黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

絶対に三人で

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 寝転がっていたワタルが左腕の傷を押さえながら机を背もたれにして起き上がった。また、怪我してる…………私がもっと早く来られればあんな怪我させなかったのに、痛そうにしているワタルを見るともやもやが酷くなった。やっぱり斬ってしまいたい。
「ワタル! 大丈夫ですか? 早く手当しないと――」
 リオがワタルに駆け寄って行ってる……凄く揺れてる…………ヴァイス達が攫ってきた人間にはあんなに大きい人いなかった。同じ女なのに……なんでこんなに違うの? ぺたぺたと自分のを触ってみるけど、やっぱり全然違う。
「あ~まぁ、なんとか生きてるからだいじょう、ぶっ!?」
 リオの方を見たワタルの顔が真っ赤になった。
「何が大丈夫なんですか! さっきのはフィオちゃんが来てくれなかったらワタル死んでたんですよ! 助けに来てくれたのは嬉しいですけど、ワタルが死んじゃったら私は凄く辛いです。だから――ちょっと! ちゃんと聴いてるんですか?」
 リオがワタルを叱ってる。大事なものの為に無茶をするのは解かるようになったけど、ワタルは無茶をし過ぎる気がするからもっと叱っておいてほしい。
「り、リオ、その…………見えてる」
「見えてるって……きゃあぁぁぁあああ! わ、ワタル、見ないでください!」
 リオがワタルに抱き付いた。ズルい…………ズルい? どっちが? リオにぎゅっってされたいし私もワタルにしたい? ……ワタル達に会って、変わって、少し欲張りになった? さっきとは違う感じにもやもやする。
「うぇえ!? な、なんで抱き付く!?」
「こ、こうすれば見えなくなるじゃないですか!?」
 リオに抱き付かれたワタルの顔がさっきよりも更に赤くなった……でも、少しにやけてる? …………ワタルは大きいのが好き? どっちも大事って言ったのに、私の事忘れたみたいになってる。

「そういえばフィオ、俺の荷物見つかったか?」
 やっと思い出したみたいに私に声をかけてきた。
「見つけた、もうすぐ来る」
 はず、たぶん…………普通の異界者だから遅いだけだと思うけど、来てなかったら荷物を取りに行かな――。
「あの~、もう終わりましたか? さっき物凄い悲鳴が聞こえたんですけど」
 よかった、ちゃんと来てた…………よく考えたらワタルの大事な荷物を知らない異界者に預けてた。ワタル達が心配だったとはいえ、知らない相手に荷物を預けるなんて……持ち逃げされなくて本当によかった。
「誰? あいつ」
「知らない」
 知ってるのは異界者って事と紅い女と一緒に居た事くらい。
「その荷物にジャージが入ってるからこっちに投げてくれ! リオ、またジャージで悪いけど我慢してくれ」
「は、はぃ」
 荷物を持ってきたのは疲れた顔をしてる。そんなに重かった? ……やっぱり人間も普通の異界者も非力、連れて行くと足手纏いになる。
「それと、こっちを見ないように! 凄いものがあるから」
 やっぱりリオの胸の大きさは凄いんだ…………。
「凄いもの? …………うわぁぁぁあああ!? て、手が、人の手がぁ!?」
 千切れた腕くらいで騒ぐなんて、ワタルとリオは騒いでないのに……絶対に足手纏い、敵を倒す度にこんなに大騒ぎされたらめんどくさい。

「何騒いで――っ!? うわっ、グロっ! というかこんな状況であんたなに抱き合ってるのよ」
 私もそう思う。叱らないなら早くここから逃げた方がいい。
「うわぁ~、キモっ! グッロ~」
 肝? ぐろ? 知らない言葉、異界者の言葉? 今度ワタルに聞いてみよう。
「この部屋の惨状についての感想はいいから、早くジャージくれ、身動きとれん」
「あ、す、すいません。えっと、この白と黒のやつでいいですか?」
「あー、それそれ、投げてくれ。っと、ありがとう。俺たち部屋の外に居るから着替えてくれ」
 ワタルが部屋を出ようとしたらリオがワタルの手を掴んで引き留めている。
「なに? そいつなら気絶してるし、起きても片腕ないしで大した事出来ないから大丈夫――」
「ワタルはここに居てください」
 攫われた女たちはヴァイス達に裸を見られるのを嫌がってたけど、リオは見られても平気? それともワタルだから? ……私もワタルなら平気かもしれない。
「えーっと、え?」
 ワタルが凄く困った顔をしてる。ヴァイス達は裸を見たり犯したり色々したがってたけど、やっぱりワタルは違う。違うのはワタルしか知らないからワタルが変なんだろうけど、私はこっちの方がいい。
「居てください!」
「分かった、居るから早く着替えて」
「何してるの?」
 部屋の扉を閉めて、リオの着替えから顔を逸らしたワタルが剣にぶら下がった腕を睨みつけてる。
「何って、剣を取りたいんだけど腕が気持ち悪くて触れないんだよ!」
 なんだ、そんな事…………こんなのが気持ち悪いの? 私は港で見た虫の方が気持ち悪いと思うんだけど……普通はこれを気持ち悪がるの?
「こんなのこうすればいい、ふっ」
「うぎゃぁああああああ! 散った! なんか飛び散った! やるならやるって言えよ!」
「取ってあげたのに…………」
 出来ないって言うから取ってあげたのに、確かに少し血とかが飛んだけど、そんなに大騒ぎする事じゃない。蹴飛ばした腕は天井にぶつかって赤髪の男の顔に、手が顔を掴むみたいに乗ってる…………少し、面白い。
 刺さった剣が固くて抜けないって言うから剣を引き抜いたら今度はお礼を言われた。腕を飛ばした時は言わなかったのに……変なの。
 ? …………っ! リオが着替えている間に部屋を漁ってたら机の引き出しの奥に隠された金貨袋を見つけた。これ、私が持ってたやつ? …………袋は同じだと思うけど、中身が増えてる……持って行こう。

