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終章~人魔大戦~
永遠の誓い
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「今日は久しぶりにみんな集まりましたね。腕を振るいましたよ、新しい娘も増えましたし」
帰還の手伝いをしていると俺とティナは家を空ける事も多く、戻ってもティナは毒島との約束の為に奔走している。
ちなみに約束の一つの母の捜索だがテレビで呼び掛けるとすぐに連絡が来て無事に再会が果たされた。そのまま日本で暮らすのかと思ったが功労者としての特例で母を連れてアドラに戻ってきた。望まずとも長く暮らしたアドラに思うところがあるようで、皇女を放っておけないらしい。
アドラとエルフの間にはまだ大きな進展はない。互いに反感の方が多くある。それでも受け入れる民も居たり、皇女とティナが互いの国を訪問するなど確かに変化を歩み始めている。
それを感じ取ってか意外な事に毒島が譲歩をしてきた。まだ交流は始まったばかりだというのに双子の引き渡しを通達してきたのだ。母と再会する事であいつも変化したのかもしれない。
導は双子の引き渡しの際には随分と機嫌が悪かった。あいつも日本には戻らずアドラで暮らす事を選んだようだ。好き勝手出来ていたアドラが変わる事に不満を抱きながらもそれなりの地位を得たようで帰るよりは贅沢が出来る事と、心酔する毒島のすることを見届けたいようだ。
ミシャも未だに親父さんが心配するため実家に捕まっている事が多く、リュン子も新たな世界で歩み始めたドワーフをまとめるソレイユの手伝いで忙しくこっちに来る事はなかった。だがようやく一段落して全員が家に揃った。
「みんな、話があるんだ」
『っ!』
「……俺は弱くて、情けなくて、無茶もするし暴走もする。ガキっぽいところだって多くあるし至らないところもある、迷惑だってかける。他に良い男なんていくらでも居るだろう……それでもこの想いは、この想いだけは絶対に誰にも負けない、誰よりもみんなを大切に想ってる。それに、もうみんなのあたたかさ無しだと生きていけそうにないんだ。だから、これからも俺の傍に居てほしい、一緒に幸せになってほしい。本当の家族になってください」
酔った時になんて言ったかなんて覚えていない。それでもその時もこのあたたかさを感じて――今は前以上のあたたかい気持ちに突き動かされて想いを告げる。
「改まって何かと思えば、そんな事決まっているだろう。私は最初から他の男など選ぶ気はないのだからな、私にはワタルだけだ」
何を今更と頬を染めたナハトがそっぽを向く。背けた顔はこの上なくにやけていた。
「妾もなのじゃ! あれだけ何度ももふもふされて今更他の男など選べるはずないのじゃ。旦那様でなければ駄目なのじゃ」
自分の尻尾を抱いたミシャがもじもじしながら見つめてくる。確かに! ケット・シー的には俺がきっちり責任取らないといけない。親父さんともしっかり話し合おう。
「私もねぇ~、こんなに手のかかる可愛い子以外をってのは今更無理ね。何よりワタルの傍は色々あって楽しいもの、独り占め出来ないのが玉に瑕だけれど、こういう形があってもいいわよね」
凭れて頬をつついてくるティナはからかうように笑顔を見せ、他の家族という形とは違う俺たちの形を受け入れる。
「儂は元々主の命尽きるまで共に居る事を既に誓った身だからな。まぁ番になれるというなら願ってもない、雷帝二世が楽しみだな」
ニヤリと笑うクーニャは今にも脱ぎ出しそうだ。まだ違う、まだ早いぞ。脱ぎ癖はなくならんのか…………。
「あたしも、いいんだよな? すっごく嬉しいぞ。あたし達ドワーフを解放してくれた英雄が夫なんてみんなに自慢して回りたいぞ」
頷くと両の手で顔を覆い恥ずかしそうにリュン子が畳を転げ回っている。
「約束、守ってくれた。家族になれるの嬉しい」
あの時はまさか自分がこんな事を言うなんて思いもしなかった。フィオは別の、本当に好きな相手を見つけるとすら思っていた。分かっていなかったのは俺の方だったんだな。
ほにゃほにゃ笑顔のフィオは嬉しさの抑えが利かないらしく身体を揺らしている。
「私も、私もよね? 心から嬉しいわ。こんな生き方が出来るなんてアドラに居た時は考えられなかった。そのアドラすら変わっていく……ワタルに拾われて幸せよ。ワタルの事、みんなの事本当に大好きよ」
最後は耳をすまさないと聞こえないほどだったがここに居る全員が確かにアリスの心からの言葉を聞いただろう。
「ワタル様、約束を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、新婚旅行はみんなで世界巡りだな」
「はい! みんなで、家族で色んなものを見ましょう」
微笑むクロから滲み出るあたたかさは心から喜んでくれているのが感じ取れて同じ気持ちを共有している事が嬉しくなる。
「クロエ様はとんでもない方に攫われてしまったものですね。あの城から連れ出し、色々な世界を見せてくださる……女好きなのは問題ですが、本当に良い方に巡り会えて……」
「もうシロナったら、自分の事でもあるのよ? もう主従ではなく家族になるのだから私最優先の考えはやめないと、シロナも幸せにならないといけないのだから」
「ずびばせん……私も心から幸せだと感じています」
涙ぐむシロはクロが幸せになるという喜びに震え彼女と抱きしめあっている。
「ワタルと出会ってから色んな事がありましたね。最初はただの好奇心と親切心で、どうにか救ってあげたかった。それが今度は私が救われて……何もかもを失った私にはワタルが希望でした。だからそのワタルが私を好きだと言ってくれた時は本当に嬉しかった。その後の重婚問題には驚きましたけど」
酔った勢いでほんとごめんなさい!
