黒の瞳の覚醒者

一条光

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六章~目指す場所~

諸々の事情

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「お、おい!? 人が空を飛んでるぞ!?」
 俺と姫様が空を見上げているのに釣られて上を見た一人が声を上げたのを皮切りに周囲の野次馬も空を見上げて騒ぎ始める。
「あれってさっき消えた女の子なんじゃないか!?」
「どうなってんだよあれ!? なんで空を飛んでるんだ!?」
「何かの撮影とかじゃないの?」
「人間が飛べるわけないじゃん、漫画かよ。馬鹿馬鹿しい」
「いやでも、あれはどう見ても飛んでるだろ!」
「異世界の人間は空を飛べるのかよ!? 魔法か!? 魔法があってこの世界でも使えるのか!?」
 魔法でもなければ飛んでるんでもないんだよなぁ、でも飛んでると思うよなぁ、あんなに跳ばれちゃあ。にしても、よぉ~跳ぶなぁあいつは、こんなに跳ぶとは思わなかったから俺もびっくりだ。夕方のニュースとかに出ちゃいそうだな、異世界の少女空を飛ぶ、みたいな感じで。

「おかえり」
 フィオが着地したのを見た野次馬は黙り込み、車の走る音だけが聞こえる。
「これでいい? もっと跳ばないとダメ?」
 …………まだ高く跳べるの? お前、凄すぎるんですけど、ホント凄いのに懐かれたな。俺なんかの何が面白かったのやら…………。
「いや、今のでいい。あれだけ跳んでればこの世界の人間じゃないのは伝わるだろうし、ありがとな」
 頭を軽く撫でると少し気持ちよさそうにしている。猫みたいだな。
「ん」
「んでお前はこっちに乗ってろ」
 自分の頭の上からフィオの頭へもさを移動させる。
『きゅぅ~、きゅぅ~』
「なにあれ! すっごい可愛い! マジヤバい! 欲しい!」
「いいなぁ~、あれって異世界の動物かな? 私も飼ってみたいなぁ」
「普通に考えたら、鳴くぬいぐるみなんじゃないの?」
「でも動いてるよ? 絶対異世界のペットだって!」
 う~ん、こっちでも愛玩動物としての需要有か……やるな、もさ。

「さて、どうですか? 今のを見ても信じてもらえませんか? 駄目なら他にもお見せできるものがありますけど」
 俺の能力も戻ってきてるし、姫様の能力だってある。
「おぉぉぉおおおおおおっ! すっげぇぇぇえええ! 他にもあるなら見せてくれよ! 異世界って本当にあるんだな! もしかしてそっちのお姉さんはコスプレじゃなくて本物のエルフなのか!? 長耳だし、そうだよな!?」
 興奮した奴が捲し立ててくる。
「エルフだって…………」
「マジかよ…………」
「確かにあの耳作り物っぽくないんだよなぁ」
 一人が騒ぎ始めたら、それが一気に伝播して大騒ぎになった。
「ワタル、コスプレってなんなの? なんでこの人間たちはエルフの事を知ってるの? この世界にはエルフが居るの?」
「えーっと、コスプレってのは……架空の存在の恰好をする事? あとこの世界にはエルフは存在しないですよ。空想上の、物語とかに出てくる存在です」
 アニメや漫画のキャラの恰好をする事、なんて言っても伝わらないし、これでいいよな?
「ふ~ん…………つまりこの人間たちに私は偽物のエルフだ、って思われてたって事ね?」
「あ、いや、でもこの世界じゃ空想上の存在なんで居るって思う人の方が稀だと」
 なんか凄く不満げだ。エルフのお姫様だもんなぁ、偽物とか思われたら怒りもするか?
「そこの人間に私とフィオがこの世界の存在じゃない、って証明しないといけないのよね?」
「え、ええ、まぁ」
 姫様何する気だ……警官はまだ固まったまま動かないし、あれ大丈夫か?
「異界者は最初は能力を持ってないんだから、この世界には特殊な能力を扱う存在なんていないわよね? ならこうするのが一番の証明、ね!」
 そう言って抜き身のままだった剣で空間を斬り裂き姿を消した。どこ行った? 周りを見回してみても見当たらない、あまり遠くに行かれると確認が出来ないから意味がないんだけど…………。
『うおぉぉぉおおおおおお!』
 野次馬は大盛り上がりだけど、警官は目を点にして全く動かないし、言葉も発せなくなってる。そりゃビビるよなぁ、異世界の人って無茶苦茶だよなぁ…………恐らくヴァーンシアでも相当凄い二人だろうし、俺もフィオを初めて見た時は固まったもんなぁ。

