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四章~新天地へ~
大混乱?
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「ふっ、ふふふふふっあっはっはっはっはっはー! とうとう……とうとうナハトが負けたか!」
え? なんでこの人自分の娘が負けた事を喜んでんの? さっきまで睨んできてて怒ってた雰囲気どこ行った!?
「長かったねぇ~、あの宣言から百十五年だもんねぇ、私なら飽きてるよ」
「まぁそこはナハトだからとしか言いようがないな、その上誰も勝てないし」
「ホント村の男たちの情けないこと…………」
なにこの空気、敵意無しで安堵したって感じじゃない、負けるのを待ってたみたいな言い方だ。なんか面倒事じゃないだろうな? この世界に来てから面倒事ばっかりだったんだ、そろそろ休憩させてくれてもいいだろ。
「ええっと、とりあえずこの大陸に居ても大丈夫でしょうか? 人間を見るのが不愉快だというならこの村付近には近付かない様にして、海岸にある船を住居代わりにしますので、安全……というか襲わないって約束をもらえませんか?」
先ずは安全第一、交流で面倒事が起きそうならこの大陸で帰る方法を探すってのは諦めて滞在していられる間にどうにか船を操れる様になって、中央の大陸、クロイツを目指す方向で…………最悪優夜の能力で海を凍らせて徒歩で行くか。
どちらにしてもある程度の時間が必要だ。船なら操船技術の習得(出来るかどうかは分からん)徒歩なら優夜の能力の訓練、毎回あんな無茶苦茶やられたら俺も紅月も参ってしまうし、使う度に倒れられるのも困る(氷の槍騒動の後優夜は意識を失って倒れた)本人が全く加減出来てないんだろう、俺も最初は電撃の操作が出来なかったし訓練次第でどうにかなると信じたい。
「それに俺は長居をしようとも思ってないのである程度の期間をいただければどうにかして別の大陸に行くつもりで――」
「それはいかん!」
え、船での海岸滞在も許されない感じか? せめて能力を使うと暴走する優夜をどうにかまともに制御出来る様になるまでの訓練期間は欲しい。海に出て何かの拍子に能力の暴発をされたら堪ったものではない。
「あの、せめて優夜の能力が制御出来る様になるまでは滞在を許してもらえませんか? 能力の暴発も怖いですし、俺たち船を動かした事もないので出て行くにしても少し練習しないと――」
「あ~、そうじゃないよ。君にはここに居てもらわないと困るって意味だよぉ~、安全な人間なら私も興味あるしぃ」
そう言ってミーニィさんが俺の胸に指を這わす。
「や、止めてください」
「えぇ~、ケチぃ~、私にもしていいから――」
「ミーニィ、その人間へ手を出すのは止めなさい、手を出すようなら昼夜問わず声を送り続けるぞ? そうだな、世界の歴史を延々と語るというのはどうかな?」
「うへぇ~、年寄りの長話なんて聴きたくないよぉ~」
族長の言葉で俺から手を離したけど、さっきのはどういう意味だ? 居てもらわないと困る? 居たら困るではなくて? それに声を送るってどういう事だ?
「族長の能力は見知った相手ならどんなに離れていても自分の声、というか言葉を伝えたり、対象と会話出来るってものなんだ。送るだけなら知ってるやつ全員に一気に伝える事も出来るらしい」
ライルさんがコソッと教えてくれる。
やっぱり攻撃的な能力ばっかりというわけではないみたいだな。でも今は居てもらわないと困るっていう理由が知りたい、今まで撃退してきた『人間』が敵意が無いだけで居てもらわないと困るって存在に変わるのはおかしいだろ。
「さっきの、居ないと困るってのはどういう意味ですか? 居たら困るってのなら分かりますけど、居ないと困るってのは理解出来ません」
『…………』
なんだ? 三人が黙り込んでニヤニヤし始めた。
…………もしかして人間を喰うとか? そこそこの能力を持ってる覚醒者を喰って力を取り込む、みたいな…………逃げないとヤバいか? でも逃げるの無理だろこの状況、相手は自分より身体能力が圧倒的に上、そんな存在が三人、外に出ればもっと居る。オマケに俺は歩き通しでバテている…………マジか、この世界に来て最初の頃に思った喰われ死にですか!? 食人エルフ…………そういえば何かでエルフは他種族に対して残酷だ、みたいなのを読んだ覚えがあるような? ……逃げよう、今すぐに! 全身から放電してたら捕まる可能性は減るだろ。
「えっと、俺そろそろお暇しよ――」
「逃がすと思っているのかね? 私はずっと待っていたんだ、決して逃がさないとも」
っ!? やっぱり穏便にはいかないのか、絶対に喰われてたまるか!
