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六章~目指す場所~
お仕置きとは
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「う~、あ~、暑い…………」
寝る前に腹に掛けてたタオルケットは剥がれて足元に追いやられてるし、寝る前は別室に寝床を作った事を文句言いつつも大人しく別室で寝たと思ったのに、案の定二人ともこっちに来てる。
「今何時……四時半か」
『きゅぅ~?』
お前も居たのか、通りで余計に暑いと思ったよ。でも丁度いいか、朝の涼しい内に墓掃除に行ってしまおう。暑い中汗びっしょりになりながら作業するのはどうしても怠く感じるし、それを考えるとこの時間に起きれたのは良かった。
持って行く物は箒と歯ブラシ、タオルと酒用のデカいペットボトルに入れた水、これくらいか? あぁ、線香と蝋燭もだ。花は……こんな時間じゃ店が開いてないから勘弁してもらおう。
う~ん、墓が山の中ってのは面倒だな。じいちゃん達の土地だから土地代が要らないのはいいんだけど、虫が多いし…………。
「うげぇ!?」
久々に来た墓は酷い事になっていた。重たい墓石で出来た花立が倒れて欠けている。草も生えまくってるし落ち葉なんかのゴミも凄い事になってる。花立を倒したのは鹿だろうな、供えてあった花を食べようとしてやらかしたんだろう。
「はぁ~、自分の無精のせいとはいえ、やる事多いな」
これって涼しい間に終わるんだろうか?
「お、終わった~…………」
結局涼しい間には終わらず、日が照り始めてからもやり続けたから汗でベタベタだ。風が吹くと集めた落ち葉が散らかるし、燃やしておくか。集めた落ち葉と抜いた雑草の山に火を付ける、草は燃えにくいけど落ち葉が多いおかげで燃え始めた。
「あっつ! なんで真夏に焚火してんだろ……」
まぁいいや、今の内に参って、ある程度燃えたら消火して帰ろ。風呂に入って着替えたい。
「ん? フィ――ぐへぇ!? いってぇえええ!」
何か音がしたと思って振り返ったらフィオが居て体当たりを食らわされた。不意打ちにグラついて石灯籠の角で頭をぶつけた。クソ痛い、刺さったんじゃないだろうな?
「いきなり何しやがる、危ないだろうが、酷いたんこぶが出来た!」
「ワタルが、悪い……勝手に居なくなった」
うっ、微妙に涙目……感情が出る様になったのは良いと思うけど、こういうのは困る。
「いや、二人とも寝てたから起こすのも悪いし、書置きしようにもヴァーンシアの文字は分からんし、日本語で書いても二人は読めんし、起きるまでには帰るつもりだったんだよ」
「見つけたーっ!」
「へ? うぎゃっ!?」
空から声がしたと思ったら俺の上にティナが降ってきた。お前らは一々俺にぶつからないと気が済まんのか?
「もう、起きたら居なくなってるから心配したのよ? 剣だって置いて行ってしまってるし。こんな場所で何をしてたの?」
「墓掃除、大分来てなかったから荒れ放題になってるのを掃除してたら時間が掛かって、二人が起きるまでに戻れなかった。えっと……心配掛けたのは、その、ごめん」
剣を置いてきたのは迂闊だった。今は能力が使えないんだから剣でしか魔物に対処出来ないのに、見知った土地に帰って来た事で気が抜けてた。
「お墓掃除、ここがワタルのお母様のお墓なの?」
「母さんの、っていうか、先祖の? じいちゃんとばあちゃんの遺骨も納めてあるし」
「そう……な、ら! 余計に連れて来てくれないと駄目じゃない! ちゃんとご挨拶出来ないでしょ!」
えぇ~、俺の個人的な用事だから二人に迷惑かけない様に気を遣ったのに、なんで怒られてんだ俺は。
「ええっと、昨日のぶつだん? の時と同じやり方でいいのかしら?」
「ああ、うん。でも、正座じゃなくてしゃがむだけでいいから」
「ほら、フィオもいつまでもワタルに抱き付いてないで」
「ん」
昨日と同じで凄い絵面だなぁ……これが洋風の墓だったらまた違ったんだろうけど…………そういえば、エルフって長寿だけど墓参りとかするのか?
