黒の瞳の覚醒者

一条光

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四章~新天地へ~

帰れたなら

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 どうにかナハトを宥めて村に戻ったけど、リオとナハトが険悪な雰囲気…………これって俺が悪いのか?
「三人で朝帰りとか、もしかして外でお楽しみだったの?」
 テントに入っての第一声がこれか、瑞原はこういう話題が好きなんだろう、何を言っても自分が面白い様に解釈しそうだから無視しよう。
「不潔ね」
 紅月からは軽蔑の言葉と視線をもらう。なんなんだよ、俺がお前らに何をした?
「フィオと優夜は?」
「優夜は一回起きたけど二度寝~、フィオちゃんは起きてきてないよ~」
 まだ寝てるのかあいつは……本当に良く寝るやつだな、寝る子は育つって言うけど、全く育ってないのはどうなんだろう?
「起こしてくるか」
「お? 今度はフィオちゃんに手を出すの? さっすがロリコン」
 起こしに行くって言ったよな? なんでそれが手を出すになってるんだよ……。

「はぁ~、こいつは平和そうでいいなぁ」
 フィオの部屋に行くと、もさを抱いて一緒に猫の様に丸まって寝ていた。
 …………可愛いよな、子供と小動物という図はなんか癒される。だが! 決して俺はロリコンではない、はず。なんか自信無くなって来た、こいつ見てると凄く可愛いと思っちゃうし、いや、思うだけならロリコンとは違うはず、ってそんな事はどうでもよくて。
「おいフィオ、起きろ~、そろそろ昼になるぞ」
「…………まだ……寝る……」
 まだ寝たいのかよ!? お前は一体どれだけ寝たら成長するんだよ。
「船で優夜が言ってただろ、寝過ぎると脳が死ぬぞ、いい加減起きろ」
『きゅぅ~』
 お前が起きるのか、もさじゃなくて猛者を起こさないと駄目なんだが。
「起きろ~、脳が衰えて馬鹿になるぞ~」
 やわすべな頬を突きまわすが一向に起きる気配無し、ホントどれだけ寝るんだよお前は…………。
「お~い、フィオ~? 飯抜きにするぞ~」
 完全無視を決め込んでるな。
「まぁいいや、もさ、フィオを起こしといてくれ」
 長居するとまた何か言われそうだし退散しよう。飯も炊かないといけないしな。

 昼食は白飯と昨日の夜にもう一度作った豚汁もどきの残り、やっぱり味噌汁は好評だったのでもう一度作った。
「卵ってあったっけ?」
「ああ、今朝産みたてのを貰った物があるぞ」
 産みたて…………よく考えたらなんの卵なのか知らないんだよな、知りたいような知るのが怖いような、変な生き物とか果物があるから迂闊に聞くと食える物が減ってしまう。ここは好奇心を抑えて食べる事にしよう、卵かけご飯とか久しぶりだし。
「ああー! ズルいよ航、僕も卵かけご飯にしたいから醤油分けてよ」
 俺が卵を乗せてかき混ぜているのを見て優夜が大声を上げた。
「まぁいいけど……そんな叫ばなくても」
「私も私も! うわぁ~、卵かけご飯とかひっさしぶり~」
「あたしも貰うわよ?」
「どうぞご随意に…………」
 日本人だから食べたいのも分かるし、一応の旅仲間相手にあまりケチる様な事をするつもりはない。最初に抜きにしようとしたのは酷い扱いへの反撃だし。
「異界者は卵を生で食べるのか…………このミソシルと言うのとショウユは美味しいが、卵を生でなど…………」
 ナハトが俺たちの様子を見て絶句している。生で食べるって習慣がなかったら異常な行動に見えるのかもしれない。
「美味しいの?」
 相変わらず胡坐をかいた俺の上に座ってるフィオが聴いてくる。
「美味いぞ、醤油が良い仕事してるからな。興味があるならやってみ、醤油は掛け過ぎるなよ、辛くなるし塩分の摂り過ぎは良くないからな」
「ん」
 さっき見た俺の真似をして、醤油を掛けて卵とご飯を混ぜている。
「なんだかワタルとフィオちゃん親子みたいですね」
「親子…………お父、さん?」
 こちらを向いて首をかしげる。やめろ! 変な気分になる、でも娘を溺愛する父親の気持ちが少し分かるかもしれない、こんなに可愛かったら溺愛するよ!
「な、なら母親は私だな」
 ナハトがそう言うが、ならってなんだよ…………ままごとでもする気か?
「…………リオがいい」
 フィオが要らん一言を呟いた。
「なっ!?」
「あら、そういえば船に乗っている時にワタルがお母さんみたいって言ってくれましたよね?」
 言ったけど! どうするんだこの空気…………ナハトはまた泣きそうな感じになってるし。
「ワタル! はっきり答えてくれ、私とこの女とどっちが好きなのだ?」
 えぇ~…………なにこれ? 第二ラウンド?
「まぁ二股は良くないよね~、答えてあげた方が良いと思うよ?」
「そうね、男ならはっきりさせるべきね」
 外野が居るから悪化しとるな…………答えるってなに? 俺はどちらともそういう関係になってないよね? どちらにも助けられてるから感謝はしてるけど、そういう感情は持ってないはず。
「俺は誰かに恋愛感情を持ったりしてない」
「うわっ、つまんない答え」
「優柔不断ね、情けない」
 この白けた様な雰囲気…………俺は悪くないだろ!