「絶対に逃げ切る! 喰われ死になんてごめんだ!」
『喰われ死に?』
剣を抜き、外へ出ようと玄関へ走る。
「ただいま~」
「って、うわっ!?」
扉を突き破ろうと突っ込もうとしたら扉が開いてナハトさんに似た人が入って来て、そのままその人に突っ込んでしまった。
「きゃあっ! もう! なあに? いきなり……あら人間」
「レイア、そのまま捕まえなさい! その人間がさっき話したナハトを倒した人間だ!」
やっぱりそれが理由か、さっき笑ったのは意味不明だったけど、捕まえて復讐する気だ!
「まあ! それなら絶対に逃がさないわ!」
「ふぐっ!」
捕まる、というか抱き付かれた。なにやってんのこの人!? ただいまって事はこの家の家族だろ? なんで家族の仇に抱き付く!? もう意味分からん、とりあえず気絶させて逃げないと!
「あれ? なんで?」
力が使えない、というか身体からも力が抜けていって上手く動かない。
「ふふん、妻の能力は触れた相手の感覚を麻痺せるというものだ。相手の身体の自由を奪うのはもちろん、能力を使う感覚も麻痺させるのでしばらく君は能力を使えないぞ」
なんつぅ厄介な相手に突っ込んだんだよ俺は! 自爆じゃないか!
「ふふふっ、ぜっったいに! 逃がさないわ、これを逃したら次がいつになるか分からないもの」
いつになるか分からない、やっぱり覚醒者を喰うのか? この大陸に来る人間は混血者が殆どだから覚醒者が珍しいんだ。
「ああ~、長かったわぁ~、一時期はもう無理なんじゃないかと諦めてさえいたのに、こんな事ってあるのねぇ」
そう言ってぎゅむっと抱きしめられる。胸デカッ、柔らかっ! でも息が出来ない、すげぇ力、なにこの死に方……凄く複雑だ…………。
「今日から家族よ、よろしくね」
「は? はぁあ!?」
家族? なにそれ? おいしいの? 意味が分かんねぇ!
「レイアさん、あんまり抱き締めると胸で窒息するんじゃない? あと私にも貸してほしいなぁ」
「死なれたら困るわね、それと貸すのはダメよ。この子はウチの子よ」
窒息は免れた……でも、うちの子とか意味分からん、なんなんだこの状況は!?
「そうだ、漸くナハトを倒した男が現れたんだ、手を出されたら困るよミーニィ、私は早く孫の顔を拝みたいんだ!」
ま、孫ぉ?
「あの、一体どういう…………?」
「ワタルが気絶させたナハトはガキの頃に、弱い男とは一緒にならない! って宣言してな、そっから百十五年恋人も作らず独り身なのさ、ナハトを好きになって言い寄るやつも居たけど全員勝負して負けちまってるから誰ともくっ付かず仕舞いなんだよ」
なんじゃそりゃー! てか今まで人間を敵視してきたのにその『人間』をいきなり家族とかいいのかよ…………。
「いや、俺が気絶させたのは偶然――」
「偶然だろうとなんだろうとそんな事はどうでもいいのよ、あの子は言い出したら聞かない子なの、どんな形にしても負けはまけ、だからあなたを婿にしようとするわ」
なにその身勝手!? 相手の気持ちは? 婿? 意味分からん、俺が結婚とかするはずない、人と関わるのが怖いのに恋人を通り越して結婚て…………。
「でも俺人間ですし、そんなものが混ざるのはみなさんだって嫌でしょう?」
エルフは他種族と共存を嫌う印象がある、人間が一族に混ざるなんて嫌なはず!