「着替え終わりました。フィオちゃん、他の部屋に薬とか包帯、傷の手当が出来るような物がありませんでしたか?」
「見てない」
 そうか、ワタル達が怪我してる可能性も考えて手当出来る物を探しておけばよかった。ここを出る前に少し探してみた方がいい。
「そうですか、なら探――」
「そんな悠長な事してる暇ないって、早くここから離れないと」
「なら、止血だけはさせてください」
 リオが自分の着ていた服を破いて包帯の代わりにしてワタルの腕に巻いてる。巻いた布にすぐに血が滲んできてる、傷薬探さないと。
「本当に応急処置なのでどこかでちゃんと手当しないと」
「あ~、まぁそれは追々――」
「もっと自分を大事にしてください! 分かってるんですか? さっき死ぬかもしれなかったんですよ! 私がどれだけ心配したと思ってるんですか!」
 また叱られてる。でも、ワタルの事大事だから自分の事も大事にして欲しいからリオの言う通り……なのに、ワタルは何か考えているみたいでぼーっとしてる。
「き、い、て、る、ん、で、す、か!」
「聴いてまひゅ」
 怒ったリオがワタルの頬を引っ張ってる。少し楽しそう、やってみたいけど、今は遊んでる時間は無い。
「逃げないの?」
「逃げるにげる、リオ、話なら後で聴くから、今はさっさとここを出よう」
「…………分かりました」
 分かったって言ってるけどリオの機嫌は悪いまま。
「にしても、どこに逃げればいいんだ? こいつらこの国の組織だろ? そんなのを滅茶苦茶にしたんだから確実に追手がかかったり、手配書とかが出回るんじゃないか?」
「国を出ればいい」
 たぶん、もうこれしか方法がない。私一人だけなら逃げ回る事も出来るし、山奥でも暮らしていけるかもしれないけど、リオは普通の人間、ワタルも雷を扱えても身体は普通の人間と変わらない。国を出るのも賭けだけど。
「出るって、その出る為の船に乗れないだろ…………にゃに?」
 何か考え込み始めたワタルの頬をリオがまた引っ張ってる。
「また私たちだけ逃がすとか考えてませんか?」
 っ!? それは駄目! 三人でって言ったの、嘘だったの? そんなの嫌、絶対に無理矢理でも連れて行く! 絶対に三人で逃げる。
「出るだけならたぶん潜り込める」
「いや無理だろ、他国に行く船は乗員も積み荷も細かく調べるって言われただろ」
「この近くの港にはそんな事せずに他の大陸に行く船がある、それにならたぶん乗れる。ただし、行けるのは北の大陸、人間が居ない土地」
 任務に失敗したり、役に立たない出来の悪い混ざり者の処分方法の一つに北の大陸に人攫いに行かせるものがあったはず、ここの収容所から一番近い港からその船が出てたはずだからそれに潜り込めばこの国を出る事は出来る。
「その船は何をしに行くんだ?」
「人攫い、エルフとか獣人を奴隷にしたがる王族とか貴族が居る」
 本気で攫って来れると思ってる人間なんて居なくて、ただの処分方法の一つでしかないけど。行くのは大抵弱い奴で、エルフも獣人も強い事は知られてるんだから期待なんて殆どされてない。当たればいい、程度の思いで矢を射っているようなもの。
「でもそんな船でも積み荷の確認くらいはするだろ? 本当に潜り込めるのか?」
「船底にある檻を積んだ部屋なんて出発前に確認しない、獲物が入ってないんだから」
「なら問題は俺たちがその港に着いた時にその船が居るかどうかだな、居なかったら、いくら潜り込める船だっていっても意味がない」
「それは運任せ」
 これが一番問題、最悪町の付近にしばらく潜伏しないといけないかもしれない。ん~、ワタルは運がいいからすぐに乗れるかもしれないけど。
「フィオって操船が出来たりは?」
「しない」
 海を見たのも初めてって言ったのに、船なんか操れるはずない。

