黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

もやもや

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 女エルフと幾度も打ち合って剣戟が響く。刻もうと思っていたのに私の攻撃を全て防いで打ち返してさえ来る。速さは私の方が勝っているはずなのに…………。
 降り注いでいた矢は、女エルフの邪魔するな、の一言で止まってる。矢の回避をしなくていいのは楽だけど、何を考えてるの?
「小娘のくせにそんな荷物を持ったまま私についてくるとは恐れ入る」
 荷物なんかじゃないっ! ワタルを貶された事と、ワタルの安全を優先して少し動きが鈍っているのを指摘されたような気がして怒りが増した。荷物なんかじゃない、絶対に……そんな事思ってない! 大切だと、失くしたくないものだと確認するように握った手に力を込めた。

「何を見ている!」
 っ!
「うおっ!?」
 狙いを私からワタルに変えて打ち込んできたのをギリギリのところで防いだ。貶すだけじゃなく命まで狙った…………絶対に許さない。
「そんな何の役にも立たなそうなもの捨ててしまえ、私とまともに打ち合え!」
 私がワタルの傍に居るのは役に立つからとかじゃない、大切なものを自分から進んで捨てるなんてするはずがない。ワタルが不安そうにしながら握った手を揺すってきた。大丈夫、絶対護る、放さない、絶対に放すもんか。
「ちょ――っ!」
 女エルフがワタルへの攻撃を織り交ぜながら打ち込んでくるのを防ぎ躱しながら打ち込んでいく。絶対にワタルに攻撃なんて当てさせない、こんなの相手に大切な人を傷付けさせない。
「チッ、この小娘は狙わずに引っ付いてる男を射殺せ!」
「フィオ、放し――ぃいいいいいいい」
 攻撃を躱して距離を取った瞬間、女エルフがそう命令を出した。
 させない! 一気に距離を詰めて打ち込む。防がれた、でもこれは分かってた、ワタルを狙おうとして視線が逸れた刹那に後ろへ回り込んで斬り付ける。これも防いだ…………私の動きについてこれる相手が居るなんて思いもしなかった。
「こんな人間が居るとは驚きだな、この私が圧倒されている…………なら、これならどうだ!」
「っ!?」
 女エルフが喋り終わる前にワタルを海に向かって投げて、狙いを定められない様に駆け回る。
「えぇえええええええええー!」
 投げた直後にさっきまで居た場所に炎が激しく燃え盛る。危なかった、女エルフの視線がワタルと繋いだ手に向けられてたから、もし放さなかったら二人とも片手が使い物にならなくなっていたかもしれない。
 っ! 私からワタルが離れた事で弓を構えていたエルフと獣人たちがワタルに向かって矢を放っている。ワタルは咳き込んでいて気付いてない。
「ワタル! 矢!」
「っ!? あ゛あ゛ぁぁぁあああ!」
 ワタルは降り注ぐ矢に雷を放って撃ち落としてどうにか防いだ。
「って今度はなんだぁああああ」
 そのワタルをすぐに拾いに行った。私がワタルの手を掴んで引っ張った瞬間にワタルの居た場所の海面が割れた。見えない斬撃を飛ばす奴だ。放したらダメ、でも傍に置き続けるのも危険、能力を使わないとか言ってたのに使い始めた。女エルフも能力を使ってくる事を考えて避けないと、ワタルを傷付けられてしまう。
「止まったらダメ、あいつの攻撃は見えない」
 …………やっぱり敵の数を減らさないと、まだ能力を使ってるのが二体だけでこの状態、ワタル達の安全を考えるなら殺さずに、なんて言ってられない。
「ワタル、許可、能力無しなら私の方が強いけど、見えない攻撃も炎も厄介」
「駄目だ! 今はそれで凌げても後がもっと面倒になる」
「…………どうしても?」
 考え込んで辛そうにしてる。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「無理を言ってるのは分かってるけど、どうしてもだ」
 どれだけ言っても聞きそうにない。こんな状況なのに、ワタルは甘い……でも、そういうところも気に入ってる部分だから――。
「…………分かった、ならどうにかあいつの後ろに回り込むから気絶させて、炎と見えない攻撃、二つあると面倒」
 まず見えない斬撃の方を潰して、それから女エルフ。これ以上能力を使い始めるのが増える前に頭を抑えてしまわないと。
「出来るのか?」
「ワタルがどうしてもって言った」
 出来る出来ないじゃない、やるかやらないか。それに出来るはずがない事をやってみせてくれたのはワタル、だから私もやる。ワタルが居るなら何とかなる。
「ワタルは雷を地面にいっぱい撃って、砂煙に紛れて後ろを取る」
「フィオは見えなくても大丈夫なのか?」
「気配くらい読める」
 そのくらい出来るに決まってる。
「分かった、あと電撃の閃光も使う、閃光で一時的に失明するだろうから撃つ前に握ってる手に力を込めるからその時だけ目を瞑れ」
 閃光…………確かにクラーケンの時凄い光を放ってた。調節すればそんな事も出来るんだ。
「ん」
「じゃあ、反撃だ!」