「少し複雑ではあるが、人間と言っても君は異界者であるし、ナハトにそれを言っても聞き入れはしないだろうから諦めている。というわけで! さっそく孕ませてきてくれ、私は早く孫が欲しい」
何言ってんのこの人! 親としてどうなんだソレは…………。
「そうよ! 私も早く孫の顔が見たいわ! 偶然でも何でもいいから早くやってきて頂戴、とりあえず五人位は欲しいわ、こんなに待たされたんですもの、どんどん作って頂戴ね」
なにそのハードワーク!? だ、駄目だこの両親……ライルさんかミーニィさんに助けを求めようと視線を向けた。
「村の人たちだって人間なんかが入ってきたら嫌がるでしょう?」
「あ~、そんな目で見られても無理だ。あいつは言い出したら絶対に聴かない、強情っ張りで有言実行だから誰が何を言おうとワタルを婿にしたがる。村のやつなら誰だってそれを知ってるから諦めるだろうさ」
「だよねぇ~、子供の頃に昔話を聞いて、自分も魔物を倒したい! って言って二ヶ月位行方不明になった事とかもあるもんねぇ」
子供の頃に二ヶ月も行方不明ってどんだけ無茶苦茶な人なんだよ!?
「あったあった! 遠くの雪山まで魔物狩りに行っててひと月位山に籠ってたってやつな! 帰って来た時はもう死んだと思われてたやつが魔物の首をいくつかぶら下げて戻ったから大騒ぎになったよな」
昔話に花を咲かせているが……なんだよそのワイルドな子供時代は!? 子供の頃に魔物の居る雪山にひと月籠るとか意味が分からん!? 俺そんな相手と結婚させられそうになってんの!?
「いや、嫌です! 俺には結婚する気はありませんから! 帰らせてください!」
もぉうわけ分からん、とりあえずみんなの所へ帰りたい、ここはダメだ。みんなの所へ戻ったらさっさと出て行く方法を考えよう。
「な!? 何を言っている! 何が不満なんだ、我が娘ながら妻に似て美しく育っているし胸だって大きいぞ! 村の男には何人にも言い寄られ挑戦者も多かったが結局誰ともくっ付いてないから処女で新品だぞ!」
もうやだー、エルフのイメージがぁ、こんなのエルフの族長が言う言葉じゃないだろ…………どんだけ自分の娘を男とくっ付けたいんだよ。
「…………あ~、族長、この子相手が居るのかもよ? 死にかけた時に助けてくれた娘、ナハト純情だから初めての婿候補に相手が居たりしたら二度と男とくっ付かないかも?」
「私の身体は未来の夫のモノだから触れた奴は殺すって言ってるもんなぁ、昔やらかして死にかけた奴いたし」
怖い恐い! だから森を移動中誰も代わってくれなかったんだ。
「それはいかん! あの娘さんには諦めてもらう様に説得をせねば、諦めてくれない時は……」
諦めてくれない時は、ってなんだよ!? リオに何する気だこのオヤジエルフ!
「リオは関係ないです。記憶見たでしょう? 恋人でもなんでもないです」
変な事に恩人を巻き込んで堪るか!
「なら何故拒否する、良い女が自分を求めているんだぞ、応えるのが男の甲斐性だろう?」
「嫌なもんはイヤなんです!」
「ん~、あの娘が違うとするとナハトを圧倒してた娘かなぁ? もしかしたらこの子ちっちゃい娘が好きなのかも? 混血者の村でも小さい娘たちとよく一緒に居たみたいだったし」
ここでもロリコン疑惑ですか!?