「でも今ではそれで良かったと思えるんですよ。こんなにあたたかい居場所が出来ましたから、ありがとう。これからもよろしくお願いしますね?」
リオの笑顔がまぶしすぎて目を細める。これだけの女性と重婚なんて大それたことをそれで良かったと笑って受け入れてくれる大切な人たち……なんて恵まれているんだろう。幸せにしないといけない、それがこれからの人生の目標だ。
「私たち、も?」
「あぁいや、二人はその、俺の事分かんないだろうし気持ちの問題もあるから……あぁでもフィオとアリスと結婚したら姉妹の二人も家族だから全然ここに居ても――」
「駄目、なんだ…………」
「私たちは仲間外れってわけ? あんたが身請けしたんでしょ! 最後まで責任持ってよね! 私たちも! よ」
表情は変わらなかったが僅かに声のトーンが落ちたシエルを見たリエルが勢いで俺を踏み倒して無理矢理頷かせた。
「よかったな主、ロリロリハーレムと姉妹丼だぞ。大好物であろう?」
「いえーい――というか言い方!? こんなのでいいのか?」
こんなぐだぐだに身の振り方を決めていいのか……良いと言うなら全力で大切にするが。
「いい。フィオ達を見てたら良い人なの、分かる。嬉しいをくれるんでしょ?」
「そうだな……俺たちがお前達を大切にしてやる」
その言葉を聞いてリエルは顔を赤くする。
「私たちにあんたを選んで良かったと思わせなさい、後悔なんかさせたら二度と使い物にならないように握り潰してやる」
「ああ、ここで良かったって思えるくらいに大切にしてやる」
捲し立てる姉の照れ隠し、それを見てシエルが可愛らしい花笑みを見せた。
「しっ、仕方ないから大切にされてあげる。精々頑張るのね」
「私の事もたっぷり満足させてね?」
「いや、お前は違う」
「酷い!? ちゃんと初夜参加権をもらっているのに!」
それはそれ、これはこれ、アスモデウスの趣味嗜好はどうにも合わない。遊び回っていた事も含めてだ。
『女好きのワタルが拒否するなんて!?』
お前らなんて顔してるの!? 全員が驚愕に顔を強張らせている。俺にだって好みはあるんですよ!?
「なら今はいいわ。初夜に身体で堕とすからっ! 未経験のボウヤは百戦錬磨の技の前に屈するのよ」
結婚に際しての不安要素が……何でリオこんなこと許可したんだ。
アスモデウスとの関係に頭を悩ませつつ俺たちは結婚式の予定を決め始めた。
二十数年の人生の中でも忘れられない瞬間はそれなりにあるが、この瞬間がその最たるものではないかと思う。
聖樹の花が舞う式場に入場する十二人の花嫁、それぞれに合わせて秀麿がデザインしたという純白のドレスが今日という日の感動を引き立てる。
絶望して生きていた自分がこんな幸福を掴んだことが信じられなくて、壮大な夢オチじゃないかと太腿をつねると確かな痛みを感じた。
「なにやってるんですか? せっかくの晴れの舞台なんですから変な顔はやめてくださいね」
「いや、夢じゃないかと」
花嫁に囲まれる状況に緊張で固まる俺にリオは柔らかい微笑みを向ける。何でそんなに余裕なんだ。何の気負いもなく自然体で隣に立つ彼女に見惚れてしまう。
「もう、夢のはずないでしょう? 朝しっかり起こしたじゃない。また目覚めのキスでもしようかしら?」
「どうしてお前はそうスキンシップ過剰なんだ。もう少し我慢しろ」
しなだれ掛かろうとするティナを凛としたナハトがそっと引き剥がす。年長者も相変わらずの余裕というか……列席者から笑いが漏れている。
「それでは式を始めさせていただきます」
改めて見ると……人多っ! 知り合いだけ招待して静かに済ませるはずがクロイツ王が城でやれと言いだし、世界を救った英雄達のめでたい事だから国中に知らせなくてはと姫が言い。結果予定外に多くの見物人が来てしまったという。
