黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

私の家族

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 リオの時もそうだったけど、誰かと並んで町を歩くのは不思議な感じがする。嫌じゃないけど、落ち着かない。人間にとってはこれは普通の感覚なの?
 ? …………ここ、港、リオの居るお店に行くんじゃなかったの?
「ワタル、ここ港だけど?」
「ああ、そうだな…………なぁフィオ」
「なに?」
「お前道知らない?」
「知らない」
 前に行った時はリオに付いて行っただけだから道を覚える気なんてなかった。
「なぁフィオ、お前力、腕力も強いのか?」
 港をウロウロし始めたと思ったらこの質問……食事はどうするの?
「強い」
「どのくらい?」
「ワタルをあの辺りに投げ飛ばせるくらい」
 海の遠くの方を指差したら何か考え込んでる。何か困らせる様な事を言った?

「ひっ!」
 今ワタルの足元を変なのが通り過ぎていった。脚がいっぱいあって気持ち悪い。早くここを離れたい。
「ワタル、いつまで港をウロウロするの?」
「あ、ああ、店探さないと――っ!? ぎぃゃぁああああああああああ! キモいキモいキモいキモいぃいいい! フィオ! これ取ってくれ! 取ってくれぇ!」
 さっきの変なのがワタルの脚を這ってる。覚醒者になったのにあれくらいでこんなに大騒ぎ…………情けない、やっぱり私が付いていて護らないと駄目。
「私気持ちの悪いの嫌い。自分の雷でどうにかすれば?」
 でも私もあれは触りたくない。
「フィオ、人が見てるから使えない、お前のナイフでサクッっとやってぇえええええええええええ! いやぁあああああああああああ! 来んな! 上がって来んなぁあああああ!」
 ナイフ……素手じゃなくても変なのでナイフが汚れるのも嫌なのに。
「止まって、狙えない」
 変な虫を怖がって脚を振り回してるから狙いが付けられない、脚に当てたら怪我させちゃうし。
「早く! 早くどうにかしてくれ!」
「ふっ!」
 ナイフで叩いて海に飛ばして落としたけど、叩いた時に少し潰れて変な液が付いた…………汚い。
「た、助かったぁ」
 よっぽど怖かったみたいで、虫が居なくなったのに安心して座り込んだ。
「ワタルも剣四本も持ってるんだから自分でやればよかったのに」
「とにかく助かった、ありがとう」
「…………うん」
 またお礼……リオも言ってくれるけど、言われた時の感覚にはまだ慣れない。嫌な感じじゃない、ぽかぽかして温かい、でもむずむずして落ち着かなくなる。ワタル達と一緒に居たら色んな事があって退屈してる暇がない。すごく楽しい。

「おい、お前ら」
 髭面の男が近付いてきた。せっかく楽しくて嬉しかったのに、邪魔しないでほしい。
「ん?」
「おお! なんだやっぱり昨日のフード被ったヘタレの兄ちゃんか、なにを大騒ぎしてたんだ?」
「虫を怖がってた」
「は? …………くっふっ、あっははははははは! なんだお前ゲジメがダメなのか」
「あんな気持ちの悪いの嫌に決まってるじゃないですか」
 気持ち悪かったけどワタルは騒ぎすぎ、少し面白かったけど……。
「あの、昨日聞いた店の場所もう一度教えてもらえませんか?」
「ああ? もしかして迷子か?」
「そう」
 全然お店に行こうとしないし、さっき私に道を聞いたから迷子であってる。
「ぷっ、くっくっくくはっははははは! 嬢ちゃんも大変だなぁ! こんな情けない兄貴が居ると、よし! 嬢ちゃんが可哀想だから俺が店まで案内してやるよ」
 兄貴…………? ワタルが?
「アリガトウゴザイマス…………どうした? 行くぞ、フィオ」
「…………兄貴、私とワタルは兄弟に見えるの?」
「さぁな、おっさんにはそう見えたんじゃないか?」
「兄弟…………家族…………」
 私の、家族…………ワタルとリオは大事、その大事な人が家族? 他の人にはそう見える? …………凄く、嬉しい。私の、初めての家族。
「おーい! どうしたー! 置いてっちまうぞ!」
「フィオ行くぞ、置いて行かれたら昼飯抜きになる」
「うん」

 やっと着いた。宿からあんまり離れてない場所……ワタルは昨日行ってたならなんで分からなかったの? 私も覚えてなかったけど、私が来たのは少し前、一日前に来た場所なら忘れたりしない。
「ほらよ、着いたぜ。嬢ちゃん、情けない兄貴にしっかり食わせてもらえよ。それとお前、兄貴ならもっとしっかりしてやれ! もう迷うなよ! じゃあな!」
 情けないところもあるけど、ワタルは他の人間が出来ない、って諦めるような事をやった。それに、私の家族を他人にそんな風に言われたくない。
「ありがとうございました。やっと着いた、さっさと入ろう」
 あんなのにもお礼言ってる。なんだか、腑に落ちない。
「ん」

「いらっしゃいませ~、ってワタル!」
『あ゛あ゛?』
 店員がワタルを呼んだら店中の客が声を上げてワタルを睨んできた。嫌な感じ、ワタルが異界者だってバレた? …………昨日気付かれてたのなら宿に兵士が来てるはず、バレたんじゃないならなんでこんなに睨まれてるの?
「おい、小僧、てめぇ、リオちゃんとはオ・ト・モ・ダ・チなんだよなぁ? なのにてめぇ酔ったリオちゃんに何しやがった!?」
 っ!?
「あ゛ぁん? なんだ嬢ちゃん、今忙しいんだ。後にしてくれ」
「うわっ! やめろフィオ、ステイ!」
 ワタルの服を掴んで持ち上げている男を退けようとしたら変な事を言われた。
「? ステイってなに?」
「大人しくじっとしてろって事だ」
「でも――」
「でもじゃない、約束したろ」
 …………でも、見てるとむかむかする。約束したけど、これは我慢したくないのに。
「てめぇ! リオちゃんだけじゃなくこんな小さい娘にまで手ぇ出してんじゃねぇだろうな?」
 小さくないっ! それにワタルは他の男と違ってそんな事しない。
「あの~、そもそもリオにも何もしてませんけど?」
「あ゛あ゛? なら今日のリオちゃんの態度をどう説明するんだ!? いつもは真面目で働き者なのに、今日に限って声を掛けてもぼーっとして上の空だったり、顔を赤らめて身もだえしてたり! 昨日お前が送って行ったんだよなぁ? 原因はてめぇしか考えられないよなぁ?」
「いや、俺は本当になにも、なぁ? フィオ」
「三人で一緒に寝ただけ」
『なにぃいいいいいいいいいいいいい』
 なんで一緒に寝ただけでこんなに騒ぐの? ワタルとは初めてだったけど、リオとはいつも一緒に寝てる……一緒に寝るのは変?
「なにが何もしてないだ! 二人もいっぺんに手ぇ出してんじゃないか! なんて羨ま――最低な奴だ! よくも女を酔わせて手ぇ出すなんて卑劣な事を!」
「ぐぅう」
 ワタルを締め上げてる……動きたいけど、じっとしてろって言われた…………うぅ~、あんな約束するんじゃなかった。助けたいのに助けられない。
「ほほ~、昨日リオちゃんがべったりだったから、もしかしたら~って思ってたけど、まさか二人いっぺんなんてね~。ワタルってば好色漢? 私もそのうち仲間に入っちゃったりして?」
 こうしょくかんってなに?
「ん? お前――」
 っ! 持ち上げられてるからワタルの目が見られ――っ!? 何かが割れる音がして、それにびっくりして男がワタルを放した。
「っと、苦しかった~」
「あの、ごめんなさ――あ」
 音の原因はリオ……力ずくじゃなくてもワタルを助けた。ワタルを見たらびっくりしてお店の奥に逃げた? んん? ワタルを助ける為にやったんじゃないの?
「あ~、俺を問い詰めるよりメアがリオに話を聞いて来た方が早いんじゃ?」
「ん~聞いたんだけどねぇ~、顔を赤くするだけで答えてくれないんだよね。ワタル一体どんな凄い事したの?」
 凄い事? 一緒に寝るのが凄い事なの?
『…………詳しく聞かせてもらおうか』
 男が集まってきた。鬱陶しい。
「ワタル、いつまで待てばいいの? お腹空いた」
「ああ、そうだな。俺たち食事に来たんだけど?」
「おお~まいどあり~! 昨日勝ったからワタルの注文はおじさん達が奢ってくれるよ~。奥の席へどうぞ~」
 勝った? 昨日何かしたの? …………それで男たちが怒ってる?
「ちょ、ま! 待ってくれ、待ってくれよメアちゃん、奢るって言ったのは昨日の分だけだぜ? それにリオちゃんとこんな小さい娘に手ぇ出した変質者に奢るなんて俺たちゃぁ嫌だぜ!」
「でも昨日ワタルが勝った時の条件が『この店での飲み食いを奢ってやる』で、昨日のだけとは言わなかったよね? それにリオちゃんとの事も認めるって言ってたような~? もしかして海の男に二言があるの?」
「いや! それは…………」
 あんなに騒いでたのに、店員が喋ったら大人しくなった。こんな事が出来るなら最初からやってくれればよかったのに、そうすれば私もむかむかしなかった。
「まぁワタルは大食漢じゃないみたいだし、みんなで割れば大した額じゃないでしょ?」
「そりゃそうだが…………」
 騒がないけどまだ睨んできてる……鬱陶しい。

