黒の瞳の覚醒者

一条光

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四章~新天地へ~

記憶の確認

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「彼がそうなのか? 見たところ人間の様だが……人攫いを処理してきたのではなかったのかね?」
「ええ、処理はしてきました。彼、ワタルとその仲間は事情があってこの大陸に来ざるをえなかったそうです。我々エルフ、獣人とも敵対するつもりはなく、この土地での安全な滞在を望んでいます」
「そんな言葉を信用して村へ連れてきたのかね? 不用心過ぎではないかな。今まで人間が何をしてきたかよく知っているはずだろう」
 出てきたエルフは俺をひと睨みした後は完全に無視してライルさんと話をしている。これヤバいだろ、話を聞いてもらうどころじゃない気がする、今すぐ排除されてないだけでも不思議なくらいだ。
「でも、ナハトを倒したやつですよ? それに倒したと言っても怪我はさせずに気絶させているだけ、あの状況で害意があったのなら、人間にとって特に厄介なナハトは殺されていましたよ。でも、言葉だけでは信用できないというのも当然ですから、その件について確認する為にミーニィを呼んで来ようと思っています」
 ミーニィって人の能力で俺の言う事を信じてもらえる様になるんだろうか?
「ううむ、本当にこの人間が倒したのか? 黒い瞳をしているという事は覚醒者なのだろうが、多少強い能力を持っていたところで身体能力の劣る人間にナハトが気絶させられる事など――」
「それも含めてミーニィに確認してもらえばいいじゃないですか、族長だって気になるでしょう?」
 そこは確認しなくても…………俺たちに敵意がないって分かってもらえても、娘を攻撃した奴を受け入れるなんて絶対に無理だろ。
「なら急いで呼んできてくれるか、君は中で待つように」
 また睨まれた。といあえず娘さんを背負ってる状態もよろしくない、人間なんかに触れられたくないだろうし、中に入ってさっさと下ろさせてもらおう。
「それでは行ってきますので」

 中に通されて、ナハトさんは自室のベッドに寝かせて今はリビングらしき場所でテーブルを挟んで族長さんと対面中、何かを聞かれるわけでもなく、ひたすらに睨み付けられる。
 おち、落ち着かねぇ! ライルさんが人間は敵という認識だって言ってたんだから、敵が自宅に居るのにこの対応なんだからかなり穏便な対応をしてもらってるんだろうけど、この後の話が上手くいくイメージが全く出来ない。
『…………』
 気まずいです! 自分から言い出した事だけど、よく考えたら俺って人と話すの得意じゃない…………不安しかなくなってきた。

「族長、ミーニィを連れてきました」
「ミーニィ、よく来てくれた。早速ですまないが――」
「あっはっはっはっは~、ぞくちょ~、ナハト人間に気絶させられたんだって? 面白い事になったね~。へぇ~この子がそうなんだ、結構かわいい顔してるぅ、もっと野蛮な感じかと思ってたのに、ナハトこんな子に負けちゃったんだ。それにしてもじっくり人間見るの初めて~」
 ナハトさんと同じく長い銀髪をした蒼い瞳の露出の多い恰好をしたダークエルフの女の人が入ってきた。
 なんつうか、奔放な人だなぁ。いきなり族長の娘が気絶させられた事を笑いながら入ってきたよ、人間が珍しいせいか近付いて顔を覗きこまれる、近いちかい! そんなに近付くと谷間が!
「ん? 気になるぅ~?」
「い! いえ!?」
 こんな時に何見てんだ俺は!? 悲しい男の性…………。
「んっん! 人間が珍しいのも分かるが早く確認の方を頼めないだろうか?」
「あ~、そうだね~、私も興味あるし、それじゃあ失礼して」
 そう言ってミーニィさんが俺の手を握っ――。
「っ!? あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあああ」
 突然の感覚に姿勢を保っていられず椅子から崩れ落ちた。なんだ今のは? 小さな頃から最近の記憶までが無茶苦茶に頭の中で再生された。
「あっ! ごめんごめん、人間だとこの方法は駄目なのかぁ」
「今のは一体…………?」
「ん~、私の能力は触れた相手の記憶とその記憶に纏わる感情を知る事が出来るってものなんだけどねぇ、今のは本のページをパラパラ~って一気にめくるみたいに君の記憶を流し見しようとしたんだけど、人間の君には負荷が強いみたい」
 記憶を覗かれるって…………見られたくない過去の事も見られてしまうんだろうか?

「あぁ~、そんなに警戒しなくても大丈夫だよぉ。君が、どうしても見られたくない! って記憶は強く拒んでくれれば見えないから、だからこの世界に来てからの事とかを思い浮かべてくれないかな? 思い浮かべてもらえれば本にしおりを挟むみたいにその部分から簡単に記憶を覗けるから」
「本当に拒めば覗けないんですか?」
 この世界に来てからの記憶で見られて困る様なものは殆どない、そう『殆ど』あの少女の事と報復については知られたくない。知られて酷く立場が悪くなる様な事はないだろうが、自分の罪を人に知られるのが怖い。
「んふ~、男の子だもんねぇ~見られたくない記憶の一つや二つあるよねぇ、私は見ても気にしないけどぉ、寧ろ見たい! でも拒んでくれたら見えないよ、無理に見ると相手の精神壊しちゃうし」
 なに言っちゃってんのこの人…………でも、見えないのか、ならいいのかな。
「この世界に来てからの事を思い出せばいいんですよね?」
 手を差し出しながら最終確認。
「そそ、そうしてくれれば無理な負荷も掛からないと思うし、じゃあ、はい、族長もどうぞ」
 なんで族長にも手を伸ばしてるんだ?
「あ、覗く対象とは別に私に触れてたらその人も一緒に対象の記憶を覗けるしその時の感情も分かるんだよ。族長にも確認してもらった方がいいでしょ?」
「まぁ、そうですね。話を聞いてもらうにはその方が良いでしょうし」
「他所の大陸の様子を見る機会なんてそうそう無いから俺も一緒にいいか?」
 どうせ他人に見られるんだ、今更二人も三人も変わらないだろう。
「いいですよ」
 こうして俺の記憶の確認作業が始まった。