「な、なん、だと…………あれ程たわわに実ったのに娘じゃダメだというのか、まさか小さい方が良いなんて言う男が居ようとは…………」
族長が崩れ落ちた。俺なにも言ってないんですけど…………エルフの間じゃロリコンは珍しいのな、俺はロリコンじゃないけど。
「大きいのもいいものよぉ、ほら、こうすると心地良いでしょ?」
ナハト母に抱きしめられて胸に顔が埋まる。凄過ぎです、でも放して、身体がどんどん痺れていく、全く力が入らない、身体がだらんとして軟体生物にでもなったみたいだ。
「仕方ない…………」
お? 諦めてくれるか? なら早く解放してくれ、身体が動かないって感覚は気持ちが悪い。
「せっかく大きく実ったのにもったいないが、ナハトを縮めてあの少女より小さくしてもらおう、それなら彼も満足だろう」
何言い出してんだよこの人はさっきから!?
「娘を小さくするとかどんだけ必死ですか…………」
「必死にもなるわ! 村の男は全滅したから他所の集落からも呼び寄せても上手くいかず、それを何度も繰り返しても成功しない、やり方を変えて妻がその者の良さを伝える作戦に切り替えたが自分に勝てる様な男でなければ嫌だと聞く耳を全く持たず…………もう私は嫌なんだ!」
子供がいつまでも独り身で居るというのは親からしたら心配なのかもしれない、だからといって俺が結婚するつもりはないが。
「もう嫌なんだ、村の者の孫自慢、曽孫自慢に玄孫自慢と来孫自慢、最後に昆孫自慢! 何故ウチの娘は子供は疎か恋人も作らないのに周りはホイホイ子供が生まれるんだぁあああ! 私だったかわいい孫をもって自慢したい! 娘があれだけ美しいんだ、孫だってその先だってかわいいはずなんだ! そしてダグラスの娘より先に孫を作ってもらってやつに自慢するのだ!」
さっきの俺の少しの同情を返してくれ、結局孫自慢したいだけか! それにしても曽孫の後なんて初めて聞いたぞ、流石長寿……やしゃごにらいそんにこんそん、字が分からんな。
「ねぇあなた、結婚が無理ならとりあえずウチの娘に種を仕込むだけっていうのはどうかしら? エルフの女を抱ける人間なんてあなたが初めてだと思うわよ。何発か仕込んでくれれば当たるでしょう? ね? 人助けだと思って」
母親もぶっとんだ事言い始めた!? なにこの家族…………? 俺の家も一般的な普通の家族とは言い難いから普通の家族が分からないが、これが普通の家族じゃないのだけは分かる…………。
「いや、好きでもない相手とそういう事をするのはちょっと、というかかなり抵抗が」
「そこをなんとか! あなただって男ならそういう欲望はあるでしょう?」
そりゃ異性に興味が全くないという変わり者ではないけど、興味よりも人と深く関わる恐怖の方が断然デカい、だから無理だ。
「…………」
「ふむ、よし分かった! 我々が少し性急過ぎた様だ」
あれが少しぃ? 無茶苦茶言ってたじゃないか。
「せっかく候補が現れたんだ。ここはじっくりいこう、ナハトが起きた後話をして娘を知ってもらえば彼の気持ちも変わるかもしれん、ナハトとて自分に勝った男になら媚びて蠱惑するはずだ。あれだけ待ったんだ、もう少し位待ってみようじゃないか」
いい感じにまとめようとしてるけど、言ってる事大して変わってないよな、それに俺出て行くって言ったのに…………。
「それじゃそういう事で、ワタルの仲間の滞在も了承って事でいいですか?」
「そうだな、彼がここに居てくれるならそれも認めよう」
なんだろう、最初はこうなる様にって動いてたのにあまり嬉しくないんだけど。
「なら俺はひとっ走り海岸にワタルの仲間を呼びに行きます。倒れてたのも居るし運んでやらないと」
「それなら俺も――」
「ナハト運んで疲れただろ? それにお前その状態じゃ当分動けないぞ」
あ…………これいつ治るんだよぉ!?
「あの、まだ能力使ってるんですか?」
「いいえ、もう解いてるわ、それでもしばらくは動けないでしょうけど、せっかくだからこのまま大きいのの良さを分からせながら記憶を覗かせてもらってもいいかしら? 私もナハトが負けるところを見てみたいわ」
「お好きにどうぞ…………」
もうどうだっていい、今日は疲れた、エルフがこんなに下世話な感じだったなんて…………。
え? なんでこの人自分の娘が負けた事を喜んでんの? さっきまで睨んできてて怒ってた雰囲気どこ行った!?