 フィオとの出会いをしみじみと思い返す。最初は表情も変えずに一瞬で人を刻んだ事にビビって警戒してたのに…………あの時はこんな風に一緒に居る事になるなんて思いもしなかったなぁ、再会してからも色々助けてくれて、本当に良い娘だ。感謝に堪えない。
「? なに?」
 ぼんやりとフィオのことを見つめていたらトコトコ寄って来た。可愛いやつめ。
「いや、フィオは凄いなぁ、って」
 寄って来たからなんとなく頭を撫でる。
「そう…………」
 ん~、やっぱり表情がよく変わる様になってるかもしれない。褒められたのが恥ずかしいのか、はにかんでそっぽを向いた。
「ふ~ん、そうやって誑し込んだんだぁ?」
「うひゃっ!? 人前で何やってんですか姫様!」
 背中に柔らかいものが押し付けられてる! ふにふにしてるし、顔を寄せられてるからいい匂いもする。
「分からないの? 抱き付いてるのよ。ナハトが抱き締めてる時に嬉しそうにしてたけど、中々抱き心地がいいわね。筋肉質じゃないのがいいのかしら?」

「おい、姫様だってよ」
「マジかよ、エルフの姫?」
「なんであんな冴えない長髪が姫や美少女と仲良さそうなんだよ!? 不条理だ、世の中不公平だ」
「姫様いきなりあいつの後ろに現れたぞ!? どうなってるんだ!?」
 姫様のおかげで要らん注目が…………。
「姫様、とりあえず剣をしまってください、危ないし面倒事になると困ります」
「なんで剣くらいで面倒事が起こるのよ? …………そういえばこの世界は剣を持ってる人が居ないのね」
「治安維持の為に、特別な許可をもらった人しかそういうのは所持出来ない決まりなんですよ」
「ふ~ん、でもそれじゃあ、いざという時に自分の身も大事な人の事も護れないんじゃない?」
 まぁ、あっちの世界程に危険がいっぱいならそうなんだろうけど、日本で普通に暮らしてる分には凶悪犯罪に遭う確率はかなり低いと思う。引きこもってたからよくは分からんけど。
「日本は治安が良い国なんですよ」
「ふ~ん?」
 不思議そうにしながらも剣を納めてくれた。人間が人攫いに来る国に暮らしていたら自衛手段は持っていて当たり前のものなんだろうな。
「異世界の人って事はあの剣も、あっちの娘が太ももに付けてるナイフみたいなのも本物なんじゃないか?」
 げっ!? 要らん事に気付かれた。この場合どうなるんだろう? 銃刀法違反になるのか? 取り上げるとかになったら姫様もフィオも絶対に抵抗するぞ? 異世界人だから~って事で特別措置とかにならないだろうか? …………え~っと、前に調べた時になにか見た覚えが……銃刀剣登録、だったか? 骨董とか美術目的なら所持していてもいい、みたいなのを見た様な記憶が、あるような、ないような? それも話してみないとダメだな。

「あの~、大丈夫ですか?」
 警官が固まって、全く動かなくなってしまっている。漫画みたいに立ったまま気絶とかあったらちょっと面白――いや、面倒だな。
「あの~? 二人が異世界の存在だって信じてもらえましたか?」
 警官の顔の前に手を翳して振ってみる。まさかこんな漫画みたいな確認方法を取る事になろうとは。
「はっ! い、今のは一体? 何かの冗談や特殊な仕掛けを使ったマジックとかじゃないのか?」
 まだ疑うのかよ。非現実的過ぎて受け入れ拒否か? 気持ちは分からんでもないけど。
「じゃあ、これでどうです、か!」
『…………』
 世にも珍しい空に昇る雷を見て周囲の人間はまた沈黙した。
「あら、使えないとか言ってたのに、元に戻ったのね。もさも居るし、これならヴァーンシアに帰るのも難しい事じゃないかもしれないわね」
 帰る…………そうだ、こっちでの用を済ませたらヴァーンシアに戻らないと、あの状況がどうなったのか気になるし、リオの事もある。あっちでやるべき事が終わってないんだ、俺は戻らないといけない。その為にも早くあの娘を両親の所へ帰さないと。
「どうですか? 信じてもらえますか? これでも駄目なら、科捜研? とかでこの金属とこのマントに付いてる血を調べてもらってください。この世界にはない金属と魔物の血ですから」
 ミスリル玉を一つだけ警官に渡す。貴重な物だけどしょうがない、信じてもらうのは必要な事だ。その為に使うなら一つくらい我慢しよう。マントはまぁ無くなっても困らない、ここで目を見られて騒ぎになるなんて事はないんだから。
「…………と、とりあえず交番の中で話を聞こう」
 どうにか話を聞いてもらえる状態にはなったか。



 警官に諸々話した。
 俺が異世界に行っていて、身分証は持ってない事、二人は異世界の存在でフィオは旅仲間である事、姫様の姫という立場、事故で偶然に日本に帰って来れた事、異世界で死んだ少女の事、その娘を両親の元へ帰したかったのに、連れて来れなかったと思って絶望してるところへフィオがちゃんと連れて来てくれてたから嬉しくて抱き締めたって事、その娘の両親を捜して欲しい事。
 俺の知ってるヴァーンシアに居る日本人の名前、捜索願が出ているだろうからその人間の名前を出せば更に信じてもらえると思ったのと、その家族へ一応の無事を伝えてもらうのが目的だ。
 諸々話してみた結果は、自分では判断出来ないから近くにある警察署まで一緒に来て、今と同じ話を刑事相手にしてくれとの事だった。
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