「なぁティナ、エルフも墓参りとかってするの? 長寿だから墓とか無縁な感じがするんだけど」
「そうね、あまりする人は多くないかもしれないわね。そもそも知り合いが亡くなるって事が殆どないから、それでも獣人の友人のお墓や魔物との戦いで死んでいった者たちの墓標に祈りをささげる事はあるわ。年に一度慰霊祭も開かれるのよ」
へぇ~、意外、っていうのも失礼だけど、やっぱり意外だ。
「それにしても、ワタルを捜し回って跳び回ったから疲れたわ。暑いから汗も凄く掻いちゃったし」
「っ!? こんな所で服をはだけるな! 姫だろうが、はしたないぞ」
まったく、いきなり脱ぎだしたからかなりビビった。だんだんティナが姫であるという認識が薄れていく…………。
「なら早く帰りましょ、汗を流したいわ。フィオも走り回ってたから凄く汗掻いたんじゃない?」
「べたべた」
確かに、額に髪が張り付いてる。相当心配掛けたって事か…………。
「ごめんな」
「許さない、帰ったらお仕置き」
お仕置き!? 一体何する気だよ?
「本当にやるのか?」
「当然」
さいで…………お仕置きの内容は、この炎天下での戦闘訓練だった。場所は荒れ放題になっている田んぼがあるから充分な広さがあるけど……やらないといけないとは思ってた、思ってたけど、いざやるとなると、この暑さはしんどい。
「ワタルは危険感知能力は悪くない、でもどこか抜けてるから危ない目に遭う。だからそれを直して。私が全力でやるから全部避けて、出来たら終わり」
「出来なかったら?」
「出来るまでやる」
マジかよ……お前の全力を躱し続ける自信なんて無いんですけど? しかも炎天下、日射病になりそう…………。
「行く」
「ちょっ――くぅ!」
マジで全力だ。消えたと思ったら右に回り込まれてた。剣を抜くのが遅れてたらどこかをスパッっといかれてた。
「反応が悪い、もっと速く」
もっとって今のでもギリギリだったんだぞ!? なんでそんなに過大評価されてんの!? 俺なんてこの剣が無かったら今は能力も使えない、なんの戦力にもならない無能だぞ?
「っ!」
速過ぎて目で追うのは難しい、大体回り込んで攻撃してくるから、後は近くに来た時のなんとなくの気配で受けてるような状態だ。それで何とかなってるんだから危険感知はそれなりなのかもしれない。でもしんどい。
「少し良くなってきた。もっと速く、出来そうなら反撃もして」
「無茶言うな、防御だけで精一杯だ!」
「やらないと強くならない」
「うぇ!?」
ナイフでの一撃を受けただけなのに吹っ飛ばされた。
お前結構スパルタだな――っ!? 喋りながらも、もう後ろを取って来るし、しかもフェイントだったし! 左っ! 剣戟音が響き渡る。そういや、全部避けたら終わりって、攻撃はどうなったら終わりなんだ? 時間か? それともフィオの気分か?
「戦闘中に余計な事考えるのは駄目」
「っ!? がっ!」
正面の低い位置に現れたフィオが跳び上がりながら斬り上げてきたのを受けて、剣をかち上げられてしまった。ヤバっ、胴体がら空き――。
「集中して、殺し合いだったら死んでた。それに左手が空いてたんだからもう一本抜けば防御は出来た」
「そんな事言っても左は利き手じゃないんだ。そう上手くは動かせないって」
「慣れて、出来る事は多い方が良い」
ごもっとも、年下に怒られてる…………情けねぇ!