注目され過ぎて落ち着かないというのにみんなは落ち着いている。
「ワタルがちがち」
「おう、鋼でも入ってるみたいだ。フィオ達は何で余裕なんだ?」
「ワタルしか見てないから。ワタルも私たちだけ見ればいい」
淑やかであり誇らしげでもあるフィオが笑いかけてくれた事で緊張が解けていく。なるほどね……確かに、余所見なんてしている場合じゃない。今ここに在る大切な人たちとのこの瞬間を目に焼き付けよう。
「新たな旅立ちの証として、あなた方には誓いの言葉を立てていただきます。あなた方はこれから寄り添い、辛い時は支え合い、喜びを分かち合い、互いを思いやり永遠に愛し続ける事を誓いますか?」
『誓います』
迷いなく俺たちの声は一つになった。
「本日あなた方はこの国中――いえ、ヴァーンシアの全ての人たちに祝福されて夫婦となりました。本当におめでとうございます」
進行役をしていた姫に合わせて大きな歓声が俺たちを包んだ。
「ワタル様のお父様にも見ていただきたかったですね」
「それは……」
そういう気持ちが全くないのかと言われると少し疑問だが……まぁいい、いつか目覚めたら少しだけ話でもしてみよう。
「如月さーん、おめでとう! 次は俺らの結婚式に来てくださいよー!」
めでたい事は続くというか、西野さんとソレイユ、宮園さんとラビ、遠藤とミア――そして天明とソフィアの結婚式も後日に控えているのだ。他にもヴァーンシアの人と親しくなり永住を決めた人が一定数居ておめでたが続くらしいと言っていたのは色々手広くやっている秀麿だ。
長くもあっという間の時間を終えて自宅へと戻った俺は早々にアスモデウスに捕まり寝室へと拉致された。
「ハァ、ハァ……さぁ初夜よ。絶対に堕としてあげるから……もう淫気全開よ」
「ちょっと待て! 何でお前が最初なんだ。どう考えても妻になった私たちの誰かが最初であるべきだろう」
「あらいいの? 経験も何もないあなた達は失敗しないかしら? せっかくの初夜を台無しにしないかしら? 私のお手本を見るべきじゃないかしら?」
「まぁまぁ、アスモも落ち着いて。先ずはリラックスするためにお茶でも飲みましょう?」
睨み合うナハトとアスモデウスを引き離してお茶を手渡すと二人とも大人しくなった。流石リオだな――。
「にしてもこのお茶変わった味だな妙な甘味もあるし」
「ロフィア様がくださったんですよ。何でも元気が尽きなくなるお茶だそうですよ」
それ男達が搾られ続けるのに使われてたヤバい薬!? クロこれ出したら駄目なやつ! というか飲んじゃったぞ!? あ、あぁ……不自然に身体が熱い、アスモデウスの能力と合わせてダメなスイッチ入ったんじゃないでしょうか! よく見ると全員そんな感じだな。クーニャなんて暑いからと既にすっぽんぽん。
「発表します。我慢に我慢を重ねてきた俺ももう限界です。これより獣モードに入ります。逃げたい場合はすぐに撤退してくれ……もう抑えられない――いいんだな?」
誰も動こうとはしない、ここまできてお預け食らうのは無理があるから嬉しいが、興奮で色々暴走しそうだ。
「ワタルお座りです。順番を決めるのでもう少し待っていてください」
顔を朱に染めながらも冷静を保とうとしているリオ達は正座したまま俺に手を向けてストップをかける。
「そうよ、一番は重要なんだから少し待って」
アスモデウスの淫気に当てられて身悶えするティナがじゃんけんを提案している。重要なのにじゃんけんなのか。
「ワタル……家族、作ろ?」
フィオの目がとろけている。俺よりヤバい娘いた! フィオの言葉で理性がぷっつりと切れてしまった。
「もう待ってられないんだー!」
とろけた彼女と一緒にみんなへと雪崩れ込む。熱すぎる夜が今始まる!