「あ~、やっぱり突然別の世界に来たら信じられないよねぇ、それにしてもアドラ大陸の人間は今もこんな感じなんだねぇ、人攫いに来てる時点で分かってはいた事だけど、異界者にも当たりが厳しいなぁ」
 頭の中で記憶が再生されていく、最初の草原、初めて見た異世界の町、逃げ込んだ山、井戸で水を飲んだ村。
「これ殆ど死にかけてるじゃないか、こんな土地でよく生きてられたな――なるほど、この女のおかげか、アドラにもこんな考えを持つ者も居るのか…………そしてあの娘か、最初は敵対していたんだな」
 リオに出会った森、リオの事、フィオ達盗賊の襲撃、盗賊の隠れ家での事、そこからの脱走、あの町の前での記憶は見られない様に強く意識した。そのおかげで再生される事はなかった。日本人の子孫の村での事、報復の記憶は飛ばして港町へ、リオ達との再会、クラーケン退治。
「自分より身体能力の優れている混血者に挑むなど無謀だな、生きているのは本当に運がよかっただけでしかない」
 族長さんなんか棘あるなぁ、娘を倒したにっくき相手だからだろうけど。
「え~、恩人の為に命を投げ出して挑むなんてかわいいと思うけどなぁ、それにしても再会してこの反応、相手ありかぁ~、それはそれで面白いけどねぇ~」
「いや、二人ともそんな事よりワタルの能力の使い方! 剣と雷でこんな使い方が出来るなんて…………それに人間の身でクラーケンを一人で討ち取ってしまっている」
 能力の使い方に関する記憶の再生は拒むべきだったか? でも覚醒者である以上能力の確認が出来ていないと問答無用で追い出される可能性もあったし…………。

 海から上がった後の戦闘、収容所での出来事、そして密航。
「能力が使えなくなってるのに、また捨て身で女の子を助けようとするなんて素敵よ」
 そう言って優しい笑みを向けられた。ん~、この人は人間に対する偏見はないんだろうか? それに無我夢中でやってた事だから褒められても困る。
「あの板はなんだ? 異世界の道具か? 中に見た風景を切り取って保存したり、音楽を聴く事が出来るなんて、異世界には魔法があるのか?」
 魔法って概念はこの世界にもあるんだな…………機械技術なんだけど、機械文明がないと理解出来ないよな、それに貴方たちの能力の方が魔法みたいですよ!
 最後に海岸での戦闘の記憶が再生される。
「なんだこの少女は! ナハトと真っ向から打ち合っている!?」
 娘への信頼からか、族長の驚きは相当なものの様だ。
「やはり何度見てもこの少女は凄まじいな、混血の者は身体能力が高く生まれてくる事があるのは知っていたが、今までこんなやつは現れなかった。完全に規格外の能力だ」
「うっひゃ~、こんなにちっさいのにナハトを圧倒してるぅ、しかも片手はこの子を掴んだままでなんて、ナハトにしたら屈辱でしょうねぇ~、年下の、こんなに小さい娘に圧倒されるなんて…………? あれ? 倒したのは君じゃなかったの?」
 まぁ、ここまでの記憶を見てたらフィオがやったって思うのが普通だな、気絶させたのだってフィオの不意打ちのおかげだし…………。
「っ!? この、空を覆う氷の槍は……収容所で出会った少年の力か? 異界者は力を得たばかりだと制御出来ない者や好戦的になる者も居るがこれは…………」
 っ!? 好戦的になる? 自分の意志とは関係無しにか? なら俺が人を殺したのは? 自分の意思か? それとも能力に驕った愚かな心か? …………紅月は? 敵を焼き尽くす非情さは能力を得た変化なのか?

「おぉ~、でもすぐにそれを止める為に行動してくれたのね~。族長、やっぱりこの子たちにはエルフや獣人に対する害意は無いですよ。怪我人、死人が出ない様にって、こんなに必死になってくれてるんですよぉ? ――うっわぁ~、すんごい爆発、これ怪我人出なかったの?」
「ああ、ナハトが邪魔するなって言うもんだから殆どの者は林に居たし、結構上空での爆発だったからな、せいぜい爆風で転んだり砂が目に入ったとか程度だ」
「そう、それなら安心ね、よかった…………それにしても凄い煙――あんな爆発があってもお構いなしで斬りかかってるわね」
「これは俺も知らない状況だな、煙と砂塵で何も見えなかったし」
 戦闘の最後の、ナハトさんが斬りかかって来た時の記憶、斬られそうになった俺の目にフィオが映る。
「後ろを取られてるのに気付いてないわね」
「ああ」
「…………」

 フィオの回し蹴りの不意打ちでバランスを崩したところへの体当たりによる電気ショック、その後のフィオとの会話とライルさんとのやり取り。
「確かに……この子が気絶させてるわね」
「あの少女の不意打ちがあったというのはこういう事か」
「本当にナハトは負けたのだな…………」
 族長さんが黙り込んでしまった。
 これで敵意も害意もないのは分かってもらえただろうけど、この反応は…………安全は約束してもらえるかもしれないが、帰る方法云々は難しいかもしれない。
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