「長かったねぇ~、あの宣言から百十五年だもんねぇ、私なら飽きてるよ」
「まぁそこはナハトだからとしか言いようがないな、その上誰も勝てないし」
「ホント村の男たちの情けないこと…………」
なにこの空気、敵意無しで安堵したって感じじゃない、負けるのを待ってたみたいな言い方だ。なんか面倒事じゃないだろうな? この世界に来てから面倒事ばっかりだったんだ、そろそろ休憩させてくれてもいいだろ。
「ええっと、とりあえずこの大陸に居ても大丈夫でしょうか? 人間を見るのが不愉快だというならこの村付近には近付かない様にして、海岸にある船を住居代わりにしますので、安全……というか襲わないって約束をもらえませんか?」
先ずは安全第一、交流で面倒事が起きそうならこの大陸で帰る方法を探すってのは諦めて滞在していられる間にどうにか船を操れる様になって、中央の大陸、クロイツを目指す方向で…………最悪優夜の能力で海を凍らせて徒歩で行くか。
どちらにしてもある程度の時間が必要だ。船なら操船技術の習得(出来るかどうかは分からん)徒歩なら優夜の能力の訓練、毎回あんな無茶苦茶やられたら俺も紅月も参ってしまうし、使う度に倒れられるのも困る(氷の槍騒動の後優夜は意識を失って倒れた)本人が全く加減出来てないんだろう、俺も最初は電撃の操作が出来なかったし訓練次第でどうにかなると信じたい。
「それに俺は長居をしようとも思ってないのである程度の期間をいただければどうにかして別の大陸に行くつもりで――」
「それはいかん!」
え、船での海岸滞在も許されない感じか? せめて能力を使うと暴走する優夜をどうにかまともに制御出来る様になるまでの訓練期間は欲しい。海に出て何かの拍子に能力の暴発をされたら堪ったものではない。
「あの、せめて優夜の能力が制御出来る様になるまでは滞在を許してもらえませんか? 能力の暴発も怖いですし、俺たち船を動かした事もないので出て行くにしても少し練習しないと――」
「あ~、そうじゃないよ。君にはここに居てもらわないと困るって意味だよぉ~、安全な人間なら私も興味あるしぃ」
そう言ってミーニィさんが俺の胸に指を這わす。
「や、止めてください」
「えぇ~、ケチぃ~、私にもしていいから――」
「ミーニィ、その人間へ手を出すのは止めなさい、手を出すようなら昼夜問わず声を送り続けるぞ? そうだな、世界の歴史を延々と語るというのはどうかな?」
「うへぇ~、年寄りの長話なんて聴きたくないよぉ~」
族長の言葉で俺から手を離したけど、さっきのはどういう意味だ? 居てもらわないと困る? 居たら困るではなくて? それに声を送るってどういう事だ?
「族長の能力は見知った相手ならどんなに離れていても自分の声、というか言葉を伝えたり、対象と会話出来るってものなんだ。送るだけなら知ってるやつ全員に一気に伝える事も出来るらしい」
ライルさんがコソッと教えてくれる。
やっぱり攻撃的な能力ばっかりというわけではないみたいだな。でも今は居てもらわないと困るっていう理由が知りたい、今まで撃退してきた『人間』が敵意が無いだけで居てもらわないと困るって存在に変わるのはおかしいだろ。
「さっきの、居ないと困るってのはどういう意味ですか? 居たら困るってのなら分かりますけど、居ないと困るってのは理解出来ません」
『…………』
なんだ? 三人が黙り込んでニヤニヤし始めた。
…………もしかして人間を喰うとか? そこそこの能力を持ってる覚醒者を喰って力を取り込む、みたいな…………逃げないとヤバいか? でも逃げるの無理だろこの状況、相手は自分より身体能力が圧倒的に上、そんな存在が三人、外に出ればもっと居る。オマケに俺は歩き通しでバテている…………マジか、この世界に来て最初の頃に思った喰われ死にですか!? 食人エルフ…………そういえば何かでエルフは他種族に対して残酷だ、みたいなのを読んだ覚えがあるような? ……逃げよう、今すぐに! 全身から放電してたら捕まる可能性は減るだろ。
「えっと、俺そろそろお暇しよ――」
「逃がすと思っているのかね? 私はずっと待っていたんだ、決して逃がさないとも」
っ!? やっぱり穏便にはいかないのか、絶対に喰われてたまるか!