明け方、ようやく満足して微睡みに落ちたみんなを置いて俺は自分の熱を冷ます為に散歩がてら聖樹を上っている。
アマゾネスの薬とアスモデウスの淫気のコンボヤバ過ぎるだろ……熱は衰えるどころか更に燃え盛っているような……おかげで途中で力尽きるなんて情けない結果にはならなかったが。あれだけ相手して衰えないとは……身体が馬鹿になっている。
「ここで夜明けを迎えるのもいいかもなぁ――」
聖樹の高い枝の上から遠くの空が白み始めたのを眺める。今度はみんなで来るのも良いかもしれない。
「ワタル……さん」
「わっひゃい!? ってレヴィか、脅かすなよ。なんか懐かしいな……そういえば俺たち結婚したんだ。式に招待しようと思ったんだけど陣が使えなくなってて浮遊島に行けなかったんだけど」
「はい、陣は消してしまいましたから……それよりも結婚おめでとうございます」
どこか思い詰めた表情で俯いたレヴィは苦しげで、目眩でも感じているようによろよろと歩み寄ってくる。
「何かマズい事でもあったのか?」
「ワタルさん、私はあなた方に本当に感謝しています。喜んではいけない事ですが姉様にもう一度会えた。今度はその子と共に幸せに生きていくでしょう。それだけで私には感謝してもしきれない恩です」
矢継ぎ早に言葉を紡ぐレヴィがしなだれ掛かり不意討ちの口付けをしてきた。
「なっ、な、な、なにを……俺もう既婚者だから求愛されても応えられないというか――なんだこれ?」
どうしたものかと額に手を伸ばして違和感に気が付いた。右手が――いや、身体全体が徐々に光の粒子となって散り始めている。どうして? 何故分解されている? 何故レヴィが離れたのに進行していく?
「すいません。本当は一思いに消し去るのが思いやりだとは思うのですが……人やエルフの能力が精神の変化により、強化されたり変質して隠れた特性が現れるなどする事はご存知ですよね。一度腕を切り落とされた衝撃のせいか私の能力に変化が生じたようで一瞬とはいかなくなりました」
「そんな事よりどうしてっ? 何で俺をっ?」
「ハイエルフは異世界の脅威の排除を決定しました。心当たりは全くありませんか?」
あぁ……知っているんだ。ティアの行った世界の時戻し、戻した部分の記憶は消えると聞いたが、知覚できるハイエルフが居たんだろう。
だから、過去の過ちを繰り返さない為に、災厄を招く可能性のある脅威を排除する。
世界を繋ぐ者が居なくなれば脅威が訪れる事もない、か…………。
「ごめ……さい……本当に……ごめんなさいっ」
涙して蹲る彼女を睨むようにして佇むハイエルフが居る事に気が付いたが俺の視線に気付くと一瞬にして消え失せた。その間にレヴィもいなくなってしまった。
レヴィを責めても仕方がないのだろう。むしろ感謝すべきだ。戦いを終えた後すぐにでも消す選択が為されてもおかしくはなかった。それが今日まで生き残っていたのだから、恐らく抗ってくれたのだろう。それでも同胞の決定には逆らえなかったようだが。
脱力して座り込む。心残りはある。これから夢のような時間が続くと思っていただけに苦しくて堪らない、約束を、誓いを破ってみんなを置いていく悔しさ……世界すら呪いたい気分だ。でもそんな時間すら惜しい、せめてみんなの幸福を祈りたい。
もう走る為の足はない、顔を見に行くことは不可能だ。突然消えた俺をどう思うだろうか、悲しみに暮れるのか、裏切ったと恨み憎むのか、それとも忘れて新たに歩んでくれるのか。悲しいし悔しいが最後のを願うべきだろうな。
「家はあの辺りだよな……色んな事があった。でも、ヴァーンシアに来て幸せだった。ありが――」
「ワタ、ル……?」
身体も中程まで消えた所で背後から会いたくとも、これを知られたくなかった声が聞こえた。
「何、これ……どうして?」
声は掠れ、状況を理解した身体は震え、フィオは抑えきれなくなった悲しみを溢れさせる。
傍に居てと伸ばすその手はしかし俺に触れる事なくすり抜ける。
もう触れる事は――ぬくもりを共有する事は許されない。より一層の悲しみを溢れさせ散り行く光を集めようと必死に手を伸ばす。
「嫌、嫌っ! 行かないでっ! 一緒って言ったのに、誓ったのに……うそつき、うそつきっ! ワタル居ないと駄目なのに――」
もう俺には彼女を慰める為の腕も声もない。それでもフィオなら唇の動きくらい読めるだろう。
何を言うべきだ? 謝罪――違う、愛――消える俺が残すそれは呪いじゃないのか? 新しい幸せを……見つけてほしい。嫌われる方が、忘れられた方が――最後が、そんなものでいいのか? 俺は――。
愛してた。どうか幸せに。
「嫌っ! 行かないでっ! ワタルが私を変えたのに、好きも寂しいも知ってしまった。ワタルが居ないと幸せになんかなれないよ」
震える声も取り戻そうと伸ばす手も既に俺には届かない。
俺は声にならない言葉を残して吹き抜けた風に散らされながら朝の光に消えた。
気が付くと俺は見知らぬ交差点の真ん中でクラクションの嵐を浴びていた。
「あぁ……あああ……あああああっ!」
元々の特性なのか変質によるものか。レヴィの行った遅効性の分解は俺を元の世界に送還した。
なんて地獄だ……もう二度と会えないならば、一生会えないのであればいっそ死んでいたかった。誰も居ない世界で生きていくなんて辛すぎる。
俺の悲しみに当てられたように落ち始めた空の雫を浴びながら俺の慟哭がいつまでも響いていた。
