そんな事よりワタルを――。
「フィオー、大丈夫かー?」
っ!? この状況で大声なんて上げたら敵にも自分の居場所を教えるようなものなのに――。
「この状況で暢気なものだな」
あっちだ、声のした方に駆けて行くと女エルフがワタルに向けて剣を振り下ろそうとしている所だった。させないっ! 大丈夫、まだ間に合う、私の方が速い。あの剣が振り下ろされる前に私の剣があの女に届く、ワタルを傷付けさせない。その為ならこんな奴斬り裂くっ!
「止めろ!」
っ!? ワタルがそう叫んだ。女エルフに向かってじゃない、眼前の敵じゃなくて、その後ろに居る私だけを見てる。なんで? 自分が殺されそうになっているのに、なんでそんな事言うのっ!
「命乞いか? そんなものは聞か――なっ!? あっぁぁぁあああああああああああああ!」
斬り捨てるつもりだった。それでもそんな私の気持ちを無視して身体は別の行動を取り始めて、身体を無理矢理捻って攻撃を回し蹴りに切り替え、女エルフをワタルに向けて蹴り飛ばした。自分の意思じゃなく急に間合いが詰まった事に動揺しているところへワタルが体当たりをしたら叫び声が上がって女エルフがぐったりとしてワタルに向かって倒れ掛かった。たぶん雷を使ったんだと思う、さっきまでの様子から考えて気絶させただけ、終わるには終わったけど釈然としない…………もやもやするぅ~っ!
降り注いでいた矢は、女エルフの邪魔するな、の一言で止まってる。矢の回避をしなくていいのは楽だけど、何を考えてるの?
「小娘のくせにそんな荷物を持ったまま私についてくるとは恐れ入る」
荷物なんかじゃないっ! ワタルを貶された事と、ワタルの安全を優先して少し動きが鈍っているのを指摘されたような気がして怒りが増した。荷物なんかじゃない、絶対に……そんな事思ってない! 大切だと、失くしたくないものだと確認するように握った手に力を込めた。
「何を見ている!」
っ!
「うおっ!?」
狙いを私からワタルに変えて打ち込んできたのをギリギリのところで防いだ。貶すだけじゃなく命まで狙った…………絶対に許さない。
「そんな何の役にも立たなそうなもの捨ててしまえ、私とまともに打ち合え!」
私がワタルの傍に居るのは役に立つからとかじゃない、大切なものを自分から進んで捨てるなんてするはずがない。ワタルが不安そうにしながら握った手を揺すってきた。大丈夫、絶対護る、放さない、絶対に放すもんか。
「ちょ――っ!」
女エルフがワタルへの攻撃を織り交ぜながら打ち込んでくるのを防ぎ躱しながら打ち込んでいく。絶対にワタルに攻撃なんて当てさせない、こんなの相手に大切な人を傷付けさせない。
「チッ、この小娘は狙わずに引っ付いてる男を射殺せ!」
「フィオ、放し――ぃいいいいいいい」
攻撃を躱して距離を取った瞬間、女エルフがそう命令を出した。
させない! 一気に距離を詰めて打ち込む。防がれた、でもこれは分かってた、ワタルを狙おうとして視線が逸れた刹那に後ろへ回り込んで斬り付ける。これも防いだ…………私の動きについてこれる相手が居るなんて思いもしなかった。
「こんな人間が居るとは驚きだな、この私が圧倒されている…………なら、これならどうだ!」
「っ!?」
女エルフが喋り終わる前にワタルを海に向かって投げて、狙いを定められない様に駆け回る。
「えぇえええええええええー!」
投げた直後にさっきまで居た場所に炎が激しく燃え盛る。危なかった、女エルフの視線がワタルと繋いだ手に向けられてたから、もし放さなかったら二人とも片手が使い物にならなくなっていたかもしれない。
っ! 私からワタルが離れた事で弓を構えていたエルフと獣人たちがワタルに向かって矢を放っている。ワタルは咳き込んでいて気付いてない。
「ワタル! 矢!」
「っ!? あ゛あ゛ぁぁぁあああ!」
ワタルは降り注ぐ矢に雷を放って撃ち落としてどうにか防いだ。
「って今度はなんだぁああああ」
そのワタルをすぐに拾いに行った。私がワタルの手を掴んで引っ張った瞬間にワタルの居た場所の海面が割れた。見えない斬撃を飛ばす奴だ。放したらダメ、でも傍に置き続けるのも危険、能力を使わないとか言ってたのに使い始めた。女エルフも能力を使ってくる事を考えて避けないと、ワタルを傷付けられてしまう。
「止まったらダメ、あいつの攻撃は見えない」
…………やっぱり敵の数を減らさないと、まだ能力を使ってるのが二体だけでこの状態、ワタル達の安全を考えるなら殺さずに、なんて言ってられない。
「ワタル、許可、能力無しなら私の方が強いけど、見えない攻撃も炎も厄介」
「駄目だ! 今はそれで凌げても後がもっと面倒になる」