「ふぃ、フィオ~、もう、もう勘弁してくれぇ~」
墓から戻って来たのが昼前で、それからぶっ通しで訓練を続けて日暮れになっていた。夏の日暮れだから結構な時間だ。言われた通りに二刀流をやってみたけどやっぱり難しい、二刀流と言っても左手は短剣を逆手持ちにして攻撃を受け流す事のみに専念してた。それでもこちらの体勢を崩して何度も首元にナイフを当てられたり、吹っ飛ばされて転かされたり、改めて力量差を思い知らされて、自分の情けなさにへこむ。
「…………明日続きをする」
明日もか……当たり前か、訓練は続けないと意味が無いんだから。
「二人とも~、まだやるの~?」
「今日は終わり、でも夜の戦闘訓練もしておいた方がいいかもしれない」
マジか、明日は朝から夜遅くまでぶっ続けとかないだろうな? それは確実に死ねる、まだまだスタミナが足りてないんだ。そんなに長くは動き続けられない。
「うわ~、二人とも汗びっしょり、ワタルは泥も付いてるし」
何度か上ばかり気にし過ぎ、って足を払われて顔から思いっ切り転けたからな。
「早くお風呂に入ったら? 少し汗臭いわ」
「言われなくても入るよ。ベタベタして気持ち悪い」
「あー、生き返る~、ティナはもう風呂に入ったんだよな?」
エアコンの効いた部屋最高~。
「ええ……もしかして一緒に入りたかった?」
「違う」
はぁ、帰ってきてから風呂に入った後はずっとエアコンの効いた部屋に居たんだよな、羨ましい。
「んじゃフィオ、先に入ってこい」
「後でいい」
「お前だって汗掻いただろ? 俺の為に訓練してくれてたんだし、お前が先に入ってさっぱりしろよ」
「後でいい」
ん~? 汗掻いて不快じゃないんだろうか? まぁいいか、後でいいって言うなら先に入らせてもらおう。
「ふぁ~、さっぱりした~。風呂は良いよなぁ」
身体を洗い終わってのんびりと湯に浸かる。墓掃除から戻ってから休み無く訓練だったから、掻いた汗で服が張り付くのが不快で仕方なかった。それをようやく洗い流せた解放感といったらもう! 最高です。
「それにしてもハードだった」
戻ってきたのが昼前くらいで、仮に十二時だったとしても、さっき見た時間が十九時三十五分、ほぼ七時間炎天下で動きっぱなし……訓練は必要な事とはいえ、少しの休憩くらい欲しかった。
俺はバテバテなのに、フィオは大した事じゃないと言わんばかりにケロッとしていた。元々の地力が違うんだからしょうがないと言えばしょうがないのかもしれないが、やっぱり女の子に、それも年下に負けているという事実は結構悔しい。あのちっこい身体のどこにあれ程のスタミナとパワーがあるのか…………。
訓練で疲れたせいで湯に浸かっていると、うとうとしてくる。ダメだと思いつつも瞼を閉じて船を漕ぐ。少しくらいならいいかなぁ? あまりに上がるのが遅かったら起こしに来てくれるだろうし――そうガラガラ~って戸が開いて……? 戸が開いた!?
「ちょ、なに入ってきてんだ!? 上がるから少しだけ待ってろよ!」
瞼を開けるとすっぽんぽんのフィオが居た。染み一つない白い肌を恥じらう様子もなく晒している。そしてつるつる…………つるつる!? 本当に子供――。
「ぶっ! 何をする?」
浴槽のお湯を掬ってぶっ掛けられた。
「今、馬鹿にした」
「馬鹿にはしてない……と思うなぁ、たぶん」
凄いびっくりはしたけど…………。
「まぁとりあえず俺は上がるからそこを退いて――っ!? 見んなよ!」
「ヴァイス達より大きい」
そんな感想要らないよ! 慌てて隠したが遅かったらしい。もうどうでもいい、とにかく風呂場から出ないと――。
「放せよ?」
「ワタルの訓練で疲れたから洗って」
うっ……そりゃ俺の訓練に付き合ってもらった形だけど、絶対にお前は疲れてないだろ、今もそんな様子は全くないし、たぶん自分でやるのが面倒とかそんな理由だろ。
「前にも言ったけど、子供じゃないなら自分でやるもんだ。それとも子供って事でいいのか?」
「…………」
だから無言はやめろってば! じぃっとこっちを見てくる。見返すわけにもいかず横を向いて顔を逸らした。
「なら洗うのもお仕置き、だから洗って」
「駄目だ。あの時だけって言ったろ? いい加減自分でやるのに慣れろよ。出来る事は多い方が良いんだろ?」
「あーっ! やっぱり二人で入ってる。仲間外れにするなんて酷いじゃない」
「ティ――なっ!? なんでティナまで入ってきてんだ!」
「あらいいじゃない。いずれ夫婦になるんだから、それに嬉しいんじゃないの?」