「絶対に逃げ切る! 喰われ死になんてごめんだ!」
『喰われ死に?』
剣を抜き、外へ出ようと玄関へ走る。
「ただいま~」
「って、うわっ!?」
扉を突き破ろうと突っ込もうとしたら扉が開いてナハトさんに似た人が入って来て、そのままその人に突っ込んでしまった。
「きゃあっ! もう! なあに? いきなり……あら人間」
「レイア、そのまま捕まえなさい! その人間がさっき話したナハトを倒した人間だ!」
やっぱりそれが理由か、さっき笑ったのは意味不明だったけど、捕まえて復讐する気だ!
「まあ! それなら絶対に逃がさないわ!」
「ふぐっ!」
捕まる、というか抱き付かれた。なにやってんのこの人!? ただいまって事はこの家の家族だろ? なんで家族の仇に抱き付く!? もう意味分からん、とりあえず気絶させて逃げないと!
「あれ? なんで?」
力が使えない、というか身体からも力が抜けていって上手く動かない。
「ふふん、妻の能力は触れた相手の感覚を麻痺せるというものだ。相手の身体の自由を奪うのはもちろん、能力を使う感覚も麻痺させるのでしばらく君は能力を使えないぞ」
なんつぅ厄介な相手に突っ込んだんだよ俺は! 自爆じゃないか!
「ふふふっ、ぜっったいに! 逃がさないわ、これを逃したら次がいつになるか分からないもの」
いつになるか分からない、やっぱり覚醒者を喰うのか? この大陸に来る人間は混血者が殆どだから覚醒者が珍しいんだ。
「ああ~、長かったわぁ~、一時期はもう無理なんじゃないかと諦めてさえいたのに、こんな事ってあるのねぇ」
そう言ってぎゅむっと抱きしめられる。胸デカッ、柔らかっ! でも息が出来ない、すげぇ力、なにこの死に方……凄く複雑だ…………。
「今日から家族よ、よろしくね」
「は? はぁあ!?」
家族? なにそれ? おいしいの? 意味が分かんねぇ!
「レイアさん、あんまり抱き締めると胸で窒息するんじゃない? あと私にも貸してほしいなぁ」
「死なれたら困るわね、それと貸すのはダメよ。この子はウチの子よ」
窒息は免れた……でも、うちの子とか意味分からん、なんなんだこの状況は!?
「そうだ、漸くナハトを倒した男が現れたんだ、手を出されたら困るよミーニィ、私は早く孫の顔を拝みたいんだ!」
ま、孫ぉ?
「あの、一体どういう…………?」
「ワタルが気絶させたナハトはガキの頃に、弱い男とは一緒にならない! って宣言してな、そっから百十五年恋人も作らず独り身なのさ、ナハトを好きになって言い寄るやつも居たけど全員勝負して負けちまってるから誰ともくっ付かず仕舞いなんだよ」
なんじゃそりゃー! てか今まで人間を敵視してきたのにその『人間』をいきなり家族とかいいのかよ…………。
「いや、俺が気絶させたのは偶然――」
「偶然だろうとなんだろうとそんな事はどうでもいいのよ、あの子は言い出したら聞かない子なの、どんな形にしても負けはまけ、だからあなたを婿にしようとするわ」
なにその身勝手!? 相手の気持ちは? 婿? 意味分からん、俺が結婚とかするはずない、人と関わるのが怖いのに恋人を通り越して結婚て…………。
「でも俺人間ですし、そんなものが混ざるのはみなさんだって嫌でしょう?」
エルフは他種族と共存を嫌う印象がある、人間が一族に混ざるなんて嫌なはず!