「そろそろいい? 早くここを出ないと囲まれて面倒になるわよ」
 紅い女たちが部屋に入ってきた。面倒になる程に意識のある兵士は居ないと思うけど、それでも外で騒いでいるのが居るから早く出るに越したことはない。
「あ、ああ、うん。そういえばそっちは逃げる場所は決まってるのか?」
「決まってないわ、これだけの騒ぎを起こしたし、しばらくは山奥にでも行って野宿――」
 紅い女はともかく、普通の異界者を二人も連れた状態で逃げ切れるとは思えないけど――。
「ええー! 私野宿なんてもう絶対にしたくないんですけど、食べ物だってろくな物ないし――」
「元はと言えばあやのが捕まるからこんな面倒になったんでしょー、が!」
「いふぁい! いふぁい! ほっへひぎれる!」
 リオがワタルにしてたみたいに紅い女がもう一人の女の頬を引っ張ってるけど、リオがやってたのと違って全力でやってる…………もう一人の女は手をバタバタさせて鳥みたいになってる。
「このくらいじゃあ千切れないわよ」
 それでも千切るくらいのつもりでやってる様に見える。

「フィオ、船ってデカいのか?」
「たぶんそれなりに」
 一応成功した時の為に多めに檻を積んで行くって聞いた事があるから大丈夫だと思う。
「なぁ、俺たちは港に行って国外に出るつもりなんだけど、行く当てがないなら一緒に来ないか?」
「行きますいきます! 荷物持ちでもなんでもするんで僕も連れてってください。この国での日本人の扱い最悪なんで」
 連れて行くの? …………足手纏いなのに、やっぱりワタルは物好き。混ざり者の私にお菓子をくれたりお礼を言ったり…………そこが良いけど……合わせるのは大変、クラーケンの時みたいに失敗しないようにしないと。
「国外へって、あんた知らないの? 船に乗るには許可証が必要だし、チェックだって厳しいのよ?」
「それは知ってるけど、フィオがいうには、チェックが杜撰な船があるんだと、それなら潜り込める可能性がある」
「フィオってその銀髪の娘でしょ? さっきは助けられたけど、この世界の人間なんて信用できるの?」
 紅い女が私を睨みつけてくる。信じないなら来なきゃいい…………この世界の人間? その言い方は自分も異界者だ、って言ってるみたいで、違和感を感じる。
「お前だってこの世界の人間だろ? この国は酷い人間が多いけど、良い人もちゃんと居――」
「あたしはこの世界の人間じゃないわよ! 人を蔑んで奴隷扱いする様な奴らと一緒にしないで! あたしは日本人よ!」
 っ!? ニホンジン? 異界者は黒髪黒目、たまに黒じゃない髪のも居るけど、目は絶対に黒いはずなのに、黒じゃない異界者も居るの?
「ならその瞳の色はカラコン?」
 からこん? また知らない言葉、聞くことが増えた。
「違うわ、これは触れたものの色を変えられる人に変えてもらったの」
 前にワタルに言った能力…………言ったのは適当だったのに、本当にそんなの居るんだ…………。
「ならなんでそっちの娘は変えてもらってないんだ? 瞳の色が黒じゃなかったらこんな目に遭ってないだろ?」
「その人に会った時はまだあやのと出会ってなかったのよ」
「それでも――」
「それにあたしがあの人に出会った時にはあの人は死にかけてて、話なんかろくに出来なくて名前すら聞けないまま亡くなったわ、だからあの人に会って色を変えてもらうなんてのも無理よ」
 無理…………まだ居るならワタルとリオと同じ黒い髪になりたかったのに。
「あの、話が逸れてます。一先ずここを出た方が良いんじゃないですか? ワタルの手当だってちゃんとしたいし」
「あなたもこの世界の人よね? そんな人が指図しないで!」
 リオは間違った事言ってないのに……むかむかする。もうここには用は無いんだからすぐに出よう、紅い女を見ていたくない。
「私も早くここから出た方がいいと思う、その人たちは関係ないんだから放っておけばいい」
 そう言ってさっさと部屋を出た。
 早く逃げる準備をしないと、ワタルの手当てに使う薬と包帯、それと逃げる為の馬車、ワタルかリオ一人なら背負えるけど、二人は難しい。手を引っ張って走る方法もあるけど、たぶん二人は疲れるから馬車の方がいい。
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