こっちも白く透通った肌を恥ずかしげもなく見せつけてくる。服の上からでも大きいのは分かってたけど、生だと凄いな…………何見てんだ俺は。慌てて顔を逸らして壁を凝視する、あーダメだー。目の毒過ぎる。
「見ないの? それともワタルにとって私って魅力ない?」
「そんな事は――わっ!? ち、近付くな!」
いつの間にか浴槽に入って目の前に居た。
「あら立派」
「っっ!? ――ごっ!?」
近付いてきたティナに慌てて立ち上がって後退ろうとした。したけど後ろは壁なわけで、思いっ切り後頭部を打ち付けた。倒れ込んで柔らかいものが顔に当たったあたりで気を失った。
寝る前に腹に掛けてたタオルケットは剥がれて足元に追いやられてるし、寝る前は別室に寝床を作った事を文句言いつつも大人しく別室で寝たと思ったのに、案の定二人ともこっちに来てる。
「今何時……四時半か」
『きゅぅ~?』
お前も居たのか、通りで余計に暑いと思ったよ。でも丁度いいか、朝の涼しい内に墓掃除に行ってしまおう。暑い中汗びっしょりになりながら作業するのはどうしても怠く感じるし、それを考えるとこの時間に起きれたのは良かった。
持って行く物は箒と歯ブラシ、タオルと酒用のデカいペットボトルに入れた水、これくらいか? あぁ、線香と蝋燭もだ。花は……こんな時間じゃ店が開いてないから勘弁してもらおう。
う~ん、墓が山の中ってのは面倒だな。じいちゃん達の土地だから土地代が要らないのはいいんだけど、虫が多いし…………。
「うげぇ!?」
久々に来た墓は酷い事になっていた。重たい墓石で出来た花立が倒れて欠けている。草も生えまくってるし落ち葉なんかのゴミも凄い事になってる。花立を倒したのは鹿だろうな、供えてあった花を食べようとしてやらかしたんだろう。
「はぁ~、自分の無精のせいとはいえ、やる事多いな」
これって涼しい間に終わるんだろうか?
「お、終わった~…………」
結局涼しい間には終わらず、日が照り始めてからもやり続けたから汗でベタベタだ。風が吹くと集めた落ち葉が散らかるし、燃やしておくか。集めた落ち葉と抜いた雑草の山に火を付ける、草は燃えにくいけど落ち葉が多いおかげで燃え始めた。
「あっつ! なんで真夏に焚火してんだろ……」
まぁいいや、今の内に参って、ある程度燃えたら消火して帰ろ。風呂に入って着替えたい。
「ん? フィ――ぐへぇ!? いってぇえええ!」
何か音がしたと思って振り返ったらフィオが居て体当たりを食らわされた。不意打ちにグラついて石灯籠の角で頭をぶつけた。クソ痛い、刺さったんじゃないだろうな?
「いきなり何しやがる、危ないだろうが、酷いたんこぶが出来た!」
「ワタルが、悪い……勝手に居なくなった」
うっ、微妙に涙目……感情が出る様になったのは良いと思うけど、こういうのは困る。
「いや、二人とも寝てたから起こすのも悪いし、書置きしようにもヴァーンシアの文字は分からんし、日本語で書いても二人は読めんし、起きるまでには帰るつもりだったんだよ」
「見つけたーっ!」
「へ? うぎゃっ!?」
空から声がしたと思ったら俺の上にティナが降ってきた。お前らは一々俺にぶつからないと気が済まんのか?
「もう、起きたら居なくなってるから心配したのよ? 剣だって置いて行ってしまってるし。こんな場所で何をしてたの?」
「墓掃除、大分来てなかったから荒れ放題になってるのを掃除してたら時間が掛かって、二人が起きるまでに戻れなかった。えっと……心配掛けたのは、その、ごめん」
剣を置いてきたのは迂闊だった。今は能力が使えないんだから剣でしか魔物に対処出来ないのに、見知った土地に帰って来た事で気が抜けてた。
「お墓掃除、ここがワタルのお母様のお墓なの?」
「母さんの、っていうか、先祖の? じいちゃんとばあちゃんの遺骨も納めてあるし」
「そう……な、ら! 余計に連れて来てくれないと駄目じゃない! ちゃんとご挨拶出来ないでしょ!」
えぇ~、俺の個人的な用事だから二人に迷惑かけない様に気を遣ったのに、なんで怒られてんだ俺は。
「ええっと、昨日のぶつだん? の時と同じやり方でいいのかしら?」
「ああ、うん。でも、正座じゃなくてしゃがむだけでいいから」
「ほら、フィオもいつまでもワタルに抱き付いてないで」
「ん」
昨日と同じで凄い絵面だなぁ……これが洋風の墓だったらまた違ったんだろうけど…………そういえば、エルフって長寿だけど墓参りとかするのか?