「少し複雑ではあるが、人間と言っても君は異界者であるし、ナハトにそれを言っても聞き入れはしないだろうから諦めている。というわけで! さっそく孕ませてきてくれ、私は早く孫が欲しい」
何言ってんのこの人! 親としてどうなんだソレは…………。
「そうよ! 私も早く孫の顔が見たいわ! 偶然でも何でもいいから早くやってきて頂戴、とりあえず五人位は欲しいわ、こんなに待たされたんですもの、どんどん作って頂戴ね」
なにそのハードワーク!? だ、駄目だこの両親……ライルさんかミーニィさんに助けを求めようと視線を向けた。
「村の人たちだって人間なんかが入ってきたら嫌がるでしょう?」
「あ~、そんな目で見られても無理だ。あいつは言い出したら絶対に聴かない、強情っ張りで有言実行だから誰が何を言おうとワタルを婿にしたがる。村のやつなら誰だってそれを知ってるから諦めるだろうさ」
「だよねぇ~、子供の頃に昔話を聞いて、自分も魔物を倒したい! って言って二ヶ月位行方不明になった事とかもあるもんねぇ」
子供の頃に二ヶ月も行方不明ってどんだけ無茶苦茶な人なんだよ!?
「あったあった! 遠くの雪山まで魔物狩りに行っててひと月位山に籠ってたってやつな! 帰って来た時はもう死んだと思われてたやつが魔物の首をいくつかぶら下げて戻ったから大騒ぎになったよな」
昔話に花を咲かせているが……なんだよそのワイルドな子供時代は!? 子供の頃に魔物の居る雪山にひと月籠るとか意味が分からん!? 俺そんな相手と結婚させられそうになってんの!?
「いや、嫌です! 俺には結婚する気はありませんから! 帰らせてください!」
もぉうわけ分からん、とりあえずみんなの所へ帰りたい、ここはダメだ。みんなの所へ戻ったらさっさと出て行く方法を考えよう。
「な!? 何を言っている! 何が不満なんだ、我が娘ながら妻に似て美しく育っているし胸だって大きいぞ! 村の男には何人にも言い寄られ挑戦者も多かったが結局誰ともくっ付いてないから処女で新品だぞ!」
もうやだー、エルフのイメージがぁ、こんなのエルフの族長が言う言葉じゃないだろ…………どんだけ自分の娘を男とくっ付けたいんだよ。
「…………あ~、族長、この子相手が居るのかもよ? 死にかけた時に助けてくれた娘、ナハト純情だから初めての婿候補に相手が居たりしたら二度と男とくっ付かないかも?」
「私の身体は未来の夫のモノだから触れた奴は殺すって言ってるもんなぁ、昔やらかして死にかけた奴いたし」
怖い恐い! だから森を移動中誰も代わってくれなかったんだ。
「それはいかん! あの娘さんには諦めてもらう様に説得をせねば、諦めてくれない時は……」
諦めてくれない時は、ってなんだよ!? リオに何する気だこのオヤジエルフ!
「リオは関係ないです。記憶見たでしょう? 恋人でもなんでもないです」
変な事に恩人を巻き込んで堪るか!
「なら何故拒否する、良い女が自分を求めているんだぞ、応えるのが男の甲斐性だろう?」
「嫌なもんはイヤなんです!」
「ん~、あの娘が違うとするとナハトを圧倒してた娘かなぁ? もしかしたらこの子ちっちゃい娘が好きなのかも? 混血者の村でも小さい娘たちとよく一緒に居たみたいだったし」
ここでもロリコン疑惑ですか!?