帰還の手伝いをしていると俺とティナは家を空ける事も多く、戻ってもティナは毒島との約束の為に奔走している。
ちなみに約束の一つの母の捜索だがテレビで呼び掛けるとすぐに連絡が来て無事に再会が果たされた。そのまま日本で暮らすのかと思ったが功労者としての特例で母を連れてアドラに戻ってきた。望まずとも長く暮らしたアドラに思うところがあるようで、皇女を放っておけないらしい。
アドラとエルフの間にはまだ大きな進展はない。互いに反感の方が多くある。それでも受け入れる民も居たり、皇女とティナが互いの国を訪問するなど確かに変化を歩み始めている。
それを感じ取ってか意外な事に毒島が譲歩をしてきた。まだ交流は始まったばかりだというのに双子の引き渡しを通達してきたのだ。母と再会する事であいつも変化したのかもしれない。
導は双子の引き渡しの際には随分と機嫌が悪かった。あいつも日本には戻らずアドラで暮らす事を選んだようだ。好き勝手出来ていたアドラが変わる事に不満を抱きながらもそれなりの地位を得たようで帰るよりは贅沢が出来る事と、心酔する毒島のすることを見届けたいようだ。
ミシャも未だに親父さんが心配するため実家に捕まっている事が多く、リュン子も新たな世界で歩み始めたドワーフをまとめるソレイユの手伝いで忙しくこっちに来る事はなかった。だがようやく一段落して全員が家に揃った。
「みんな、話があるんだ」
『っ!』
「……俺は弱くて、情けなくて、無茶もするし暴走もする。ガキっぽいところだって多くあるし至らないところもある、迷惑だってかける。他に良い男なんていくらでも居るだろう……それでもこの想いは、この想いだけは絶対に誰にも負けない、誰よりもみんなを大切に想ってる。それに、もうみんなのあたたかさ無しだと生きていけそうにないんだ。だから、これからも俺の傍に居てほしい、一緒に幸せになってほしい。本当の家族になってください」
酔った時になんて言ったかなんて覚えていない。それでもその時もこのあたたかさを感じて――今は前以上のあたたかい気持ちに突き動かされて想いを告げる。
「改まって何かと思えば、そんな事決まっているだろう。私は最初から他の男など選ぶ気はないのだからな、私にはワタルだけだ」
何を今更と頬を染めたナハトがそっぽを向く。背けた顔はこの上なくにやけていた。
「妾もなのじゃ! あれだけ何度ももふもふされて今更他の男など選べるはずないのじゃ。旦那様でなければ駄目なのじゃ」
自分の尻尾を抱いたミシャがもじもじしながら見つめてくる。確かに! ケット・シー的には俺がきっちり責任取らないといけない。親父さんともしっかり話し合おう。
「私もねぇ~、こんなに手のかかる可愛い子以外をってのは今更無理ね。何よりワタルの傍は色々あって楽しいもの、独り占め出来ないのが玉に瑕だけれど、こういう形があってもいいわよね」
凭れて頬をつついてくるティナはからかうように笑顔を見せ、他の家族という形とは違う俺たちの形を受け入れる。
「儂は元々主の命尽きるまで共に居る事を既に誓った身だからな。まぁ番になれるというなら願ってもない、雷帝二世が楽しみだな」
ニヤリと笑うクーニャは今にも脱ぎ出しそうだ。まだ違う、まだ早いぞ。脱ぎ癖はなくならんのか…………。
「あたしも、いいんだよな? すっごく嬉しいぞ。あたし達ドワーフを解放してくれた英雄が夫なんてみんなに自慢して回りたいぞ」
頷くと両の手で顔を覆い恥ずかしそうにリュン子が畳を転げ回っている。
「約束、守ってくれた。家族になれるの嬉しい」
あの時はまさか自分がこんな事を言うなんて思いもしなかった。フィオは別の、本当に好きな相手を見つけるとすら思っていた。分かっていなかったのは俺の方だったんだな。
ほにゃほにゃ笑顔のフィオは嬉しさの抑えが利かないらしく身体を揺らしている。
「私も、私もよね? 心から嬉しいわ。こんな生き方が出来るなんてアドラに居た時は考えられなかった。そのアドラすら変わっていく……ワタルに拾われて幸せよ。ワタルの事、みんなの事本当に大好きよ」
最後は耳をすまさないと聞こえないほどだったがここに居る全員が確かにアリスの心からの言葉を聞いただろう。
「ワタル様、約束を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、新婚旅行はみんなで世界巡りだな」
「はい! みんなで、家族で色んなものを見ましょう」
微笑むクロから滲み出るあたたかさは心から喜んでくれているのが感じ取れて同じ気持ちを共有している事が嬉しくなる。
「クロエ様はとんでもない方に攫われてしまったものですね。あの城から連れ出し、色々な世界を見せてくださる……女好きなのは問題ですが、本当に良い方に巡り会えて……」
「もうシロナったら、自分の事でもあるのよ? もう主従ではなく家族になるのだから私最優先の考えはやめないと、シロナも幸せにならないといけないのだから」
「ずびばせん……私も心から幸せだと感じています」
涙ぐむシロはクロが幸せになるという喜びに震え彼女と抱きしめあっている。
「ワタルと出会ってから色んな事がありましたね。最初はただの好奇心と親切心で、どうにか救ってあげたかった。それが今度は私が救われて……何もかもを失った私にはワタルが希望でした。だからそのワタルが私を好きだと言ってくれた時は本当に嬉しかった。その後の重婚問題には驚きましたけど」
酔った勢いでほんとごめんなさい!