 ワタルが次々に雷を撃って砂を巻き上げて砂煙を作っていく。周囲が覆われる程に巻き上がったそれに突っ込み身を隠して敵との距離を詰める。
「目眩ましか、こんなもの!」
 炎を使う気? 砂煙に包まれているのは他のエルフも同じなのに――。
「フィオ、砂煙から出ろ! すぐに」
 っ!? よく分からないワタルの指示に従って砂煙から抜け出そうとしたら、少し離れた位置を炎が通過していった――っ!? 熱い、炎は当たっていないのに全身を焼かれているような感覚…………熱せられた砂が当たってるせいだ。
「あっつ!」
 あんな場所に潜んでいる事なんて出来なくて瞬時に抜け出した。
「ワタル、閃光!」
 絶対潰す。
「は、はい…………」
 ワタルが強く手を握ったのに反応して目を瞑ると雷の大きな音が数度聞こえて、力が弱まって目を開くとエルフと獣人の動きが止まっていた。考えるなんて事をすることも無く体が勝手に動いて斬撃を飛ばしていたエルフの後ろを取っていた。
「っ! ワタル!」
「寝てろ!」
「がぁああああああああああああああ!」
 ワタルがエルフの背中に手を押し当てた途端、エルフが叫び声をあげて白目をむいた。
「次」
 視界を奪われて動きの止まっている女エルフとの間合いを詰める。これで終わらせ――。
「っ!? 人間ごときが調子に乗るな!」
 っ! 回り込んで残りの距離を詰めようとした瞬間嫌な気配を感じて後ろへ跳んだら、進もうとしていた場所に爆炎が起こった。
「チッ、もうちょっとだったのに…………」
「うわっ!?」
 女エルフが自分の周囲を爆炎で囲み始めた。近付かせないのと私たちの位置を探ってる。
「静かにして、声で気付かれる」
「あいつ無茶苦茶やってるな」
「違う、ちゃんと気配を探ってる」
 はぁ~、閃光から逃れたのも居たみたいで、女エルフから私たちを引き離そうと矢を放ってきている。
「ワタル、矢」
「え? あ、もう、めんどくせぇ」
 殆どをワタルに撃ち落としてもらって残りを私がワタルを連れて回避する。大した数じゃないけど、一々邪魔されるのは面倒…………ワタルにもう一度閃光を頼んで――。
「あれ? 全然違う方向にも飛んでるぞ」
「え? っ! リオ達が出て来てる」
 なんで出てきたの!? リオ達は気付かれていなかったから船に攻撃が向けられる事も無く安全でいられたはずなのに。
「はぁ!?」
 ワタルも船の方を見て唖然としてる。
「お~い! 航ー! 僕も覚醒者に成れたから手伝うよー!」
 覚醒者? ユウヤが? コウヅキを入れれば覚醒者が三人、人間相手の戦いなら充分な戦力だけどエルフと獣人相手じゃどこまで役に立つか分からない。それに覚醒者に成りたてだと上手く能力を扱えないんじゃないの? 少なくともツチヤはそうだった。
「いらねぇー! なんで出てきたんだあのバカ! フィオ船に――」
「矢くらいなら大丈夫、紅月が燃やす」
 そう、矢くらいなら……それでも何かの能力を向けられたら対処出来ない可能性が高い…………この状況で戦闘を続けても不利になる一方、ワタルとリオだけ連れてこの場を離れる方がいいかもしれない。