「あ、明日には連絡が来て空間を斬り裂く能力を持った姫様に会えるんだよな?」
 なんとか話題を逸らしたい、誰でもいいから乗ってくれ!
「ああ、明日返答すると父様に連絡があったそうだ」
 さっきの答えが不満なんだろう、声音が素っ気無い感じだしジト目でこちらを見てくる。だって本当の事だからしょうがないだろ! 他人と関わる事を避けてるやつが嘘でも誰かを好きとか言えるわけがない。
「へぇ~、明日なんだ? 思ってたより早いんだね。敵視してきた人間が謁見したいって言って来たんだから、僕はもっと時間が掛かるんだと思ってたよ」
 優夜が乗ってくれた。
「はぁ~、早く帰りたいなぁ、居なくなった私たちってやっぱり失踪者扱いとかになってるのかな?」
「家族が警察に届け出てればそうでしょうね、それより帰れたとしたらこの紅い瞳と髪どうすればいいのかしら? 髪は染められるけど瞳は…………」
「カラコンすればいいんじゃないの? 麗奈ってコンタクト苦手な人?」
「そうね、目に異物を入れるのには抵抗があるわ」
 帰れたら、か…………。
「ああー!」
「な、何よ急に」
「さっき僕に大声出すなみたいな事言ってたのに」
「だって、ヤバい……どうしよう? 家賃払ってない、家に置いてある物ってどうなるんだ? 通帳とかもあるのに…………」
「えっ!? あっ! あたしも家賃払えていないわ、ウチのアパート引き落としじゃなかったから…………こういう場合ってどう、なるの?」
 紅月も一人暮らしらしく、狼狽え始めた。

「ママが借家持ってるけど、夜逃げとかされたとしても、大家でも勝手に荷物を運び出したり出来ないって言ってたよ? 死亡とかだと別なんだろうけど」
 マジか、だとしたらしばらくは大丈夫なんだろうか? だとしてもそれがいつまで大丈夫なのか分からない以上早く帰るに越した事はないはずだけど。
「綾乃、それ本当よね? 嘘じゃないわよね?」
「ママが言ってたのを聞いた覚えがあるだけだからはっきりとは分かんないよぉ」
「もし追い出されるとしても紅月は両親が荷物を引き取ってくれたりしてるんじゃないか?」
「それは……たぶんないわね、喧嘩して家を出たから、わざわざあたしの荷物を引き取ったりしないと思うわ。あんたの方こそ家族が何とかしてくれてるんじゃないの?」
「俺には家族は居ない、近しい親戚も居ないし天涯孤独ってやつだ」
『…………』
 一同だんまり、また変な空気になった。
「あ、明日謁見の許可が出てお姫様の力で帰れる様になるといいね」
「だ、だよね! 私も友達に会いたいし」

 優夜と瑞原が必死に話題を変えている、変えてくれるのはいいが、話はどんどん帰れた場合の話になっていく。
 まだ帰れるって決まったわけでもないし、姫様に会えるかどうかも分からないのに……興味無いとか言ってた紅月もなんだかんだで期待してるみたいだ、駄目だった場合皆落ち込むんだろうな…………。
 確実になってから話をするべきだったのかもしれない。
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