「…………どうしても?」
考え込んで辛そうにしてる。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「無理を言ってるのは分かってるけど、どうしてもだ」
どれだけ言っても聞きそうにない。こんな状況なのに、ワタルは甘い……でも、そういうところも気に入ってる部分だから――。
「…………分かった、ならどうにかあいつの後ろに回り込むから気絶させて、炎と見えない攻撃、二つあると面倒」
まず見えない斬撃の方を潰して、それから女エルフ。これ以上能力を使い始めるのが増える前に頭を抑えてしまわないと。
「出来るのか?」
「ワタルがどうしてもって言った」
出来る出来ないじゃない、やるかやらないか。それに出来るはずがない事をやってみせてくれたのはワタル、だから私もやる。ワタルが居るなら何とかなる。
「ワタルは雷を地面にいっぱい撃って、砂煙に紛れて後ろを取る」
「フィオは見えなくても大丈夫なのか?」
「気配くらい読める」
そのくらい出来るに決まってる。
「分かった、あと電撃の閃光も使う、閃光で一時的に失明するだろうから撃つ前に握ってる手に力を込めるからその時だけ目を瞑れ」
閃光…………確かにクラーケンの時凄い光を放ってた。調節すればそんな事も出来るんだ。
「ん」
「じゃあ、反撃だ!」
ワタルが次々に雷を撃って砂を巻き上げて砂煙を作っていく。周囲が覆われる程に巻き上がったそれに突っ込み身を隠して敵との距離を詰める。
「目眩ましか、こんなもの!」
炎を使う気? 砂煙に包まれているのは他のエルフも同じなのに――。
「フィオ、砂煙から出ろ! すぐに」
っ!? よく分からないワタルの指示に従って砂煙から抜け出そうとしたら、少し離れた位置を炎が通過していった――っ!? 熱い、炎は当たっていないのに全身を焼かれているような感覚…………熱せられた砂が当たってるせいだ。
「あっつ!」
あんな場所に潜んでいる事なんて出来なくて瞬時に抜け出した。
「ワタル、閃光!」
絶対潰す。
「は、はい…………」
ワタルが強く手を握ったのに反応して目を瞑ると雷の大きな音が数度聞こえて、力が弱まって目を開くとエルフと獣人の動きが止まっていた。考えるなんて事をすることも無く体が勝手に動いて斬撃を飛ばしていたエルフの後ろを取っていた。
「っ! ワタル!」
「寝てろ!」
「がぁああああああああああああああ!」
ワタルがエルフの背中に手を押し当てた途端、エルフが叫び声をあげて白目をむいた。
「次」
視界を奪われて動きの止まっている女エルフとの間合いを詰める。これで終わらせ――。
「っ!? 人間ごときが調子に乗るな!」
っ! 回り込んで残りの距離を詰めようとした瞬間嫌な気配を感じて後ろへ跳んだら、進もうとしていた場所に爆炎が起こった。
「チッ、もうちょっとだったのに…………」
「うわっ!?」
女エルフが自分の周囲を爆炎で囲み始めた。近付かせないのと私たちの位置を探ってる。
「静かにして、声で気付かれる」
「あいつ無茶苦茶やってるな」
「違う、ちゃんと気配を探ってる」
はぁ~、閃光から逃れたのも居たみたいで、女エルフから私たちを引き離そうと矢を放ってきている。
「ワタル、矢」
「え? あ、もう、めんどくせぇ」
殆どをワタルに撃ち落としてもらって残りを私がワタルを連れて回避する。大した数じゃないけど、一々邪魔されるのは面倒…………ワタルにもう一度閃光を頼んで――。
「あれ? 全然違う方向にも飛んでるぞ」
「え? っ! リオ達が出て来てる」
なんで出てきたの!? リオ達は気付かれていなかったから船に攻撃が向けられる事も無く安全でいられたはずなのに。
「はぁ!?」
ワタルも船の方を見て唖然としてる。
「お~い! 航ー! 僕も覚醒者に成れたから手伝うよー!」
覚醒者? ユウヤが? コウヅキを入れれば覚醒者が三人、人間相手の戦いなら充分な戦力だけどエルフと獣人相手じゃどこまで役に立つか分からない。それに覚醒者に成りたてだと上手く能力を扱えないんじゃないの? 少なくともツチヤはそうだった。
「いらねぇー! なんで出てきたんだあのバカ! フィオ船に――」
「矢くらいなら大丈夫、紅月が燃やす」
そう、矢くらいなら……それでも何かの能力を向けられたら対処出来ない可能性が高い…………この状況で戦闘を続けても不利になる一方、ワタルとリオだけ連れてこの場を離れる方がいいかもしれない。
「なっ!?」
ワタルの声に反応して船の方を見ると、放たれていた矢が凍り付いて海へと落ちた。ユウヤの能力は氷?