「なぁティナ、エルフも墓参りとかってするの? 長寿だから墓とか無縁な感じがするんだけど」
「そうね、あまりする人は多くないかもしれないわね。そもそも知り合いが亡くなるって事が殆どないから、それでも獣人の友人のお墓や魔物との戦いで死んでいった者たちの墓標に祈りをささげる事はあるわ。年に一度慰霊祭も開かれるのよ」
へぇ~、意外、っていうのも失礼だけど、やっぱり意外だ。
「それにしても、ワタルを捜し回って跳び回ったから疲れたわ。暑いから汗も凄く掻いちゃったし」
「っ!? こんな所で服をはだけるな! 姫だろうが、はしたないぞ」
まったく、いきなり脱ぎだしたからかなりビビった。だんだんティナが姫であるという認識が薄れていく…………。
「なら早く帰りましょ、汗を流したいわ。フィオも走り回ってたから凄く汗掻いたんじゃない?」
「べたべた」
確かに、額に髪が張り付いてる。相当心配掛けたって事か…………。
「ごめんな」
「許さない、帰ったらお仕置き」
お仕置き!? 一体何する気だよ?
「本当にやるのか?」
「当然」
さいで…………お仕置きの内容は、この炎天下での戦闘訓練だった。場所は荒れ放題になっている田んぼがあるから充分な広さがあるけど……やらないといけないとは思ってた、思ってたけど、いざやるとなると、この暑さはしんどい。
「ワタルは危険感知能力は悪くない、でもどこか抜けてるから危ない目に遭う。だからそれを直して。私が全力でやるから全部避けて、出来たら終わり」
「出来なかったら?」
「出来るまでやる」
マジかよ……お前の全力を躱し続ける自信なんて無いんですけど? しかも炎天下、日射病になりそう…………。
「行く」
「ちょっ――くぅ!」
マジで全力だ。消えたと思ったら右に回り込まれてた。剣を抜くのが遅れてたらどこかをスパッっといかれてた。
「反応が悪い、もっと速く」
もっとって今のでもギリギリだったんだぞ!? なんでそんなに過大評価されてんの!? 俺なんてこの剣が無かったら今は能力も使えない、なんの戦力にもならない無能だぞ?
「っ!」
速過ぎて目で追うのは難しい、大体回り込んで攻撃してくるから、後は近くに来た時のなんとなくの気配で受けてるような状態だ。それで何とかなってるんだから危険感知はそれなりなのかもしれない。でもしんどい。
「少し良くなってきた。もっと速く、出来そうなら反撃もして」
「無茶言うな、防御だけで精一杯だ!」
「やらないと強くならない」
「うぇ!?」
ナイフでの一撃を受けただけなのに吹っ飛ばされた。
お前結構スパルタだな――っ!? 喋りながらも、もう後ろを取って来るし、しかもフェイントだったし! 左っ! 剣戟音が響き渡る。そういや、全部避けたら終わりって、攻撃はどうなったら終わりなんだ? 時間か? それともフィオの気分か?
「戦闘中に余計な事考えるのは駄目」
「っ!? がっ!」
正面の低い位置に現れたフィオが跳び上がりながら斬り上げてきたのを受けて、剣をかち上げられてしまった。ヤバっ、胴体がら空き――。
「集中して、殺し合いだったら死んでた。それに左手が空いてたんだからもう一本抜けば防御は出来た」
「そんな事言っても左は利き手じゃないんだ。そう上手くは動かせないって」
「慣れて、出来る事は多い方が良い」
ごもっとも、年下に怒られてる…………情けねぇ!
「ふぃ、フィオ~、もう、もう勘弁してくれぇ~」
墓から戻って来たのが昼前で、それからぶっ通しで訓練を続けて日暮れになっていた。夏の日暮れだから結構な時間だ。言われた通りに二刀流をやってみたけどやっぱり難しい、二刀流と言っても左手は短剣を逆手持ちにして攻撃を受け流す事のみに専念してた。それでもこちらの体勢を崩して何度も首元にナイフを当てられたり、吹っ飛ばされて転かされたり、改めて力量差を思い知らされて、自分の情けなさにへこむ。
「…………明日続きをする」
明日もか……当たり前か、訓練は続けないと意味が無いんだから。
「二人とも~、まだやるの~?」
「今日は終わり、でも夜の戦闘訓練もしておいた方がいいかもしれない」
マジか、明日は朝から夜遅くまでぶっ続けとかないだろうな? それは確実に死ねる、まだまだスタミナが足りてないんだ。そんなに長くは動き続けられない。
「うわ~、二人とも汗びっしょり、ワタルは泥も付いてるし」
何度か上ばかり気にし過ぎ、って足を払われて顔から思いっ切り転けたからな。
「早くお風呂に入ったら? 少し汗臭いわ」
「言われなくても入るよ。ベタベタして気持ち悪い」
「あー、生き返る~、ティナはもう風呂に入ったんだよな?」
エアコンの効いた部屋最高~。
「ええ……もしかして一緒に入りたかった?」
「違う」
はぁ、帰ってきてから風呂に入った後はずっとエアコンの効いた部屋に居たんだよな、羨ましい。
「んじゃフィオ、先に入ってこい」
「後でいい」
「お前だって汗掻いただろ? 俺の為に訓練してくれてたんだし、お前が先に入ってさっぱりしろよ」
「後でいい」
ん~? 汗掻いて不快じゃないんだろうか? まぁいいか、後でいいって言うなら先に入らせてもらおう。
「ふぁ~、さっぱりした~。風呂は良いよなぁ」
身体を洗い終わってのんびりと湯に浸かる。墓掃除から戻ってから休み無く訓練だったから、掻いた汗で服が張り付くのが不快で仕方なかった。それをようやく洗い流せた解放感といったらもう! 最高です。
「それにしてもハードだった」
戻ってきたのが昼前くらいで、仮に十二時だったとしても、さっき見た時間が十九時三十五分、ほぼ七時間炎天下で動きっぱなし……訓練は必要な事とはいえ、少しの休憩くらい欲しかった。
俺はバテバテなのに、フィオは大した事じゃないと言わんばかりにケロッとしていた。元々の地力が違うんだからしょうがないと言えばしょうがないのかもしれないが、やっぱり女の子に、それも年下に負けているという事実は結構悔しい。あのちっこい身体のどこにあれ程のスタミナとパワーがあるのか…………。
訓練で疲れたせいで湯に浸かっていると、うとうとしてくる。ダメだと思いつつも瞼を閉じて船を漕ぐ。少しくらいならいいかなぁ? あまりに上がるのが遅かったら起こしに来てくれるだろうし――そうガラガラ~って戸が開いて……? 戸が開いた!?
「ちょ、なに入ってきてんだ!? 上がるから少しだけ待ってろよ!」
瞼を開けるとすっぽんぽんのフィオが居た。染み一つない白い肌を恥じらう様子もなく晒している。そしてつるつる…………つるつる!? 本当に子供――。
「ぶっ! 何をする?」
浴槽のお湯を掬ってぶっ掛けられた。
「今、馬鹿にした」
「馬鹿にはしてない……と思うなぁ、たぶん」
凄いびっくりはしたけど…………。
「まぁとりあえず俺は上がるからそこを退いて――っ!? 見んなよ!」
「ヴァイス達より大きい」
そんな感想要らないよ! 慌てて隠したが遅かったらしい。もうどうでもいい、とにかく風呂場から出ないと――。
「放せよ?」
「ワタルの訓練で疲れたから洗って」
うっ……そりゃ俺の訓練に付き合ってもらった形だけど、絶対にお前は疲れてないだろ、今もそんな様子は全くないし、たぶん自分でやるのが面倒とかそんな理由だろ。
「前にも言ったけど、子供じゃないなら自分でやるもんだ。それとも子供って事でいいのか?」
「…………」
だから無言はやめろってば! じぃっとこっちを見てくる。見返すわけにもいかず横を向いて顔を逸らした。
「なら洗うのもお仕置き、だから洗って」
「駄目だ。あの時だけって言ったろ? いい加減自分でやるのに慣れろよ。出来る事は多い方が良いんだろ?」
「あーっ! やっぱり二人で入ってる。仲間外れにするなんて酷いじゃない」
「ティ――なっ!? なんでティナまで入ってきてんだ!」
「あらいいじゃない。いずれ夫婦になるんだから、それに嬉しいんじゃないの?」
こっちも白く透通った肌を恥ずかしげもなく見せつけてくる。服の上からでも大きいのは分かってたけど、生だと凄いな…………何見てんだ俺は。慌てて顔を逸らして壁を凝視する、あーダメだー。目の毒過ぎる。
「見ないの? それともワタルにとって私って魅力ない?」
「そんな事は――わっ!? ち、近付くな!」
いつの間にか浴槽に入って目の前に居た。
「あら立派」
「っっ!? ――ごっ!?」
近付いてきたティナに慌てて立ち上がって後退ろうとした。したけど後ろは壁なわけで、思いっ切り後頭部を打ち付けた。倒れ込んで柔らかいものが顔に当たったあたりで気を失った。
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