「なぁメア、船長は来てないの?」
「ワタルが来る少し前まで居たよ。用事があったの?」
「うん、乗船の事でちょっと」
 乗船? もう船に乗る手配をしてたの? 本当に他の国に行って異世界に行く方法を探す気なんだ。ワタルと一緒に居たら面白い事がいっぱい起こりそう。
「そっか、また夜には来ると思うからそれまではリオちゃんが働いてるのでも眺めてたら?」
 働いてるリオ、近くでちゃんと見るのは初めて…………なのに店の奥から出てこない。さっきワタルから逃げるみたいにお店の奥に行ったし……なんで?
「まぁなんにせよ、とりあえずご注文をどうぞ!」
「昨日と同じので、魚は抜き」
「あれ? メデシロ美味しくなかった?」
「あんまりお腹空いてないから…………フィオはどうするんだ?」
「ワタルと同じのでいい」
 どうせ食べるなら同じのがいい。
「エリカバーのステーキを二人分ね。それじゃあ、少々お待ちください」

「はい、お待たせ~、ごゆっくりどうぞ~」
 料理が来て食べ始めたけど、ワタルは何も喋らない。リオと一緒に食べてた時はリオが色々話してくれてたけど……他の客がこっちを見てるせい?
 二人とも食べる事に集中してたからすぐに食べ終わってしまった。居心地が悪いしこの方が良かったかも? 宿に帰ろうと立ち上がったのにワタルは座ったまま。
「帰らないの?」
「他の国に行くために他国の船の船長に話しがあるんだ」
「そう、私は帰る」
 危険もなさそうだし、こんな居心地の悪い状態の場所には居たくない。
「待てマテまて、お前にも居てもらう」
「なんで? ここは酒臭いからあまり居たくない」
 酔っ払った男を見てると盗賊の時の事を思い出すから気分が悪い。もうヴァイス達の事なんか考えたくないのに、連想してしまう。
「俺に付いて来るならお前も船に乗る事になるだろうが、それを頼む必要もあるんだからちゃんと居ろ、俺だって酒臭いのは嫌だけど我慢してるんだから」
「なら待つ間寝てる」
 寝てれば嫌な事も考えなくていい。
「ああ、それはいいけど…………何やってんの?」
「椅子だと硬い、ワタルが枕」
 ワタルの席の隣に椅子を並べて寝転がってワタルの脚を枕にする。ワタルかリオが傍に居ると心地よく眠れる。嫌だった店の中の気配もだんだん気にならなくなってきた。
「枕、ね……しょうがないか。船長来たら起こすからな」
「ん」
 ワタルが頭を撫でてくる。また子供扱いしてる? ……でも、いい、心地いいから、眠るまでそのまま撫でてて。
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