「僕だって手伝えるよー! ほらー!」
『!?』
「はあ!?」
「っ!? ワタル、ここは危ない」
ユウヤが引き起こした現象に目を奪われてエルフと獣人が唖然として動きを止めている。この隙に船まで行ってリオを連れて逃げないと、こんなものを……空を埋め尽くす程の氷の槍を出現させるような能力なんて危険すぎる。
「ワタ――」
「こぉーづきー! 溶かせぇぇぇええええええ!」
ワタルがそう叫んで自分も空へ向かって雷を放った。さっきまでのとは全然違う太い雷を扇状に広げて広範囲の氷の槍を破壊しようとしている。破壊している範囲にエルフや獣人が居る場所も入っている……助けるの? 殺し合いをしていた相手なのに? こちらにその気が無くてもあっちは殺そうと何度も攻撃を仕掛けてきている、そんな相手を救うの? 自分の上空と船の上空だけで充分でしょ? あんなの放っておけば――。
「くそぉおおおおお! 溶けろぉおおおおお!」
そう思うのにワタルは必死に空を覆う氷の槍を破壊していく。
「っ!?」
傍から炎が噴き上がって、氷の槍が破壊される範囲が広がった。女エルフ……上に気を取られてた、もしあれをこっちに向けられていたら二人とも焼死していた。
「くっ!? うぅ…………」
コウヅキと女エルフの炎、ワタルの雷に覆われて氷の槍が破壊され尽くすかと思った瞬間、空から耳を劈く爆音が響き渡り、それと共に叩き付けられた爆風で吹き飛ばされた。その拍子にワタルの手を放してしまった。辺りは砂と煙が立ち込めていてかなり視界が悪い、敵にワタルが見つかる前に合流しないと。
「っぅ」
早く捜さないと、そう思って立ち上がったら額から紅いものが垂れてきて目に入った。血……自分の血なんか見たのは本当に久しぶりだ。飛ばされた時にどこかで切ったんだろう、そんな事よりワタルを――。
「フィオー、大丈夫かー?」
っ!? この状況で大声なんて上げたら敵にも自分の居場所を教えるようなものなのに――。
「この状況で暢気なものだな」
あっちだ、声のした方に駆けて行くと女エルフがワタルに向けて剣を振り下ろそうとしている所だった。させないっ! 大丈夫、まだ間に合う、私の方が速い。あの剣が振り下ろされる前に私の剣があの女に届く、ワタルを傷付けさせない。その為ならこんな奴斬り裂くっ!
「止めろ!」
っ!? ワタルがそう叫んだ。女エルフに向かってじゃない、眼前の敵じゃなくて、その後ろに居る私だけを見てる。なんで? 自分が殺されそうになっているのに、なんでそんな事言うのっ!
「命乞いか? そんなものは聞か――なっ!? あっぁぁぁあああああああああああああ!」
斬り捨てるつもりだった。それでもそんな私の気持ちを無視して身体は別の行動を取り始めて、身体を無理矢理捻って攻撃を回し蹴りに切り替え、女エルフをワタルに向けて蹴り飛ばした。自分の意思じゃなく急に間合いが詰まった事に動揺しているところへワタルが体当たりをしたら叫び声が上がって女エルフがぐったりとしてワタルに向かって倒れ掛かった。たぶん雷を使ったんだと思う、さっきまでの様子から考えて気絶させただけ、終わるには終わったけど釈然としない…………もやもやするぅ~っ!
0
お気に入りに追加
508
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる