黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

大事なもの、拾った

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「やっと着いた」
 ピンクに邪魔されて時間を無駄にしたから、夜通し走った。それで漸くまだ捜してない地域の村に辿り着いた。もう少しで夜が明けるけど、まだ村は眠ってる。今行っても怪しまれるだけ、そう思って近くの木の上で少し眠る事にした。

「あのなフィオ、水浴びくらい毎日しなさい」
 今はしてる、今日はまだだけど、後でする。なんで困った顔するの? ちゃんとしてる! …………? 聞こえてないの? 会えたのに、話したいのに、なんで? どこに行くの? ワタルが離れてどこかに行く。なのに身体が動かない、置いて行かれる。
「ワタル! …………夢?」
 やっと会えたと思ったのに…………がっかりするから夢になんか出て来ないでほしい。会いたいが凄く強くなって胸が苦しくて痛い、こんな事しないで。
「ワタルの、ばか」
 日が昇ってる。村でワタルの事聴かないと、昨日は殆ど何も出来なかったから、今日はいっぱい捜したい。早く会いたい。

「ああ? 黒髪の人間? お前なんでそんなの捜してるんだ?」
「…………珍しいから見てみたい」
「はあ~!? 小せぇのにそんな理由で旅してんのか!? 確かに黒髪はヴァーンシアの人間では滅多に居ないから珍しいが……黒髪は異界者の事が多いんだぞ? お前みたいに小せぇのが異界者に捕まったら食われちまうぞ?」
 二回も言った……我慢、我慢、ワタルを捜す為、騒ぎを起こしたら捜せなくなるから…………ニヤニヤした笑顔がイライラする。異界者くらいじゃ私には何も出来ないのに。
「知らないならもういい」
 この村はハズレ、情報も無いし、馬鹿にされてイライラしたから早く次に行く。じゃないとイライラが我慢できなくなる。
「まぁ待てって、知らないとは言ってないぞ? 黒髪、見たいんだろ? 何も聞かずに行っちまっていいのか?」
「っ!? 知ってるの!?」
「すっ、すげぇ食い付きだな。そんなに黒髪が見たいのか? …………もしかして黒髪の奴に家族を殺されたとかで、それで仇として捜してるのか? ナイフ持ってるし、仇討ちの旅か? それなら止めておけ、お前みたいに小せぇのが人を殺す様な奴に勝てるはずねぇ。軍に報告して討ち取ってもらえ」
 変な勘違いされてる……面倒。余計な事考えずに情報だけ教えてくれればいいのに、アドラの人間のくせに、他人なんだからほっといて。
「珍しいから見たいだけ、教えてくれないならもう行く」
「お、教えねぇとは言ってねぇだろ、行商人に聞いた話だが、北西にあるフリージアの町って知ってるか? そこに最近黒髪の奴が現れたらしい、黒髪なんて珍しいからな、噂に――っておい!? ――」
 まだ何か言ってたけど、無視して走り出した。
 最近、黒髪、フリージアは隠れ家から少し遠いけど、ワタルが居なくなってから結構日数が経ってる。そこまで行っててもおかしくない。
 それよりも、なんでアドラの人間に見つかったの? 危険だって知ってるのに、なんで近付いたの? …………フリージアは結構大きい町だったはず、異界者を見つけても殺したりしない……ワタルは無事、生きてる、捕まってるだけ、だから助け出す。

「少し、疲れた」
 あの村からフリージアまでは遠過ぎた。町に着いたらすっかり夜になってた。でも、丁度いい、夜なら動いてる兵士が減る。牢を見に行くのも簡単になる。
 門が閉まってるから壁を跳び越えて町に侵入した。
「牢」
 この町の牢はどこ? 早くワタルに会いたい。町の北に見える少し大きめの建物だけ他と形が違う、あそこから調べよう。壁から建物の屋根へ跳んで屋根伝いに移動する。
 もうすぐ会える、なのに…………胸の痛みが増した。不安? ワタルは死んでない、腕が折れてた、痛めつけなくても簡単に捕まえられる。無事でいる……でも、ワタルは無茶をする…………。
「急ぐ」