「でも今ではそれで良かったと思えるんですよ。こんなにあたたかい居場所が出来ましたから、ありがとう。これからもよろしくお願いしますね?」
リオの笑顔がまぶしすぎて目を細める。これだけの女性と重婚なんて大それたことをそれで良かったと笑って受け入れてくれる大切な人たち……なんて恵まれているんだろう。幸せにしないといけない、それがこれからの人生の目標だ。
「私たち、も?」
「あぁいや、二人はその、俺の事分かんないだろうし気持ちの問題もあるから……あぁでもフィオとアリスと結婚したら姉妹の二人も家族だから全然ここに居ても――」
「駄目、なんだ…………」
「私たちは仲間外れってわけ? あんたが身請けしたんでしょ! 最後まで責任持ってよね! 私たちも! よ」
表情は変わらなかったが僅かに声のトーンが落ちたシエルを見たリエルが勢いで俺を踏み倒して無理矢理頷かせた。
「よかったな主、ロリロリハーレムと姉妹丼だぞ。大好物であろう?」
「いえーい――というか言い方!? こんなのでいいのか?」
こんなぐだぐだに身の振り方を決めていいのか……良いと言うなら全力で大切にするが。
「いい。フィオ達を見てたら良い人なの、分かる。嬉しいをくれるんでしょ?」
「そうだな……俺たちがお前達を大切にしてやる」
その言葉を聞いてリエルは顔を赤くする。
「私たちにあんたを選んで良かったと思わせなさい、後悔なんかさせたら二度と使い物にならないように握り潰してやる」
「ああ、ここで良かったって思えるくらいに大切にしてやる」
捲し立てる姉の照れ隠し、それを見てシエルが可愛らしい花笑みを見せた。
「しっ、仕方ないから大切にされてあげる。精々頑張るのね」
「私の事もたっぷり満足させてね?」
「いや、お前は違う」
「酷い!? ちゃんと初夜参加権をもらっているのに!」
それはそれ、これはこれ、アスモデウスの趣味嗜好はどうにも合わない。遊び回っていた事も含めてだ。
『女好きのワタルが拒否するなんて!?』
お前らなんて顔してるの!? 全員が驚愕に顔を強張らせている。俺にだって好みはあるんですよ!?
「なら今はいいわ。初夜に身体で堕とすからっ! 未経験のボウヤは百戦錬磨の技の前に屈するのよ」
結婚に際しての不安要素が……何でリオこんなこと許可したんだ。
アスモデウスとの関係に頭を悩ませつつ俺たちは結婚式の予定を決め始めた。
二十数年の人生の中でも忘れられない瞬間はそれなりにあるが、この瞬間がその最たるものではないかと思う。
聖樹の花が舞う式場に入場する十二人の花嫁、それぞれに合わせて秀麿がデザインしたという純白のドレスが今日という日の感動を引き立てる。
絶望して生きていた自分がこんな幸福を掴んだことが信じられなくて、壮大な夢オチじゃないかと太腿をつねると確かな痛みを感じた。
「なにやってるんですか? せっかくの晴れの舞台なんですから変な顔はやめてくださいね」
「いや、夢じゃないかと」
花嫁に囲まれる状況に緊張で固まる俺にリオは柔らかい微笑みを向ける。何でそんなに余裕なんだ。何の気負いもなく自然体で隣に立つ彼女に見惚れてしまう。
「もう、夢のはずないでしょう? 朝しっかり起こしたじゃない。また目覚めのキスでもしようかしら?」
「どうしてお前はそうスキンシップ過剰なんだ。もう少し我慢しろ」
しなだれ掛かろうとするティナを凛としたナハトがそっと引き剥がす。年長者も相変わらずの余裕というか……列席者から笑いが漏れている。
「それでは式を始めさせていただきます」
改めて見ると……人多っ! 知り合いだけ招待して静かに済ませるはずがクロイツ王が城でやれと言いだし、世界を救った英雄達のめでたい事だから国中に知らせなくてはと姫が言い。結果予定外に多くの見物人が来てしまったという。
注目され過ぎて落ち着かないというのにみんなは落ち着いている。
「ワタルがちがち」
「おう、鋼でも入ってるみたいだ。フィオ達は何で余裕なんだ?」
「ワタルしか見てないから。ワタルも私たちだけ見ればいい」
淑やかであり誇らしげでもあるフィオが笑いかけてくれた事で緊張が解けていく。なるほどね……確かに、余所見なんてしている場合じゃない。今ここに在る大切な人たちとのこの瞬間を目に焼き付けよう。
「新たな旅立ちの証として、あなた方には誓いの言葉を立てていただきます。あなた方はこれから寄り添い、辛い時は支え合い、喜びを分かち合い、互いを思いやり永遠に愛し続ける事を誓いますか?」
『誓います』
迷いなく俺たちの声は一つになった。
