黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

私も変かも?

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「こんな変な人は初めて見た。名前はなんて言うの?」
「…………」
 聴いたのに答えずに変な顔をしてる。聴き方、変だった? 待ってみても答えない……っ! 横向いた。無視は嫌。
 今度は耳を引っ張る事にした。
「っ! 痛い! 痛い! 痛いって! 耳が千切れる!」
 すっごいびっくりした顔になった。ちょっと面白い。
「名前は?」
 教えて欲しい、変な異界者の名前、名前で呼びたい。
「……わかった、わかったよ! 航、如月航、これでいいか? お前はフィオだったか?」
 ワタル、キサラギワタル…………ワタル、覚えた。この名前は忘れない。
「そう、フィオ・ソリチュード。ワタル、名前も変」
 ワタルも私の名前を呼んだ……少し、胸が変な感じ、もやもや? ぽかぽか? ワタルはまた変な顔をしてる。名前呼ぶの嫌だった?

「それで、どうするんだ? 俺はお前らなんかの仲間になる気は全くないぞ。即処分か?」
 処分は嫌。
「…………面白いからしばらくは置いておく、ヴァイスが処分って言ったら処分だけど」
 でも本当に処分されそうになったら…………ヴァイスを殺す? …………それもいいかもしれない、ヴァイスよりワタルが必要。
 …………また小さいとか思ってる。
「いってぇぇー! なにしやがる!?」
 気が付いたら叩いてた。気を付けないと死んじゃうのに、でもワタルが悪い。
「次は加減しないって言った」
 何か考えてる。
「お前読心術でも使えるの?」
「馬鹿にされてる時とかはなんとなくわかる」
 だからいつもむかむかする。だから必ずそういう相手は攻撃する、一回攻撃しておけば二度と思わなくなるから…………なのにワタルは何回も……これも変わってるから?
「もし間違いだったらどうするんだ、ただの暴力だぞ?」
「?…………別に問題ない、私盗賊だし、それに間違えたことない」
 暴力なんて日常、当たり前の事なのになんでそんな事を気にするの? それに間違わないからむかむかする。攻撃した相手はいつも謝るから外れたことが無い。

「とりあえず、もう用はないんだろ? さっさと降りてどっか行ってくれ」
「気になってることがあるんだけど」
 また顔を横に向けて、今度は目も瞑った。無視は嫌なのに。
「ふがっ」
 軽く鼻を摘んで瞼を上げてみる。こっち見た。
「聴きたいことがあるんだけど」
 …………脅えてる? さっきは普通にしてたのに、このやり方はダメ?
「……なんだよ? 聴くこときいたら、さっさとどこかに行ってくれよ、おれはお前と、お前らと関わりたくないんだよ」
 なんで? ワタルも私と同じで特別で他と違うんじゃないの? 一緒に居たら退屈が変わると思ったのに。
 聴きたい事…………そう、ずっと気になってた事。
「どこに居ようと私の勝手。なんでこの国の人間を庇ってたの? この国の異界者に対する扱いを知らないわけじゃないんでしょう?」
「知ってるよ、しつこく奴隷人種を連呼されれば嫌でもわかる」
 知ってて護ろうとしてた…………弱いくせに、死にそうになってたのに。
「ならなんで? 虐められるのが趣味なの?」
 教えて欲しい、でも趣味だったら嫌。
「そんな趣味はない! なんでそんな考えに至るんだよ。リオを助けたかったのは命の恩人だからだ!」
 命の恩人? アドラの人間が異界者を助けたの? そういえば、女の態度も変だった。あれも特別? 他とは違う人?
「ふ~ん、異界者を助ける人なんてこの国にいたんだ……。でも助けてくれたのはその人だけでしょ? 殺されそうになったなら、この国の人間に仕返ししたいと思わないの?」
 ツチヤも他の異界者も誰でもいいからアドラの人間に仕返ししたい、殺したいって言ってた。なんでワタルは仲間になってそれをしないの?
「出来るものならしたいと思ってた。でも――」
 やっぱりワタルも思うんだ…………んん? 変な感じ、がっかり?
「なら仲間になればいい。好きなだけ仕返し出来る」
 でも仲間になったら一緒に居られる。ワタルが変な勘違いをしなかったらヴァイスも処分って言わない。
「ならないって言ってるだろ。仕返ししたって何も変わらない、それに人を蔑んで殺そうとする奴らの同類になりたくない!」
 同類…………それはアドラの人間の事? それとも混ざり者わたしたち? 胸が、ちくちくする。ワタルと話してると変な事ばかり起こる。

「――――」
 女の声が聞こえる。たぶんワタルが護ろうとしてた、ワタルを助けた人。ヴァイスが始めたんだ…………不快。
「そんなこと――」
「ちょっと黙ってくれ!」
 …………せっかく話してるのに。
「――――」
 また聞こえる。ワタルはこれを聞こうとしてるの? どうして?
「――――」
「おい! リオは!? あの後リオをどうした!?」
 そんなにあの人が気になるの? アドラの人間なのに。
「? 手を出すなって言ったから捕まえて連れてきた。条件って言ってたから」
 言ってて思い出した。見逃したら仲間になるって言ってたのに…………もうヴァイスが始めてる。今から逃がしに行っても無事か分からない、見逃してたら仲間になって一緒に居てくれた?
「俺は見逃してくれって言ったんだぞ、なんでリオも捕まってるんだよ?」
「ワタルが従わなかったから」
 言い訳をする。すぐにワタルを捕まえてあの人を逃がせばよかった。
「条件を破ったのはそっちが先だろ! それに――いや今はそれより、リオはどうなってるんだ? 無事なのか!? なにもしてないだろうな!?」
 ワタルが怒ってる。どうすればいいの? あの人は、たぶん無事じゃない。

 嘘を吐いたらもっと怒るかもしれない。
「ヴァイスが興味をもってたから、今頃たぶんこれ」
 ワタルの顔を見ずに手で説明した。
「ッ!! 降りろ! これも解け! さっさとしろクソガキ!」
「クソガキ……」
 私がむかむかする様な事言ったりしてほしくないのに!
「ぐっ、げほっ、ごほっ、ごほっ」
 またやった。癖になってる、加減も少し間違えたかもしれない。でも、これで分かるでしょ?
「この程度でそんな状態なのに行ってどうするの? 死にたいの? ヴァイスより私の方が強いけど、普通の人間が、ワタルなんかが勝てるわけがないよ?」
 なんで? 勝てないって教えてあげてるのに、少し笑ってる。
「別に勝つつもりはない。リオさえ逃がせられればそれでいいんだ。さっさとこれ解け!」
 勝つつもりがない……死ぬの? 居なくなるの? なんでそんな事をするの?
「…………やっぱり変なの、なんで他人の為に命を使うの?」
 居て欲しいのに、私の退屈を変えて欲しいのに、なんで死ぬ選択をするの?
「簡単に言うと…………そうしたいから?」
「馬鹿なの?」
 意味が分からない、力の差が分からないくらいに馬鹿なの?
「かもな」
 また笑った。怖がってない、行けば死ぬのに、混ざり者の強さはもう知ってるのに、なんでそんな顔をするの? 死ぬ人はいつも絶望して、苦しみながら死んでいく、なんでそうなる場所へ笑いながら、行きたいって言えるの? それともなんとか出来るの? …………目が死んでない、諦めてない、絶望してない、さっきまでの、あの人が生きてるって知る前と違う。

「変人……まぁ、暇つぶしに丁度いいかな」
 私も変、行かせたら死んじゃうのに、なんで解くの? なんで行かせるの? せっかく見つけた他と違う人…………。
「お前、こんなことしていいのか? というかなんで解いてくれる?」
 変なの、解けって叫んでたくせに、今度は私の事気にしてる…………また、変な感じがする。ワタルのせいだ。
「ワタルが解けって言ったくせに。私はヴァイス達に協力する代わりに、自由にしていいって言われてる。それにワタルがなにをするのか興味が湧いたから」
 本当に何か出来るなら私に見せて欲しい。その強い目をしてる理由を。

 すぐに出て行こうとしてる。
 あれはどうするの? 何も持たずにヴァイスと戦うの? ……でもあれには良い物入ってない、どっちでもいいか。
「この荷物はどうするの? 持っていくの?」
「盗られてなかったのか……持っていくよ」
 持って行くんだ……服で戦うの? 首を絞める?
 大した物が入ってないからみんな欲しがらないってダージが言ったから、ワタルと一緒に持ってきてた。
「服と変な物しか入ってないから、みんな要らないって」
 荷物を持ってキョロキョロしてる。変なの。
「ヴァイスの部屋ならここを出て右に行った突き当たりにある」
「やけに親切だな」
 行くなら早く行く方が良いと思っただけ。
「さっきも言った。ワタルがなにをやらかすのか興味があるだけ」
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