「なっ!?」
 ワタルの声に反応して船の方を見ると、放たれていた矢が凍り付いて海へと落ちた。ユウヤの能力は氷?
「僕だって手伝えるよー! ほらー!」
『!?』
「はあ!?」
「っ!? ワタル、ここは危ない」
 ユウヤが引き起こした現象に目を奪われてエルフと獣人が唖然として動きを止めている。この隙に船まで行ってリオを連れて逃げないと、こんなものを……空を埋め尽くす程の氷の槍を出現させるような能力なんて危険すぎる。
「ワタ――」
「こぉーづきー! 溶かせぇぇぇええええええ!」
 ワタルがそう叫んで自分も空へ向かって雷を放った。さっきまでのとは全然違う太い雷を扇状に広げて広範囲の氷の槍を破壊しようとしている。破壊している範囲にエルフや獣人が居る場所も入っている……助けるの? 殺し合いをしていた相手なのに? こちらにその気が無くてもあっちは殺そうと何度も攻撃を仕掛けてきている、そんな相手を救うの? 自分の上空と船の上空だけで充分でしょ? あんなの放っておけば――。
「くそぉおおおおお! 溶けろぉおおおおお!」
 そう思うのにワタルは必死に空を覆う氷の槍を破壊していく。
「っ!?」
 傍から炎が噴き上がって、氷の槍が破壊される範囲が広がった。女エルフ……上に気を取られてた、もしあれをこっちに向けられていたら二人とも焼死していた。

「くっ!? うぅ…………」
 コウヅキと女エルフの炎、ワタルの雷に覆われて氷の槍が破壊され尽くすかと思った瞬間、空から耳を劈く爆音が響き渡り、それと共に叩き付けられた爆風で吹き飛ばされた。その拍子にワタルの手を放してしまった。辺りは砂と煙が立ち込めていてかなり視界が悪い、敵にワタルが見つかる前に合流しないと。
「っぅ」
 早く捜さないと、そう思って立ち上がったら額から紅いものが垂れてきて目に入った。血……自分の血なんか見たのは本当に久しぶりだ。飛ばされた時にどこかで切ったんだろう、そんな事よりワタルを――。
「フィオー、大丈夫かー?」
 っ!? この状況で大声なんて上げたら敵にも自分の居場所を教えるようなものなのに――。
「この状況で暢気なものだな」
 あっちだ、声のした方に駆けて行くと女エルフがワタルに向けて剣を振り下ろそうとしている所だった。させないっ! 大丈夫、まだ間に合う、私の方が速い。あの剣が振り下ろされる前に私の剣があの女に届く、ワタルを傷付けさせない。その為ならこんな奴斬り裂くっ!
「止めろ!」
 っ!? ワタルがそう叫んだ。女エルフに向かってじゃない、眼前の敵じゃなくて、その後ろに居る私だけを見てる。なんで? 自分が殺されそうになっているのに、なんでそんな事言うのっ!
「命乞いか? そんなものは聞か――なっ!? あっぁぁぁあああああああああああああ!」
 斬り捨てるつもりだった。それでもそんな私の気持ちを無視して身体は別の行動を取り始めて、身体を無理矢理捻って攻撃を回し蹴りに切り替え、女エルフをワタルに向けて蹴り飛ばした。自分の意思じゃなく急に間合いが詰まった事に動揺しているところへワタルが体当たりをしたら叫び声が上がって女エルフがぐったりとしてワタルに向かって倒れ掛かった。たぶん雷を使ったんだと思う、さっきまでの様子から考えて気絶させただけ、終わるには終わったけど釈然としない…………もやもやするぅ~っ!
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