「本日あなた方はこの国中――いえ、ヴァーンシアの全ての人たちに祝福されて夫婦となりました。本当におめでとうございます」
進行役をしていた姫に合わせて大きな歓声が俺たちを包んだ。
「ワタル様のお父様にも見ていただきたかったですね」
「それは……」
そういう気持ちが全くないのかと言われると少し疑問だが……まぁいい、いつか目覚めたら少しだけ話でもしてみよう。
「如月さーん、おめでとう! 次は俺らの結婚式に来てくださいよー!」
めでたい事は続くというか、西野さんとソレイユ、宮園さんとラビ、遠藤とミア――そして天明とソフィアの結婚式も後日に控えているのだ。他にもヴァーンシアの人と親しくなり永住を決めた人が一定数居ておめでたが続くらしいと言っていたのは色々手広くやっている秀麿だ。
長くもあっという間の時間を終えて自宅へと戻った俺は早々にアスモデウスに捕まり寝室へと拉致された。
「ハァ、ハァ……さぁ初夜よ。絶対に堕としてあげるから……もう淫気全開よ」
「ちょっと待て! 何でお前が最初なんだ。どう考えても妻になった私たちの誰かが最初であるべきだろう」
「あらいいの? 経験も何もないあなた達は失敗しないかしら? せっかくの初夜を台無しにしないかしら? 私のお手本を見るべきじゃないかしら?」
「まぁまぁ、アスモも落ち着いて。先ずはリラックスするためにお茶でも飲みましょう?」
睨み合うナハトとアスモデウスを引き離してお茶を手渡すと二人とも大人しくなった。流石リオだな――。
「にしてもこのお茶変わった味だな妙な甘味もあるし」
「ロフィア様がくださったんですよ。何でも元気が尽きなくなるお茶だそうですよ」
それ男達が搾られ続けるのに使われてたヤバい薬!? クロこれ出したら駄目なやつ! というか飲んじゃったぞ!? あ、あぁ……不自然に身体が熱い、アスモデウスの能力と合わせてダメなスイッチ入ったんじゃないでしょうか! よく見ると全員そんな感じだな。クーニャなんて暑いからと既にすっぽんぽん。
「発表します。我慢に我慢を重ねてきた俺ももう限界です。これより獣モードに入ります。逃げたい場合はすぐに撤退してくれ……もう抑えられない――いいんだな?」
誰も動こうとはしない、ここまできてお預け食らうのは無理があるから嬉しいが、興奮で色々暴走しそうだ。
「ワタルお座りです。順番を決めるのでもう少し待っていてください」
顔を朱に染めながらも冷静を保とうとしているリオ達は正座したまま俺に手を向けてストップをかける。
「そうよ、一番は重要なんだから少し待って」
アスモデウスの淫気に当てられて身悶えするティナがじゃんけんを提案している。重要なのにじゃんけんなのか。
「ワタル……家族、作ろ?」
フィオの目がとろけている。俺よりヤバい娘いた! フィオの言葉で理性がぷっつりと切れてしまった。
「もう待ってられないんだー!」
とろけた彼女と一緒にみんなへと雪崩れ込む。熱すぎる夜が今始まる!
明け方、ようやく満足して微睡みに落ちたみんなを置いて俺は自分の熱を冷ます為に散歩がてら聖樹を上っている。
アマゾネスの薬とアスモデウスの淫気のコンボヤバ過ぎるだろ……熱は衰えるどころか更に燃え盛っているような……おかげで途中で力尽きるなんて情けない結果にはならなかったが。あれだけ相手して衰えないとは……身体が馬鹿になっている。
「ここで夜明けを迎えるのもいいかもなぁ――」
聖樹の高い枝の上から遠くの空が白み始めたのを眺める。今度はみんなで来るのも良いかもしれない。
「ワタル……さん」
「わっひゃい!? ってレヴィか、脅かすなよ。なんか懐かしいな……そういえば俺たち結婚したんだ。式に招待しようと思ったんだけど陣が使えなくなってて浮遊島に行けなかったんだけど」
「はい、陣は消してしまいましたから……それよりも結婚おめでとうございます」
どこか思い詰めた表情で俯いたレヴィは苦しげで、目眩でも感じているようによろよろと歩み寄ってくる。
「何かマズい事でもあったのか?」
「ワタルさん、私はあなた方に本当に感謝しています。喜んではいけない事ですが姉様にもう一度会えた。今度はその子と共に幸せに生きていくでしょう。それだけで私には感謝してもしきれない恩です」
矢継ぎ早に言葉を紡ぐレヴィがしなだれ掛かり不意討ちの口付けをしてきた。
「なっ、な、な、なにを……俺もう既婚者だから求愛されても応えられないというか――なんだこれ?」
どうしたものかと額に手を伸ばして違和感に気が付いた。右手が――いや、身体全体が徐々に光の粒子となって散り始めている。どうして? 何故分解されている? 何故レヴィが離れたのに進行していく?