 アタリだった。やっぱり牢、外の見張りは居ない。
「手抜き」
 楽でいいけど……中も、動いてる人間の気配が殆ど無い。仕事をサボって寝てるんだ。牢が並ぶ場所の入り口に兵士が居るけど寝こけてる。そのまま脇を通り過ぎて奥に入って牢を確認していく。
「臭い」
 ワタルに言われた通りに水浴びをして、綺麗にするようになってから、今まで気にならなかった臭いも気になるようになった。
「んん? なんでこんな場所にガキが居るんだぁ? 俺ぁ寝惚けてんのか?」
 起きてる囚人が居た。
「異界者、知らない? 教えてくれたら出してあげる」
「っ! ほ、本当か!?」
「煩い」
「す、すまねぇ。しかし異界者か、俺は大分前からここに入れられてるが、異界者なんて入れられて来てないぞ? 黒髪黒目なんて他と違うからな、入ってきたらすぐに分かるだろうし、兵士共も大なり小なり騒ぐだろう? そういった事もなかったからここには異界者は居ねぇぞ」
 居ない…………? なら黒髪の噂は? 村で騙された?
「この町に黒髪が居るって聞いた」
「黒髪? …………そういえば兵士共が宿屋がどうのって話してたのを聞いたかもしれねぇが――」
「どこ?」
「あ? ああ、宿屋は町の西側に――」
 これだけ聞けたら充分、牢の鍵を壊してすぐに宿を探しに外へ出た。

 西側、宿屋だから他より大きい建物…………でもなんで宿屋? 勝手に異界者を捕まえて奴隷にしてるの? ……普通は見つけたら軍へ報告義務がある、兵士が知ってるなら捕まえて連れて行くはずなのに。
「――っ!」
 ? 声……深夜でも起きてる人間が居るんだ。
「――っ!」
 女の声? でも…………聞いた事がある? 聞いた事があるなんて変な感じがして声のする方へ向かった。
「ここ、宿屋?」
 看板がある、宿屋で間違いない。ここにワタルが居るの?
「――っ!」
 まだ声がする。入り口の鍵を壊して中に忍び込んだ。声がするのは……下? でも下に下りる階段なんて見当たらない。
 ? 踏むと妙に軋む床板があった。空気の流れもある、ここ? 床板を切り裂いたら隠し階段があった。地下…………奴隷を住まわせるには丁度いい場所かもしれない。
 階段を下りて確認した声は、やっぱり聞いた事のある声だった。
「止めてください! どうしてこんなっ! お仕事の話だって言ったじゃないですかっ」
 この声……ワタルを助けた人、ワタルが護った人、ワタルが優しいって言ってた他とは違う特別な人。
「こんな時間にのこのこついてきて何言ってやがる。金が欲しいんだろう? だから手っ取り早い方法を教えてやろうとしてるんだ、大人しくしろ。ヴァーンシアの人間で黒髪なんて珍しいからな、こんな女を抱ける機会滅多にない。充分な金はやる、だから俺の相手をしろ。それにこの容姿だ、娼婦になりゃあ金なんてすぐに貯まる」
 男はこんなのばかり。
「嫌です! 手を放してくださ――きゃあ!」
「もうスイッチが入っちまったから抑えが利かねぇんだよ! このままやるぞ」
「お願い、やめてください。私初めて――それに好きな人が――」
「うっせぇ! こんなご馳走を前に止められるかっ! そいつが愉しめるように俺がしっかり仕込んでや――なんだお前はっ! ……ガキ?」
 ドアを蹴破って中に入ると男があの人にのしかかってた。
「あなた!? どうしてこんな――」
「その人から降りて、じゃないと殺す」
 こんなのに犯されたらワタルが護った意味が無くなる。あんなに必死に護ったのに……ワタルがした事を無駄にしようとしてるこの男を見ると凄くイライラする。
「殺すぅ? ガキが何言ってんだ! 大体どうやって入って――がぺっ!?」
 殺さないつもりだったのに……気が付いたら蹴ってた。ワタル、怒る? でもワタルが大事にしてた人、護った。これなら怒らない?
「が……うぅ…………」
 死んでなかった。これなら怒られないし嫌われない。
「来て」
「え? ちょっと」
 とりあえず、もうここにはいられない。あれが起きたら騒ぎになる。その前に町を離れないと。