「な、なん、だと…………あれ程たわわに実ったのに娘じゃダメだというのか、まさか小さい方が良いなんて言う男が居ようとは…………」
族長が崩れ落ちた。俺なにも言ってないんですけど…………エルフの間じゃロリコンは珍しいのな、俺はロリコンじゃないけど。
「大きいのもいいものよぉ、ほら、こうすると心地良いでしょ?」
ナハト母に抱きしめられて胸に顔が埋まる。凄過ぎです、でも放して、身体がどんどん痺れていく、全く力が入らない、身体がだらんとして軟体生物にでもなったみたいだ。
「仕方ない…………」
お? 諦めてくれるか? なら早く解放してくれ、身体が動かないって感覚は気持ちが悪い。
「せっかく大きく実ったのにもったいないが、ナハトを縮めてあの少女より小さくしてもらおう、それなら彼も満足だろう」
何言い出してんだよこの人はさっきから!?
「娘を小さくするとかどんだけ必死ですか…………」
「必死にもなるわ! 村の男は全滅したから他所の集落からも呼び寄せても上手くいかず、それを何度も繰り返しても成功しない、やり方を変えて妻がその者の良さを伝える作戦に切り替えたが自分に勝てる様な男でなければ嫌だと聞く耳を全く持たず…………もう私は嫌なんだ!」
子供がいつまでも独り身で居るというのは親からしたら心配なのかもしれない、だからといって俺が結婚するつもりはないが。
「もう嫌なんだ、村の者の孫自慢、曽孫自慢に玄孫自慢と来孫自慢、最後に昆孫自慢! 何故ウチの娘は子供は疎か恋人も作らないのに周りはホイホイ子供が生まれるんだぁあああ! 私だったかわいい孫をもって自慢したい! 娘があれだけ美しいんだ、孫だってその先だってかわいいはずなんだ! そしてダグラスの娘より先に孫を作ってもらってやつに自慢するのだ!」
さっきの俺の少しの同情を返してくれ、結局孫自慢したいだけか! それにしても曽孫の後なんて初めて聞いたぞ、流石長寿……やしゃごにらいそんにこんそん、字が分からんな。
「ねぇあなた、結婚が無理ならとりあえずウチの娘に種を仕込むだけっていうのはどうかしら? エルフの女を抱ける人間なんてあなたが初めてだと思うわよ。何発か仕込んでくれれば当たるでしょう? ね? 人助けだと思って」
母親もぶっとんだ事言い始めた!? なにこの家族…………? 俺の家も一般的な普通の家族とは言い難いから普通の家族が分からないが、これが普通の家族じゃないのだけは分かる…………。
「いや、好きでもない相手とそういう事をするのはちょっと、というかかなり抵抗が」
「そこをなんとか! あなただって男ならそういう欲望はあるでしょう?」
そりゃ異性に興味が全くないという変わり者ではないけど、興味よりも人と深く関わる恐怖の方が断然デカい、だから無理だ。
「…………」
「ふむ、よし分かった! 我々が少し性急過ぎた様だ」
あれが少しぃ? 無茶苦茶言ってたじゃないか。
「せっかく候補が現れたんだ。ここはじっくりいこう、ナハトが起きた後話をして娘を知ってもらえば彼の気持ちも変わるかもしれん、ナハトとて自分に勝った男になら媚びて蠱惑するはずだ。あれだけ待ったんだ、もう少し位待ってみようじゃないか」
いい感じにまとめようとしてるけど、言ってる事大して変わってないよな、それに俺出て行くって言ったのに…………。
「それじゃそういう事で、ワタルの仲間の滞在も了承って事でいいですか?」
「そうだな、彼がここに居てくれるならそれも認めよう」
なんだろう、最初はこうなる様にって動いてたのにあまり嬉しくないんだけど。
「なら俺はひとっ走り海岸にワタルの仲間を呼びに行きます。倒れてたのも居るし運んでやらないと」
「それなら俺も――」
「ナハト運んで疲れただろ? それにお前その状態じゃ当分動けないぞ」
あ…………これいつ治るんだよぉ!?
「あの、まだ能力使ってるんですか?」
「いいえ、もう解いてるわ、それでもしばらくは動けないでしょうけど、せっかくだからこのまま大きいのの良さを分からせながら記憶を覗かせてもらってもいいかしら? 私もナハトが負けるところを見てみたいわ」
「お好きにどうぞ…………」
もうどうだっていい、今日は疲れた、エルフがこんなに下世話な感じだったなんて…………。
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