「すいません。本当は一思いに消し去るのが思いやりだとは思うのですが……人やエルフの能力が精神の変化により、強化されたり変質して隠れた特性が現れるなどする事はご存知ですよね。一度腕を切り落とされた衝撃のせいか私の能力に変化が生じたようで一瞬とはいかなくなりました」
「そんな事よりどうしてっ? 何で俺をっ?」
「ハイエルフは異世界の脅威の排除を決定しました。心当たりは全くありませんか?」
あぁ……知っているんだ。ティアの行った世界の時戻し、戻した部分の記憶は消えると聞いたが、知覚できるハイエルフが居たんだろう。
だから、過去の過ちを繰り返さない為に、災厄を招く可能性のある脅威を排除する。
世界を繋ぐ者が居なくなれば脅威が訪れる事もない、か…………。
「ごめ……さい……本当に……ごめんなさいっ」
涙して蹲る彼女を睨むようにして佇むハイエルフが居る事に気が付いたが俺の視線に気付くと一瞬にして消え失せた。その間にレヴィもいなくなってしまった。
レヴィを責めても仕方がないのだろう。むしろ感謝すべきだ。戦いを終えた後すぐにでも消す選択が為されてもおかしくはなかった。それが今日まで生き残っていたのだから、恐らく抗ってくれたのだろう。それでも同胞の決定には逆らえなかったようだが。
脱力して座り込む。心残りはある。これから夢のような時間が続くと思っていただけに苦しくて堪らない、約束を、誓いを破ってみんなを置いていく悔しさ……世界すら呪いたい気分だ。でもそんな時間すら惜しい、せめてみんなの幸福を祈りたい。
もう走る為の足はない、顔を見に行くことは不可能だ。突然消えた俺をどう思うだろうか、悲しみに暮れるのか、裏切ったと恨み憎むのか、それとも忘れて新たに歩んでくれるのか。悲しいし悔しいが最後のを願うべきだろうな。
「家はあの辺りだよな……色んな事があった。でも、ヴァーンシアに来て幸せだった。ありが――」
「ワタ、ル……?」
身体も中程まで消えた所で背後から会いたくとも、これを知られたくなかった声が聞こえた。
「何、これ……どうして?」
声は掠れ、状況を理解した身体は震え、フィオは抑えきれなくなった悲しみを溢れさせる。
傍に居てと伸ばすその手はしかし俺に触れる事なくすり抜ける。
もう触れる事は――ぬくもりを共有する事は許されない。より一層の悲しみを溢れさせ散り行く光を集めようと必死に手を伸ばす。
「嫌、嫌っ! 行かないでっ! 一緒って言ったのに、誓ったのに……うそつき、うそつきっ! ワタル居ないと駄目なのに――」
もう俺には彼女を慰める為の腕も声もない。それでもフィオなら唇の動きくらい読めるだろう。
何を言うべきだ? 謝罪――違う、愛――消える俺が残すそれは呪いじゃないのか? 新しい幸せを……見つけてほしい。嫌われる方が、忘れられた方が――最後が、そんなものでいいのか? 俺は――。
愛してた。どうか幸せに。
「嫌っ! 行かないでっ! ワタルが私を変えたのに、好きも寂しいも知ってしまった。ワタルが居ないと幸せになんかなれないよ」
震える声も取り戻そうと伸ばす手も既に俺には届かない。
俺は声にならない言葉を残して吹き抜けた風に散らされながら朝の光に消えた。
気が付くと俺は見知らぬ交差点の真ん中でクラクションの嵐を浴びていた。
「あぁ……あああ……あああああっ!」
元々の特性なのか変質によるものか。レヴィの行った遅効性の分解は俺を元の世界に送還した。
なんて地獄だ……もう二度と会えないならば、一生会えないのであればいっそ死んでいたかった。誰も居ない世界で生きていくなんて辛すぎる。
俺の悲しみに当てられたように落ち始めた空の雫を浴びながら俺の慟哭がいつまでも響いていた。
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