黒の瞳の覚醒者

一条光

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一章~気が付けば異世界~

たどり着いた先で

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 走ってるなんて言えない様な速さで走って、ようやく町のそばに来た。
 だけど今、俺の心は喜びより絶望感がほとんどを占めていた。

 昨日目が覚めた時から違和感があったし、その可能性も考えたけど心が受けつけなかった。
 でも草原、森、街道ときて、そしてこのファンタジーを扱ったゲームでよく見る中世の様な町を見て確信になる。
 ここは日本じゃないんだ……。
 なら外国の田舎とかだろうか?ここが外国なら日本語なんて通じないだろう。
 英語は全く分からない、学校に行ってなかったし、家で勉強しようなんて気にもならなかったから、からっきしダメだ。
 人に会えても意思疎通が出来ないのなら何の意味もない。
 どうにもならない現実を前に途方に暮れる。
「どうすりゃいいんだよ……」

 日が暮れ始めていた。
「はぁ……」
 こんな所でずっと突っ立っていても仕方がない。覚悟を決めて町に入ってみるしかないんだ。
 それに田舎だとしても警察くらい居るだろう。
 言葉の通じない奴がいきなり町に訪れるんだから最初は不審者扱いかもだけど、日本人だって事を上手く伝えられたら日本語のわかる人を連れて来てくれるかもしれない。
 まだ希望はある。

 町の入り口に向かって歩き出すがやっぱり足取りは重い。動悸がひどくて息苦しいし、鈍い頭痛までし始めた。
 ただでさえ人と接することが難しいのに相手は外国人なのだ。
 緊張か恐怖なのか、手の震えが止まらない。

 入り口が近づいてくると門の上に人が居るのが見えた。警備の人だろうか?
 んん?! あの人変じゃないか? 兜は被ってないけどプレートアーマーを装着しているのだ。警察とか警備員ってもっとわかりやすい、それらしい恰好をしてるものじゃないか? まさか町の趣に合わせてあの格好なんて事もないだろ。

 ありえないと思っていた考えが頭を擡げてくる。ここは俺が居た時代じゃないのかもしれない、もしくは地球じゃない別の異世界なんじゃ……。

 門番の人に見られはしたけど、無視してさっさと町に入った。
 町に入って俺は固まった。
 町の人達の頭髪がアニメやゲームみたいに色んな色をしている。よく見ると瞳の色もだ。服装も現代人っぽくない。
 それに街灯とか車みたいな文明の利器が見当たらない。
 マジで異世界?コスプレ集団の特殊な町とかじゃなく?

「今日飲みに行こうぜ」
「最近飲み過ぎだって女房に怒られてるから今日は無理だわ」

「今日の晩御飯何がいい?」
「僕シチューがいい!」

 明らかに日本人じゃない顔立ちの町の人が喋っている言葉が分かる。どうして? ここが異世界だとしたらご都合主義ってやつ?
 呆然としている俺を訝しんで足を止める人が何人かいる。

「ちょっと君ぃ」
 さっきの門番がこちらにやって来ようとしていた。
 その時強い風が吹いて顔の半分位を隠していた前髪が後ろに流される。
 近くに居た女性と目が合った。
「キャァァァァァァー、イカイシャよ! 早く捕まえて! 無理ならすぐに殺して!!」
 ヒステリックな女の叫び声と周りの人の様子が変わったことが現状がヤバい方向に向かっているのを嫌でもわからせてくれた。
「本当だ! こいつの目黒いぞ!」
 小太りのおっさんが周りに伝える。
「こんなひょろい奴、俺たちで捕えちまおうぜ!」
 喧嘩っ早そうな青年が煽る。
「止せ! もしカクセイシャになったらどうするんだ! 兵士に任せておけ!」
 気の弱そうな男が制止する。
「奴隷人種が、勝手にこの町に入ってくるな!」
 裕福そうな男が汚らわしい物を見る様な目をして言い放つ。
「ウィル、早く殺っちまえよ!」
 ガタイのいいおっさんが兵士に発破を掛ける。

 門番が槍を構えて突進してくる。
 殺される!? 門番の目を見て理解する。本気で殺す気だと。
 父さんを恨んで呪って殺したくて仕方がなかった頃の俺の目と同じ、殺すことをなんとも思ってない人間の目だ。

 門番の槍を既の所で右前方に倒れこみながら躱す。
 門番のほうを見ると既に次の一撃のために動き出していた。
 二撃目も倒れたまま横に転がり、躱せた。
 さっきまで俺の頭が在った場所に槍が突き刺さっている。
 門番が槍を引き抜く間に立ち上がり逃げるにはどうすればいいか必死に考える。
 そんな中三撃目が来る、今度もギリギリで躱せた。と思ったが左腕にジクジクとした痛みが走る。
 槍の穂先が掠ったようだ。門番がニヤリと笑った。
「おいおい、殺していいのかよ?ウィル」
 小太りのおっさんが聞いた。
「手足の一二本なら別にいいさ!それに死んだら死んだで問題ない、暴走したカクセイシャって事にすれば討伐ボーナスが付く!」
 最悪だ! せっかく人が居る場所を見つけたのに、なんでこんなことになってんだ!
 このままだと本当に殺されてしまう!
 
 俺は遠巻きにこの状況を見ていた女性の後ろに回り込み、盾代わりにして門番に突っ込む。
「いやあぁぁぁぁぁ! やめて! 離して!」
 流石に門番は面食らったようで構えていた槍を下ろした。それに合わせて女性を門番に向かって突き飛ばす。
 二人が倒れこんだスキに一目散に町の外へ逃げる。
「馬を用意しろー! 絶対に逃がすな!」
 後ろから怒号が聞こえて振り返った瞬間頬を矢が掠めていく。
「くっそッ!」
 なんであれだけの殺意を向けられなきゃいけないんだ!
「ああぁぁ! 最悪だぁぁぁー!」
 


 街を出てからは一心不乱に走った。どこをどう走ったのかなんて全然覚えていない。
 ただ気が付くと日は完全に落ちて、辺りは暗くなっていた。
 周りを見た感じだと木が結構生えてるし森か山だろうか?
 でも昼間の大樹の森とは生えてる木の大きさが全然違う。この辺りのは普通の?見慣れたサイズの樹木だ。
 周囲に人の気配はないし追手は振り切れたようだ。よくもまぁ、現役の兵士相手にうつ引きニートが逃げられたものだ。
 今日は今まで動いてこなかった分を全部まとめて動いた気分だ。
 とにかく疲れた。足はガクガクするし今日はこれ以上動けそうにない。
 近くの木にもたれ掛かるとそのまま座り込む。疲れ過ぎて頭も上手く働かない。
 過酷すぎだろ異世界、魔物より人間のほうが恐いってどうなんだ?
 あぁ、今日はもうここでいいや、寝てしまおう。そう思って瞼を閉じるとあっと言う間に眠りに落ちた。
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