「ちょっと待ってください、なんであなたがこんな所に居るんですか?」
 それはこっちが言いたい。なんであんな場所に居たの? ワタルがせっかく助けたのに無駄になるところだった。
「なんであんな所に入ったの? 警戒が足りてない」
「そ、それは……少し前から働かせてもらっていて、お金を貯める為にお仕事を増やしてもらえないか相談したら、夜になってから地下に有るお酒の管理について教える、って言われて……夜遅かったですけど、お金が必要だったから少しくらい無理しないとって思って――そんな事よりワタルは無事なんですか? 生きてますよね? 酷い事とかされてませんか?」
 それも私が知りたい事。
「居なくなったから知らない。なんでお金が要るの?」
「居なくなった? ワタルは無事に逃げ出したんですか!?」
 凄く嬉しそうにして――泣いてる……ワタルと同じ、他と違う人。
「そう、でも無事かどうかは分からない。捜してるけど見つからないし」
「捜してる? ワタルを連れ戻す為に捜してるんですか!?」
 怒って私から離れた。ワタルの為に怒ってるの?
「違う。ワタルに会う為に盗賊は辞めた、私はワタルに会いたいだけ」
 だから捜してるのに、全然見つからない。この町もハズレだった、噂になってたのはたぶんこの人、だからここにもワタルは居ない。
「会いたい? どうしてですか?」
「…………ワタルは私に楽しいをくれるから。私は答えた、今度はそっちの番、どうしてお金が要るの?」
「それは……私もワタルに会う為です。無事に逃げられたならワタルは他の国に行くために大きな港町に行くはずだから、そこに行く為の旅費が必要だったんです」
「っ! それ、本当?」
「ええ――っ! 待って!」
 っ!? 走り出そうとしたら腕を掴まれた。
「なに?」
「本当に、ワタルに酷い事をする目的じゃないんですか? あなたは、私の町を、家族を殺して私たちをあんな目に遭わせた盗賊なのに――」
「さっきも言った。盗賊は辞めた、それにあなたの町じゃ私は誰も殺してない」
「本当に?」
「別に私は好きで盗賊だったんじゃない、ヴァイス達みたいに殺すのも楽しくなんてない。信じなくてもいいけど」
 別に信じてくれなくてもいい。ワタルの情報をくれただけで充分。
「…………信じます。あなたはあの時見逃してくれましたし、今回の事も……お礼が遅くなってごめんなさい。助けてくれてありがとう」
 っ!? この人も私にお礼、言った……ワタルと同じ、変わった人、特別な人。

「あのー、どうして私も連れて行ってくれるんですかー?」
「ワタルが喜ぶと思っただけ」
 一人で港町に行こうと思ったけど、あの町に置いて行ったらまた捕まるかもしれないし、黒髪は目立つ。追いかけられたらこの人の足じゃ逃げ切れない。
「うぅ、でも……まさか年下の娘におんぶされるなんて…………」
「嫌なら置いて行く」
 ワタルが知ったら怒るだろうから置いて行かないけど。
「あ、う……それは…………そうだ、私はリオです。リオ・スフィール、あなたの名前を教えてくれますか?」
「フィオ・ソリチュード」
「フィオちゃん、迷惑掛けちゃいますけど、よろしくお願いします」
「ん」
 おぶってるリオが私を抱き締めた。温かくて柔らかい、それにいい匂いもする。まだ、よく分からないけど、リオと一緒に居る事も、嫌いじゃない、かも?
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